清姫って実はヤンデレじゃないんじゃないか、とマスターは思った   作:眠りたい時だけ手が進む人

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清姫って実はヤンデレじゃないんじゃないか、とマスターは思った

「……その、すみません。いきなりどうされたのですか、先輩?」

 

貴女は思ったのだ。

あれ、清姫ってヤンデレじゃないんじゃないか?と

 

「いえ、そうではなく……先輩?その、清姫さんの行為は十分ヤンデレの定義に当て嵌ると思うのですが……」

 

確かにベッドの下に潜り込んでいつでも夜這いせしめんと目を光らせ、他の女性───最近だと自らの心の臓とも言える箇所に連れ込もうとグイグイ来るテノチティトランや、権能をフルに活かして突撃してくるククルカン───を威嚇し、隙あらば結婚を狙ってくる姿──既にモルガン女王陛下の妻にされてしまっているが───は、独占欲の高く執念深いヤンデレだと思われる。

だがそうではないのだ、と貴女は右手を胸に、左手を天に掲げ叫ぶ。

あれ?清姫ってヤンデレじゃ

 

「ですから!何故そう思われるのか説明していただかないと分かりません!!」

 

思わず前のめりになり突貫してくるマシュに驚いた貴女はすごすごと引き下がりながらも、淡々と理由を説明していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7つの異聞帯を乗り越え、7人のクリプターと出会い、異星の神と別れ───最後に向かう先は、カルデアス……白紙化地球の元凶であり原点に立ち返ろうとしている、このノウム・カルデア。

 

ここに至るまで、幾多もの英霊がこのカルデアに縁あって召喚され、その力を自分達に貸してくれた。

そしてだからこそ言えるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスターは番でしょ?もう運命で結ばれてるんだよ。これは決定事項なんだ。……と言うわけでこれから一緒に寝よう!部屋はもう取ってあるんだ!」

 

「ところで我が妻、いい加減ハネムーンを執り行いませんか?部屋は取ってあるのですが。」

 

「マスタぁ〜、ちょっと抱かせてくれない?……え?性的な意味だけど。部屋はもう取ってあるんだけど……」

 

「私の神官、そろそろお休みの時間ですね。ところで、完全防音でベッドの下や天井に隠れる無粋な輩が存在しない、プライベートルームが欲しいでしょう?……部屋はもう取ってあります、よ。」

 

「我が契約者よ。怠惰や堕落は余の最も嫌うものではあるが、子を育む為の繁栄の堕落は悪いものではないであろう……部屋は取ってあるぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女性のサーヴァントからの愛が重い。どれだけ部屋が空いてるんだ、と貴女は常々思う。

とくにここ最近。

まぁグイグイ来ないだけで男性サーヴァントの中にもそれ以上に重い人とか居たが……

 

 

 

 

とはいえ、悪い気はしないと貴女は思う。

愛されている、認められている、信頼されている。

背中を預けられ、いつでも甘えさせてもらえるというのは、逃げ道があるというのは、例えそれを選ぶつもりが無いとしても心に余裕を生んでくれる。

 

 

話が少し逸れたが、いずれのサーヴァントも愛する対象として自分を指し示している。めちゃくちゃ魂の髄まで狙われてる。怖い。

 

多分肉体が別の器になったとしても──そんな高等な置換魔術は有り得ず、第三魔法ぐらいしかないが……ハロウィン?しらない。なにそれ、頭痛い────狙ってくる予感がある。確信がある。

 

そこで、清姫を思い出してほしい。

彼女は、何故あそこまで自分を愛してくれたのか。

 

 

「……清姫さんは常々、先輩をかの安珍さんの生まれ変わりと信じていますね。」

 

そう、清姫は貴女を「安珍の生まれ変わりだから」愛していた。敬ってくれた。優しくしてくれた。ヤンデレになった。

 

では、仮に本人がカルデアに召喚された場合───どうなるのだろうか?

 

「……シグルドさん、ブリュンヒルデさんご夫妻やジークフリートさん、クリームヒルトさんご夫妻のように、二度目の生で再び結ばれるかもしれない……ということですか?」

 

貴女はマシュの言葉を肯定する。

アーサー王が女性であったように、語り継がれてきた伝承と実際の歴史に差異が生まれることを、召喚された英霊達との語らいやこれまでの旅の中で経験したことがある。

 

安珍・清姫伝説では、僧であった安珍は一目惚れした清姫の想いに答えることが出来ず、「必ず戻る」と嘘を付き……欺かれた清姫の怒りの炎によって、その身を焼かれた。

 

しかし、実情は違うかもしれない。

安珍が女性であるかもしれないし、その想いに真に答えるつもりではあったが何らかの事情──恥ずかしかったとか、自分では相応しくないと思ったからとか──があり、答えが出せずに居た可能性もある。

つまるところ、再び出会った折には和解し結ばれる可能性がある。

 

そうなったら彼女の愛は、こちらへ向かなくなるだろう。きっと。何せ自分への愛は、元より安珍のための愛であったのだから。

 

そういうわけで、清姫はヤンデレじゃないのだと思う。

 

「……………先輩。」

 

あらかた説明し終え満足し喉を潤していた貴女に、何処か苦々しい表情のマシュが話しかけて来る。

 

「確かに、当初はそれだけだったのかもしれません……ですが、本当に清姫さんは先輩が安珍さんの生まれ変わりだからという理由だけで、その……所謂ヤンデレになったとお思いですか?」

 

貴女はそう思っているのだが、マシュの考えは違うらしい。マシュの言いたいことが掴めない貴女は続きを促した。

 

「先輩、清姫さんは先輩が第一特異点にて縁を結び、その頃から共にカルデアのサーヴァントとして戦ってくださった、所謂古参サーヴァントでもあります。」

 

貴女は頷く。

今とは違い、当時のカルデアは今ほど戦力は充実しておらず……現地の協力者、そしてマシュのみで特異点の解決を目指していた。

特異点F・邪竜百年戦争オルレアン・第一異聞帯ロシア……いずれも現地協力者が居なければ、初期で詰んでいただろうと貴女は確信している。

 

「……始まりは、確かに先輩の言う通りだったかもしれません。ですが、今の清姫さんは違うはずです。人理を救うための旅路、その長い時間を一緒に戦い抜いてきた中で築かれた絆は、想いは、偽りなんかじゃありません。安珍さんの生まれ変わりだから、というだけで、今に至るまであれほど想い続けられるわけがありません。」

 

……彼女の言葉の節々から、貴女は自身への怒りを感じていた。

マシュはつまるところ、こう言いたいのだろう。

 

『これだけ清姫と長い時間を過ごしてきて、作られた関係性の全てが、自分は安珍の生まれ変わりだと思われているから築けたと思っているのか。今となっては貴女が頑張ったから、清姫は真に愛してくれているのではないか』と。

 

「先輩、先輩は誰しもが成し得る訳では無い戦いを乗り越えてきました。どれだけ辛くて、苦しくて、悲しくても、前を向いてきたその姿を、ファーストサーヴァントの私は知っています。そしてそれは、清姫さんもそうです。」

「……先輩、どうか自分の頑張りを否定しないでください。先輩が安珍さんの生まれ変わりではなかったとしても、例え安珍さん本人がやって来たとしても……今の清姫さんは、変わらないはずです。」

 

 

マシュのその締めくくりに……今にも泣き出しそうな表情に、貴女は押し黙り、そして納得するしか無かった。

そうだ、自分は安珍の生まれ変わりではないかもしれない。

でも……でも、自分は安珍より愛されているはずだ。あれだけ一緒に過ごしてきて、一緒に戦って、一緒にご飯を食べて、一緒に寝て───

 

 

 

 

 

そうだ、きっと、彼女は「私」を愛してくれているはずだ。

だから、マシュ。

清姫は、きっと

 

 

「はい!清姫さんは、絶対ヤンデレです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ますたぁ?どうされたのですか?うふふ、もしかして遂に抱いてくださると?……へ?え、えっ?へ、部屋はもう取ってある?あ、合鍵!?ま、ますたぁ!?えっ、えっ、いいんですかっ!?あっ、ま、まってください!ますたぁー!!」

 

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