清姫って実はヤンデレじゃないんじゃないか、とマスターは思った 作:眠りたい時だけ手が進む人
虎穴に入らずんば虎子を得ず。
どうせ誘われているのだし、寧ろこれで好感度が上がってより戦力増強に繋がるのなら儲けものでは?
たかだか自分一人が身体を売るだけで世界が救われるなんて素晴らしい等価交換だ、これには世の錬金術師もスタンディング・オベーション。もう殆どこの世界に居ないけど。笑える。笑えない。顔も知らないけどその人のために私が頑張らなきゃいけない。
思考が逸れた。
貴女はうんうんと自らの発想の素晴らしさを称えながら、さっそく部屋を取ってくれているというサーヴァントの内の一騎─────妖精国にて縁を結んだ、ランスロットことメリュジーヌの元を訪れた。
「ふふっ、どうだいマスター?壊さないように慎重に、慎重に……本来の僕ならしないし出来ないことだって、君の為ならやってみせる姿!これはもう素晴らしい愛の形に他ならないよね!」
部屋に入って早々に座らされた貴女に手渡されたのは、指輪だった。
付けられた宝石は赤く、まるで胎動しているかのように光を放っており、その神秘的な姿は何故か心臓を想起させた。
「喜んでくれるといいな。……あ、薬指以外に嵌めてもいいよ?寧ろ付けないでほしいな、最終的には公衆の面前で付けることにしてるからさ。」
この宝石の正体がなんなのかは考えることを止めたが、それはともかくどうやら薬指に付けなければ自壊してしまうなどということは無かったことに一安心。でも後半を聞いたらよくなかった。助けて。
「それを作るの苦労したんだぁ。なんせここに来てから性能でのゴリ押しだけで全部が解決してたから、性能が落ちないように、尚且つある程度綺麗な内臓を取り出すために自分の体をゆっくりと切り裂いてね……繊細な作業ってやっぱりめんどくさいよねー。」
やっぱりそうだった。貴女は思わずどうしてそんなことを、と問い掛ける
「君のためだよ。」
それは嬉しいが、そこまでしてもらう必要は────
「それだよ。」
貴女の何処か卑屈そうな言葉を聞いた瞬間、先程までとは打って変わり全ての感情が抜け落ちたような、冷たい視線と声を向けられる。
「マスター。いいかい?僕は君の愛人、伴侶、番だ。一目見たから分かるってバレンタインのときにも説明してあげたよね?」
今でもそれを貴女は覚えている。やけに好感度が高い理由、追々話すと言われていたその理由を漸く聞けたのだから。尚、そのときはちょっと怖かったが。
「色々なことを重ねて、今の僕は君以外に相手は居ないって確信してる。だからこそ、全部を捧げても構わない覚悟なんだ。その指輪だって、心臓丸々一個でも良かったんだよ?」
メリュジーヌがカルデアに来てから約2年ほど経つだろうか。その間、彼女には主に戦闘面で様々のことをしてもらった。その絆をレベルに表すとしたら10+aだろうか。
「だからこそ言える。……君は自分の価値を分かっていない。君は常に一歩引こうと……違うな、単純に自信がないのかな?」
メリュジーヌが考え込みながら告げたその内容に、貴女は反証することをしなかった。
当たり前である、確かに自分はここまで諦めずにやってきた。逃げるわけにはいかないと、これまでの道を、犠牲を、全てを無駄にするわけにはいかなかったから。
─────万能の天才は、その胸を異星の使徒の凶手に貫かれながらも最後の希望を虚数に託した。
─────異聞の中で生きたヤガの青年は、自らの世界を滅ぼしに来た相手に「負けるな」と背中を押した。
─────名探偵は、その身を投じる瞬間まで『カルデアの味方』で有り続けた。
それだけじゃない。
この長い旅の中で、語り尽くせないほど……数え切れないほどの屍を踏み越えてここに来ている。
だから、今。
呼び声を待つ、その間の今だけ、自分の中のエゴが表れているのかもしれない。
自分以外ならもっと上手くやれた。
自分じゃなければよかった。
自分は、生き残るべきでは──────
「はいそこまで。」
ふと、悪循環に陥りかけたその時。
ぎゅっと、抱き締められる。
「……甘えたいのは、”私”の方なんだけど……今だけは許してあげる。私のマスター。」
「悩み過ぎないで。他ならないマスターだから愛してるの。」
「貴女だから、皆その背中を押すべきだって思ってる。」
「……もっと、自分を愛してあげて?」
……うん、分かった。
「じゃあ、寝ましょうか。……あぁ、今度はマスターが抱いてね?人肌、恋しいの。」