FGO世界で転生したハイドレンジア   作:愉悦部の幽霊部員

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前話投稿直後の私
「ロウヒ爆死してコンディション最悪の中、我ながらよく書ききったわー。次話は少し休息挟んでから書こう」

一週間後の私
「冗長がすぎるー、文章構成力をくれー……いっそカットするかー?」

悩みまくってた私
「5000文字近くあるけど……ええい、リセットじゃい!」

サブタイトルに悩む私
「召喚の詠唱にしようかな。
 なんて言ってたっけ(うろ覚え)」

せんぱんのわたし
「ちょっとくらい休んでもよくない?」

今、前書きで遅れた言い訳を並べている私
「許されよ、許されよ」



素に銀と鉄。礎になんちゃらと契約の太鼓(ネイティブ)

 

 とんでもない不運だ。

 青天の霹靂たる失態だ。

 

 世界には平穏があったはずだった。

 無知蒙昧が織り成す連面と続く日常。シャボン玉のような、いつ割れるかも定かではない現実。それでも確かに一定の線引きをもって『内と外』で境界線があった。

 

 はたまた、どうだろう。卵が先か、鶏が先か。本人の意図するものではないとはいえ、『H.P.ラヴクラフトが綴ったとある手紙の一文が界面活性剤程度に現実を補強していた』と表現できるのかもしれない。

 

 世界は奇跡的なバランスで保たれていた。

 保たれていたのだ。

 それを、そんな世界の均衡を、一人の馬鹿な魔術師が呆気なく崩した。

 

 きっと魔術師はこうなるだなんて思いもしなかったはずだ。無知で、無警戒で、そのくせ賢しげに根源を探究しようとする。だからワンクリックするような気楽さで

 

『You are an idiot!』

 

 なんていう風に現実のバランスが台無しになった。もし段階を踏んでいれば抑止力が働いていたかもしれないが、たったワンアクションで切り替わった状況では防ぎようもなし。

 

 まぬけな話だ。知識もなく、予防もなく、好奇心のみで動くからそうなるのだ。おまえの自業自得なのだから、一人で勝手に痛い目を見ていればいい。

 

 漠然と、どうしようもなく、立ち尽くせば良いんだ。

 現実に直面したまま、誰にも助けを求めることすらできず、独りで無様を晒していろ。

 

 そうして突き放せる話であればどれだけ良かったことだろう。

 

 世界にとって不幸だったのは、ソレがちっぽけなブラウザクラッシャーに止まらなかったことだ。

 引っ掛かったまぬけが嘲笑されるだけならまだよかった。けれどそれに付属して、この世すべてを泡沫の夢に還す盲目白痴の魔王が影響を受けるなんて誰が想像できただろう。

 

 世界を支えていた一文は、転じて致命的な欠陥となってしまった。

 

 いつ目覚めるか分からない時限爆弾に拍車が掛かった。

 蕃神集う宮廷の楽団は存在意義を失い、生きた音色は魔王に対し、ただの音へと成り下がった。

 

 弊害は至るところにある。

 けれど依然として現実も確かにそこにあった。現実(アワ)は揺らぐも弾けはせず。ならばこれは一過性のものでしかないのだろう。

 

 いくら過程が変わろうとも、世界の原初と最期に変化がない。致命的なズレは『彼がこの世界に来訪した瞬間』から始まるからだ。

 

 であるならば副王は彼に任せ、彼を導く。致命的なズレを元に戻すため、道具のように過程を継ぎはぎ、道筋を整え、矛盾を無くす。

 

 だから盲目白痴の魔王は変わらず微睡むのです、と終わりに一節綴るため。結果論だろうと"今がある"という結果があるのだから。ならば至る結末は決まっているだろう。

 

 


 

 

 歴史を左右する時代の転換期。

 人類史におけるターニングポイント。

 

 内、数えて七つ。

 

 調査によって判明した七つの時代の大きな異常。すなわち特異点。人理焼却の楔と言い換えられるこれを解消しなければ、現存人類に後はないといった惨状。

 

 本来の歴史を歪めるなどという行いを可能とする代物は聖杯か、それに類似するものによって行われている可能性が高い。

 よってカルデアは特異点を維持しているこの聖杯ないし類似物を破壊、もしくは回収することにより歪められた歴史を修正し、失われた未来を取り戻す。

 これをもってカルデアは人類史を守る戦い、作戦名"人理守護指定グランド・オーダー"を決行することとした。

 

「ガチャの時間だね、分かるとも」

「待て待て待て待て」

 

 なお現在、最初の特異点攻略が終わったところである。

 

「急になにさ、ロマン」

「まるっきりこっちのセリフだ。なんでさも自分に正当性があるみたいに振る舞えるんだ」

「僕が正しいから?」

「厚かましいにもほどがある」

 

 グランドオーダー、その最初の任務としてカルデアがレイシフト先に選んだ特異点は十五世紀フランス。百年戦争真っ只中の時代であった。

 

 現状、藤丸立香以上にマスター役が務まる人員はいない。最悪ヒバナセイジが代役可能ではあることを明かされた上で、しかし彼女は自らその役を買って出た。

 

『私がやります……ううん、やらせてください!』

 

 持ち前の正義感か、はたまた自分以上の適任者がいないがゆえか。ともかくそのような運びで藤丸立香、ならびにマシュ・キリエライトは当該特異点へとレイシフト。その後なんやかんやあって聖杯を回収、無事カルデアへと帰還した。

 

 ダ・ヴィンチがシバの観測によって『間違いなく修正できた』と確認をとったのが今から数分前の出来事。藤丸とマシュが管制室から退室し、自室に戻ったのがつい先程といった場面だ。

 

「まぁまぁロマン、ツッコミもそれくらいにしてやるといい。要はあれだろ? セイジが言いたいのはサーヴァント召喚しようぜってコトさ」

「流石ダ・ヴィンチちゃん、冴えてるね」

 

 ドヤ顔のダ・ヴィンチにおだてのセイジ。ロマンはついていけずため息一つ。

 

「なんでアレで分かるんだ」

「いやなに、私も薄々同じコトを考えていたものだから。あぁ、ガチャうんぬんではなく、サーヴァントを増やすという意味でね」

 

 にこりと笑ってダ・ヴィンチは言葉を続ける。

 

「此度の特異点では運良くはぐれサーヴァントと協力できたわけだが、毎回そうなるという保証はない。

 敵勢力にも英霊がいる以上、レイシフト直後に敵襲だなんてコトもあり得る。ともなればこれからは簡易召喚だけではなく、レイシフト時点で独立した戦力も増やすべきだ。

 幸い、聖杯を回収できたコトで魔力リソースに多少の余裕ができたからね。今なら数騎は喚べるんじゃないかな」

 

 ちらりとダ・ヴィンチがセイジを見て、茶目っ気たっぷりにウィンクを飛ばす。

 

「で、セイジはそれを俗な言い回しで簡潔に言った。そうだろう?」

 

 硬貨を対価にカプセルトイ。

 魔力を対価にサーヴァント。

 

 なるほど、軸はかろうじて繋がっているらしい。そんなどうでもいい事実に気がついたロマニへ、セイジは「ほーら僕が正しい」だなんて言う。

 

「凄いな。ここまで頷きがたい類似点も初めてだ」

「神秘の冒涜だよね」

「キミが言い出したんだろ」

「まったく二人とも脱線が好きだね。ちょこーっと私に甘えすぎじゃないかな?」

 

 閑話休題。

 ダ・ヴィンチは手を叩いて切り替えるように促す。

 

「さぁ、話は分かっただろうロマン。善は急げさ。私以来のサーヴァントだ。是非ともお迎えしようじゃないか」

 

 言うや否や、ダ・ヴィンチは我一番と管制室を出ていった。

 呼び掛けられたロマニもその勢いに苦笑しながら椅子から腰を上げる。

 

「セイジ、設備はどうやって動かすか覚えてたりするか?」

「いや、当時は立ち会ってないから知らないよ。でもマニュアルとか、探せば何かしらあるでしょ。藤丸ちゃんの前に何度かテストするよほら」

 

 ダ・ヴィンチに続いて我二番とセイジが開けた扉の前に立つ。ついでに既に出ていったダ・ヴィンチへと呼び掛けもする。

 

「あっ、ダ・ヴィンチちゃんはマシュからラウンドシールド借りてきて」

おっけーい、任せて

「じゃあ待つ間にボクら二人で設備と部屋の掃除でもしようか。部屋が汚いからって理由で英霊の不興を買いたくないし」

 

 


 

 

 パチリと室内の電気をつけて照らす。

 シンとした冷たい部屋。

 鼻腔を通る埃っぽさに、きっと誰しもがしばらく使用されていなかったという時間の流れを想起するだろう。

 

 中央管制室に残っていたスタッフたちへの労いの挨拶も早々に、ロマニとセイジはここ、英霊召喚用の部屋、一口に言ってしまえば召喚室へと入室した。

 

「よし、じゃあ掃除を始めるか」

 

 持ってきた用具を床に置き、ロマニは袖をまくって張り切る。

 

 そんな彼を尻目に、セイジは掃除の準備をしながら別のことを思案していた。

 

 先ほどまでの特異点攻略の様子。

 藤丸とマシュ。その二名を送り出して、このカルデアに帰還するまでの一連の出来事をだ。

 

 今回、セイジが懸念していた事案が一つあった。

 それは本特異点の黒幕。聖杯を利用してフランスの歴史を歪めていた張本人についてである。

 

 青髭の旦那、もといジャンヌ・ダルク・オルタ誕生の最大の功労者にして、スト限ガチャと福袋からしか出てこない割とレアな星3キャスターのサーヴァント、ジル・ド・レェ。

 

 友フランソワ・プレラーティから譲り受けた螺湮城教本(プレラーティズ・スペルブック)一冊のみで、正規の魔術師でもない騎士からキャスタークラスにまで昇華した彼。

 その実、彼の持つそれはクトゥルフ神話において"ルルイエ異本"と呼べるもの。イタリア語の抄訳本ではあるが、部分的に同じである以上、危険性もまた然り。

 

 ゆえに藤丸とマシュたちがジル・ド・レェと対峙した際、ロマニと一緒に中央管制室にいたセイジの心境は言わずもがなだろう。

 

 結果原作と大差なかったわけだが、第一関門にしてはあまりに質の悪い配役であったといえる。むしろこれ以降はセイレムまでかれらに関連する存在はいないので、セイジにとっては人理焼却最大の難所を通過したような気分だった。

 

(まあ、一応分かってはいたんだけど。それでもドキドキはするじゃん)

 

 バタフライエフェクトなんて掃いて捨てるほどある話。

 けれども、実のところセイジが諦めない限り、至る結末がハッピーエンドで終わることは約束されているようなものだった。

 

 どういうことか。

 

 今こうして現実が地続きにある以上、盲目白痴の魔王は夢の中で微睡んでいるに違いなかった。セイジが意識をもっている事実がある以上、現実は夢の中にあり続けているわけだ。

 

 魔王が目覚めてしまったとき、それは初めからすべて魔王が視ていた夢として終わっていたことに他ならず、現実が今もそこに存在しているはずがなかった。

 

 H.P.ラヴクラフトは召喚されてからセイジにこれを聞かされたとき、「なにそれ知らない」と青い顔で言葉を漏らしていたけれど、文句は勝手に設定を追加した後年の誰かに言ってほしいと宥めた。

 もっとも魔王が元よりそういった性質だったのかもしれないが、卵と鶏、どちらが先だろうと終わる結果に変わりはない。

 

 ともかく今がある以上、逆説的にもう未来の結果は出ているようなものだ。()()()()()()()魔王の目覚める可能性が飛躍的に高まったとはいえ、最終的には杞憂となる。

 

 そして、彼はこの問題解決の要に『藤丸立香』を選出した。彼女が欠ければ問題は解決されることはない。けれど未来の結果として解決しているのなら、彼女が道半ばで欠けるわけがない。

 

 もしイメージが難しいのなら、ここに一つの爆弾を想像してみてほしい。コレが爆発すれば過去、現在、未来がすべて消し飛ぶ爆弾だ。

 爆発すれば過去がなくなる以上、現在があるのなら未来で爆発はしていないと捉えられる。そして爆発させないためのキーマンを藤丸立香とした。

 ならば未来で藤丸立香はやり遂げたのだ。爆弾を爆発させずに、この理不尽な問題を解決してみせたことになる。

 

 無論これらの理論が正しいなんて誰も保証はしてくれない。すべてはセイジの中で思考された仮説。もしかしたら的外れな空論なのかもしれない。

 だが、少なくとも彼にとっては今の心の拠り所程度には役に立つものだった。

 

「なあ、この溝の埃が……って何してるんだセイジ?」

「ヒバナ棒作ってるんだ。ロマニも使う?」

「ヒバナ棒ってまた安直なネーミングだな。いや使うけどさ」

 

 仮にもしここで彼が「やっぱやーめた」とすべてを投げ出せば、至る結末も変わり今が夢として終わる可能性もある。諦めずとて何かしらの失敗から未来が分岐する可能性だってある。

 

 『理論上大丈夫』と『実際大丈夫だった』が似て非なるように、セイジとて分かってはいても不安にはなるのだ。

 不安に駆り立てられながらも、しかし前に進むしかない。だからヒバナセイジが諦めないのなら、結果的に彼の思惑はうまくいく。

 

──至る過程も全部良い方がええに決まっとるじゃろ?

 

「……ロマン、その辺まだ糸クズ残ってる」

「どれどれってこんなちっちゃいの分かるか! 嫌味な姑だって見逃すね。よく気づいたな」

「まぁねぇ、伊達に清掃業務の手伝いもしてないさ」

 

 織田信長は、正確には織田信長となったソレは、彼のその思考に物申した。最後に望まれた結末が待っているのは分かりきっている。だからこそ、そこへ至る過程にこそ価値があるのだと。

 

 彼はそれに異を唱えるつもりはない。

 確かに過程も大事だ。むしろ大局的に見れば過程こそが大事なのかもしれない。それをあの邪神側から言及されたことにこそ彼は不服を覚えるけれど、それでもセイジのプランは揺るがない。

 

 至る結果は大前提だ。

 その上でどの道筋をなぞるか。偶然にも選択する権利がセイジの手の中にある。これほど最悪なこともないが、投げ出すには(はばか)られる選択肢だった。

 

「ホント色々こなすよなキミ」

「なんたってミスターオールラウンダーだからね。一通りできなきゃ名前負けだ」

「それもそうだ。さて、こんなもんかな」

 

 いずれ訪れる運命の分岐点。

 それまで彼の葛藤をあの(かお)の無い邪神は(たの)しむことだろう。外なる宇宙から遠巻きに、サーヴァントを使って化身越しに、あらゆる価値観、あらゆる視点でもってこの来訪者を観察する。その程度には興味を持たれ、その程度には執着された。

 

「やあ! ふたりとも掃除は終わったかい?」

「いやにタイミングが良いなダ・ヴィンチちゃん。さては扉前で待機してたな?」

「さあ、なんのことやら。でも私の手が必要なほど汚れてなかったらしいね。残念残念。ほら、頼まれたラウンドシールドだ。私は設備の最終点検に入るから配置はよろしく~」

 

 すたこらさっさと機材の方へ逃げるダ・ヴィンチ。

 ロマニは呆れながら壁に立て掛けられた鈍重な大盾、ラウンドシールドの端に手を掛ける。

 

「まったく……セイジはそっちを持ってくれ。召喚サークルの中央へ運ぶぞ」

「はいよー」

 

 いち、にの、さんッと息を合わせて持ち上げる。

 一歩二歩、確実に。足へ落としたら骨折はするだろうソレを運び、慎重に目的地へゆっくりと下ろした。

 

「ふぅ、こんなもんか。あっ、そーいえばセイジ。キミ、触媒はどうするんだ?」

「己が身一つあれば故郷を同じくする誰かしらが来るかなって」

「なーにカッコつけてるんだ。つまり縁召喚ってコトだろ……ん? 日本の英霊って召喚できたっけ?」

 

 ふと思った謎にロマニは小首を傾げた。

 日本人の縁ともなれば日本由来の英霊が来そうなものである。そんな思考から湧いたロマニの疑問に、セイジは「できるでしょ、カルデア式だし」と軽く笑って流した。

 

 ロマニが疑問視した部分は『西洋圏由来のサーヴァントしか喚べない』という召喚の制約から生じた疑問だ。しかし、その制約があるのは冬木の聖杯戦争のみである。

 聖杯そのものがキリスト教、つまり西洋側の概念であるという理由もあるが、主な理由は冬木の大聖杯の魔術基盤がアインツベルン由来だったということに起因する。

 

 よってカルデア式の召喚では西洋圏など関係なく様々な英霊を喚べるわけだ。

 

 さて、ここで少し考えてほしい。

 

 この世界での聖杯戦争とは、冬木市で行われた第一次聖杯戦争のみを指す。これ以降が行われておらず、またこれ以前も存在しないからだ。

 

 カルデア式の英霊召喚が西洋圏に縛られない以上、マニュアルなどに当時の制約を記述する必要性はない。

 過去の聖杯戦争のデータがカルデアデータベースにあったとしても、それはカルデアの召喚術に当てはめる理由にはならない。

 

 要するに『西洋圏由来のサーヴァントしか喚べない』というルールが念頭にある人間は、第一次聖杯戦争参加者である可能性が濃厚だといえる。

 

 以上を踏まえて、先ほど彼らはなんと言っていただろうか。

 Q.『日本の英霊って召喚できたっけ?』

 A.『できるでしょ、カルデア式だし』

 

 あのさぁ

 マリスビリーが草葉の陰で頭痛堪えてそう

 

 などなど第三者から好き勝手言われそうなものだが、彼ら二人はこの事実に気づいていないため、誰も止めることはできない。ダ・ヴィンチちゃん? こっそり耳を傾けているぞ。

 

 しかし、参加者どうこうはあくまで可能性が高いというだけだ。断言できるものではない。

 万能の天才がその可能性を考慮に入れる切っ掛けを作ったという意味では、実質バレたようなものなのだが……。

 

「やったら分かるでしょ。素に銀と鉄──」

「まだ設備起動させてないからその詠唱無駄だぞー」

 

 隠しているつもりの男二人がその事実にすら辿り着いていないのだから、最早どうしようもない話だ。本当に隠す気があるのか甚だ疑問ではあるけれど、本人たちが隠しているつもりなら、それは彼らの中では隠れている事実となるのだろう。

 

 裸の王様とは誰かに指摘されるまでは見えない服を着ているのだ。実態は裸でしかなく、それで町を練り歩いたとしても、恥をかく瞬間とは『見えない服を着たとき』ではなく、『指摘されたとき』となる。

 

 ならば気がつかないこととはある種の幸せではなかろうか。ダ・ヴィンチが指摘するまでは見えない服を着ているつもりになれるのだから。

 

「けど真面目な話、どんな英霊が喚ばれると思う?」

「僕は織田信長が来ると予想するね」

「なんだそのピンポイント予想。織田信長ってボクも知ってるビッグネームなサムライだろ? 関連する触媒もないし、キミが直系の子孫でもなければ無理だろ」

 

 鼻で笑うロマニ。

 しかし、それをセイジはニヤリと笑って返す。

 

「えっ、まさか!?」

「いや、そんな話聞いたこともない」

「じゃあなんなんだよ、さっきの自信満々の笑顔は」

「満ち満ちる根拠のない自信」

「それただの自信過剰だろ。ちょっとでも信じかけたボクが馬鹿だった」

 

 呆れた様子でロマニは言う。

 けれどセイジとて確かに自信はあるのだ。

 

 ガチャにおける深夜二時教だとか、強化大成功教だとか。そういったジンクスに頼った根拠はないけれど一際"来そう"という予感。

 

 彼は以前からこれを己の直感に頼っていた。

 

 ガチャを回すとき、回す前からピックアップを当てた画面を幻視するのだ。

 この一連の現象を彼は一丁前に直感スキルと呼んでいた。勿論ただの強めな思い込みである。的中率はお察しの通り、下手な占い師の方がまだ信用できた。

 言ってしまえば直感教、上記のガチャ宗派と大差はなかった。

 

 そんな直感が記憶を伴って、彼に囁いていた。

 召喚したら素知らぬ顔してノッブが来るぞ、と。

 

「でも他の国の英霊よりかはよっぽど喚びやすいと思うけどなあ」

「まぁ、そう言えなくはないだろうけど、誤差だろ」

「分かんないよー? むしろ向こうから来るかもしれない」

「向こうから来るってなにさ」

「逆指名、みたいな」

「……それだとキミが英霊に認知されていることになるんだが、今までにそんな機会があったのかい?」

「英霊の座に時間の概念はないって聞くし、ワンチャン未来の僕が座に名を轟かせる英雄に!」

「あるあ……ないだろ」

「ないかー」

 

 ロマニとセイジ。既に手持ち無沙汰でダ・ヴィンチを待つだけの益にもならない隙間時間となった今。

 職員としてではなく、友人同士としての会話になりつつあるそれは、システムの稼働開始によって終わりを迎えた。

 

「よーし! コッチの準備も完了だ。そこの駄弁ってる二人、いつでも召喚できるよ」

 

 ブゥンと電力が回路を通り、一部魔力に変換される。

 召喚サークル中央、ラウンドシールド周辺は蒼白く発光し、あとはヒバナセイジの詠唱をもって英霊召喚を行うだけとなった。

 

 パンッと背中を叩かれる。

 

 セイジがそちらを向けば、弛みきった先ほどまでとは違い、引き締めた顔のロマニ・アーキマンがそこにはいた。

 

「その、なんだ。最悪、反英雄のバーサーカーなんかが召喚されたとしても、コッチにはダ・ヴィンチちゃんがいるからな。無理せず危ないと判断したらすぐ退けよ」

 

 そんな真面目に語るロマニの次に、こちらも似た雰囲気でダ・ヴィンチが続く。

 

「そうだね。即座にマスター殺しをするサーヴァントがそういるかと問われたら流石の私も判断に困るけど。でも可能性は想定しておくべきだ」

 

 ロマニ・アーキマン。

 レオナルド・ダ・ヴィンチ。

 二人からの言葉に、セイジは素直に頷く。

 

 英霊召喚において、最悪の事態とは喚び出した英霊がマスター殺しも厭わない敵対的なサーヴァントだった場合だろう。

 通常の聖杯戦争ならばともかく、人理焼却中の非常事態を理解した上で、そんなことをするサーヴァントがどれだけいるかは不明だけれど。

 

 広い屋外であればまだ問題は少ない。側に戦力があれば、マスターは逃げつつ迎え撃つことができる。

 

 しかし、屋内であればどうか。

 逃げ道は相手も予測可能な扉の向こうのみ。部屋の中を逃げ回るにもいずれ限界は来るだろう。

 

 だからこそ、マスターとなる者を守る側。今回でいえばダ・ヴィンチの判断能力が問われてくる。

 

 即座に相手サーヴァントとマスターの間に滑り込み、攻撃をさせず、退路を確保する。最悪の事態ではその速度が重要になるだろう。

 

 藤丸が召喚するときもそうだ。マシュはラウンドシールドを使えず戦力外。現状ダ・ヴィンチのみがこれをこなすことができた。

 

 失敗は許されない。だからこそ安全面のテストという意味合いでも、これから行われる英霊召喚は藤丸立香ではなく、ヒバナセイジが先んじることとなる。うまくいけば藤丸が召喚するときの護衛を増やせるからだ。

 

「じゃあ、やるよ」

 

 セイジのその呼び掛けに、隣にいたロマニは静かに下がる。反対にダ・ヴィンチは邪魔にならない程度の距離まで近づいた。

 

素に銀と鉄

 

 召喚陣が起動し、輝きが増す。

 紡がれる詠唱に呼応して、不可視の魔力の風が室内を駆け始めた。

 

礎に石と契約の大公

 降り立つ風には壁を

 四方の門は閉じ王冠より出で王国に至る三叉路は循環せよ

 

 言葉が詰まることはない。

 受け取ったバトンはデジャブをもって、確かに今に繋がっている。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 繰り返す都度に五度

 ただ満たされる刻を破却する

 

 召喚の時、来たれり。

 

「──告げる

 汝の身は我が下に我が命運は汝の剣に

 聖杯の寄るべに従い()()()()()より応えよ

 星見の言霊を纏う七天

 抑止の輪より来たれ天秤の守り手よ!

 

 

 

 

 

 

 ゆえに、彼のFateはここに。

 彼女は召喚陣より出でて、己がマスターと邂逅を果たした。

 

 

 

 

 

「こんにちは!」

 

 

 

 溌剌(はつらつ)とした声。

 

 

 クラス──フォーリナー。

 

 

 金糸の髪を僅かに揺らして少女は笑う。

 

 

 

「私、アビゲイル。アビゲイル・ウィリアムズ」

 

 

 想定と現実の齟齬にセイジはまだ追いついていない。

 目の前の結果がまだどこか非現実的にしか捉えられず、ただ呆然と目を合わせていた。

 

「私がフォー……リナー? で、あなたがマスター……よね。よければアビーって呼んでくださいな」

 

 和やかで、華やかに。

 柔らかな微笑みを浮かべて、アビゲイル・ウィリアムズは口上をそう締めた。

 

 だから、ようやく現実逃避から復帰したセイジは、静かに天井を見上げてゆっくり息を吸い──。

 

「はぁー」

 

 クソデカため息を区切りとして、気持ちを切り替えることとした。




「なんだァ? てめェ」
アビゲイル推し過激派、キレた!!

と、冗談は置いておき、セイジにアビゲイルを貶める意図はないです。じゃあどういった理由であったのかって? それは内緒。
そもそも人を見てため息をつくのは失礼? それはそう。やっぱセイジが全面的に悪いわ。石投げていいよ。

 
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