FGO世界で転生したハイドレンジア 作:愉悦部の幽霊部員
またこのフォーリナーの定義は、本作では外すと全体が瓦解する軸となってしまっているため、正誤を問わずこの設定で突き進みます。ご留意ください。
フォーリナーというサーヴァントのクラスがある。
外宇宙から干渉されたサーヴァント、はたまた別次元や宇宙由来の霊基を持つサーヴァントなどがこれに該当する。
例えばヨグ=ソトースの依り代、アビゲイル・ウィリアムズ。
例えば無人宇宙探査機、ボイジャー。
例えばサーヴァント・ユニヴァースからやって来た謎のヒロインXX。
上記以外にもフォーリナークラスのサーヴァントは登場しており、その霊基をフォーリナーたらしめる理由はサーヴァントによって多々ある。
けれど、こうも由来が差別化されてしまえば、じゃあどこからどこまでがフォーリナーと定義されるのかと疑問に思うことだろう。だって一人、変なフォーリナーのサーヴァントがいるのだから。
そのサーヴァントの名を蒼崎青子。
『魔法使いの夜』コラボにて実装された彼女もまた一人のフォーリナーであった。
外宇宙との縁もなく、宇宙との関係性すらないキャラクター。特徴を挙げるのならば地球産まれ、地球育ちな最新の魔法使い。
そう、彼女は唯一、今までの法則性から逸脱したフォーリナーのサーヴァントであった。
某菌糸類が狂った?
コラボだからこじつけ?
そんなもの思考停止に他ならない。
であれば理由があり、法則性があって然るべきだ。
ともなれば既存のフォーリナー達の条件から見直せば良い。
外宇宙の神々。
ユニヴァース。
無人探査機。
隕石。
ORT。
南十字星。
ワラガンダ。
こうして見ると種々様々の由来があるわけだが、これを一括りにするのならどう表現できるだろうか。
仮に『地球の外に関する存在』と措けば、蒼崎青子以外はすべて違和感なく当てはまるのではないか。
すると一つ見えてくるものがある。
『領域外の生命』
フォーリナーが例外なく持つクラススキルの名称だ。
『領域』を『地球』と定義しているのなら、地球外の存在がフォーリナーということになるだろう。
無論、蒼崎青子もこの『領域外の生命』を保有している。転じて彼女も地球外の存在というわけだ。
おいおいおい、と逸る気持ちは理解するので一旦落ち着いていただきたい。
蒼崎青子が実は宇宙人でした、だとか。
某菌糸類の構想の中では宇宙旅行とかしたんじゃない? だとか。
そういうことを提唱しているわけではない。
無論、『ジェットパックを背負っただけで領域外の生命を持ってきたやつがいるんだから、なんか似たようなモノが蒼崎青子にもあるんだろ』なんて、そう短絡的に考える方も、もしかしたらいるのかもしれない。
しかし、アレは一応はユニヴァース由来のジェットパックであるため、蒼崎青子は同類ではないはずだ。
けれど確かにスキルが彼女を『領域外の生命』であると定義している。これは揺るぎようのない事実だ。
ここで少し、話を脱線させてほしい。
第二の魔法使い、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグという人物がいる。彼は己を『地球という学校から卒業したOB』と定義しているそうだ。
その理由の如何を知ることはないが、つまりこれは『彼は地球に属さない存在となった』と言い換えることができる。
仮に、魔法使いになること、もしくは根源到達が『卒業』の条件であった場合、彼ら彼女らは等しく『地球に属さないOB、OG』になったわけだ。
そう、蒼崎青子は第五魔法を扱う魔法使いである。
彼女は第五魔法を習得し、地球人でありながら、地球に属さない存在となったのではないか。
また、魔法使いはゼルレッチや蒼崎青子共々、作中にて『人間の味方ではない』ことが度々示唆されている。地球人類とは一定の線引きがされているわけだ。
これが真であった場合、確かにサーヴァントの彼女はフォーリナーが最も相応しいクラスといえるはずだ。
明言されたわけではない。
けれどこうもそれらしい根拠が並べば、ただの妄想にも幾ばくかの信を置く価値が出るだろう。
そうして例外がなくなれば、必然結論も出る。
邪神だとか、宇宙関連だとか、そういったものもひっくるめて。詰まるところ、フォーリナーを一口に説明してしまえば『この地球に属さない者が収まるクラス』と定義されるのではなかろうか。
カルデア、召喚室にて。
セイジの露骨なため息に、アビゲイルは一瞬肩を跳ねさせる。彼女の眼差しは不安げなものに変わってしまい、オロオロと、何かやってしまったのではと憂慮しているようだった。
そんな様子を見た彼は、己の行動を鑑みて、誤解させてしまったことに気がつく。だからすぐさま謝ろうとして──。
「ごめ」
「ダ・ヴィンチ☆スイーング!」
「
言い切る前に、彼の近くにいたダ・ヴィンチが、その手に持つ杖の先端で彼の頭を叩いた。
「何やってんのさ、セイジ。キミが何を思ったのかは知らないけど、サーヴァントとはいえ、いたいけな女の子相手にアレはない」
「分かってるよ。さっき気づいたんだ。気づいて謝ろうとしたとこで背後から仲間に奇襲されたんだよ」
「おっと、そりゃ失敬。判断が早かったようだ。でも私は後悔してないぜ、誰かに代わってでもやるべきと思ったからね」
「だからってそれで殴らなくてもよくない?」
彼は後頭部を擦り、手のひらを見る。
血はついていなかった。が、それを心配する程度には痛かったらしい。セイジの目は仄かに涙で潤んでいた。
一方、困惑のアビゲイル。
召喚されて意気揚々と挨拶をすれば、マスターからため息をつかれた。知らず粗相をしたのかと思った矢先にこうも展開が転がれば、不安は霧散するも理解が追いつかない。
よって、セイジがアビゲイルへと向き直り、目線を合わせてきても、彼女には『怖い』という感情より、『何を言われるんだろう』という純粋な疑問が勝った。
「改めて、ごめん」
彼から出た言葉の始まりは謝罪だった。
「さっきの態度は、その、君を酷く不快にさせたと思う。……言い訳でしかないけど、僕は僕が思っていた以上に疲れていたようでさ。召喚するぞってことで変に緊張もしてた。だから、あれは心労から出たものなんだ」
まっすぐに見つめられて、アビゲイルはただ見つめ返していた。片膝をついて目線を合わせた彼はどこかプロポーズをする男性のようで、けれど紡がれる言葉は情けないものだ。
「君に思うところはない。さっきのは全部僕の至らなさによるものだ。誤解させるようなことをして本当にごめん」
「思わせ振りのクズ男が勘違いさせた女の子を振るセリフに聞こえる」
「一旦ダ・ヴィンチちゃんは黙ってようか」
だからそんなやり取りを見て、アビゲイルの強張って結ばれていた口はくすりとほどける。
「ふふっ、ええ、そう。そうなのね。まったく悪いマスターだわ。私、とても傷ついてしまったの」
「うん、申し開きもない」
「だからね、マスター。仲直りをしましょう。私と、お友達になってくださるかしら?」
悪いマスターと、悪い子のアビゲイル。
けれどそんな二人ならば、きっと相性は悪いものではないだろう。そう信じて、彼女はマスターへと手を伸ばし、彼はその手をとった。
「僕で良ければ、よろこんで」
「まあ! 本当? ホントのホントよ? 嘘でも聞かなかったことになんてしてあげないんだから」
「嘘なんかじゃないさ。二言はないよ。僕が君のマスターで、君が僕のサーヴァント。それでいてお互いオトモダチ。約束だ」
ダボダボの袖越しに握ってきたアビゲイルの手を、セイジは両の手で強く握り返した。
それがどこかくすぐったくて、痛くはないけど痛くって、アビゲイルにはコレが夢ではないと信じられる確かな証となった。
そうしてアビゲイル・ウィリアムズが年相応の笑顔になったところで、二人に声をかける者がいた。万能の天才、ダ・ヴィンチである。
「すまない。一件落着ってところで少し良いかな? アビゲイル嬢」
「わっ」
割って入った第三者の声に、アビゲイルはこの場にマスター以外の人たちがいることを思い出した。
今のアビゲイルは端的にいってしまえば『マスターに手を強く握られてニヤニヤしてしまっている』状態だ。それを他人がどう捉えるかは定かではないけれど、少なくともアビゲイルにとっては他人に見られて堂々としていられる格好ではなかった。
ともなれば今の状況はアビゲイルが羞恥を覚えるには充分で、まるで熱いものを触れたかのように彼女はセイジの手を離した。
もっともセイジからも手を握り返していたため、依然手は繋がれたまま。アビゲイルがビックリしたように見えただけの形となった。
(わ、わ~っ! マスター!)
気恥ずかしさに内心プチパニックで握られていた方の腕をブンブン振り、次いで意図を察したセイジが苦笑しながらアビゲイルの手を離した。
そんな様子を微笑ましそうに見るダ・ヴィンチは、頃合いを見計らって再度口を開く。
「おや、話し掛けるタイミングを間違えてしまったかな?」
「い、いいえ、お気になさらないで。少し、ええ、少しだけ、急に声をかけられたものだから取り乱してしまったの。本当よ? 嘘じゃないわ」
「うーん、なんともからかいがいのありそ……ゴホン、失礼」
いつの間にか寄って来ていたロマニに後ろから笑顔で肩を叩かれ、ダ・ヴィンチはそれ以上言葉にするのは止めた。無言の圧力というやつだ。
一度咳を挟み、取り繕ったつもりのダ・ヴィンチは、纏う雰囲気を個人からカルデアの一員としての立場に切り替えた。
「ではまず自己紹介を。私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。キミのマスターであるヒバナセイジや、そこの冴えない優男のロマニ・アーキマンと立場を同じくするここカルデアの職員であり、キミと同じサーヴァントだ。気軽にダ・ヴィンチちゃんと呼んでほしい」
この場にいる者を、ダ・ヴィンチはアビゲイルへと一括に紹介する。ロマニは「冴えないは余計だ」なんて小言を言うが、ダ・ヴィンチはこれを適当にあしらった。
「単刀直入に、いくつかコチラからキミに質問をさせてほしいんだが、問題はあるかな?」
問われたアビゲイルはチラリと己のマスターを見る。
片膝立ちを止め、居住いを正したセイジは、僅かに下から仰ぎ見てくるその視線に首肯で答えた。
それを見て、アビゲイルもダ・ヴィンチへと言葉を返す。
「ええ、かまわないわ」
「ありがとう。協力に感謝するよ」
返答を聞き、ダ・ヴィンチは穏やかな表情を作って、内心で一連の情報を整理する。
アビゲイル・ウィリアムズ。ざっと有名どころの英雄を思い出したとしても、その関連人物にすら掠りもしない名前。後々アーカイブで調べる必要性があるとはいえ、恐らくはマイナーな部類の人物だろうことは分かる。
次にクラス。聞き間違いでなければ──なぜかアビゲイル本人も疑問符をつけて首を傾げていたけれど──基本の七つのクラスのどれにも該当しないものを名乗っていた。
すなわちエクストラクラス。英霊が持つ一側面を反映させたものがサーヴァントのクラスである以上、アビゲイルの持つそれは、既存の七騎士のどれにも該当しないということになる。
見掛けが少女だからといって、その内面が見掛け通りとは限らない。数ある神話、逸話を紐解いても、女子供という見た目に騙される事例は各国各年代いくつもあるだろう。
だが、召喚してしまったのなら迎え入れる他にない。
最初から喧嘩腰などコミュニケーションとしては最悪だ。そんなもの可能性をドブに捨てるような行為だ。
今のカルデアは一人でも人手が欲しい。
もし仮にアビゲイルが見た目通りのひ弱な、戦力としてはロマニの方がマシというサーヴァントであったとしても、他に仕事は山のようにある。
「じゃあまず最初に」
だからダ・ヴィンチは知らなくてはならない。
彼女が豹変する怪物かどうか。豹変するのならトリガーは何か。ヒバナセイジをマスターとして認め、裏切らないかどうか。延いてはカルデアを崩壊させ得る要因となるか否か。これは故意、無意識を問わずだ。
「キミのクラスをもう一度確認しても良いかな?」
「クラスを?」
ダ・ヴィンチの問いに、アビゲイルは戸惑いを覚えた。まさか名乗ってすぐにもう一度聞き直されるだなんて思ってもいなかったものだから、スムーズな回答とはいかなかった。
けれど、彼女は声が小さかったのかなと自己解釈することにして、今度は明確な答えを返す。
「私のクラスはフォーリナー……なのだけど、えと」
答えると、なぜか難しい顔をするダ・ヴィンチ。後ろにいるロマニと呼ばれていた男性ですら似たように考え出す始末だ。
何か不都合があったのかとセイジを見やれば、こちらは仕方なさそうに笑ってアビゲイルの頭を撫でた。
「ダ・ヴィンチちゃん。ちょっといい?」
「ああいいとも。むしろこちらから聞きたかったほどだ。キミのその落ち着き具合、何か根拠があるものかな? 彼女のマスターとして、私たち以上の情報があるのなら共有してほしいところなんだが」
普段の行いがあるのだろう。彼がアビゲイルのクラスをそのままそういうものとして受け入れたのか、信頼できる心当たりがあるのか。ダ・ヴィンチとしては不明瞭だった。
どちらにせよ、一人だけあまりにも事態の呑み込みが早かったヒバナセイジに対し、ダ・ヴィンチはそう問わざるを得ない。
「根拠はある」
だからそう短く断言した彼は、ダ・ヴィンチとロマニの目にはどうにも非日常的に映った。
普段の抜けた、ロマニとちゃらんぽらん具合では良い勝負のできそうな彼が、そこにはいなかった。肩書きとしては理解していた一人の魔術師が、初めて仲間にその一面を見せたようにさえ思えた。
「ロマン。僕がカルデアに所属する前、どこにいたか知ってるよね?」
「ああ。昔、キミに直接訊ねたからな」
ロマニは答えるも、それが今にどう繋がるのか不明なままだ。だから話の全体像をより明瞭にするために、彼はそのまま言葉を続ける。
「
「正確には伝承科の末席だけどね。正式な生徒ではなかったし、なんて言えばいいのかな。留学生として? ともかく、伝承科内でも割と特殊な立ち位置だったんじゃないかな」
時計塔、第六学部、伝承科。
魔術王ソロモンの弟子の一人であり、時計塔の学院長であるブリシサン自らが学部長を務める学部。
この世ならざる遺物、地球外の脅威などを便宜上『天使と悪魔』と仮称して研究、管理をする学科だ。
ヒバナセイジはそこからカルデアへとやって来た。
無論、この来歴は捏造されたものである。が、語るすべてが嘘というわけでもない。話の前後が逆なだけで、彼はマリスビリー経由で時計塔へと赴き、かのブリシサンへと謁見し、伝承科へと席を置いた。ここに間違いはない。
「そこで僕は一つの脅威を研究していた。学部長へと打診して、正式にボクの案件となった作品をね」
もったいぶって、思わせ振りに、けれど確かに重大ではある話を彼は語り部として言葉にする。
「それが『クトゥルフ神話』だ」
この世界においても間違いなく架空神話として創作物にあたるモノ。コズミックホラーとして、TRPGとして、彼が元いた世界と寸分の狂いなく根付いたフィクションのテーマ。
「なっ!? ちょっと待ってくれ。それは遊びというか、フィクションの話だろ?」
「おや、ロマン。何か知っているのかな。生憎、私はそんな神話体系に心当たりがなくってね。ちんぷんかんぷんだ」
ロマニとダ・ヴィンチ。二人は実に対照的な反応を見せた。
「知ってるも何も、創作物にそういうジャンルがあるんだ。ああ、いや、これだと語弊があるか。ジャンルとしてはコズミックホラーになる、のか?」
ロマニがセイジに目配せすれば、彼は頷いて答えた。
「そうだね。クトゥルフ神話自体は複数の作家が世界観を共有する下地、みたいなものかな」
「ロマンがさっき言った『遊び』と言うのは?」
「Table Talk Role Playing Game──省略してTRPGなんて言われる会話形式の遊びの一つにもクトゥルフ神話の世界観は使われるんだ。ゲームのシナリオとしてね」
ロマニがこれを知っていたのは言わずもがなかもしれないが、セイジと二人で卓を囲んだことがあるからである。初めこそ訳も分からず神話生物に挑み、理不尽なバッドエンドを迎えていた彼も、今ではロールプレイを楽しむ歴戦の探索者となっていた。
これにダ・ヴィンチも誘えていれば、この話はより円滑に進んだのであろうが、今日に至るまでタイミングの噛み合わない日が続いた。
特に工房で作業続きのダ・ヴィンチと、サボるときはサボるロマニでは遊びに誘える難易度など雲泥の差だ。マリスビリーが逝去してからは忙しい日々も続き、次第に誘える時間が無くなっていったことが今に繋がる。
さて、ここまでを聞いてダ・ヴィンチはとんと理解が進まなかった。
「……それは、創作物に関連する魔術を基盤とした魔術師が取り扱うもの、だったりするのかな?」
「いやいや、そんなことはないよ。マイナーかもだけれど、魔術とか神秘とか、そんなの関係ない一般に出回っているような作品だ」
なるほど、だからこそロマニは狼狽えたのかとダ・ヴィンチは遅れて理解する。そんなものを伝承科で扱っている理由が分からないし、それがアビゲイルに関連する理由も分からない。
「だけどね、クトゥルフ神話に描かれる存在は間違いなく現実にいるんだ」
「……それは、セイジなりの分かりづらい冗談だったり?」
「マジの話さ」
一瞬呆けて聞き返すロマニと笑顔で通達するセイジ。すぐそこで彼らがそんな問答を繰り広げている。
けれど、ダ・ヴィンチは如何せん事の重大性を把握しきれていなかった。当然だ。知らない知識が話題の中心にあるのだから、そこから展開されても正確な想像が付くわけがない。
ただ大雑把に、隣で大仰なくらい驚きを見せているロマニからある程度の推察をすることはできた。この場合、ロマニのリアクション規模がこの話の異常性をそっくりそのまま表しているのだろう。
「参考までに訊きたいんだけど、それはどれほどまずいコトなのかな?」
推察できるとはいえ、興味本位で訊く分にはタダだ。セイジとロマニ、どちらからでも良いと適当に話を振ってみれば、真っ先に返してきたのはロマニからだった。
「マズイなんてものじゃない。宇宙スケールで大問題だ」
ロマニの口から語られたそれは、ダ・ヴィンチとて信じがたい話ではあった。しかし、それを真と置けば伝承科が取り扱い、管理しなければならないものという内容に、ただの創作物よりかは説得力が生まれる。
「まあ、ロマンが言うそれも正しいんだけどさ。どうしたって一口で語るには世界観が独特だ」
セイジは彼の説明に補足のような形で言葉を繋げた。
「ダ・ヴィンチちゃんにはぜひ、何冊かアーカイブに記録してある本を呼んでほしい。『The Call of Cthulhu』とかね。僕がクトゥルフ神話でタグ付けしてあるから探しやすいはずだよ」
なんとも用意周到な話だ。まるでこんな場面を想定していたかのように見えるかもしれない。
が、これはただのアーカイブの私的利用である。セイジが布教用に、あわよくばTRPGの参加者を増やす目論見で記録していたものであった。
そしてダ・ヴィンチとしては大変助かる話だ。
人理焼却とは全く別枠で存在する問題。流石に新しい知識として詰め込むには口頭説明だけでは無理がある。気にならないと言えば嘘になる程度には知りたい衝動があるけれど、恐らく詳細は長くなるだろうと予想がつく。そして、今の本題はそれではない。
ならばクトゥルフ神話とやらについての詳細は後々アーカイブで調べれば良いだろうと彼女は判断した。
「それはそれは、参考資料として後で目を通しておくよ」
「うん、お願い。予言書にならなかった本だから、情報確度としてはかなり有用だよ」
「……もしかしてなんだけどさ、わざとやってる?」
「なにが?」
セイジのそのすっとぼけた──なお本人は真面目に疑問に思っている──態度に、微笑むダ・ヴィンチは一度ゆっくりと呼吸を整えた。
これは度量の問題だ。心の器の話だ。でも相手はヒバナセイジだ。じゃあ問題なくない? そんなロジックをかなぐり捨てた自己提起で、プチンとダ・ヴィンチの何かが切れた。たぶん堪忍袋の緒である。
「キミはいつになったらフォーリナークラスに繋がる話を切り出すんだ? 仮に前提知識が必要だとしても情報を小出しにされて理解しづらい。そのくせ変に気になる情報を出すから意識が逸れる。
ああ、もしかしてからかってたりする? するよね? よーしならそのケンカ、買ってやろうじゃあないか!」
ある種、普段の延長線上のやり取り。
信頼があるからこその喧嘩のポーズ。
この長々とした語りの始まりは、フォーリナーという聞き慣れないクラス名にセイジが驚きを見せなかったことが切っ掛けだ。彼はその理由を語るべく口を開いたはずだった。
けれど聞けばペラペラと驚愕に値するも本題とはズレた内容の数々。煙に巻こうとしてるんじゃないかとダ・ヴィンチが疑念を覚えても仕方ない。
杖を持つ腕の袖を捲って、ダ・ヴィンチはズカズカとセイジに迫る。その様子に慌てたロマニが彼女を後ろから羽交い締めにして拘束した。
本来人間とサーヴァント、力関係からして抑え込めるはずはない。けれど拘束できたということは、これはダ・ヴィンチなりの『怒ってます』というパフォーマンスに他ならなかった。
「ええい離せ、ロマン。私はあのトンチンカンに一発キツいのかましてやるんだ」
「ダ・ヴィンチちゃん、頼む一旦ステイだ。ボクは正直セイジの話に興味があるし、もうちょっとだけ聞く姿勢で我慢してくれ」
「ロマン、それだともうちょっと聞いたら一発かましていいみたいに聞こえるんだけど」
「セイジの説明下手が招いた種だ。大人しく制裁されるといい。ボクもたまにイラッと来るときあるし」
そんな無体なとセイジはぼやくも、頭の冷静な部分で先程までの己を客観視する。
ともすれば中々に冗長で、論点もズレていて、無駄が多い。聞き手に前提知識があれば、語り手として楽ではあるものの、質問された内容に答えず、問われてもいない話からするのは順序が逆だろう。
(朱に交われば、とはいうけどさ)
誰かの影響を受けて変化することを表す言葉。十年以上の歳月は、知らず感化されるには充分な時間だったようだ。
そんな考えを思った彼の脳裏には、その影響元である一人のサーヴァントがありありと浮かぶ。正確にはそのサーヴァントが綴る分厚い手紙と、サムズアップした書き手本人ではあったが。
セイジは語る当初、ロマニとダ・ヴィンチの二人にはすんなり説明できると信じて疑わなかった。喚ばれたサーヴァントがアビゲイルであったことからして破綻した考えでしかないが、大筋は同じであるはずだった。
それがどうだろう。こうなってしまった現状、長々とした物言いは煽り行為に他ならない。
よって考えを改める。
かつての初心に回帰する。
まずは結論からだ。
「ゴメン。じゃあ、スパッと言おう」
セイジはダ・ヴィンチへと謝罪して、きっと彼女が最も求めている答えから提示することにした。無論、原作知識が由来である以上、取って付けた嘘なのだけれど。
「僕が昔研究していた遺物の気配がアビゲイルから感じ取れた。それだけだ。理由は知らない。僕からは以上だ」
数拍、間が空いた。
「……あのさ」
「なに?」
「勿体振り過ぎだ!」
ロマニの拘束から解き放たれたダ・ヴィンチは、「それを先に言えばスムーズに話が進んだじゃん」と項垂れる。
「全く、どんな爆弾発言が飛んでくるのかと身構えていたのに、さっきまでのアレは何の時間だったんだ」
「まあセイジだし、そこはほら……うん」
「ロマン、なんの慰めにもなってないからねそれ」
「自覚があるなら反省しろよ、なんでボクが緩衝材にならなきゃいけないんだ」
あーやれやれと気持ちに区切りをつけて、ロマニもダ・ヴィンチも呆れるしかなかった。宣言通りに一発かまさなかったのは、その気も失せてしまったからである。
「ちなみにその遺物っていうのは?」
「銀の鍵」
「ああ、クローズドシナリオで脱出に使ったやつか」
「それの実物だね」
多少の知識があるロマニが興味本位でセイジに訊ねれば、過去に遊んだシナリオで登場した名前に心当たる。時間、空間、次元を問わず、どこにでも繋がる門を開ける鍵。彼が知っているのはそれくらいの情報だ。
その気配がする、なんて言われてチラリとロマニはアビゲイルの方へと目を向ける。
先程までのやり取りを聞いて気まずさを覚えたのだろう。セイジの背中に隠れて、ひょっこりと顔だけを出し、こちらの様子を伺う少女と目が合った。
キュッと僅かにセイジの服が背後へと引かれる。恐らく不安からアビゲイルが掴んだのだろうと察せられた。
こうして改めて見たとしても、ロマニには未だ気配がどうとかはよく分からない。そこはヒバナセイジという人間を信じる他になかった。
ただそれとは別に、ロマニはやってしまったと今更気がつく。アビゲイルが見た目通りの少女であるならば、とんでもないことだ。
仮に、彼女がクトゥルフ神話関連で何か関わりがあったとして。先程までロマニを含む大人三人はソレを宇宙スケールで大問題だと発言、肯定、納得をした。
すなわちこれは、間接的ではあるが、アビゲイルという少女の存在を問題視したとも受け取ることができる。
大人三人が少女一人を問題視。これに怯えや不安を感じるなというのも無理がある。少なくともこれから仲間になる相手なのだから、そんなディスコミュニケーションから始まるのは駄目だ。
よって医師の観点から彼は歩み寄ることにした。
「そのー、アビゲイル……ちゃん。さっきも聞いただろうけど、ボクはロマニ・アーキマンって言うんだ。ここでお医者さんをやっていてね」
「首吊りは嫌よ」
「しないよ!?」
「事案かな」
「事案だー」
「悪ノリが酷くないか?」
アビゲイルを背で更に庇い隠すセイジと、「はい、離れてねー」とロマニの肩を掴んで引き離すダ・ヴィンチ。どちらも茶番として場を流した。
「改めて挨拶をしよう」
ロマニの犠牲によって生まれたこの空気感に乗らない手はない。首吊りという不穏な単語からして生前に何かあったと見たダ・ヴィンチは、努めて明るく振る舞った。
「キミがどのような英霊であれ、如何なる問題を抱えていたとしても、我々はキミを歓迎しよう。ようこそ、アビゲイル・ウィリアムズ。人類史の最後の砦、カルデアへ」
笑顔でありながら真摯な態度。
カルデアの代表者の一人として、新たな仲間を迎え入れんとする彼女の姿は、なるほど確かに偉人たる風格があった。
「……ええ、これからよろしくお願いします。ダ・ヴィンチさん」
だから暖を求める猫のように、セイジの背から出てきたアビゲイルは微笑みをもってダ・ヴィンチへとそう返した。
はい、後書きです。
今回でようやく話の下地ができました。料理でいうところの調理器具と食材の揃えたところですね。つまりこれから下ごしらえが始まります。長いね。
それと感想を返すタイミングを前話から変えました。
次話完成→前話感想返信の流れです。
これにより、次話投稿のタイミングを読者様が掴みやすいかと判断しました。感想返信に気を取られて執筆が遅くなっても本末転倒ですからね。
まぁ、それはそれとして書きながら全部目は通しているので、これからもバンバン感想を頂けると励みになります。もちろん評価をくれても嬉しいです。
最後に、簡素ながら今後のロードマップを書いておきます。クソ雑なので予定通りに進めば御の字ってことで、本作の進捗率としてご参考までにどうぞ。
・第1部
セイジと藤丸に召喚されたサーヴァントたちがメインで、セイジに絡んだ内容を数話。
終局特異点前夜、ロマニとセイジの話をひとつ。
・第1.5部
セイジメインで1~2話。
そこまで長くならないはず。
・第2部
第2部プロローグ。
1部と同じくサーヴァントメイン数話。
何人かのクリプターとセイジの話。
・奏章
イベントシナリオ。
本作最終章『泡■■■機■ ■■■■■■■』