FGO世界で転生したハイドレンジア   作:愉悦部の幽霊部員

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 今回から話の区切り方が二種類あります。
 LOADING区切りは節区切り。
 罫線区切りは節内の場面転換。
 原作リスペクト。小説内における表現や再現みたいなものです。

 つまり、深い違いはないということです。


こうして新たに生まれた。

 

 あれからなんやかんやあって二週間後。

 彼は無事に情報操作をやり遂げることができた。その手法の一切は誰も知るところにない。彼が行動に移すと知っていたマリスビリーもその過程を知ろうとはせず、ただ結果だけが世界に残ることになった。曰く──。

 

 冬木市で行われた聖杯戦争の勝者はセイバーとそのマスターである

 

 聖杯戦争にアンテナを広げていた魔術師たちの間でそんな噂がまことしやかに囁かれていた。誰もキャスターを召喚したマリスビリーには注目せず、勝者はどこへ姿を眩ましたのかと焦点はあちらこちら。

 

 そうして一仕事を終えた彼は、己が一つの失敗をしていたことに気がつく。

 

「採用通知ってどうなるんだろ……」

 

 その失敗とはマリスビリーとの連絡手段を忘れていたことに始まる。

 仕事を終えて数日。未だにマリスビリーからの接触はなく、連絡もない。流石のマリスビリーとはいえ連絡先もない住所不定の人間に採用通知を送るのは至難の技なのだろう。また逆に、彼はマリスビリーの連絡先を知らないでいた。

 

 仕事を果たせばスタッフとして歓迎するといった旨の話ではあったが、彼は歓迎方法が不明なまま話を詰め忘れていたのだ。

 

 これらの事実が存在する上で、彼はさてどうしたものかと知能を巡らす。そして検討に検討を重ねて一つの思考に辿り着いた。

 

 ──連絡が取れないのなら、直接本人に会ってしまえば良いじゃない。

 

 これなるは脳筋マリー・アントワネット。あなたも考えることを止めるのね? いいわ、それじゃあ──Vive La France。何もよろしくはない。

 

 当然のことながら、連絡手段がないということはアポイントメントも取れないということになる。ともすれば時計塔のロードを相手に、その予定表へ突撃をかます無神経さは計り知れないものを感じることだろう。

 なんならもう手続きなんかは済んでいて、カルデアに赴けば歓迎されるのかもしれない。彼は一瞬だけそれを考えて、止めた。だってそれはあまりにも希望に比重を傾けた推察と言えるからだ。

 

 こと原作においては幸いにもカルデア本部の大雑把な位置が描写されている。移動し続ける"彷徨海バルトアンデルス"ならいざ知らず、カルデア本部は動かない。しらみ潰しに探したという()()()()()、ある一点を除いて不自然ではないだろう。

 問題はその一点。カルデア本部の場所だ。そこは神秘の残り香に隠されていて、さらに魔術結界の補強で駄目押しされた秘境らしい。そこを? 偶然見つけた? 全くもって白々しい。

 

 上記を考慮すれば、カルデア職員達からの心象なんて推して知るべしだろう。それならばもう一度マリスビリーと接触しておくことが安牌だと彼は考えた。

 

「よーし、パスポートも取ったし、いざ行かん!」

 

 だから彼はイギリス、イングランドの首都たるロンドンの、かの時計塔を訪れることにしたのだ。言わずもがなかもしれないがビッグ・ベンの方ではない。

【まさかまさか、ビッグ・ベンを魔術協会の時計塔と間違えるような馬鹿など存在するはずもなく】。どころか観光客相手を時計塔の魔術師と誤認して神秘を暴露するような暴挙【など起こり得るはずもない】。

 ので、【魔術師達がすっ飛んでくる理由もない。今日は至って平和な普通の一日だ】。無論平和といっても種類はあるが、今日は【悪趣味な輪っかの効果範囲内で誰かが死んでるありふれた日】であった。

 

 そう、要するに彼が人違いからくる羞恥心や焦りの気持ちを抱くのだって何か別のモノが起因だろう。だって何も起きていないのだから、それは至極どうでも良い杞憂のようなものだ。危うく甚大な原作崩壊が起きるところだったと思うのも彼の類い稀なる妄想の産物でしかない。

 

 とはいえ状況からしてみれば手詰まりな感じが否めない。ロンドンのどこに魔術協会の時計塔があるのかを彼は把握しかねていて、通行人に観光客気分で訊くわけにもいかないときた。

 

 いつの間にか時刻は十二時半。

 

 小洒落た店内の窓際。昼間の道を行き交う人々を尻目に、彼は素材の味しかしないご機嫌なフィッシュ&チップスをフォークでつつく。口の中の後味は油で一杯になっているのに、解決策のご意見箱は空っぽそのまま。モソモソと口を動かしてどうしようか悩むも、ろくな案が浮かばない。

 そんなしょうもない時間が過ぎて、彼は気づけば残り一個のポテトを口に運んでいた。最後にビールのジョッキを手にとって、大してアルコールに強いわけでもないのに全て呷る。

 

「ふぅ」

 

 そうして口内も脳内も空っぽにした後に、小難しく考えることを止めた。

 

 できれば普通に接触したかったな、なんて意味のない益体をついて彼は奥の手を使うことにしたのだ。

 以前の反応からして何か勘づきつつあるマリスビリーを相手に、彼は自身の手の内を明かしたいとは思っていない。けれども今回ばかりはその足りない頭とアルコールに責任を押し付けて、『仕方ない』と判断することにしたようだ。

 

 2004年現在。原作開始まで猶予がまだ十年ちょっとあるとはいえ、悠長なことはしていられない。さもなければ焼却される歴史に置き去りにされる。白紙化される地表に取り残される。もしくは全てが失敗に終わり、何もかもが消え失せる。

 それを彼は最も避けたい展開だと考える。既に瀬戸際な彼にとって最悪のシナリオとは原作の特等席に乗り遅れ、道半ばに終わらせてしまうことなのだ。ならばこそ、立ち塞がる無理無茶難題は多少不自然だろうと押し通す所存だった。

 

 そんなわけでかれこれ平和なロンドンを歩き続けて、彼は【偶然マリスビリー・アニムスフィアが居る場所まで辿り着くことができたのでした】。

 

 

 ──LOADING ──

 

 

「……どちら様ですか?」

 

 ()()()()()()()にて訪問の旨を伝えると、係と思われるスタッフの音声が響く。それは酷く懐疑的で、端的に記述すれば警戒されていると断言できる印象を受けるだろう。

 

 それも仕方のない話だ。当然と言えば当然だろう。何せ今の彼の格好は上から下まで防寒着を着込んでいて、目深にフードを被っているのだから。例え第三者が彼の顔を知っていようと、今の彼を彼個人だと判別できない不審者ルックをしていた。

 付け加えれば場所も悪い。アポイントメントも無しに来る客なんて、敵か()()()()かくらいの僻地なのだから友好的な接客は彼も期待してはいなかった。

 

 なので彼は至極平静に、穏和な声色を心掛けて語る。

 

「マリスビリー・アニムスフィア所長の知り合いです。生憎以前お会いしたときに名前を伝え忘れていたもので、『仕事を終わらせた日本人が来た』とお伝え頂ければ分かると思います」

「……畏まりました。ただいま確認して参りますので、申し訳ございませんが今しばらくその場でお待ちください」

 

 言うが早いか、スピーカーから音声が途絶える。誰の声もしないことを確認して、彼は嘆息を漏らした。『結局来ちゃった』と。

 

 時計塔のあるロンドンからは遥か遠く、マリスビリーを訪ねて三千里。余って数百里とちょっと。

 そこは人類の未来を語る資料館。人類史を長く、何より強く存在させるため、魔術・科学の区別なく研究者が集まった研究所にして観測所。即ち──。

 

《人理継続保障機関カルデア本部》

 

 あぁなんたることだろうか。彼は朝令暮改も甚だしく、そのゲート前まで来ていた。

 しかし"いきなりカルデアに行くのはどうか"と渋っていた彼が何故カルデアに? そんな疑問が浮かぶかもしれないが、理由としては至極単純で下らない話となる。

 それは現在のマリスビリー・アニムスフィアの所在がここ、カルデア本部だったというだけの話。だから結果として彼はカルデアに赴くことになった。ただそれだけだ。

 

 スタッフの心象という意味では、もう今後の働きで取り戻していくしかないだろう。今待機している彼ができることといえば、既に手続き等が済んでいて穏便に迎えられることを願うだけだろうか。

 

 ともあれ、時間の流れというものは塞き止めることもできない。無機質な静寂を保っていたスピーカーから再びスタッフの声が聞こえてきたのは、そんなに掛からぬ頃合いだった。

 

「大変お待たせ致しました。所長から確認が取れましたので、ただいまゲートを開きます。同時に入館手続きも行いますので、そのままお進みください」

 

 言って、白く固く閉ざされていた入り口が開く。

 どうやら上手くマリスビリーが話を通してくれたらしいと、彼は一安心して息をつく。次いでその足で歩みを進めた。

 

「──塩基配列 ヒトゲノムと確認。

 ──霊器配列 混沌・中庸と確認。

 

 ようこそ、人類の未来を語る資料館へ。

 ここは人理継続保障機関 カルデア。

 

 未登録スタッフの登録手続きを行います。

 

 指紋登録 声紋登録 遺伝子登録 クリア。

 魔術回路の測定……完了しました」

 

 アナウンスに従い、手をかざし、声を出し、謎の光で全身スキャンされたりと様々な手続きを経て。

 

「……貴方を当館のスタッフとして歓迎します」

 

 彼はようやく施設の中に入ることができた。

 

 入ってすぐ、まず目につくのは掃除が行き届いている清潔感のある廊下だった。その壁には国連の旗に酷似しているカルデアの紋章。『うわ本物だ!』と彼は口に出したい思いをぐっと堪えて感動する。限界オタクになるにはまだ時期尚早というもの。

 

 次に認識したのはそこに立つ、このカルデアの責任者だった。

 

「思っていたよりも早い再会で嬉しいよ。元気にしていたかな?」

「えぇ、ここに徒歩で訪れるくらいには健康健脚、元気ですとも」

「なるほど、それは何よりだ」

 

 マリスビリー・アニムスフィア。

 悠然とそこに佇み、気さくに挨拶をするその姿。写実的なこの一瞬だけならばおかしなところはない。特に普段の様子と大きく乖離しない仕草だと言えるだろう。だがその実、所長自らがわざわざこのゲート前まで赴くそれは異様なものでしかない。

 

 再三記述するようで大変申し訳ないが、マリスビリーと相対しているこの男はアポ無し不躾クソ野郎であることは忘れないでいただきたい。それでも所長自らが出向くということは、それだけ警戒もしているという表れでもあった。

 無論それに敵意だとか害意だとか、はたまた悪意といった感情は含まれていない。マリスビリー自らが受け入れると決断した人員に、マリスビリー自らが臆病になるようなことなど喜劇でしかない。

 

 とはいえだ。マリスビリーすら把握しかねている力を彼は有している。それは聖杯戦争の結末のみであれ、認識を操作した事実から察せはしよう。ともなればそれを部下にするのだ。初めて取り扱う道具に対する、やや慎重になるくらいの警戒心を持つことは自然と言えるだろう。

 

「さて、こんなところで立ち話もなんだ。少し場所を移すとしようか」

 

 対して、彼はそんなマリスビリーの心持ちを理解してはいない。今も精々が"立ったまま話すのは疲れるもんね"くらいの感受性だ。だが双方の内心はともかくとして、彼はマリスビリーの提案に頷きをもって返す。

 

 世の中には噛み合わずとも回る歯車があるのだ。

 

 カルデア内部を先導される形での移動。途中、まれにすれ違うスタッフに二度見されたり、奇異の目を向けられる。目の合うスタッフに手を振れば、振り返されたり、会釈が返ってくる反応に彼は楽しさを覚える。まるで有名人気分だと。

 

 その実、スタッフの大半はなんだアイツ程度の関心だったわけだが、本人がこれを知ることは以降もない。

 

 それから人の気配も少なくなった辺りでマリスビリーの足が止まる。

 

「着いたよ。この部屋が私の仕事部屋でね。悪いが手前の椅子に座ってくれるかい?」

 

 二人が向かった場所はカルデアの所長室、つまりはマリスビリーの作業部屋だった。

 案内のまま室内へと通されて、二人の入室と同時に扉は閉ざされる。

 

 言われるがまま、彼は入ってすぐの場所にある椅子に、マリスビリーは机のある奥の椅子に腰掛ける。そうしてマリスビリーは机から一枚の資料を取り出して彼に渡した。

 

「これは?」

 

 素直に受け取るもなんだこれはと怪訝に思う。だってそれは誰かのプロフィールだったからだ。顔写真こそないが、語感からして日本人の男性のように見受けられる。

 だが彼はこんな人物を知らない。原作にいたか? と内心首をかしげるも、主だったメンバーでないことは確かだ。故に渡された理由が分からない。

 

「それはカルデア(ここ)での君の情報さ。戸籍や経歴、雇用理由などは全部偽造済み。勘の鋭い者に君の過去を探られるとあの聖杯戦争でのやり取りまで辿り着かれそうだからね。ちょっとした時間稼ぎみたいなものだよ。暗記して上手く口裏を合わせてほしい」

 

 なんら表情を変えることはなく、淡々と偽造書類の説明をマリスビリーは始める。

 偽造理由を聞いた彼もまた若干数名、原作知識から勘の鋭い者*1に心当たりがあり、納得から「分かりました」と肯定を示す。

 

「それと一応の確認だが、君は私の計画をどこまで把握しているか聞いても良いかな?」

地球との対話は終わりましたか?

「あぁもう結構、理解したよ。ありがとう。答えはノーだけどね。まだもう少し掛かりそうだよ」

 

 彼がこれ以上爆弾発言をしないようマリスビリーは片手で制す。これで彼が表向きの人理保障どうこうではなく、計画のかなり深いところまで把握していたと確認が取れた。

 マリスビリーからしてみれば情報源が気になって仕方ないのだが、逆説的にそこまで知っていて敵対的ではないのなら気にしても詮無きこと。どころか下手に本人を突いて蛇が出ては敵わないとマリスビリーは話を終えることにした。

 無論、この後マリスビリーは己の予定に捩じ込む形で海洋油田基地セラフィックスに抜き打ち監査を行ったのは当然のケアである。

 

「まぁ、以上で共有したい話は終わりだ。最後に改めて自己紹介でもするとしようか」

 

 言って、マリスビリーは席から立ち上がる。一枚の資料を手にしたままの彼も倣って立ち、互いに微笑みをもってして向き合う。

 

「私の名はマリスビリー。マリスビリー・アニムスフィアだ。ここ、カルデアの所長を勤めている」

「えぇ、私の名前は陽花青紫(ヒバナ セイジ)。同じくカルデアの保険部門に所属する一人のスタッフです」

 

 双方、笑みを深めて握手を交わす。

 

「あぁ、その調子でこれからもよろしく頼むね」

「はい、もちろんです所長」

 

 

 ──LOADING ──

 

 

 2014年7月某日。

 陽花青紫(ヒバナ セイジ)に対する各メンバーインタビュー記録、一部抜粋。

 


 

 オルガマリー・アニムスフィアの愚痴。

 

「急に何なの? わたし、あなたと違って忙しいのだけど。

 はぁ、つまりわたしがセイジについて思ってることを聴きたいと? ……そうね、あなたに対して思っていることと一緒よ。いえ、一緒と言うのは語弊が生まれるわね。ベクトルが違ってジャンルは同じなのよ、あなたたち。

 あなたはサボり癖があって頭痛の種。セイジは任せた仕事をちゃんとこなすけど、積極的に訳分かんないこともするから頭痛の種。彼、最初の顔合わせの頃から急にわたしの頭を撫でてきたのよ? 止めろと言っても聞かないし、なんでって訊いても答えないし。

 でも、父と一緒にこのカルデアを支え、今もなお尽力してくれる事実を否定はしないわ。わたしだってその、助かっているから。だからこそ頭が痛いのだけどね。

 ところでロマニ? あなた、この前わたしが提出しろと言っておいたあっ、コラッ! 待ちなさい! やっぱり、やってなか──」

 

 


 

 

 カドック・ゼムルプスからの印象。

 

「セイジについてか? アンタがどういう意図で訊いてるのかは知らないが、僕個人はアイツに悪印象は抱いてない。たまに愚痴も聞いてもらっているしな。

 ……別に、ここの環境に不満があるってわけじゃない。愚痴ってのは僕の魔術に関する話だ。つまり、ドクター(アンタ)に話すもんじゃない。知ってるか? 『餅は餅屋』って諺があるんだと」

 

 


 

 

 オフェリア・ファムルソローネからの感想。

 

「えっと、その、Aチームのコミュニケーション調査とお伺いしたのですが、まず誰について語った方が良いなどありますか?

 はぁ、ヒバナさんについてですか? 

 まぁ他のチームやスタッフよりかは関わりがありますが……そう、ですね。私としてはGespenst(幽霊)みたいな人という感覚でしょうか。

 いえ別に触れられますし、姿だって見えます。そういった方向性であれば他の方々と大して違いはありません。ただ彼の瞳と言いますか、時折なんとなく、彼は毎日が日曜日のような精神性なんじゃないかと思ってしまって。

 あぁ、そうですよね。よくふざけている姿が目につく方ですが、でもそういった意味では……いえ、野暮ですね。どちらにしろ、私には何もできなかったので」

 

 


 

 

 マシュ・キリエライトからの言及。

 

「あの、ドクター? 質問の意図が少し分からないのですが、彼の人物像を言えば良いのですか? 

 えっと私もそんなに接点があるわけではないのですが……あぁ、人物像とは少し違うのかもしれませんが、ヒバナさんは動物がお嫌いだと最近知りました。

 はい、と言うのも近頃会う度にフォウさんの所在を訊かれるんです。理由としては先程挙げたようにどうも動物が苦手? アレルギー? だとかで避けたいからだそうです。

 はい? ……あっ、すみません。まずフォウさんというのはですね、最近カルデア内で──」

 

 


 

 

 芥ヒナコの所感。

 

 インタビュー開始数秒、沈黙による空白。

 その後、舌打ちらしき音声を一度挟み、声が聞こえる。

 

「悪いけど、アイツの名前を出さないで」

 

 


 

 

 スカンジナビア・ペペロンチーノの見解。

 

「あら、やだ! ロマンじゃなーい! どうしたの?

 セイちゃんについてね? いいわぁー! 私が答えられる範囲ならバンバン答えてあげるから、じゃんじゃん言ってちょうだい! でもね、答えられる範囲までよ? 私にだって言いたくないことや言えないことがあるもの。彼、秘密が多そうじゃない。なら勝手に話されたくないこととか、あると思うのよねぇ。でもそこがまた彼の魅力的なポイントだと私思うのよぉー! ……アナタだって、そうでしょう?

 あら、質問するんじゃなかったの? 

 そ、まぁいいわぁ! 気が変わったらまたいらっしゃい。今度は皆でお茶会でもしましょう?」

 

 


 

 

 ベリル・ガットからの心象。

 

「定期検診でもなしに、アンタから話し掛けてくるなんて珍しいな。どういう風の吹き回しだ? 見ての通り、飯食ってる最中なんだが。

 あん? ヒバナセイジ? 誰だそい……あっとそういや、ここじゃあアイツはそう名乗ってんだったな! 全く誰のことかと思ったぜ。

 いやいや、過去の名前なんてアンタの気にすることじゃあねえさ。言っちまえば聴いたところで意味のないノイズだ。昔のあれはどう考えても即興の偽名だったしな! 今思うと全く(ひで)え出来だった。ペペロンチーノと良い勝負してるくらいだ。

 

 んでなんだっけか? あーそうそう、『どう思ってるか』だったな。オレから言わせたらアイツは良いやつだ。なんつったってオレの恋を唯一応援してくれるダチだからよォ。オマケに暇潰しにも付き合ってくれて気も合うってんだから、文句のつけようは……まぁ、ねぇこたぁねえか。

 おいおい、オレが誉めてやったからってそう目に見えて警戒してやんなよ。オレもアイツも可哀想だろ? ……と、まぁ、茶化してはいるが本当にその警戒は無意味だぜ。アイツ自身は応援しかしねえんだからさ」

 

 


 

 

 キリシュタリア・ヴォーダイムの主観。

 

「彼のことについてか。ふむ……いやなに、どちらかと言うと私も知りたい側の立場でね。恐らくは貴方の探っている、彼の核心に関する話を私は持ち合わせていないんだ。

 とはいえ、これまでのコミュニケーションを通じて私なりに彼の人物像を形成したつもりでいる。情報確度としては不十分かもしれないが、それでも良いのなら語るとしよう。

 うん、ならば差し当たって、前提となる彼とのエピソードから話すとしようか。私のマイルームがリンゴ農園になった話か。外の吹雪の中で謎の生物と遭遇した話か。どちらから聞きたい?」

 

 


 

 

 デイビット・ゼム・ヴォイドの15秒。

 

「……少なくとも俺はアレを同類だと思っている。そして奴はカルデアの敵になることもないだろう」

 

 


 

 

 ロマニ・アーキマンの記述。

 

《──ヒバナセイジについて。

 肩書きは保険スタッフ。前所長マリスビリー・アニムスフィアからスカウトされ、カルデア保険部門という()()()が所属する担当を任されている。

 カルデアスタッフにおいてはある種異端のスタッフであり、役割はカルデア運営での補助及びメインスタッフの控えとして在り続けること。

 そんな曖昧な定義故か、日頃はカルデア内を徘徊して各種職員に声を掛け、彼ら彼女らのサポートを具体的な職務としている。

 

 主な活動例としては鬱憤の溜まったスタッフの話し相手や業務補助。清掃活動から備品補充。果てはカルデア職員全体を対象とした大規模なイベント企画から運営まで。

 手広く様々なことをしているようだが、そこにカルデア職員規約を逸脱したという話はとんと聞かない。それ故か、名ばかりの肩書きである彼を快く思わないスタッフをボクは見たことがない。どころか、彼を"Mr.All-Rounder"なんてからかいと尊敬交じりに呼ぶ者も散見される。

 

 また、Aチームのメンバーとはよく関わりを持っているようで、結成当初と比較してチームメンバー同士のコミュニケーションが目に見えて改善されているように思う。

 

 結論を出すにはまだ早計かもしれないが、少なくともAチームのベリル・ガットよりかはよっぽど善人寄りだろうというのがボクの至った考えだ。

 

 ただ気掛かりなのは彼があの時から()姿()()()()()()()()()ということだろう。見た目と実年齢が噛み合わない魔術師もいるにはいるだろうが、あれはそういった類いではないとボクの経験が言っているような気がしてならない》

 

「十年も経ってるっていうのにホント、それだけが引っ掛かるんだよなぁ」

 

 たった一人のマイルーム。ロマニは己の指にはめている一つだけの指輪を眺めながら呟いた。

 

*1
万能、探偵、教授、会稽零式、etc.




 なぁに考察勢の読者も満足できる作品を作りたいだって? わがままな孫だね。いいさ教えてあげよう。あいつらには情報量で殴り付けてやれば良いのさ。純粋にストーリーを楽しむ読者が置いてかれないよう、気をつけるんだよ。
 核心には至らず、表面を掠めず、それでいて輪郭だけは明白に教えてやりな。んでもってちょいちょいさりげなく、ストーリーに練り込むように設定を開示するんだよ。そうしたら喜んで頭を回し、考察という塗り絵を楽しむだろうさ。
 そうして最後には答え合わせさね。おまえの色と奴らの色。きっとどちらも綺麗なんだろうね。

 って、ばっちゃが言ってた!(存在しない記憶)

 初弾の投稿は終わり。
 次回投稿は様子を見てクリスマス辺りを予定しています。ただ「ヒャア、がまんできねぇ」って読者がいればその限りではありません。
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