FGO世界で転生したハイドレンジア 作:愉悦部の幽霊部員
藤丸立香のプロローグ
原作の男女選択における女主人公。FGOプレイヤーからは
けれどこの世界においてもそうはならなかった。魔術の魔の字も知らない彼女ではあるが、全ては原作と同様の流れで運命は軌道に乗ってしまった。
さて、彼女がそうなった経緯を知らない者のために軽くどうしてそうなったのかという話の流れを記しておこう。
始まりはカルデアが世界中で献血と称して行った『レイシフト適合者捜索』である。そこに当時日本担当となったカルデアのスカウトマン、ハリー・茜沢・アンダーソンという男がいた。彼は流石に
やさぐれ半分に駄目で元々。命令だから渋々と、とある駅前で探してみればなんとビックリ。適合率100%の数値を叩き出した少女が見つかるではありませんか。そして何をか言わんや、この少女こそが藤丸立香その人であった。
ハリー・茜沢・アンダーソンにとってはまさに青天の霹靂。砂漠に砂金どころではありません。ごろっと埋まっていた宝石を発掘したかのような心持ち。内心笑いが止まらなかったことでしょう。もしかしたらこの時、彼の視界はボーナス確定演出で彩られていたのかもしれません。
はてさて、探していたものが見つかったとなればあとは簡単なお話です。彼女をカルデアにスカウトすれば良い話。それがこの時のハリー・茜沢・アンダーソン唯一にして最大のお仕事なのです。
しかしこの国には『勝って兜の緒を締めよ』という諺があります。況してやまだ勝ったとも言えない場面です。獲物を前に舌舐りをするのはド三流。皮算用で機会損失など笑えません。
なので、彼は油断も慢心もドブに捨てて人好きのする笑みをその顔に張り付けました。後は簡単。こっそり人払いの結界を展開して家まで帰っていく彼女の後を追い、声を掛けるだけです。
"お嬢ちゃん、今ちょいとお時間良いかな?"
"あぁそうそう、さっきの献血のおじさん。少し君とお話したくてさ。で、どう?"
"……警察かぁ。いやいや、ホント怪しくはないから。五分くらい時間をオラッ! 魔術!*1"
"いやぁ、君が理解ある人で助かったよ。じゃあ早速手配するから、これ連絡先ね。準備でき次第迎えは寄越すけど、他にも何か困ったことがあったら連絡してね。それじゃ!"
こうして彼女は、この世界でもあれよあれよと人類救済という大義をその双肩に乗せられることとなりました。
今はまだ、数合わせの予備人員でしかありませんが。
どちらにせよ、カルデア本部にまで来てしまった。よって運命は定まった。全人類の未来が、歴史が、現在が、彼女によって救われる。この世界は彼女の存在によって救われる。これはそういうお話だから。
藤丸が振り向けば遥か彼方にヘリが遠退いていくことが分かる。ここまで連れてこられた時は目隠しをされていたので彼女は今、自分がどこの国のなんていう土地にいるのか把握できていない。
できていないが、目の前にある施設が事前に説明されていたカルデアと呼ばれる場所だとは理解した。
「でっかいなぁ」
言って、未だにどこか現実味を抱けていない自分がいることを理解して彼女は苦笑する。当然だ。人類のピンチとか、魔術がどうとか、神秘がどうちゃらこうちゃらなんて一般人だった己には無関係でしかなかった話なのだから。こうして関わることになってしまったのは何の因果か。
これから彼女は自分の知らない世界に飛び込む。帰り道なんてなくて、前に進むしかないけれど、ちょっぴりの不安と好奇心がない交ぜになる。昔見た映画の魔法使いの少年は、魔法学校に入学するときこんな気分だったのかな? なんて思いながら、そっと息を入れて。
そうして藤丸立香は、その歩みを進めた。
「──塩基配列 ヒトゲノムと確認。
──霊器属性 善性・中立と確認」
「はぁ、ヒトゲノム? ……れい、何? ぜんせー、ちゅーりつ?」
アナウンスが流れてくる。
藤丸は聞こえてくる言葉を咀嚼して、なんのこっちゃと首を捻る。単語一つ一つは理解できるが、文章として表された意味が分からなかった。
『塩基配列がヒトゲノム』とは、己が人間だと証明されたということだろうか。ならば霊器属性とはなんぞや? そんな面持ち。藤丸立香は分からない。分からないがまぁ、問題ないのなら良いだろう。彼女の脳内方針は取り敢えずGOである。
「ようこそ、人類の未来を語る資料館へ。
ここは
指紋認証 声紋認証 遺伝子認証 クリア。
魔術回路の測定……完了しました」
大仰な組織名。しかして確かにここが自分の目的地だと再確認がとれたところで認証作業が始まる。いつ私のデータを登録したんだろうなんて個人情報の保護もへったくれもない事実に笑う。
作業が終われば一拍間を置いてアナウンスが再び語り出す。
「登録名と一致します。
貴女を霊長類の一員と認めます。
はじめまして。
貴女は本日 最後の来館者です」
聞いて、やはり彼女にはアナウンスの言っていることがよく理解できなかった。"貴女を人間として認めますよー"と簡単に言えばそういう話なのだろう。ただなぜそれを一々お知らせしてくるのかが彼女には分からなかった。
「人間以外も来るから……とか?」
ふと可能性を挙げてみる。言葉にしてみてもどこかしっくり来ないのは感性が一般人だからだろうか。なかなかにファンタジーな解答だけれど、答えたからといって正誤の判定がこの場で出るわけでもなし。
「どうぞ、善き時間をお過ごしください」
アナウンスも藤丸に答えを返すことはなく、ただ黙々と、粛々と話が進むだけ。
暗転。
だったのだが。
「ん? 今何か」
一瞬だけ、藤丸は言い様もない違和感を抱く。瞬きのような刹那のそれは、しかし原因を見つける前にアナウンスが返ってくる。
「……申し訳ございません。
入館手続き完了まであと180秒必要です。
その間、模擬戦闘をお楽しみください」
何か問題があったらしいと彼女は察する。これから三分間は模擬戦闘とやらで暇潰しができると知り、安堵やらワクワクとした高揚が胸に滾る。
「レギュレーション:シニア。
契約サーヴァント:セイバー、ランサー、アーチャー。
スコアの記録はいたしません。
どうぞ気の向くまま、自由にお楽しみください」
またもや知らぬ単語をワチャワチャと出されて、煎じ続けたなんのこっ茶、最早藤丸利休の得意技である。彼女は慣れたもので涼しい顔をして聞き流す。これも風流。
「英霊召喚システム フェイト 起動します。
180秒の間、マスターとして善い経験ができますよう」
──LOADING ──
手続き完了までの暇潰し。もとい、待ち時間を有効活用するためのシミュレータを使った模擬戦闘。そこで藤丸は思う存分遊び暇を潰すことができた。
模擬戦闘の内容は過去の聖杯戦争を参考に作られたサーヴァントデータを用いたもの。サーヴァントを使った戦闘訓練が可能で、シミュレータということもあり、藤丸はゲームを遊ぶ感覚で三騎のサーヴァントに命令を出す。
最初こそたどたどしい指示とへっぴり腰の何とも情けない姿を披露してはいたが、今では気分は司令官、はたまた隊長だろうか。サーヴァントに指示を飛ばせばその通りに動いて、ある程度大雑把な命令でも意図を汲んで動いてくれる。
藤丸はその三騎がどういった存在なのかを知らない。最低限、戦闘前に三騎のクラスが説明されたため、暫定的にそう呼ぶことにした。本来の聖杯戦争ではそれが定石など、彼女は勿論知らない。
「セイバー、そこで必殺技……じゃなくて宝具!」
掛け声に合わせてデータ上のエクスカリバーが解き放たれ、訓練用のゴーレムが消し飛んで行く。その光景に「綺麗な光」なんて呟いていれば、エネミーは全ていなくなり、戦闘終了のテロップが目の前に浮かんだ。
「うおぉぉっ、セイバー強い! クリアだぁー!」
まるでVRゲーム。しかもゴーグル越しではない没入型。ソードでアートなあれみたいだと藤丸は感嘆と興奮の中にいた。
「でもちょっと過剰演出じゃない? いや、派手で私は好きだけどさ」
こうも演出が凝っているのならランサーとアーチャーの宝具も見てみたかったなぁと藤丸は思う。そして同時に"魔術の世界凄い! 超ハイテク!"と、そんな驚嘆の心地にも支配されていた。無論、カルデアの設備がおかしいだけである。
「これはもう一周してランサーとアーチャーの宝具を試そうかな。うん、そうしよ。再挑戦は……うん?」
シミュレータの再挑戦はどうすれば可能か。再挑戦ボタンとかある? そんな考えに辿り着いたところで丁度手続き終了のアナウンスが藤丸の耳に聞こえた。
ここで止めなさい。藤丸はそう言われた気分だった。無論口惜しくはある。けれど本来の目的を忘れてはならないと藤丸は己を叱咤する。これは手続きが終わるまでの暇潰しでしかない。目的が達成されたのだから、そこから逆転してはならない。なので彼女は潔く戦闘訓練チュートリアルを終えることにした。
と、自制によって締められていれば格好がついたものの、実際のところは止めようと決意する間もなくの強制ログアウト。立つ鳥跡を濁そうが濁すまいが現実に戻されていたので第二ラウンドはどのみち始まることはなかったのであった。
「ふがっ」
花の乙女にあるまじき醜態。だらしのない体勢で寝ている中、第三者に聞かれようものならわりと死ねるいびきでもって藤丸の意識が浮上する。もし側に誰かいるのなら"お嫁にいけない"なんてベタな感想を抱いていたことだろう。
「フォウ? キュウ……キュウ?
フォウ! フー、フォーウ!」
何やら愛らしい小動物の鳴き声と矢鱈ベタベタする頬の感触に、藤丸は数秒前の己が恥を忘却して目蓋を開けた。
「私はキャンディじゃないぞー」
ベロベロと頬を舐めてくる謎の小動物。藤丸はその子の両前脚に手を添えて持ち上げ、顔から離す。そうしてゆったりと上体を起こすと可愛らしい眼鏡っ娘と目があった。
「……あの、お昼寝から目を覚まされましたか? 先輩」
「おっと、君は?」
薄い紫がかった銀髪。紫紺の瞳。某海賊絶賛の片メカクレ。そして初対面の藤丸を先輩判定する謎の美少女。なんともラノベヒロイン適性の高い素養のある彼女は、「これは失礼しました」と一礼して微笑みを返す。
「私はマシュ。マシュ・キリエライトと申します」
彼女は胸を張ってそう答えた。
「ところで質問よろしいでしょうか、先輩」
「え、あ、うん。良いけど」
輝かんばかりの笑顔に同性ながらドキッとしてしまった藤丸は、そんな内心に影響されてか童貞ばりに狼狽えて答える。
「お休みのようでしたが、通路で眠る理由が、ちょっと。硬い床でないと眠れない性質なのですか?」
「あれ、ホントだ。私、何でこんなとこで寝てたの? えっ? 寝てたよね私」
「はい、スヤスヤと。
言われて藤丸の顔に驚愕と納得が混在する。改めて辺りを見てみれば見知らぬ通路で、当然藤丸の記憶にはない景色。酔って記憶が飛ぶ人はこんな経験をしているのかと半ば場違いな感想が浮かぶ彼女ではあるが、自身の年齢と思考回路から照らし合わせても飲酒をしたわけもなし。
はて? と首を傾げる藤丸であったが、そこへ先ほどまで大人しく彼女に抱えられていた小動物が声を上げる。
「フォウ! キュー、キャーウ!」
「あぁっ、失念してました。あなたの紹介がまだでしたね、フォウさん」
じたばたと踠き、藤丸の両手から逃れた小動物。マシュ曰く、フォウというそれはシュタタッといわんばかりの速度でマシュの足元まで移動する。
「こちらのリスっぽい方はフォウ。カルデアを自由に散歩する特権生物です。わたしはフォウさんに導かれてお休み中の先輩を発見したんです」
「フォウ。ンキュ、フォーウ!」
藤丸と目を合わせたフォウは、マシュの紹介に続けて何かしらの挨拶をした。しかしチラリと藤丸の背後、その奥の廊下に目をやると背を見せて走り出してしまった。
「……またどこかに行ってしまいました。あのように、特に法則性もなく散歩しています」
「へぇ、不思議な生物だね」
のほほんと小学生並みの感想しか出てこない。けれどこれは仕方のない話。魔術の世界に足を踏み入れてまだ一日目。魔術の世界にはああいう生物もいるのか以外の感想なぞ期待するだけ損でしかない。また、寝起きだからか頭も大して回っていなかった。
「はい、わたし以外にはあまり近寄らないのですが、先輩は気に入られたようです。おめでとうございます。カルデアで二人目の、フォウのお世話係の誕生です」
若干目を輝かせて、具体的には仲間ができた時の喜びを表現したかのような顔で告げるマシュ。それが光栄なのか分からない藤丸。
けれど見知らぬ環境で何もない藤丸としてはあの愛らしいフォウと、そのお世話を通してマシュとコミュニケーションをとれる立場は魅力的ではあった。
だから正直ラッキーと恵まれた偶然に内心喜んでいるところで、誰かの足音。藤丸とマシュ以外の第三者がやって来た。
「あぁ、そこにいたのかマシュ。だめだぞ、断りもなしで移動するのはよくないと」
現れたのは男性。
茶髪で癖っ毛。緑のシルクハットを被り、緑を基調としたスーツを着こなす糸目の彼は、一見してマジシャンにも見えるだろう。実際、彼も魔術師なのだろうから
そこでチラリと彼の視線が藤丸の方に逸れて、肩をすくめた。
「おっと、先客がいたんだな。君は……そうか、今日から配属された新人さんだな」
彼は一瞬だけ思考の海に沈むと大方の藤丸の正体を当ててみせた。
「私はレフ・ライノール。ここで働かせてもらっている技師の一人だ。君の名前は?」
言われて、藤丸はそう言えばと己のうっかりを自覚する。先ほどはマシュに名乗らせるだけ名乗らせて、自分は名乗っていなかったと。申し訳なさ反面、あまりにもナチュラルに先輩呼びをされて名乗る暇がなかったとも自分に言い訳をした。
「私は
「ふむ、フジマルリッカ君と。召集された48人の適性者。その最後の一人というワケか」
「はい!」
正直藤丸には他に47人いることとか、自分が最後だとかは知らなかったが、復唱されたことは元気をもって返答した。こういった愛想の有無が後々響いてくるとバイト経験が藤丸に囁くのだ。
「ようこそカルデアへ。歓迎するよ」
笑顔での応答。
"勝った"と藤丸の勝利を確信する。何と勝負しているのかは本人も分かってはいない。第三部完ッ! と半ばノリでにこやかに、コミュニケーションが円滑に進むだろう今後に胸を撫で下ろす。
実際、藤丸は不安ではあったのだ。
"穢れた血だの言われたらどうしよう"
とか不安に思っていた部分が払拭されたのだから、大分張り詰めていた肩の荷は降りたと言える。コミュニケーションは第一関門、ここを乗り越えられなければ社会性動物の藤丸は死んだも同然。ひとまず助かったと安心するのも無理からぬ話。
第二関門は食文化だ。友好の証に変なビーンズでも出されたらどうしようとまた別の意味で不安が湧いてくる。身体に良いからみたいなノリで魔術的に良いからとか言われても藤丸としては困り果てるしかない。
そんなどうしようもない妄想が藤丸の脳内で巡る中、レフが藤丸に訊ねる。
「一般公募のようだけど、訓練期間はどれくらいだい? 一年? 半年? それとも最短の三ヶ月?」
「いえ、訓練はしていません」
「ほう? ということはまったくの素人なのかい?」
一度片眉を吊り上げて疑問を浮かべるレフではあったが、何かを思い出したのか「あぁ」と得心が声に漏れて言う。
「そういえば数合わせに採用した一般枠があるんだっけ。君はそのひとりだったのか。申し訳ない。配慮に欠けた質問だった」
声のトーンに謝意が混ざる。言って、「けど」と一区切り。今度は明るい声音でレフは語り出した。
「一般枠だからって悲観しないでほしい。今回のミッションには君たち全員が必要なんだ。
魔術の名門から38人、才能ある一般人から10人……なんとか48人のマスター候補を集められた」
鼓舞。
「これは喜ばしい事だ。この2015年において
そう、鼓舞のはずだ。悲観するなと。専門用語に首を傾げるしかない藤丸は、具体的に何が喜ばしいのか分からないままではあったが、励まされた事実だけは理解した。
結論、藤丸の中の他者人物評価にして、良い人クラスにレフ・ライノールが追加された。
「わからないことがあったら私やマシュに遠慮なく声をかけて……おや? そういえば、彼女と何を話していたんだいマシュ? 以前から面識があったとか?」
「いえ、先輩とは初対面です。この区画で熟睡していらしたので、つい」
「熟睡していた……? 藤丸君が、ここで?」
突如困惑に突き飛ばされるレフ・ライノール。当然だ。ここは廊下。ベッドの上でもなければ、布団の上でもない。どうやら魔術師をもってしても、廊下で眠ることは非常識であるらしかった。
対して、藤丸も"そうだそうだ"と思い出す。彼女の未解決事件。名付けて『廊下で爆睡事件』である。未だ謎に包まれたそれは、しかし、あっさりとレフの手によって解決をみせた。
「ああ、さては入館時にシミュレートを受けたね?
なんだそんなことかと言う風に、明朗に笑ってレフは謎を解き明かす。ともなれば藤丸にも心当たりというものが降って湧く。
(あのVRゲーム擬きか)
模擬戦闘。リンクスタート。量子ダイブという固有名詞は知らなかったが、ここであれのことかと繋がった。
「シミュレート後、表層意識が覚醒しないままゲートから解放され、ここまで歩いてきたんだろう。一種の夢遊状態だ。藤丸君が倒れたところで、ちょうどマシュが声をかけたのさ」
人差し指を立てて、さながら名探偵。
レフの解説にはマシュも「なるほど」と納得顔。藤丸は量子ダイブのあれこれを詳しく知らないけれども、それでも説明された内容がするりと光景として頭に浮かぶ。それくらいには手を打った。
「見たところ異常はないが、万が一という事もある。医療室まで送ってあげたいところなんだが」
一拍。
「すまないね、もう少し我慢してくれ。じき所長の説明会がはじまる。君も急いで出席しないと」
「説明会……?」
「はい、藤丸さんと同じく、本日付で配属されたマスター適性者の方達へのご挨拶です」
悲しきかな藤丸立香。明らかに重要そうなイベントを知らず、困惑のオウム返し。マシュから追加された情報で入学式の校長演説みたいなものだろうかと無い頭で考える。
今の藤丸の状況を例えるとしたらこうだ。
"同級会明日だっけ?"
"え? そんなのあるの?"
"えっ? 全員に送信……あっ"
と、ここまで悲壮感はないが、内心穏やかではない。おのれハリー・茜沢・アンダーソン、説明責任はどこへやった。そんな気分であった。当日の流れくらいは説明しても良くない? と。もちろん、"着いたら分かる"を受け入れた方が悪い。実際、着いたら(マシュ達に説明されて)分かったのでタチが悪い。
「ようは組織のボスから、浮わついた新人たちへのはじめの
レフから藤丸への忠告。学校の先輩とか、バイト先の先輩とか、そんな人達に似た空気を纏った彼はニヤリと笑みを浮かべる。
「五分後に中央管制室で説明会が始まる。この通路をまっすぐ行けばいい。急ぎなさい」
廊下の先をレフは指差す。降って湧いた話の割に時間的余裕はなかった。
急遽横入りしてきた予定開始まで熱湯を入れたカップうどん一つ分。そのくせすっぽかすデメリットは高そうだと慌てる藤丸。対してマシュは挙手をした。
「レフ教授。わたしも説明会への参加が許されるでしょうか?」
「うん? まぁ、隅っこで立っているぐらいなら大目に見てもらえるだろうけど……なんでだい?」
「先輩を管制室まで案内するべきだと思ったのです。途中でまた熟睡される可能性があります」
言われたら、確かにまだ眠いと藤丸は自覚する。寝起き直後だったから、と言うには些か時間が過ぎた。これも量子ダイブのせいなのだろうと静かに結論付ける。
「君をひとりにすると所長に叱られるからなあ……結果的に私も同席する、という事か」
露骨に嫌そうな顔をして、仕方ないと言うようにレフは続ける。
「まぁ、マシュがそうしたいなら好きにしなさい。藤丸君もそれでいいかい?」
首肯。
「他に質問がなければ管制室に向かうけど、今の内に訊いておく事はある?」
レフは問う。
ここに至るまで、藤丸は多くの未知を聞いた。正直な話として、専門用語が多すぎて理解の及んでいない節がある。魔術に関してだって興味はあるし、ちくわの中身を覗いてみたい好奇心もある。けれど、どれも今ここで訊くものではない。
ただ一つ。純粋に何故と思い、そしてこの後の説明会でも語られないであろう唯一の謎。
「ところで、なんで先輩と呼ぶんですか、この子」
藤丸はマシュを指してレフに言う。
魂からのWhy。
ナチュラル過ぎてなのか、常日頃なのか。レフすら流して受け入れたマシュの先輩呼び。指摘されたマシュはやや赤面。そうシリアスな理由ではないらしかった。
「ああ、気にしないで。彼女にとって、君くらいの年齢の人間はみんな先輩なんだ」
なるほどと藤丸は納得する。マシュの見た目からすれば藤丸と同い年くらいにしか見えないが、そこは外国人。幼く見られがちな日本人と比べて同い年に見えるなら、マシュの実年齢はもう少し下なのだろうと推測が立つ。
ともなれば後は簡単で、マシュが藤丸を特別『先輩』と呼称しているのではなく、他の人も先輩と呼んでいて、藤丸もそのカテゴリーに入れられた。
大方そんなところだろうかと藤丸は思考した。実際、過去にバイト先でも似た理由で先輩呼びしてくる子がいたことを思い出す。そういうことだよね、と納得である。
「でも、はっきりと口にするのは珍しいな。いや、もしかして初めてかな」
(じゃあ違うじゃん!)
前提からちゃぶ台返し。藤丸と同じく、レフもこれには好奇心が湧いたようで話を続ける。
「私も不思議になってきたな。ねえマシュ。なんだって彼女が先輩なんだい?」
問うレフ・ライノール。
頷く藤丸立香。
戸惑うマシュ・キリエライト。
「理由……ですか? 藤丸さんは、今まで出会ってきた人の中で、いちばん人間らしいです」
返答。
けれど、それは些か情報不足であり、何を言わんとしているのか、二人は掴めなかった。そこでレフが再度問う。
「ふむ。それは、つまり?」
「まったく脅威を感じません。ですので、敵対する理由が皆無です」
答えたマシュは、にこやかであった。どういうことと疑問符を浮かべる藤丸を余所に、堪らず「ハハハッ!」と、レフが笑いをこぼす。
「なるほど、それは重要だ! カルデアにいる人間は一癖も二癖もあるからね!」
何が面白かったのか、未だに「ククッ」と笑みが止まないレフは、藤丸に向いて口を開く。
「私もマシュの意見には賛成だな。藤丸君とはいい関係が築けそうだ!」
「……レフ教授が気に入るという事は、所長がいちばん嫌うタイプの人間という事ですね」
(マシュ曰く、これから会う人は私をいちばん嫌うらしいかった)
どこか他人事のように振る舞って、事実から心を守る藤丸。そんな姑息な手を使ってなお、そんな人の説明会に行かないといけないのかと、マシュの補足説明に憂鬱になりそうであった。
「……あの、このままトイレにこもって説明会をボイコットする、というのはどうでしょう?」
そして、それはどうやら同行を願い出たマシュにも当てはまる様子。いや、この場合は藤丸を想ってのことだろう。見た目に反してなかなかに無法な解決案を提示する。が、流石にそこはレフがたしなめた。
「それじゃあますます所長に目を付けられる。ここは運を天に任せて出たとこ勝負だ」
それは解決策ではない。藤丸、マシュ両者共に同じ思いを抱くが、他の解決策があるわけでもなし。閉口するしかない。
「それに、だ。説明会の補佐は
レフの説明から出てきた名前に、藤丸は少し興味を示す。音の羅列からして同じ日本人であるらしい。異国で同郷と出会う安心感は言葉にし難い。だが藤丸は確かに一つ、覚える感覚があった。
(良かった。私、独りじゃないんだ)
張りつめていた何かが解きほぐれた。それは緊張だとか、不安だとか、もしかしたら恐怖に似た何かだったのかもしれない。けれど確実に、無意識的に持っていた要らないモノが一つ、ここで安堵に置き換わった。
「さあ、虎穴に飛びこむとしようか藤丸立香君。なに、所長は慣れてしまえば愛嬌のある人だよ」
懐古の念に異物混入。
そしてちょろっと名前しか出てこないうちの主人公。
ほら、あいつ今、裏でサンタ活動してて忙しいから。
んでもって書き貯め分はここまで。正確には幕間が一個あるけど時系列的にまだ出せない。ゆっくり書いていこか。