FGO世界で転生したハイドレンジア 作:愉悦部の幽霊部員
ところで急にUA数とお気に入り登録者数増えたけど、皆そこまで考察に飢えてたんか?(困惑)
──あー、なんだ。要するに? おまえは今でも
かつて、ベリル・ガットと同席したセイジが暇潰しもかねてあることをたずねた際の返答がこれだった。
「違う違う。僕が言いたいのはそういうことじゃなくて、もっと本質的な部分」
手を軽く振って誤解を解く。
多くの人は地球圏外まで出たこともないのに、地球は球体であると確信している。
測量もしていない人間が、伝え聞いた話だけで『そうなのだ』と解釈している。
写真や映像越しに見て『知った』気になっているだけだ。騙されているとすら思わず、疑うことすら馬鹿らしいと考える。
「実際、僕は直接見たわけじゃないけど『地球は球体だ』と信じてる。物事を"これ"と信じる根拠は自分で直接調べない限り、情報源に頼るしかない。情報源が信用足り得るからこそ、疑うことが馬鹿らしいとなるんだ」
肴を一つ、口に放る。
ベリルはつまらなさそうにグラスを傾けた。
「そりゃそうだ。で?」
「マシュが君のこと好きだって」
「誰が嘘つけっつったよ」
カラン、とグラスの中で氷が回る。
「そう、それだ」
セイジが指を向けた。
意味が分からないとベリルは片眉を吊り上げる。
「今、何をもって嘘と決めつけたんだ?」
「そんなの、おまえがさっき言ったばっかだろ。直接見たってやつさ。あんときのマシュの目も、おまえの目が本気で言ってないってのも」
うん、と頷きを挟んでセイジが言う。
「確かにさっき、僕は調べもせず適当なことを言った。でもそれが『嘘』になったのは君が見たときじゃない。開示した今だ」
再びグラスを傾けようとしていたベリルの手が止まった。
「何が言いたいか、オレにはさっぱりなわけだが──」
「マシュから直接聞いたわけではないでしょ?」
言わんとしていることは理解した。
つまりあれだ。ベリルの情報源とはこの場合、観察眼となる。けれど今回の真偽を判定するのはその目ではない。マシュ本人からの返答こそ是非を決めるのだとセイジは言っているのだ。
なるほど。ベリルの目はマシュ本人ではない。ベリルの見る視界もマシュ本人ではない。
目は口ほどに、なんては云うが実際に言われたわけでもない。であれば分かりきってる事実であれ、ご本人さまから直接、言葉でベリルの耳に届けてくれなければ真偽とは不明なままなのだ。
僅かにベリルの喉仏が下がった。
「……へぇ、ドクターは止めたんだぜ?」
「だから?」
「おいおい、アンタの立場で情報が共有されてないわけねえだろ? いいのかよ」
それの返答に、合間などはなかった。
「別に応援するくらい良くない?」
当たり前のことを言うように、セイジはしれっと言葉にする。それがどうにも可笑しく感じられて、ベリルは短く吹き出すと笑った。
「ハハッ、そっかそっか、なんか悪りぃな! オレ、おまえのこと勘違いしてたわ」
近寄って、バシバシとセイジの背中を叩く。
力加減はされていて、音ほどの痛みをセイジは覚えなかった。
「勘違いって、どう思ってたのさ」
背中から伝わる揺れをグラスへ伝えないように、セイジはさっとカウンターにそれを避難させた。そうしてベリルへと質問したわけだが──。
「いけすかねぇやつ」
手を止め、ベリルは小さくそう呟いた。
「っと今のはさっきまでの話だぜ? おまえは良いやつだ。オレが保証する」
「手を貸したりはしないよ?」
「ああ、それで良いし、それが良い。こいつはオレの恋路なんだ。オレ一人でやらなきゃ意味がねえ」
ケラケラ笑ってベリルはグラスの中身を呷る。
そうして一通り気が良くなったところで、彼は「それで?」と話題を戻した。
「おまえが急にこんな話をした理由は? オレを励ますためってわけじゃあねえんだろ?」
「んー、特に深い理由とかなくて暇潰しの話し相手になってもらおうとしてただけ……なんだけど」
「けど?」
「強いて言えば持論を誰かに聞かせたかったから、かな?」
なんだそりゃと首を傾げるベリルは、まあ良いかと片付ける。
その後は楽しい酒の席だ。
いつかの友人二人、一夜の話。
冬木市。
柳洞寺跡地の地下に存在する大空洞。
そこで今、幾多の金属音と空気の揺れるような重低音が入り交じり、反響していた。
片や剣と盾による攻防の末の弾き合い。
片や竜の炉心による膨大なまでの魔力放出。
やがて拮抗していた場は大きく変動する。
黒い魔力の奔流。
魔竜ヴォーティガーンの息とも例えられた聖剣の息吹。なんの制御もなく、ただ暴力的なまでの魔力による破壊が地を荒らす。
かつて藤丸がシミュレータで見たセイバーの宝具に酷似するそれは、なにもデータ上の過剰演出などではなかったのだと知るだろう。
そんな膨大な魔力粒子が渦巻く戦場を、セイジと信長は適当な廃墟から【モニター越し】に見守っていた。
「ポップコーンあるんじゃけど、いる?」
「なんであるの? いらない」
本特異点の原因。
そう思われる聖杯を守護するサーヴァント。セイバー、アルトリア・ペンドラゴンの
彼女をどうにかしなければカルデアの目的は達成されないと判明したのは、さて今からどれくらい前の話だっただろうか。
この特異点にはカルデアからレイシフトした存在がセイジを除き、三人いる。
その身に眠っていたサーヴァントと融合して、デミ・サーヴァントとなることで一命を取り留めたマシュ・キリエライト。
カルデアスに選出され、予備のマスター候補からなし崩しにマシュのマスターとなった藤丸立香。
そしてなぜかいたオルガマリー・アニムスフィア。
彼女ら三人はキャスタークラスのサーヴァント、アイルランドの御子であるクー・フーリンと共にこの特異点の解決へと動いていた。
「終わったかな」
カルデア一行の道中は色々とあったが、どうにか最終局面。
セイバーの宝具による一撃をマシュの宝具により防ぎきり、その霊核にチェックメイトをかけた。そして──。
「ん、まだキャラメルポップコーンが残っとるんじゃが」
「塩とバター食べ終わった時点で満足しなよ」
信長の身体が淡い光の粒子となって、端からただの魔力に変換されていく。もはやここに居る意味がなくなった。英霊の座への強制帰還だ。
「ええい、こうなればかきこんで平らげるのみよ!」
足先から徐々に散っていく信長は、ついに最後まで抵抗し、三つ目の空箱を積んだ。
「ふぅ、ではなマスター! 次はカルデアで」
彼女は言い切る前に消えていく。
別れの言葉より食い気を優先したのだから当たり前だ。人理が配慮するわけもなし。
そして忘れてはならないのが、彼女はあくまでも穴埋めでしかないということだ。コリジョンによる整合性をとるためだけの、言わばいるだけで仕事をしていた立場。
もうそれは終わったというのに、"次"だなんて言葉はなんとも彼女らしい。良くも悪くも『人』が好きというか。生きる過程の足掻く姿が好きで、丁度良い事件が起きているから近くで見たがるのだろう。
「ほんと、悩みを増やさないでほしい」
ぼやきながらモニターを観察すれば、次にキャスターのクー・フーリンが強制帰還している姿を確認できる。
また、隠れるように小さな影。藤丸の近くにフォウの姿も発見できた。ふとセイジと目が合えばプイッと逸らされる。
「うへ、こわ」
怖すぎて変な笑いが出る。
認識されていた。けれど流石に物理的な距離がある。成長させる心配はないようだった。
であるならば、原作との差異はフォウに気づかれた程度。
モニターの向こうの光景に異物はいない。ならば、今までのセイジの行いで会話に微弱な違いは生まれても、流れの大筋は変わらないだろう。
(……サルベージまでの誤差はこれで問題ないはず)
そうでなくては困るから。
一つ一つ石橋を叩くように、藤丸の歩みが、行く先が問題ないことを確認する。
彼にはできないことだ。だからこそ、藤丸立香には辿り着いてもらわなければならないと願う。『人』として、無責任だと分かっていながら託してしまう。
そうこうしていれば、モニターの向こうでも事態に変化が起きたようだった。
──レフ……ああ、レフ、レフ、生きていたのねレフ!
レフ・ライノールが現れて、精神の疲弊しきった、何も知らないオルガマリーはいつものように近寄る。
レフはそんな彼女といくつかの会話に興じ、そして聖杯が保有する魔力を用いた。
オルガマリーとカルデアスまでの空間が繋がれる。彼女の身体は引きずられるように宙へ浮き、燃え盛るカルデアスへ。
そこからは原作通りの、セイジが想定していた流れが映る。
──いや、いや、助けて、誰か助けて! わた、わたし、こんなところで死にたくない!
違いなんて一つだけだ。
──セイ、セイジぃッ! やだぁ! 助けて!
ただ聞くに堪えない、見るに堪えない、目を逸らしてはならないリアルというだけ。
慟哭はカルデアスに沈んだ。
空間が震動する。
特異点の限界が近づく。
フォウが動く。
「……僕も、帰らないと」
何も問題はなかった。
だからヒバナセイジも【無事、カルデアに帰還した】。
「藤丸立香ならびマシュ・キリエライト、両名のサルベージ成功しました!」
「バイタルチェック……およそ異常はありません。気を失っているだけです」
この場にいる誰しもが、きっとそれに安堵を覚えたことだろう。
カルデア中央管制室では声が飛び交っていた。爆破当時、別区画を担当していて巻き込まれなかったスタッフたちの声だ。
ロマニ主導のもと、彼らは今まで藤丸たちの存在証明や現状最低限必要になる機材の修理に専念していた。それもようやく終わり、肩の荷を下ろせると力が抜けている者もいる。
「皆、お疲れ様。本当にありがとう。これからのコトもあるが、ひとまず今は休息に充ててくれ」
オルガマリーはいなくなり、レフは人類を裏切った。セイジもこの場にいないのだから、必然、ロマニが司令官代理として皆を労う。
「それとすまないが女性職員の誰か二人。立香ちゃんとマシュをそれぞれの個室まで運んであげてほしい」
ロマニの呼び掛けには近場のスタッフ二名が応答する。彼女らに藤丸とマシュ、それぞれの個室の場所を教えて、ようやく本当の意味で一段落となった。
張りつめていた緊張の糸は解け、深い息と共に彼は椅子に腰を下ろす。下ろそうとした。
「おつかれロマン」
「うわぁっ!?」
急な背後からの声。
驚きでそのまま座り損なって、ずるっとロマニは転げ落ちた。
「痛つつ、ってセイジ! キミ今までどこに行ってたんだ!? 大変だったんだぞ!」
「ゴメンて。僕、これでも保険部門のトップだからさ。緊急時は僕だけの仕事があるんだよね」
本当に煙突へダイブしていたんじゃないかと疑うくらい煤だらけのサンタ服で、セイジは言いながら肩をすくめる。
「トップも何もキミだけの部門だろうに」
「あはは、おっしゃる通りで。詳細はあとで報告書にまとめとくからさ、それで許して」
ロマニは今度こそ椅子に座る。セイジも空席を見つけて近くに持ってきた。
「それでこれからのことなんだけど」
「ああ、今後の方針はあとで生き残った職員を集めてする……つもりなんだが、その」
ロマニは言い淀む。
レフが裏切り者で、オルガマリーは彼に殺された。
レフと学友であったロマニですら未だ信じがたい話で、直接見たからこそ割り切れた話だ。どちらとも仲が良かったセイジに、これをどう伝えるべきか言葉を探していた。
「大丈夫だよ、ロマニ」
彼は笑っていた。
苦々しい笑顔だった。
ロマニを安心させるためだけの、もしかしたら彼自身に言い聞かせるための、そんな言葉で。
「モニター越しだったけど、途中から僕も見てたから」
「……そうか」
少しだけ、空気が重々しくてロマニは視線を落とした。
共通の知り合いが亡くなった。
助けることができなかった。
弔うだけの時間的余裕はなくて、だからロマニは静かに心の中でだけ死んだ職員たちとオルガマリーに追悼する。いつかちゃんと弔えたら、と
「はーい、そこ男二人。気持ちは分かるけど今はキミたちがしゃんとしないと、みんなが不安になるだろう?」
声。
女性の声だ。
黄金比を体現する絵画のような女。
カルデア技術局特別名誉顧問。
召喚英霊第三号。
レオナルド・ダ・ヴィンチ、その人。
ただし、肉体は『モナ・リザ』という自ら性転換、もとい女体化したサーヴァントだ。生前が実は女でした、とかではない。
「なんだレオナルドも来たのか」
「おおっとドクターロマン、これで何度目かな? 私のことはダ・ヴィンチちゃんと呼んでくれと言ってるだろうに。それともあれかな。若年性アルツハイマーとか? おやおやそれなら困ったね、医者の不養生というワケだ」
「はいはいボクが悪うございましたね、ダ・ヴィンチちゃん」
おどけながら輪に入る彼女によって、場に僅かながら普段のカルデアの雰囲気が戻ってくる。
「ダ・ヴィンチちゃんは無事だったんだね、よかった」
「まあね、いつも通り工房に引きこもってたら急にドカンッ! だ。いやはや、本当にまいったよ」
セイジの言葉にそう返しながら、ダ・ヴィンチも適当な椅子を引いて座る。
「予備電源に切り替わるまでの間、他の設備に異常が起きてないか駆けずり回ってたんだ。しかも確認と修理が終わって管制室をモニタリングしたら、あのレフが映像越しにとんでもないコト言ってるしでもう大混乱」
ジェスチャーも交えながらダ・ヴィンチは語る。聞くだけでも苦労が伝わるようだった。実際、ほぼひとりで中央管制室以外の区画設備を確認して回り、異常があれば対処していたのならその苦労もひとしおだろう。
「で、直接ここに来たってワケさ」
「それはご苦労様」
「おつかれ」
片手を開いて簡単な事情説明を終えたダ・ヴィンチを二人が労う。
「ところで、ツッコミ待ちなら私が言うけど、なんだってセイジはサンタクロースの格好なんかしてるのかな?」
当然の疑問。
ロマニは『まあセイジだし』と流した謎。
万能の人はやはり天才だったか。実に鋭い質問を飛ばした。
「少し早いクリスマス気分だったんだ。台無しになっちゃったけど」
「あっはっは、そっかー、よーしロマン、キミにパスだ」
しかし万能の人も所詮は人の子。脈絡がない話はどうしたって理解できないものだ。一見整合性があるように見えて、『少し早いって半年先なんだけど』とか『クリスマス気分だろうがファーストミッション当日にサンタの格好する意味ある?』とか、ツッコミどころしかないのだから考えるだけ無駄である。
「キミが訊ねたんだろ、まったく。……キラーパスされたサンタクロースは置いといて、いったん真面目な話だ」
ロマニがパンと手を叩いて話を切り替える。
「現在のカルデアには首脳陣と呼べる職員がもうボクらしかいない。まだ完全に確認できたわけではないけど、外からの救援は望めないと思っていた方がいいだろう」
言われて、ダ・ヴィンチとセイジはそれぞれ頷きをもって返す。特異点内でのレフの発言や、すぐそこにあるカルデアスの様子からみて、同じ認識だと肯定する。
「だからキミたちに一つ、意見を訊きたい」
今後の方針。
組織として機能不全寸前まで追い詰められた状態で、ここから立ち直らなければならない現状。
「ボクは……」
静かな中央管制室でロマニが少しだけ言い淀む。
皆が彼の発言を待っていた。ダ・ヴィンチも、セイジも、いつの間にか耳をそばだてていた職員たちも。
誰も彼の覚悟を邪魔はしなかった。
生き残った者として言わなければならない。
大人として言うべきではない。
カルデア職員として言うしかない。
「ボクは、藤丸立香にカルデアを、人類の行く末を託そうと思っている」
言った。
「救援を望めない以上、事実上レイシフト可能なマスターは立香ちゃん以外にいない」
その顔は思い詰めていた。
一番大変な役回りを押しつけることになる。
そんなことしかできない自分が嫌になると。
「絶望的な現状を打破するには、彼女を矢面に立たせるコトしかボクには思いつかなかった」
罪人が懺悔するように告白する。覚悟を決めたというのに、言葉に出してしまえば決意が揺らいだ。
特異点Fではなし崩し的に藤丸がマスターとして戦場に立った。けれど、今度からは違う。最大限のサポートをするとはいえ、ロマニたちがロマニたちの意思で藤丸を死地へと送り出すのだ。
「すごく最低なコトだってのは、分かってる。でもこれ以上の最善手がどうしても出てこないんだ。なあ、ダ・ヴィンチ、セイジ、これで良いと……こうするしかないと思うか?」
本当にそれで良いのか。思いついていないだけで他に手はあるんじゃないのか。ダ・ヴィンチの天才性、ヒバナセイジの突拍子のなさ、そのどちらからでもよかった。ロマニは自身の考えよりもマシな意見が出ることを期待してしまう。
「……ひとつ、前提に訂正をするよロマン」
だからここでセイジが口を開いたとき、一瞬だけロマニは希望を見た。
「藤丸ちゃんほどではないけど、一応僕にもマスター適性とレイシフト適性がある」
「なんだって!?」
「ヒューッ! 流石、私を差し置いてMr.All-Rounderなんて呼ばれてるだけあるじゃないか」
彼が明かした内容は初耳のもの。当然ロマニは驚愕するし、ダ・ヴィンチも少なからず驚きを見せていた。
「リスク分散の一環でね。これを知ってたのはマリスビリーとオルガマリーだけだ。レフにも話してないから知らないのも仕方ない」
このタイミングで明かしたのはもう隠す意味が薄いから。どころか、隠していた意味が本領発揮した場面といえるだろう。これにより、レフはセイジを仕留め損なったのだから。
「なら!」
「その上で、僕は
言葉は出なかった。
ならセイジが代わりに。そう言いかけて、やはりどちらも人任せ。子供に押しつけるか、友人に押しつけるか。二者択一の最低な選択だ。どちらがマシかという一点で傾きかけた選択を、セイジは否定する。
「勘違いしてほしくないから言うけど、ちゃんと後詰はする。藤丸ちゃんがケガをした、病気で動けない……考えたくもないけど死んでしまった、そうなったら僕の出番だ。それが保険部門の理念、そうじゃなきゃ僕がここにいる意味もない」
カルデアが死なないための安全装置。
起死回生の一手。
あのマリスビリーに『保険部門は彼のみで事足りる』と言わしめたロードの切り札。究極的にカルデアのすべてを補える唯一にして絶対の保険スタッフ。
そんな彼が最大限譲歩した意見に、言葉を投げる者がいる。
知恵ある者。同じく万能を冠する天才。
「はぁ、セイジ。それじゃあロマンの感情がついて来れない。話を飛ばしすぎだ」
レオナルド・ダ・ヴィンチ。呆れながらため息交じり、「仕方ないなぁまったく」と彼女は首を振る。
「ついて来れないって、どういう?」
「そのままの意味さロマン。どうせキミのことだ。このままだとチラついた可能性が内で燻るに決まってる。なら、全員が納得するまで話を詰めなくてどうする?」
問いを投げ、ダ・ヴィンチは手に持つ杖を床にコンと打ち鳴らし、提案をした。
「せっかくだ。議論の形をとろう。私たち三人が首脳陣なんだ。意見はぶつけ合ってこそ、だろう?」
「そっか、そうだね。いきなり言われても納得はしないか」
ダ・ヴィンチ、セイジ、共に話し合うことに否やはない。
「さぁロマニ、キミがさっき言いかけたことを言ってみるといい。誰も笑わないし、誰も責めない。ブレーンストーミングといこうじゃないか」
議題『カルデアの、ひいては人類の行く末を委ねる者について』
「……なら、お言葉に甘えさせてもらうけど、"レイシフト可能なマスター役"が必要なのは大前提だ。念のために訊くが、これは共通認識と思っていいかな?」
「あぁ、もちろんだとも」
「僕も同じ。むしろ、レイシフトなしでここからどうにかできるなら方法を教えてほしいくらいだ」
三者三様、けれど土台となる認識は同じもの。
「ならボクはセイジに人類を救うマスターになってもらいたい。一般人と変わらない立香ちゃんとボクらでは立場が違うからね。ボクは今日来た子供に、この事態の責任を押しつけたくはない」
ロマニ・アーキマンの主張
『ヒバナセイジをマスターとする』
「わー僕ならいいんだー」
「茶化すなよセイジ。腐ってもキミ、カルデアの古株だろ。ボク含め、他の職員たちで最大限のサポートもする。どうだ?」
棒読みの抗議に苦笑しながら、それでもロマニは自身の意見を言い切った。そこにダ・ヴィンチが手を挙げる。
「まぁ待ちたまえよロマン、結論を急ぎすぎるのは良くないぜ? 次は私の意見を聞いてみてくれ。もしかしたら考えが改まるかもだ」
これが議論であるならば、意見は複数あるべきだ。
ロマニとセイジはダ・ヴィンチの言葉に口を閉じ、大人しく傾聴の姿勢をとる。
「私からの意見は折衷案。ヒバナセイジと藤丸立香、この二人でレイシフトしてもらうというものだ。単純に考えたら戦力は二倍。どころか、藤丸立香の成長余地と我々の補助の仕方次第で三倍にも四倍にもなるだろう。仮想敵の規模をどこまで想定するかにもよるけど、互いが守りあえばリスクも少ないだろうしね」
レオナルド・ダ・ヴィンチの主張
『藤丸立香とヒバナセイジのダブルマスター体制』
ロマニには、彼女の提案がシンプルながら素晴らしい意見のように聞こえた。
「……ダ・ヴィンチちゃん。キミ、分かって言ってるだろ?」
「あぁ気づいてくれて嬉しいよ。そうだ。自分から言っておいてなんだが、現状これは愚策、とるべきではない手段だ」
そう、素晴らしい意見のように聞こえただけだ。
可能性を網羅し、ロマニにこの手は使えないと理解してもらうための迂遠な意見。ダ・ヴィンチなりの優しさだった。
「戦力が二倍三倍なんてありえない。総力は
ロマニの気づいた要点を彼女は丁寧に口にする。これは意見の擦り合わせだ。誤解で意見がすれ違うなんて起きないように、丁寧に語る。
「存在証明のリソースに問題はない。セイジと藤丸立香、マシュちゃん合わせてもたかが三人だ」
指を三つ立てて、レイシフトまでの道のりに支障がないことを確認する。
「マシュのラウンドシールドで英霊召喚術式は起動できる。龍脈なりで魔力の確保も可能だろう」
そう、現地での戦力確保までは容易なのだ。
カルデアの召喚式はラウンドシールドを呼び水に英霊を召喚する。既存の聖杯戦争とは違い、人理の危機でもある今であれば英霊たちは応えてくれる。
「でも現地の魔力にも限りはある。一人で複数騎と契約できるとしても、召喚できる総数が決まってるんだ。ならセイジと藤丸立香で分け合う以上、一人あたりの戦力はどうしたって少なくなる。極限までリスクを分散して、半分だ。それなら初めからレイシフトするマスターは一人の方がいい」
この結論にロマニも納得する。
サーヴァントとは言わば自律兵器であり、その担い手こそがマスターとなる。であれば、この状況下においてサーヴァント以上に頼れる力はなく、それを減らす道理はなかった。
「戦力は集中させるべき、だよね。マスターとなる人は要であると同時に今の僕らの致命的な弱点でもある」
「そーゆーこと。つまり、私が言いたかったのはマスターは一人であるべきだってことさ」
レオナルド・ダ・ヴィンチの主張、訂正
『レイシフトさせるマスターは一人とする』
ロマニに続き、ダ・ヴィンチの意見も出た。ならば残るは一人だけ。
「じゃあ次は僕だね。と言っても意見は変わってないよ」
ヒバナセイジの主張
『藤丸立香をマスターとする』
最初のロマニの意見であり、今のセイジの意見でもあるそれ。議論の体を成した要因であり、ロマニとは真っ向からぶつかっている主張。だからこそダ・ヴィンチはこの場の全員を納得させるため、そこを突っつく。
「結局はそこだ、セイジ。キミは自らを『カルデアの保険』とし、藤丸立香が動けない有事の際に動くためと言った。なるほど、それに
周囲へ語りかけるように、ロマニへ問うように、ダ・ヴィンチは言う。
きっと誰もが思っているはずだった。彼の日頃の行いがなければこの場で野次が飛んでいたかもしれない。
どうにかできる可能性があるのなら動いてくれ。
そのための保険部門ではないのか。
口にはしない。だってそれは不義理となる。今まで散々手を貸してもらった職員たちは、今さら鞭を打つことはできなかった。
だからこそ、ダ・ヴィンチが代弁する。不平不満はこの状況下において毒だ。早い内に処理しなければ組織としての崩壊は免れない。
「……僕から言えるのは」
だから、この場ではヒバナセイジの声が一番よく通った。誰もがその声に、意見に、彼がどう考えているのかを把握しようとしていたから。
「まだ、
きっと、この場に藤丸がいたならば疑問符を浮かべていたことだろう。マリスビリーって誰? ではなく、セルフギアス・スクロールって何? という意味でだ。
自己強制証明。
魔術師の間でまれに使われることのある絶対遵守の契約方法。これは契約者の魔術刻印を介した呪術契約であり、本人の意思に限らず破れば死後の魂をも束縛する効果がある。呪いが強力すぎるため、滅多に使われることはないらしいのだが、彼はそれを用いて契約をしたそうだ。
この場の誰もがそれの意味を理解しているからこそ、多かれ少なかれ頭を抱えた。
「……あんのクソ野郎め」
「レオナルド、気持ちは分かるが故人に言ったって仕方ないだろ」
「あぁもうロマニうるさい! そんなの分かってる! 分かってるけどさ!」
「話、続けて良い?」
「どーぞッ!!」
今は亡きマリスビリーに憤慨をみせるダ・ヴィンチは、セイジの声かけに投げやりで応える。
「だから僕の主張としては藤丸ちゃんに任せると言うより、今は任せるしかないってこと。保険部門としてはまだ動けないからさ」
ヒバナセイジの主張、訂正
『現状、藤丸立香をマスターとするしかない』
ここに意見は出揃った。
今回書いてて脳が爆発するかと思った。
状況整理とかもそうだけどダ・ヴィンチちゃんの思考トレースが地味に難しすぎんよー。作者都合でキャラの知能指数落としたくないし、クオリティ維持できてるこれ?