(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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廃病院エンカウンターズ②

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 一般人から探索者へとなる道はいくつかあるが、どの道を選ぶかで扱いも変わる。例えば拾い上げなどはかなり良い扱いをされるし、逆に一般募集から入ってきた者はそれなりだ。ちなみに犯罪者を使って過酷な労働を……というパターンはない。その犯罪者が力を得てしまったら目もあてられない為である。

 

 実際に中国では犯罪者の有効活用という名目で、遠隔爆破が可能な首輪をつけさせて、探索の際の肉の盾……あるいは素材回収の人力としようとした事があるが、犯罪者の生存への思いが強く作用してしまったのか首輪を爆破されても死なずに、逆に同行していた職員達を皆殺しにしてしまったという事件が起こった事もある。中国はこれを隠蔽しようとしたものの各国の諜報機関に察知されて情報を流されるに至った。

 

 ところでまほろの場合はこの拾い上げにあたる。

 生来の特殊なPSI能力は非常に応用が利く。

 

 感覚知覚の拡張により幻影を見破る、と言えば簡単だが、正確には " 通常の感覚を超えて微細な情報を感じ取り、それを分析する能力" である。

 

 そして幻影とは蜃気楼のような物理的な幻だけではなく、より広範で多様な概念を含む。例えば、錯覚、誤情報、自分自身の願望や恐れ、期待などが現実とは異なる認識を生み出す心理的な幻影、文化や社会の規範、価値観が、個人の認識や行動に影響を与える社会的な幻影などだ。

 

 例えばダンジョン素材は日々新素材があがってくるわけだが、新しい物質の性質を調べる研究も当然日夜行われている。研究には様々なリソースを費やす必要があるが、まほろの能力は物質の微細な構造や挙動を観察し、通常の計測装置では捉えられない情報を感じ取る事ができる。まほろ自身に知識がない場合、その情報は強い違和感という形で発現するだろう。これにより、研究の工程を大幅に縮める事ができる様になるかもしれない。

 

 とはいえ、希少ではあるが空前絶後の稀な能力というわけでもない。協会の事務員や調査部の職員にはこの手のPSI能力を持つ者は珍しくはない。だが、ありふれているというわけではなく、協会としては可能ならば囲っておきたいという腹積もりであった。

 

 探索者としての負の側面、分かりやすい所では死のリスクも協会はまほろに説明をした。協会の営業マンは嘘をつかないのだ。まあ相手が心底望んでいる事を看破し、そこに話題を集中させるという事はしているが。

 

 嘘はつかない、騙さない。しかし真実を束ねてそれで弱点箇所をぶん殴る。これはまほろの様な情報分析系のPSI能力者へのテンプレ的対応である。

 

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 丙級探索者、四段 丈一郎に後進育成の指名依頼が届いた時、丈一郎はそれを二つ返事で受け入れた。協会に恩義を感じていたからだ。丈一郎が男から女へと変貌を遂げる過程で、様々な不都合、不具合を体感した。それに対してフォローをしてきたのは協会である。協会の女性職員が丈一郎の元へ派遣され、女性としての暮らしのフォローアップなどをしてきたのだ。

 

 だが同時に、協会の人を人とも思わぬ冷酷さも知っているが。

 

 それがためというわけでもないし、後進育成の指名依頼を断った所でどうとでもいう事はないが、生来がチャレンジ精神旺盛に出来ている丈一郎はその依頼を面白そうだと考え、受けた。しかし……

 

 ◆

 

「し、師匠! う、撃てません! 銃なんて……私っ!」

 

「師匠!! 刃物なんて無理ですよう!」

 

「師匠!!! 格闘技なんて無理ですよぉッ!」

 

 日野まほろという少女は四段の想像以上に一般人マインドであった。どうやら探索とは、フィールドワークのような事をして素材を集めるというような事を想像していたらしい。

 

 そういうダンジョンもあるにはある。例えば奥多摩だとかそちらの地域では、広大な山間地のダンジョンで草だのキノコだの樹皮だのを集めるという依頼が多く出ている。

 

 だが東京都心のダンジョンは基本的に戦闘がメインだ。

 まほろには決定的に闘争心というものが欠けており、四段もそれにすぐ気付いた。

 

「まほろ、あんた戦うの向いてないわね。狩場を変えるわよ。八王子にしましょう。高尾山のダンジョンとかいいんじゃないかしら。まあ向き不向きはあるわよ。全然戦わない探索者っていうのもいないでもないし。甲級探索者にも似た様なのがいるらしいわよ。伐採とか採集が専門の探索者。広範囲の念動で一気に回収するんだって」

 

 八王子は高尾山のダンジョンは一応丁級指定だ。一応というのは、だだっ広いからである。一応蛇だのなんだのといったモンスターが出るには出るが、自然界のものと比べても対して変わりが無く、遭遇確率もそう高くはない。難易度で言えば戌級なのだが、高野グループからの口入りが入って丁級となった。高尾山といえば古くから修験道の霊山として名高い為だ。そういう場所が戌級は流石に面子が……というわけである。

 

 本来こうした場所がダンジョン化する場合は、非常に難易度が高いものになりがちなのだが、現代、高尾山はカジュアル登山のメッカとして広く知られている。高尾山ってどんな所? と聞かれれば、多くの一般人は初心者でも気軽に登山が出来る場所、と答えるだろう。修験道の霊山として高名である! などと答える者は少ない筈だ。そういった想念が妙な作用を起こしたか、高尾山はマイルドなダンジョンと変貌したという次第であった。

 

「ふぇぇ……それってどのくらい広いんですか?」

 

 まほろが甲級探索者の能力について尋ねる。

 

「本気を出せば関東全域だって話だけど……軽い物を浮かす程度の出力らしいけど、それでも範囲が馬鹿広いなら甲級だってのも納得ね。素材がどこにあるのかとか、そういうのはあんたの能力とかも相性が良いんじゃない?」

 

 丈一郎が理解のある師匠ちゃんであった……というよりは、まほろを無駄死にさせてはならないという協会のお達しに従っているだけの事だったのだが、そんな丈一郎にまほろは信頼を寄せていくようになった。丈一郎の良い感じに気が抜けて、だがいざという時は守ってくれる姿に頼もしさを覚えたのだ。

 

 探索に同行する際も、素材の探知はまほろに任せ、戦闘は丈一郎が行った。勿論戦闘全てを丈一郎がこなしたわけではなく、例えば簡易的なトラップを作らせたり、非生物系のモンスターなら安全マージンを取った上で戦わせたりもした。鞭で全身を縛り上げられ、身動きできないロボットを攻撃する事を戦うというのならば、という話ではあるが。

 

 ともあれ、二人は主戦場となるダンジョンを都心のダンジョンから高尾山や八王子市内の採集系ダンジョンへと移す事にした。距離的にも大したことはない。池袋から八王子まで、電車で45分やそこらで着くのだ。車でも首都高を乗り継いで中央自動車道とルート選べば30分そこそこで着く。

 

 丈一郎はマイカー持ちなので移動は車になる予定だった。

 そういった感じで、いつ頃実際に八王子のダンジョンに挑むか……という所で事件が起きたのだ。

 

 ◆

 

 誰が言い出したか、日野まほろをリーダーとした心霊現象探索チーム、オカルト・シャッターズは東京都は青梅市の旧吹上トンネル近くの廃屋に心霊ロケをしにいくという企画を打ち出した。まほろが言い出したわけではない、チームの企画会議で出た話であった。

 

 この廃屋にはいかにもな逸話がある。昭和30年頃までは居酒屋だったそうで、女将を含む4人の女性が働いており、立地的には恵まれてはいなかったものの、女性らの努力の甲斐あってか固定客もついてそれなりに繁盛していたそうだ。しかしある時、女将は従業員の1人に惨殺されてしまう。理由は色恋であった。固定客の1人とその女従業員は恋仲にあったのだが、その固定客が女将に岡惚れしてしまったのだ。それ以来、この付近では "白い影が見える" と噂されている。

 

 ちなみに立ち入り禁止区域である。一帯には黄色のテープで規制線が張られている。勿論、オカルト・シャッターズの悪たれ共には関係のない事ではあるが。

 

 オカルト・シャッターズとしては呻き声の一つも撮れれば良いとおもっていた。心霊スポットを取材しに行くときは心霊現象が起きるかどうか、その心霊スポットに本当に霊がでるかどうかが非常に大事な点になるのだが、そこはまほろのお墨付きがある。

 

 最初こそ撮影は順調に進んでいた。

 

 まほろは終始寒気を感じて、しかし実際に嘔吐したり、仲間達が急にいなくなったりというような実害はない。要するに。大した心霊スポットではないという事だ。

 

 当然である。まほろは事前にその現場を一人で確認したからだ。本当にヤバい所ならすぐに分かる……まほろはそう思っていた。

 

 ・

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 だが、オカルト・シャッターズの面々がロケを進めるにつれ、事態は一変していった。

 

 廃屋の中に入ると、最初は単なる不気味な雰囲気と寒気だけだったものが、次第に具体的な現象へとエスカレートしていった。

 

「なんか、ほら、あの窓の方から明かりが見えるような気がするんだけど……」

 

 チームの一人が指摘したその言葉に、全員が凍りついた。窓の方を見ると、確かにぼんやりと白い影が揺らめいていた。まほろも感じた寒気がその方向から強まっていることに気づいた。

 

「大丈夫、大丈夫。きっと外の車のライトだとか、月明かりが反射しているんだよ」

 

 まほろは強がりながらも、心の中では不安を抱えていた。

 まほろの見立てでは、ここまではっきりと心霊現象が起きる事はないと思っていたからだ。

 

 ロケが進むにつれ、現象はさらに激しくなっていった。廃屋の奥からはかすかに女性の笑い声が聞こえたり、廊下の奥には一瞬だけ、白い着物を着た女性の姿が現れたりした。

 

 最も衝撃的だったのは、まほろ自身が感じた抱擁だった。彼女が廊下を歩いていると、突然背後から誰かに抱きしめられたような感覚に襲われた。

 

「ちょっと、誰かが抱きついてきたんだけど!」

 

 彼女が振り向くと、そこには誰もいなかった。しかしその感触は非常にリアルで、まほろの心に深い恐怖を植えつけた。

 

「ごめん、ちょっと危ないかも。下見した時は大した事なさそうだったんだけど。引き返したほうがいいかも」

 

 まほろが青い顔でいうと、面々も同じく表情を蒼褪めながら頷く。

 

 ◆

 

 この心霊現象激化にはきちんとした理由がある。

 霊が人に干渉をするには順序があるということだ。

 

 例えば悪霊の類が人を殺傷する場合、なぜ一息に殺ってしまわないのか、なぜ一々ビビらせてビビらせて、真綿で首を絞めるようにして殺るのか。それはそうしなければいけないだけの理由がある。つまり、順序である。

 

 自身を認識させる、一定以上の恐怖を与える、特定の場所へ立ち入らせる……これらは分かりやすい条件だが、そういった条件を満たして初めて霊は人に干渉ができる。

 

 オカルト・シャッターズは立ち入りを禁止されていた廃屋へ勝手に入り、盛大にビビりちらし、その廃屋には幽霊が出ると認識していた。

 

 廃屋の幽霊は急速にその存在感を高めていく。

 同時に、オカルト・シャッターズの面々の認識が侵されていった。協会風に言えば認識阻害のPSI能力といった所だろうか、出口が分からなくなってしまったのだ。

 

 メンバーの一人はただの壁を出口へ繋がる扉だと誤認し、ありもしないドアノブを掴もうとしている。ある者は壊れた棚を救助の人間だと思って救いを求めている。

 

 この廃屋では "それ" の最終条件として、出口が分からず絶望する、というものがある。これを満たせば幽霊はその者の腹を包丁で貫くだろう。ちなみにこれだけの条件を満たさせなければならないという時点で、廃屋の霊の危険度は小であると言える。

 

 なぜならば、霊の危険度は条件の緩さと比例する為だ。例えば埼玉県所沢市のとある呪いの家などは、ただ踏み入っただけで条件を満たして殺しにかかってくる。更に、被害者と関係があるだけでも条件を満たしたという判定がされるのだ。

 

 この悪霊、怨霊、死霊を超えたまさに呪霊ともいうべき存在に対して、高野グループは阿闍梨級の高位密教坊主を6名派遣し、坊主たちは重傷こそ負ったがかの呪霊を調伏なさしめた。快挙ではある。呪霊の危険度は非常に高く、協会探索者でも丙級以下は善戦はできても敗北を喫する事になるだろう。

 

 欧米の様に肉弾戦を挑んでくるタイプの悪霊ならば丙級でも良い勝負になるかもしれないが、日本の霊の多くは念動を多用してくる。念動は肉体強度と気合で耐えられるが、基本が脳筋に出来ている探索者にとって念動は余り相性が良いとは言えない。

 

 ちなみに密教坊主達は極めて強力な精神感応能力により、呪霊に自壊を強制した。阿闍梨級高位密教坊主の精神感応能力は凄まじく、一般人でも霊でも瞬間的に強度の鬱に追い込み、一般人なら自殺、霊体ならば自壊させる程の精神感応能力を有する。

 

 これはかなり過激(ラディカル)な除霊法である。普通はもっとソフトランディング……成仏させようとする。だが、件の呪霊は余りに凶悪すぎて滅ぼす以外の方法を取り得なかったのだ。

 

 ともあれ、ここでまほろのPSI能力が活きた。

 

「みんな! こっち! 出口はこっちだよ!」

 

 まほろは自身のPSI能力によって、彼女は周囲の錯覚や誤情報を看破し、正確に出口の位置を把握することができたのだ。彼女の能力は通常の視覚や聴覚では捉えられない微細な情報を感じ取り分析するものであるため、この特殊な状況下でも正気を保つことができた。

 

 この能力によって彼女は他のメンバーとは異なり、幽霊が誘発した認識阻害の影響を受けずに出口の位置を正確に認識することができた。その結果、彼女はチームを危機から救い、事態の更なる悪化を防ぐことができた。

 

 まほろはその事を師である丈一郎に相談すると、丈一郎は言った。

 

「あら、無事でよかったけれど駄目じゃないの。まだヒヨコなのにそんな所行っちゃ。まあでも探索者として経験を積んでいく内に、その位の幽霊なら引っぱたいて追い払える様になるわよ。これからは少し気合を入れて探索しなさいな。仲間と配信を続けるんでしょう? 危ない所にいくこともあるかもしれないし、実力をつけることは仲間を守る事にも繋がるわよ」

 

 まほろはその言葉を重く受け止め、以来、探索への熱量を高めたものだった。ただし、心霊配信は続けていた。仲間達があれほどの目に遭いながらも廃屋内でのことを覚えていなかったため番組をたたむ気がなかったという理由がある。

 

 だがまほろはロケ地をかなり真剣に選ぶ様になった。

 妖しく、おどろおどろしく、それでいてガチの心霊現場ではない場所を。心霊スポットであったとしても凄惨な逸話が存在しないライトな場所を。

 

 幸いにもその手の情報は協会のデータベースで確認ができた。

 探索者協会と高野グループは協力関係にあり、一部の情報を共有しているのだ。まほろはその手の確認を廃屋ロケの前にもしておくべきだったが、下見によって "大した事はなさそう" と判断してしまった事で心が緩んでいた。しかし廃屋の一件でまほろは慎重になり、ロケ地選定の際には必ず協会のデータベースを確認するようになった。

 

 結局の所、それが仇となったのは皮肉ではある。

 

 余りにもヤバすぎる心霊スポット、しかし立地の関係で放置してもさして問題がないと思われる個所。更にダンジョンでもない。こういった条件が揃い、高野グループとしても要監視対象として除霊保留にしていた山梨廃病院は、あろうことか高野グループからの心霊地点情報にあげられていなかったのだ。

 

 一応の理由はある。

 

 情報があげられれば協会も一応調査をしなければならない。

 ならないが、それはグループが協会に借りを作る事になり、そういったものが積み重なれば組織間のパワーバランスが協会側へ傾くだろう。グループの総帥たる大僧正はそれを良しとしない。くだらないプライドだと笑う事もできるが、密教坊主達の力の根源が精神に根ざすものである事を考えると、一概に馬鹿にはできなかった。

 

 軽々と他団体へ頼るという弱腰はあるいは彼等の力を酷く弱める可能性がある為だ。

 

 ともかくも様々な思惑が絡み合い、まほろ達オカルト・シャッターズは激ヤバ心霊スポットへロケをしに行くことになってしまったのだった。おっかない逸話はあるものの、協会のデータベースではそこは心霊スポットではないとされている場所へ。

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