(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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廃病院エンカウンターズ③

【画面が暗転し、オカルトシャッターズのロゴが映し出される。次いで、不気味な廃精神病院の外観が映し出される】

 

水川 冬馬: 皆さん、こんばんは。オカルトシャッターズの水川冬馬です。今夜、私たちは関東屈指の心霊スポット、郡戸木(ぐんこぎ)精神病院跡へと足を踏み入れます。この場所にはかつての惨劇が今もなお暗がりで息づいていると言われていますが、我々オカルトシャッターズは今夜、この闇に光を照らそうと考えています。ナレーターはこの私、水川 冬馬。カメラマンは火村 シュウ。賑やかし要員の月原 恋、技術関係を担ってくれる木崎 剛。そして、霊能者……日野まほろです

 

【カメラが火村を除くメンバーの一枚絵を移し、廃病院の入り口へと移動。扉がゆっくり開かれる】

 

日野 まほろ: 一歩踏み入れただけでわかります。背筋を氷柱で貫かれた様な感覚を覚えました……この場所には……何かがいますっ……

 

月原 恋: 私はゼロ勘だけど、ここが何か不気味だっていうのはわかるわっ! ところで賑やかし要員ってどういうこと?

 

火村 シュウ: 大丈夫だ、恋! 何かあったら俺が守ってやる!

 

【ここでまほろがシュウに「私は守ってくれないんですか」と尋ね、シュウは苦笑の声をあげる】

 

水川 冬馬: では皆さん、この廃病院の中へと進みましょう。今回、我々はより強い覚悟、硬い決意を固める為にも、逃げ場をなくすことにしました。この一階ロビーをキャンプ地として一晩過ごします。キャンプの番をしてくれるのは我々のチームの縁の下の力持ち、木崎です。ちなみに、キャンプの準備は日中の内に既に整えておきました

 

水川 冬馬: まず流れとして様々な悍ましい逸話のある各所を紹介していこうとおもいます

 

【カメラが廃病院の内部へと進む。廃墟と化した廊下、壊れた窓から漏れる風の音が聞こえる。一行はとある病室へ入室する】

 

水川 冬馬: この部屋では症状が特別重い……それも暴れる患者を拘束していたといいます。ただの拘束ではありません。二十四時間、その二十四時間が過ぎればさらに二十四時間……つまり、延々と拘束し続けていたといいます。見えますか? このさび付いた鉄製のベッドを。やけに色が濃く見えます……これは血液だという話ですが……まほろ、何か感じる?

 

【まほろが両腕を広げて、目を瞑り集中する仕草を取る】

 

日野 まほろ: ここで、何かが私たちを見ているような感じがします。悲しみと怒りが混ざり合った感情が……

 

月原 恋: うわぁ、こわいこわい!

 

火村 シュウ: 気のせいか? なんだか寒くなってきたような……

 

日野 まほろ: 怒りの念が高まっています。ここから離れたほうがいいでしょう

 

【カメラの画面がぶれ、一行は早足で部屋を立ち去る】

 

水川 冬馬: 先程は危なかったかもしれません。まほろがいなければ我々は悪意に満ちた霊に攻撃されていたかもしれませんね

 

【突然何かが倒れる音】

 

月原 恋: 何、何の音!?

 

火村 シュウ: 何かが動いたぞ! みんな、気をつけろ!

 

水川 冬馬: 皆! 落ち着くんだ!

 

【画面が再び暗転し、オカルトシャッターズのロゴが映し出される】

 

 ◆

 

「……どうだった?」

 

 水川 冬馬が尋ねる。月原 恋がにんまりと笑みを浮かべた。火村の口にも笑みが浮かんでいる。

 

 つまる所ヤラセである。恐怖は演技で、心霊現象は木崎の仕業によるものだった。しかし視聴者にはその真実は隠され、彼らの演技によってリアルな心霊体験が届けられるのだ。

 

「あの音のタイミング、凄く良かったわよ。本当にびっくりしちゃった! ……ね、まほろ? ここは本当に心霊スポットじゃないんだよね?」

 

 恋が恐る恐るまほろに尋ねると、まほろは頷いて答える。

 

「うん、探索者協会は危ない心霊スポットのデータも調べられるんだけど、ここは違ったみたい。規制線が張られてたけど、建物の老朽化が原因らしいよ……私も……そう思う。今の所は。で、でも心霊スポットの危険性は私なんかよりもっと本格的な霊能者さんが調べてるそうだから……そういう人たちが違うって判断したんだから……」

 

 まほろは本当に霊を看破できる。霊体看破のPSI能力ではないのだが、能力の一環としてそういう事ができる。例えるならば、たちばさみを調理ばさみの代わりにして食材を切るようなものだが。それをメンバーたちも知っているので、余裕ヅラをしていられるのだ。

 

 だがそれもまほろが「でも」と続けるまでだった。

 

「私、ここ好きじゃないかも。なんか、騙されているっていうか……求人誌とかでさ、凄い良い条件が並んでいる募集とかあるでしょ? ああいう感じ。胡散臭い……っていうか……上っ面は良くても中身は……みたいな」

 

 その言葉を聞いて冬馬は口元を押さえて思案する。リーダーはまほろだが、実質的なリーダーは冬馬だ。まほろのリーダー適性は十段階中三といった所である為。

 

 シュウも恋も固唾を飲んで冬馬を見つめた。

 

「……あと一か所、院長室だけ撮って、それ以上の探索は取りやめにしよう。流石に一か所だけだと動画にならないからね。二か所なら、まあ大丈夫だろう」

 

 ──大丈夫、なのかな? 本当に?

 

 まほろはロビーから廊下へ続く暗がりを見つめた。その時、ふと協会で受けた講習の事を思い出す。

 

『PSI能力の精度と強度は、自身の能力への信頼と自信に依存する。能力への信頼はPSI能力の効果的な使用を可能にする。逆に疑念や不信は能力の働きを阻害する。これはPSI能力の種別に関係なく適用される不動のルールであり、精神論の極致だと言っても良い。ただしその自信と過信は似て非なるもので、前者は強固で後者は脆弱だ。自信とは一つの塊ではなく、バラバラのピースだと思いなさい。それらを接着する接合剤が自分なりの論理、理屈であったり、これまで自身の身で経験してきた事だったりする』

 

 不意にそんな講師の言葉がまほろの脳裏を過ぎった。

 

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