(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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本分下部、二枚目の画像についてはグロよりです。そういうの嫌いな人は開かない方がいいと思います


廃病院エンカウンターズ④

 ◆

 

【廃病院内、手術室】

 

(まほろがたじろいだ様子を見せる)

 

 日野 まほろ: この部屋から凄い怨念を感じる……見えない針で突き刺されているような……

 

 水川 冬馬:まほろが何かを感じたようです。ここは手術室。自殺した院長はこの手術室で……

 

(ドアがバタンと閉まる音)

 

 月原 恋:え、何!? 

 

 火村 シュウ:まほろ、お前何か感じる? 

 

(まほろが冬馬を見る。冬馬は頷く)

 

 日野 まほろ: 何かが……私たちの間を通り過ぎていったみたい。悲しみに囚われた暗い想念を感じたよ……

 

 水川 冬馬:やはりこの廃病院には何かが潜んでいるようです。ここに留まるのは危険かもしれません。場所を変え、作戦会議をしたいと思います

 

(暗転。オカルト・シャッターズのロゴ)

 

 ・

 ・

 ・

 

「……ねえ、ここは何もない筈よね?」

 

 恋が呟き、シュウが頷いた。仕込み、やらせはないのかという意味の質問である事は明らかだった。

 

 冬馬もまほろも表情が硬い。

 冬馬は端末を取り出し、木崎 剛へ連絡を取ろうとする。

 剛は一階ロビーにいる筈だからだ。

 

 しかし、端末はノイズを返すだけだ。

 

「くそ、電波が悪いのかな」

 

 冬馬が舌打ちした。

 彼は普段汚い言葉は滅多に使わないが、この時の冬馬は得体の知れない焦燥感に心を蝕まれつつあった。

 

 ズボンの裾から巨大なムカデが入り込んでくる……それも何匹も、何匹も。冬馬は今の状況にそんなイメージを抱いていた。

 

「とにかく! なんだか様子がおかしいわよ、ここ、実は相当不味い心霊スポットなんじゃないの!?」

 

 恋がヒステリックに叫ぶ。廊下に響く残響。

 

 まほろもおかしいとは思っていた。これでは本当に心霊スポットの様ではないか。

 

 ──でも、協会のデータベースでは……

 

 その時、あれ、とシュウがいう。

 

「どうしたの?」

 

 恋が聞くと、シュウは小首を傾げながら言った。

 

「いや、なんだか……歌? が聞こえるような」

 

 シュウの言葉に恋は表情を歪めて、こんな時にタチの悪い冗談を言うなと怒鳴りつけようとした。しかしその恋も動きを止める。恋の耳にも何かが聞こえてきたからだ。

 

 まほろ達が廊下の先の闇を凝視していると……

 

「泣き……声?」

 

 まほろが思わずといった様子で呟いた。

 少女のものと思しき泣き声が聞こえてくるのだ。

 

 まほろ達は顔を見合わせ、ごくりと固唾をのみ込む。

 まほろは腰に差した護身用の拳銃に手を伸ばし、引き抜いた。

 

「つ、使うのか」

 

 シュウが怯えた様子でいう。一般人からすれば銃は恐ろしい凶器だ。しかしシュウもそれが自分に向けられることはない事くらいは分かっている。シュウは、銃を使う相手が存在するとまほろが判断した事実に怯えているのだ。

 

「不審者……かもしれないし。もしかしたら、ほら、私たちが知らない間にダンジョンになっちゃったのかも……って」

 

 まほろが不穏な事を言う。だが誰も否定はできなかった。

 ダンジョン化現象に巻き込まれた事のある者など、その場には誰もいないからだ。

 

「も、もしそうだったら……モンスターが……?」

 

 恋が不安そうに言う。

 まほろはそれに答えず、グリップを握りしめた。

 

 ◆

 

『私さぁ、ホラーって嫌いじゃないのよね。なんていうか、インスピレーションっていうのがビビビってきてね。モンスター連中ってホラー映画に出てくる怪物みたいなのが多いしね、まあ予習の一環ってやつ? でもホラー映画の登場人物だけは好きにはなれないわ。だって馬鹿みたいじゃない? そりゃあ話を進める為なんだろうけど、わざと死にに行ってるっていうか……なんで異常や怪異が起きて、それをわざわざ調べに行くの? 逃げればいいじゃないの。これは私の推測だけど、そういう心霊領域には一種の知能低下作用があると見たわ』

 

 まほろの脳裏に浮かんだのは師である四段 丈一郎の言葉だった。

 

 ──私たち、お馬鹿になってるのかな? 

 

 まほろはそう思うが、もはや異音……声の正体を確認せずにはいられなかった。例え危険があろうともだ。これはまほろだけではなく、他のメンバーもそうであった。

 

『でも仕方ないのかもね。恐怖っていうのは未知から来るものだから。未知を既知にして、恐怖を克服しようっていうのはある意味で理に適っているのかもしれないわ。アホだと思うけど』

 

 ──こんな時間に女の子の声。この廃病院の場所も考えると、とてもまともな相手とは言えない、かも……わからないけど……。もしかしたら私たちみたいに配信目的で来てる……いや、そんな偶然あるわけがないよね。モンスターか……お化けか。どうしよう、戦いになるのかな? し、師匠! 私、どうしたら……

 

 一行が声の元へ向かう中、まほろは怖気づき倒していた。

 そういう時こそ真実看破の瞳が役に立つのだが、この時のまほろには思いもよらない。恐怖はあらゆる能力を低下させるのだ。

 

 しかしこの状況では後ろでビビっているわけにもいかない。この場の最大戦力は間違いなくまほろであり、ここが心霊スポットじゃないと太鼓判を押したのもまほろであるからだ。彼女には仲間達を護る義務があった。

 

 まほろは勇気を振り絞り一行の戦闘に立ち、歩を進める。

 やがてとある病室の前に辿り着いた。

 

「声は……このドアの向こうから聞こえてくるね」

 

 まほろが誰ともなく呟く。

 ドアの向こうからはすすり泣きの様な声が漏れ出ていた。

 聞いているだけで軽度の鬱になりそうな、悲痛な声だ。

 ドアを閉めているのにこうまではっきりと声が聞こえる事の不自然さは今のまほろには気付けない事だった。

 

 まほろはSAKURA M480Kを構え、ドアを蹴り開ける。

 

 ◆

 

 室内は当然ながら暗かった。シュウがライトをあてて室内を照らす。

 

「き、君は……」

 

 冬馬が震えた声で言った。

 君、というのが誰の事をさすのかは明らかであった。

 薄汚れたベッドの傍に一人の少女が佇んでいる。

 患者衣を纏った少女で、丁度一行に背を向けた形だ。

 

 声はその少女から出ていた。

 悲痛な声が、やんだ。

 

 ・

 ・

 ・

 

 かなしいな

 さみしいな

 おかあさんがかえってこないの

 すぐにむかえにいくよっていってたのに

 あなたたちは、だあれ

 

【挿絵表示】

 

 少女が背を向けたまま言った。

 一行は黙して答えない。

 

 

『霊の問いかけに応じてはならない』

 

 一行の頭に心霊スポットでの基本事項が想起された為である。

 霊の呼びかけに答えれば霊の干渉を招き、命を奪われる……まほろが事前に皆に注意したことだ。

 

 協会が教える対心霊領域(アンチゴースト・)戦術思想(タクティクス)の観点からすれば、この "呼びかけに応える" という行為は愚の骨頂であった。

 

 ちなみに対心霊領域(アンチゴースト・)戦術思想(タクティクス)とは、以下の対霊戦術の総称であり、戌級探索者はこの講義の受講が義務付けられている。

 

 ①認識管理戦術

 霊は人々の認識に侵入し、彼らの感覚を操作する能力がある。このため探索者は認識や感覚の管理と監視を重視する必要がある。心霊現象が発生した際の感覚の変化を素早くキャッチし、その操作から自由になる方法を模索すべし

 

 ②条件解除阻止戦術

 霊が人に干渉するためには、特定の条件を満たす必要がある。その条件を解除しないように行動しなければならない。たとえば特定の場所への立ち入りを避ける、恐怖を感じないように心を鍛える、などの対策が考えられる

 

 ③環境調査・分析戦術

 霊の力は特定の場所や状況に依存する可能性があるため、事前に環境の調査と分析を行う戦術が有効。廃屋のような危険とされる場所の歴史や特性を理解し、霊の性質や能力、攻撃のパターンを予測することで、適切な対策を立てることができる

 

 ④チームワーク強化戦術

 霊が個人の感覚を操作する能力があるため、単独行動は非常に危険。チームメンバーとの密な連携とコミュニケーションを強化し、お互いの状態を常に確認しながら行動することで、霊の攻撃から逃れる確率を高めることができる

 

 ⑤事後対応戦術

 もし霊による攻撃を受けた場合、迅速に状況をコントロールし、被害を最小限に抑える必要がある。霊による攻撃の兆候を早期に発見し、必要な場合は撤退などの判断を素早く行う能力を養うことが求められる

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 あなたたちは、だあれ

 あなたたちは、だあれ

 あなたたちは、だあれ

 あなたたちは、だあれ

 あなたたちは、だあれ

 あなたたちは、だあれ

 

 少女の声が幾重にも木霊する。

 まほろ以外のメンバーの精神力はもはや限界であった。

 鼻をつく臭い。

 月原 恋が失禁したのだ。

 しかしそれを気遣う声も揶揄する声もなにもない。

 

 その場の声はただ少女の声、ただ一つ。

 

 まほろが銃を構える。

 SAKURA M480K……探索者用のものではない、一般人向けの銃だ。一応前時代に於ける警察組織の制式拳銃、SAKURA M360Jの後継であるため性能は悪くはない。

 

 指に力が込められる。

 だが引き金が引かれる前に、少女が振り向いた。

 

 ひっ……と誰かが悲鳴をあげ、それが絶叫へと変わる。

 声の主は恋か、それとも冬馬か、シュウか。

 この場にいない剛は運が良かった。

 

【挿絵表示】

 

 少女、いや、少女の皮を被ったなにかの眼窩には赤い繊維のようなものが詰まっていた。それらはゆっくりと動き、生き物のように蠢いていた。

 

 更に不気味なのが口だった。

 細かい歯が何重にも連なり、口内の……上顎部分と下顎部分にもみっしりと生えているのだ。

 

 怪物である。かろうじて人の姿を留めているからこそ不気味で、恐ろしい。

 

「逃げて!」

 

 まほろの絶叫と共に、銃声が数度鳴り響いた。

 

 

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