(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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日常50(飯島比呂、四宮真衣、鶴見翔子)

 ■

 

 歳三が去ってから暫く、飯島比呂とティアラ&ハマオも連絡先を交換して解散した。

 

 二次会はどうかと言う様な話も出ないでもなかったが、歳三という共通の知り合いがいなくなると、何となく "もうこの辺で解散しようか" というような空気になったのだ。

 

 別に歳三が去った事で雰囲気が悪くなったからではない。

 ティアラとハマオは新進気鋭の探索者である所の飯島比呂が結構気に入ったし、比呂としても気さくなティアラやハマオが嫌いではない。

 

 ただまぁ流れというものもあるのだ。

 ティアラやハマオ、比呂のような陽キャはその流れを容易く見定める事が出来る。

 

 帰路。

 

 比呂は険しい表情で道を歩いていた。

 機嫌が悪いわけではなく、酷い違和感のせいだった。

 

 下半身には本来あるべきモノが無い。

 上半身には本来あるべきで無いモノがある。

 

 ──気持ちが悪い

 

 それが偽らざる思いだ。

 比呂は歩きながら自身の手を見た。

 

 指は細く、長く。

 そして手の甲は白い。

 紛れもなく女の手である。

 

 ──こんな手じゃ、ちょっと力を入れて殴りつけただけで折れてしまいそうだ。いや、いっそ折って骨を分厚くしてやろうか

 

 そんな事を思う。

 

 だがこれは比呂の思い違いだ。

 その白魚の如き繊手が、かつての彼の手よりも殺傷力に劣るという事はない。むしろ上回ってすらいる。

 

 ダンジョンの干渉力が比呂に強く干渉した結果である。

 

 比呂は強くなりたいと望み、ダンジョンに何度も潜った。だから強くなった。

 

 歳三に接する事で、心の奥に自身の雄性への疑問が生じた。

 だから雌になった。

 

 ダンジョンの干渉力というのは複雑で、ただ強く思えば叶うというものではない。自動販売機で望む飲料を得るには、一般的には硬貨を投入しなければならない。ただボタンを押すだけでは飲料は出てこない。ダンジョンの干渉力もそれに似ている。ただ望むだけでは叶えてくれはしない。

 

 硬貨が、代価が必要なのだ。

 そしてダンジョンに於ける代価とは何か。

 それは汗であり、涙であり、血であり、命である。

 

 それがどれだけ重い代価かを知らずに(アマ)な気持ちで探索者となり、ダンジョンに向かって二度と帰ってこなかった者は数知れない。

 

 ・

 ・

 ・

 

「あれ?」

 

 比呂の口から疑問がこぼれる。

 彼女は両親が遺した世田谷の一軒家に一人暮らしをしているのだが、玄関の鍵が開いているのだ。

 

「閉めた筈なんだけどな」

 

 比呂は少し考え、やがてああと納得した。

 

 ──真衣と翔子か。由衣さんかもしれない

 

 由衣とは四宮由衣の事で、四宮真衣の姉である。

 丁級探索者で、探索者としては才能があるとは言えない。

 しかし真衣は由衣を慕っており、それは比呂や翔子も同様だ。

 

 それは兎も角として、玄関の鍵が開いていても比呂が警戒しなかった理由は、幼馴染達が比呂の家の合鍵を所有しているからであった。これは逆も然りで、比呂もまた彼女らの家の合鍵を持っている。

 

 傍から見ればそれは距離感が近すぎる関係に見えるかもしれないが、この距離感の近さは三人とも両親をダンジョンで喪ったという共通体験が大きく影響していた。

 

 ■

 

「えぇ~ッ!!??? ひ、比呂!! あ、アンタ……」

 

「わァッ……」

 

 飯島比呂が幼馴染二人に事情を話した時、当然の事ながら二人は吃驚した。幼馴染で親友で、時には恋したこともある男の子が、女の子になってしまったのだから当然と言えば当然なのだが。

 

「な、なんで……性転換!? あ、なるほど……ダンジョンの……え、でもまってよ。ダンジョンの干渉で性別が変わっちゃうっていう事は、も、もしかして……ずっと前から女に……」

 

 四宮真衣が慄きながら言う。

 その後を鶴見翔子が引き取った。

 

「なりたかったって……コトですか!?」

 

「そ、そんな事ない! 俺は……男のままでいたかった……」

 

 比呂が赤面し、俯きながら呟く。

 

 真衣も翔子もそれが戯言だと分かっている。

 二人とも複雑な気持ちであった。まさか信頼する親友がそんな願いを抱いていたなんて。

 

 だが、その位で三人の関係が壊れる事はない。それは比呂も分かっていた。だから打ち明けたのだ。勿論真衣と翔子もその辺は比呂と同じで、比呂の性転換が三人の関係性をどうこうするとは欠片も思っていない。

 

 しかしそれはそれとして、相談しなければいけない事、やらなければいけない事はある。

 

 二人はヒソヒソと話し合い、やがて頷き合った。

 そして何かを企んでいると思しき二人は、黙って比呂に近づいて行く。

 

「な、なんだよ」

 

 二人の無言の圧力を受けて比呂がおもわず後退ろうとするが……

 

「う、動けないッ!? しょ、翔子か!」

 

 視線の先には翔子が両掌を広げて仁王立ちに構えていた。

 翔子の念動が比呂の四肢を縛り上げていた。

 

「う、ぐ……う、うううう~ッ……!!」

 

 困惑の渦中にあった比呂は唸り声をあげ、力任せに翔子の念動による金縛りを破ろうとするが、単純な筋力で念動力を破る事は出来ない。筋力プラスアルファが必要だ。強い意思と、その意思に明確な指向性を与えてそれを筋力に乗せる必要がある。

 

 つまり、目的意識を明確にしなければならないという事だ。念動をただ破りたいだけではなく、破ってどうしたいのかと強くイメージしながら束縛を引き千切らねばならない。

 

 RPGゲームなどで、ゴースト属性の敵には通常の物理攻撃は効かず、どうしても物理攻撃をしたいならば何らかの属性を付与しなければならないというようなアレに少し似た理屈である。

 

 比呂とて丙級のやり手である以上、その辺の理屈はよくわかっていたが、敵対者以外の念動というのは意思に指向性を与えにくい。敵ではない相手に敵意や悪意、害意や殺意といった方向へ意思を向けるわけにはいかないからだ。

 

「いい比呂、聞いて。比呂はもう男の子じゃなくなったわ。女の子なの。だからアレをします」

 

 真衣が厳かな様子で言う。

 

「アレ……?」

 

 比呂の声は震えている。

 アレとはなんだ。わざわざ動けなくしてまで……まさか。

 

 ──やばい! レイプか! 

 

 女を動けなくしてやる事など一つしかない。比呂の顔色が青くなり……すぐに戻る。

 

 ──そんなわけないな

 

 勿論そんな事はない。

 真衣や翔子にせよ、比呂に酷い事をしようなどとは思っていない。

 

「うん、アレ。採寸。計ったらMAMAZONで購入するからね。比呂はMAMAZONのプライム会員だったよね? だったらプライム便が使えるし、明日の午前中に届く筈。下着は大事だよ。明日以降の下着とか困るでしょ? 上はノーブラで、下は男性用のものなんて絶対だめだよ。それはなんだか……不埒な感じがする。無理やりなのはごめんなさいだけど、比呂は体のサイズ計らせてっていわれても絶対嫌がるでしょ? 自分でお店にいって……っていうのも絶対しなさそうだし。サイズが違う下着を着たりすると、色々と弊害があるの。衛生面とか、あとはおっぱいの形が悪くなったりする。他にもいろいろあるよ。でもその辺の事を説明してると、比呂は頭が良いから色々理由をつけて私たちを言い含めそうだなって思ってさ。エイヤッてさっさと終わらせちゃえって思ったんだ」

 

 翔子が言う。

 混乱した比呂は翔子の言葉に反論する言葉を持てなかった。

 

 ──エイヤじゃないよ、エイヤじゃ……

 

 比呂は項垂れ、もうどうにでもなれと脱力をした。

 

 ・

 ・

 ・

 

 そう、飯島比呂は採寸をしなければならないのだ。

 現在の比呂はボクサーブリーフで、勿論上はノーブラだ。女性がそのような下着でいるというのは非人道的とまでは言わないが、翔子の言う様な弊害に見舞われる危険性もある。

 

 今後比呂は女性として生きていかなければいけない以上、その辺にも気を遣っていかなければならないのであった。

 




明日の分の更新です。明日は今日、今日は明日…
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