(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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魔胎⑦~摩風~

 ◆

 

 頭部を吹き飛ばされた桃色蜥蜴・モンスターこと弾間 竜の体はゆっくりと傾ぎ、そして倒れた。

 

 蒲田のダンジョンでアルジャーノンと戦った頃の歳三なら、あるいはもう少し苦戦したかもしれないが現在の歳三ならこの様なものだ。

 

 ちなみにだが、モンスターとなった弾間 竜よりアルジャーノンの方がもう三枚は強い。

 

 完全に動かなくなった弾間 竜の死骸に一瞥をくれた歳三は、腰のナイフケースから剥ぎ取り用のナイフを取り出した。

 

 それを見ていた凶津 蛮は眉を上げる。

 

 ──どうやら俺が思っていたよりずっと奴は冷徹らしい。かつての仲間でもお構いなしか。敵としては十分。まあ、ダチにはなれねぇがな…

 

「おい、いいのか?ソイツはお前さん所の探索者だぜ。弾間 竜とか言ったかな。ダンジョン化の時にモンスターになっちまったが、少し前は人間だった事は確かだ。お前さん、それでも素材を剥ぎ取っちまうのか?」

 

  蛮が情に熱いというかその辺の作法にうるさい男である…と言う事は勿論なく、単にちょっとした意趣返しのつもりに過ぎなかった。要するに嫌がらせだ。対して効くとも思っていない。

 

 ──どうせさっきみてぇな無表情で、刃を突き立てるに決まってらぁな

 

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 歳三の動きが止まる。

 

 効いてしまったのだ。

 

 例えモンスターと化してしまったとしても、だ。元同僚を殺害するまでは良いとして、素材を剥ぎ取るというのはどうなのか?

 

 是か、非か

 

 難しい判断だ、と歳三は思う。

 

「おかしいと思うか?」

 

 歳三は振り返り、蛮に尋ねた。

 

 分からない事は聞く、自分で勝手に判断しない…社会人の基本である。

 

 歳三は友にして上役、金城権太よりこれを習った。

 

 蛮は挑発的な笑みを浮かべて、ああ、と答える。

 

 しかし歳三には何がどうおかしいかよくわからなかった。

 

 以前人間だろうとモンスターはモンスターじゃねえか、という至極当然の思いを抱く。

 

「元は仲間じゃねえのか?弔ってやるなりするのが人情ってモンだろう」

 

 蛮はニヤニヤと笑うが、いまだドウム内の各所で蠢動する蟲群を見て笑いを引っ込めた。

 

「まあいいさ、お前がそういう野郎だっていうのは分かった。ところでこれからどうするんだ?あの黒いのは見ただろう。あれは面倒くさそうだ。放って逃げるか、それとも…殺るか?」

 

 蛮の問いに歳三が "殺らないが…" と答えようとすると、蛮は掌を向けて "待て" をかけた。

 

「こんな話がある。ダンジョンには "特別な大物" がいるケースがある。そいつを殺ると、力の一部が得られるそうだ。例えばソイツの持っていた得物だとか、能力の一部だとか、がな。これは眉唾じゃあねえ。なんたって協会の情報だ」

 

 協会の情報なら大丈夫だな!と歳三は蛮の話を信じた。同時に、かつて(まみ)えたシシドの刀をなんとなく思い出す。

 

 ──あれは確か…玄関においてあったような

 

 シシドの刀は現在、歳三の部屋の玄関口にある。防犯グッズとして置いてあるのだ。

 

 勿論歳三なら大抵の不審者など素手で鎮圧できるのだが、シシドの刀は夜半カタカタ震えたりするし、ちょっと浮いたりして迷惑なので生活空間に入れない様にしてある。

 

 だが、と蛮は続ける。

 

「"特別な大物"ってのがどんな奴かは詳しくは分かっていない。しかしただのモンスターじゃねえという。然るに…」

 

 蛮の人差し指が黒い繭を指した。

 

 そして蟲群が繭を取りかこみ、キシキシ、キイキイと聞くに堪えない鳴き声のハーモニーを奏でていた。

 

「俺の勘はアレだと言っているぜ。どうだ、ここは手を……む!?」

 

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 ・

 

「……お? お、お、おお…何か…来るぜッ…」

 

 蛮が表情を引き締める。

 

 鈍い歳三も"それ"を感じていた。

 

 只ならぬ気配だ。

 

 それは火であった。

 

 火の津波だ。

 

 赫怒によって常の火の色から脱してしまった、深紅の怒炎流である。

 

 ◆

 

 ──『貴ィィィッ!!!様、等ァ!いつまでくっちゃっべっておるか!有事ぞ!!貴様等も手伝わんか間抜けがァ!!』

 

 それは老人の声だった。

 

「チィッ…摩風の爺さんか…」

 

 蛮が表情を顰めながらボヤく。

 

 高野坊主、摩風!

 

 彼の素性は旭真祭に参加した高野グループに所属する老僧である。

 

 高野グループは国内の霊的インシデントに対応する組織だが、力を示し、新規僧兵を集めるといった意味でこういった格闘技イベントに参加する事も稀にある。

 

 摩風は老いたりと言えども心身鍛え上げられており、骨と皮どころか筋肉隆々といった風情で如何にも逞しい。

 

 この老僧はダンジョン化に際してもその金城鉄壁の精神力によって変異を拒絶した。

 

 この世は色即是空、万物一切不変の物はないというのが摩風のマインドなのだが、それはあくまで自身によって為されるべきだというポリシーがあるのだ。

 

 なお、歳三達の脳裏に叩きつけられた声はPSI能力で例えるならばテレパスの類にあたるが、高野グループとしては自分達の扱う真言密教に連なる数々の秘術を超能力で済まされたくはないと考えており、この辺の解釈の違いによってしばしば論争が起きている…

 

 蛮は自身に向けられた気を辿り、視線を向けた。

 

 視線の先には観客席を縦横無尽に駆け回るマッチョな老僧と、悍ましい事に老人、青年、赤子と3つの頭をはやした異形の拳士が交戦していた。

 

「あの気色悪いのは…花柳か。ふん、奴もモンスターになっちまったか」

 

 旭真大館京都本部所属、ドス・花柳(どす・はなやなぎ)8段。旭真流を修める正統派拳士である。脳内麻薬を自由自在に分泌させ、彼が言う所の"覚醒状態"からの無呼吸連撃はさながら生きる嵐とでもいうような激しさを誇る。

 

 過去の大会では乙級探索者と死闘を繰り広げ、それに勝利したこともある。




摩風

【挿絵表示】


女がいない…
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