(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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日常57(歳三、佐々波 清四郎)

 ◆

 

 深夜。

 

 それにしても、と佐々波 清四郎はラボで調整中の "鉄騎" を見た。

 

【挿絵表示】

 

 ──随分と金をかけたものだ

 

 本来ならば "機人" のモデルケースとして終わる筈だった鉄騎だが、ひょんな事からリソースを注ぐ事になった。

 

「人格投射かAIか。どちらを採用するかまたぞろ分からなくなってきたな。私としては後者であって欲しいが。前者は不安定に過ぎる」

 

 誰ともなく一人ごちる。

 

 時刻はすでに午前3時をまわっており、無人のラボにやけに大きく声が響いた。清四郎の声からは疲れは微塵も感じない。この時間まで働き、清四郎自身ももう若くはないというのに。勿論種はあるし仕掛けもある。清四郎は自身の肉体を大分弄っているのだ。

 

 それはともかくとして、桜花征機本社技術開発部主任という立場にある佐々波 清四郎としては、AIによる人格模倣方式がベストだと考えている。

 

 しかし同時に、ゐ号計画(『説明回(ゐ号計画書)』参照)が言うところの人格投射方式も提案されており、桜花征機としてはどちらの案を採用するのかまだ決めかねているという状況であった。

 

 AIによる人格模倣は協会会長望月が、そして人格投射方式は副会長である桐野 光風(きりの こうふう)がそれぞれ賛同しているのだが、この両者は政治的な意味合いで対立しており、その影響が桜花征機にも波及しているという形だ。

 

「あれからダンジョンに何度も戦闘用アンドロイドを持ち込んでテストを行ったが、それらのAIに鉄騎や鉄衛のような変異は見られない。とすると、この二機が特別なのか、あるいは……」

 

 清四郎は顎に手を当てて、考えをまとめるためか独り言をブツブツ言い出す。あちらを向いて、こちらを向いて、無機質な壁のどこかに答えが書かれているとでもいうように落ち着きがない。

 

 しかし鉄騎に背を向けた時、調整中で機能を停止している筈の同機体の首がギリリと動き、清四郎の背に視線を注いでいる事に彼は気付かなかった。

 

 ・

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「まあ考えても詮無き事か。アップデートは朝までには終わるだろう。明日は佐古氏とアポがある。新調した鉄騎、鉄衛を見た時の反応が楽しみだ」

 

 ◆

 

 翌朝。

 

 ──変な夢を見たな

 

 歳三は目覚めてしばらくボウっとしていた。

 

 昨晩見た夢が妙に意識に触れてくるのだ。

 

 といっても、現在進行形で記憶から抜け落ちていく為、考察も何もできたものではないのだが。

 

 横になったまま枕元の煙草へと手を伸ばすと、灰皿があたって灰が僅かに布団にこぼれる。

 

 しかし "まあいつかシーツを洗えばいいから" などというマインドで気にもせず、歳三はライターで火をともした。指は擦らない。この辺りは特に理由がなく、単なる気分の問題だ。

 

 天井へ立ち昇っていく煙を見ながら、歳三は記憶から薄れつつある夢の事を考える。

 

 ・

 ・

 ・

 

 二人の男女がいた。

 

 周囲は薄暗く、どこにいるのか、周りに何があるのかも定かではない。

 

 しかし二人の姿だけは何故かくっきりとよく見える。

 

 二人とも年は若い。

 

 やけに印象に残らない外見をしていた。

 

 ──年とか、男とか女とかってのはわかるのに、どんな恰好しているかは分からないってのもなァ、変な話だぜ

 

 夢の中の歳三は首をかしげる。

 

 女の方は無表情だが、陽のそれだ。

 

 無表情にも陰と陽がある。

 

 色で例えるならば前者は単色としての黒、後者は多色を塗りこめた黒といった所だろう。

 

 だが何よりも目を引くのは女の瞳の煌めきであった。

 

 赤く綺羅と輝き、その色合いは最高級のルビーを思わせる鮮烈な赤にも似ている。

 

 男の方は女に比べてやや小柄だった。

 

 いたずらっぽい笑みを浮かべており、こちらをじっと見ている。

 

 歳三はこの二人に見覚えはない。

 

 ないのだが、なぜかこの二人の事を知っているような気がした。

 

 ──なぁ、君たちは誰なんだ?

 

 夢の中の歳三が問う。

 

 二人は顔を見合わせ、次いで男の方が口を開いた。

 

 ──僕らは……

 

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 ・

 

 と、そこで目が覚めたのだ。

 

 そして15分後、歳三が顔を洗うと、夢の事も洗い流してしまったかのように記憶から消えてしまっていた。

 

 ◆

 

 さて、と歳三は手早く身支度を整える。

 

 今日この日は品川の桜花征機本社を訪れる事になっているのだ。

 

 というのも昨晩、かねてより待ちこがれていた鉄騎と鉄衛の調整が終わったという連絡が入ったからである。

 

 ちょうどその時歳三はテレビで野球を観戦していたのだが、画面ではガイアンツがあろうことかリーグ最下位のノラゴンズにグチャグチャのバラバラに引き裂かれていた。

 

 そんなわけで少々不貞腐れ気味であったのだが、桜花征機の佐々波 清四郎からの連絡によって不機嫌はどこかへ吹き飛んでしまった。

 

 もしご予定がないのなら、という清四郎の言葉を聞いた歳三は是非もなくアポイントメントを乞い、そして今日に至るというわけだ。

 

 ──なんだか久しぶりに会う気がするなァ

 

 歳三は少し浮き立った様子で髭を当たって、服を着る。

 

 本来はスーツでも着ていくべきなのだろうが、残念ながら歳三にはスーツがない。だからグレーのチノパンになんだか安っぽい黒シャツをきて、これまた安っぽい黒いリュックサックを合わせる。

 

 歳三の私服の色使いは常に辛気臭い。ファッション音痴あるあるであった。

 

 スーツに関しては金はあるのだから作ればいいじゃんという話ではある。

 

 しかし歳三にはそれができない。

 

 まずスーツを作ってもらうために店に行き、寸法を測ってもらうという事が気恥ずかしくてできないのだ。

 

 購入の為に何か特別な手順が必要なのではないか、と邪推し、行動に移せない。

 

 歳三からすれば、スーツを買いにいくなんて真似は精神への負担が大きすぎてとても出来ない難事であった。なんなら、恐るべき力を持っていた魔蟲・道元との殺し合いよりもよほど気鬱ですらある。

 

「煙草ヨシ、財布ヨシ、端末ヨシ」

 

 所持品はそれだけだが、一応口に出して自身への注意を促す。

 

 そして特に問題がない事を確認すると意気揚々として自宅を出て行った。

 

 だが、残念ながらライターを忘れている事に歳三は気づいていない……




佐々波清四郎

【挿絵表示】

53歳♂/桜花征機社員、技術開発部所属/171㎝88㎏
桜花征機の中間管理職。健康診断の際、体格に比して体重が重すぎると驚かれる事があるが勿論理由がある。
一応一般人。
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