(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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しながわ区民公園ダンジョン【イ】② (了)

 ◆

 

 "SKR-001 鉄騎" は "歩兵" として近接戦闘全般を担える事を目的として設計・開発された。

 

 歩兵であるからには様々な状況に対応できなければならない──…いわば臨機応変をコンセプトとした戦術思想は、鉄騎そのものに武器を仕込むのではなく、状況に応じて武器を取り換える事ができるように外部兵装として所持させるという結論を導き出した。

 

 しかし、これには問題がある。

 

 持ち込める量の問題だ。

 

 それに制限の問題もある。

 

 チャージングの為に大容量バッテリーの持ち込みが必要だったり、極端に重量があったりと強力な武器は制限がある場合が多い。

 

 そもそも武器云々というのはナンセンスなのではないか、佐々波 清四郎がそんな事を思ったのは新宿歌舞伎町(マンション)ダンジョンでの戦闘データを解析してからだ。

 

 歳三という打ってつけの教材がいるではないか。

 

 折角データを取っているのだから利用しなくては。

 

 そう考えた佐々波は鉄騎の戦闘スタイルに大幅な変更を加えた。

 

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 びしり、びしり、と。

 

 どす黒い赤で濡れた樹皮が裂けていく。

 

 この変化は変色した全ての樹に生じ、まるで樹から何かが生まれでもする様に表面がぼこりと膨らんだ。

 

 表面が膨らむ度に、まるで桜の樹から血が噴き出ているかのように赤い液体が流れ落ちるのだ。

 

 それまで敷かれていた美しい桜の花びらの絨毯は、ドス黒い血の絨毯によってマスキングされつつあった。

 

 そして、声と言うには些か不明瞭なモノが聴こえてくる。

 

 うー、うー、という要領を得ないその音は、まるで現在進行形で拷問にでもあっている様な苦悶の念を感じさせるものだった。

 

 不気味!

 

 しかし歳三をはじめ、鉄騎も鉄衛も些かも動じた様子はない。

 

 二機は兎も角、歳三だって不気味なモノが好きか嫌いかと言えば嫌いに決まっているのだ。しかし外とは違い、ここはダンジョンである。ダンジョンの歳三は外の歳三とは一味もふた味も違っていた。

 

 鉄騎は依然動かない。

 

 前情報により次に起こる事象を把握していたためだ。

 

 桜の樹の表面が次々膨らみ、弾け、樹皮の奥から次々と人の顔が現れる。

 

 どれもこれもが皮がない真っ赤に染まった痛々しい様子の顔であった。

 

 歳三はそれを見て、煙草を手に取りながら「梶井基次郎センセが見たらどう思うだろうな。悦ぶかな」などとつぶやく。

 

 ありふれた日常の一コマを目の当たりにしたかのような、そんな他愛もない呟きであった。

 

 だが悍ましさが際立つこの場面で、アドバイス一つしない歳三のスタンスには何も問題はないのであろうか?

 

 鉄騎は仲間である。

 

 歳三は鉄騎を仲間と見做していた筈ではないのか。

 

「てっこ、問題はないかい?」

 

 歳三の言葉は単なる確認の域を出ない。

 

『問題はありません、マスター』

 

 鉄騎は──…熱無き己が機巧心臓(コア)に熱い火が灯ったのを感じた。

 

 ◆

 

 鉄騎の右手首が捻られ、外を向く。

 

 肘は上方に掲げられ、まるで野球の投球フォームの様だ。

 

 奇妙なのは、鉄騎の掌の中央部に空いた孔であった。

 

 鉄騎は何かを投げつける積もりなのであろうか?

 

 それとも掌の穴から何かを射出するつもりだろうか?

 

 奇妙な孔は左手にも空いているがこちらは大きな一つの孔ではなく、小さな複数の孔が空いている。

 

 鉄騎が何をするつもりか、答えはすぐに知れた。

 

 桜の樹々から生まれた人頭が大口を開け、鉄騎を噛み千切ろうと襲い掛かってきた事で。

 

 速度は速い。

 

 時速にして200kmか、それ以上か。

 

 プロ野球選手の投球などとは比較にならない。

 

 丙級指定のモンスターはどれもこれもが凶悪で、決して楽な相手ではないのだ。

 

 数も多い。鉄騎に襲い掛かる人頭、その数は20を超える。

 

 この猛襲に対して、鉄騎は振りかざした鋼腕を袈裟に振る事で答えた。

 

 名も無き技だ。

 

 しかし歳三が使うそれに似ている。

 

 だが決定的に違う点があった。

 

 歳三の場合は(くう)を掴み、真空吸引にて敵手の体勢を崩す。

 

 しかし鉄騎のそれは(くう)のみならず、敵手の血肉をも掴むのだ。

 

 極めて短時間だが鉄騎の鋼腕の軌跡上に真空が形成され、そこへ人頭が吸い寄せられる。

 

 それを纏めて、あろうことか左掌の小さな真空孔で吸い潰してミンチにした。

 

 恐るべき残虐ファイトである。

 

 濃密な血の匂いはむせ返る程で、しかし鉄騎を見る歳三の目に宿る好奇心の光に陰りはない。

 

 鉄騎の構えが更に変わった。

 

 両の掌を残りの人頭の群れに向け、今度は吸気孔より圧縮空気弾を次から次へと発射した。

 

 ボイル・シャルルの法則により、急激に圧縮された空気は熱を帯びる。常人が触れればたちまち肌が焼けただれるそれは、物理的な破壊力を伴って人頭の群れを宙空にて次々と散華四散させていく。

 

『掃討完了。残った樹も枯れていきます。しかし周辺にはまだ無傷、未変色の樹々が残っており、近づけば先程までと同様我々へ牙を向くでしょう』

 

『サイゾマスタァ、枯レタ樹の皮ヲ、剥ガス!剥ガス!それで2件の依頼が達成デキルマスネ』

 

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 人頭を失って枯れた桜の樹皮を剥がして一纏めにする事はそう難しい事ではなかった。鉄衛はどこからともなく取り出した金属製のワイヤーで樹皮を括り、肩に担いで歳三に言った。

 

『目標達成、所要時間44分!完了予想時間の算出、シッパイしましタ。以上』

 

 歳三は "短すぎる!" と思ったが、二人がしっかり仕事したからだろうなと思いなおし、周囲を見渡した。

 

 周囲にはまだまだ沢山の桜の樹が立ち並んでいる。

 

 これらは近づけば先程の様にモンスターと化し、襲ってくるのだろう。

 

 ──まあ、軽く探索って目的は果たしたってことでいいのか。それにしても鉄騎は武器を使わなくなったンだなァ

 

 それについては特に思う所はない。

 

 ないが。剣を使う鉄騎も騎士っぽくてカッコよかったのになぁ、とはぼんやり思う歳三であった。

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