(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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日常64(歳三他)& ある日のモブ探索者④

 ◆

 

 池袋本部で赤髪の謎の男と話した日の夜、歳三は特に何をするでもなく漫然とニュースを見ていた。ベッドに寝転がりながら、ビールを飲みつつ。

 

 画面越しでも緊迫した雰囲気が漂っているのがよくわかる。ニュースキャスターは真剣な表情で話している。

 

 ──『先日の旭ドウムのダンジョン化現象による犠牲者数は推定で10万人を超えます。国内でこれ程の犠牲者が出たのは1923年9月に発生した関東大震災以来で……』

 

 画面には旭ドウムの跡地が映し出されていた。

 

 歳三のせいである。

 

 跡地というのは言葉通りの意味で、ドウムは影も形もない。

 

 だが、逆説的ではあるがこの程度で済んだのは道元のおかげだ。

 

 歳三の放った加減無しの一撃は誇張抜きで小型の戦術核並みの破壊力を有していたが、その破壊力の殆どは魔蟲・道元の肉体を崩壊させる事に消費された。その為にドウムがぶっ飛ぶ程度で済んだのだ。幸いにも救援にやってきた職員達にも死者はでなかった。

 

 ──『旭真大館の前館長である旭 道元氏もダンジョン化によって亡くなり、この事故は都市部を襲う未曾有の大災害として……』

 

 ──『各国は政府に対して情報の提供を求めており……』

 

 ──『探索者協会に責を求める声もあり……』

 

 ──『また、高野グループ総帥、寂空(じゃっくう)大僧正はこの事故に対して実に80年ぶりに公式声明を……』

 

 歳三も自分がドウムをぶっ飛ばした事を理解しはいるのだが、特に責任は感じていない。感じる必要があるとも思っていなかったし、実際に歳三には如何なる責任も存在しない。

 

 協会からもこの件については歳三に一切の責任はなく、歳三は十分オーダーをこなしてくれたというお墨付きを得ている。

 

 ──『旭真大館の新館長に凶津 蛮氏が就任したとの情報も入ってきています。ご存じの通り凶津 蛮氏は六大陸それぞれの格闘技大会での優勝経験があり、世界で唯一 "ワールド・グランド・チャンピオン" の称号を持っています。旭真大館の新館長就任としては十分な実績があると言えるでしょう。凶津 蛮氏はこの惨事を受け、ダンジョン化問題への対応と被害者支援に全力を尽くすと述べており……』

 

 キャスターの表情は深刻だが、ニュースを見る歳三の顔は漫漫然然としている。

 

 漫漫漫然然然然とさえしているかも知れない。

 

 眠気飛ばしの為か、口元には火のついた煙草が咥えられているが……

 

 いつのまにか歳三は眠ってしまっていた。

 

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 ・

 ・

 

 夢の中、闇の中。

 

 歳三は黒いドレスを着た少女の前に立っていた。

 

 少女の顔立ちは定かではない。

 

 前髪がだらりと垂れ、目を隠してしまっているのだ。

 

 目が隠れていると人の顔というのはたちまち不分明なものとなる。

 

 少女は歳三に何かを差し出してきた。

 

 そう、"何か" だ。

 

 歳三にはそれが何だかわからず、受け取る事をしなかった。

 

 だが、何となくそれがとても価値のあるモノの様にも思える。

 

 すると少女が屈みこみ、歳三の足元に "何か" を置く。

 

 再び少女はどこかから "何か" を取り出し、歳三に差し出した。

 

 歳三にはそれが何かやはりわからない。

 

 再び少女が屈みこみ、歳三の足元に "何か" を置く。

 

 歳三にはそれも先程のものと同様に、何かとても価値があるようなモノに思えた。しかし何なのかが分からないので受け取るわけにもいかない。

 

 その繰り返しだった。

 

 やがて少女は怒った様に何かを言うが、何といってるか歳三には聞こえない。

 

 闇の奥から複数の男女が姿を表す。

 

 顔はやはり見えない。

 

 少女の様に前髪がだらりと垂れているわけではないが、まるで盲点に入ったかのように顔を認識できない。

 

 何人かの男女の中から女が一人歩み出て、少女の方へ向かうと屈みこんで何事かを囁いている。

 

 女は歳三を指さし、呆れたように首を振る。

 

 歳三は女の仕草に悪意の様なモノは感じなかった。

 

 しかし強く強く、ひたすら強く女が……いや、その場の全員が歳三に対して呆れている事はなぜだか理解できた。

 

「俺が何をしたってんだ?」

 

 理不尽なものを感じた歳三は思わず口に出す。

 

 すると男たちも女たちも歳三の方を向いた。

 

 いまや無貌の男女たち、その全員からの注意が歳三へ集中している。

 

 歳三には彼らの顔は認識できない、しかし。

 

 ──なぜか、俺はこの人たちの事を知っている気がする

 

 ・

 ・

 ・

 

 そこで目が覚めた。

 

 何かが焦げた様な匂いが鼻をくすぐる。

 

 歳三はハッとし、下を向いた。

 

 シーツが焦げている。

 

「ベッドで煙草を吸うのはもうやめるか……」

 

 危なかったと思いつつ歳三は猛省し、考えをまとめる為に煙草を咥えて火をつけた。

 

 

 

 ■■■

 

【ある日のモブ探索者④~戌級探索者 木場 真希子】

 

 

【挿絵表示】

 

 

 東京都八王子市在住、木場 真希子。

 

 戌級探索者で年齢は44歳、独身。ぽちゃりとした体型で、傍から見れば探索者には見えない。身体能力はまあ申し訳程度に増強されているが、率直に言って一般人の域を出ない。

 

 また、彼女は多くの探索者とは異なり、何か胸に秘める熱いものがあるというわけでもない。探索者であるので探索はするが、殆ど高尾山ダンジョンに限定される。

 

 戌級指定高尾山ダンジョンは協会から採集ダンジョンとして位置づけられており、その最大の特徴としてモンスターらしいモンスターがでないというものがある。野犬のようなものはたまに出るが、それもクマよけスプレーなりをかけてやれば逃げ出す程度だ。

 

 他の戌級だとそうはいかない。最低でもピットブル以上に狂暴で力強い魔犬が複数同時に襲ってくるなどはザラだろう。

 

 高尾山ダンジョンは安全なのだ。まあ余程油断して普通っぽい犬だかにかみ殺されたり、崖などから落ちたりしなければ。

 

 そしてそんな高尾山ダンジョンに、真希子はダンジョンを舐めてるのかと言わんばかりの軽装で探索に臨んでいた。

 

 登山服にガーデニングナイフ、クマよけスプレーとあとは水やカロリーブロック、そして山菜を入れる収納袋が彼女の荷物のすべてである。彼女にとって探索とは戦いではなく、山菜を摘んで生計を立てる日々の営みだった。

 

 真希子には若い頃ホストクラブにのめり込んでしまった悲しい過去があり、貯金はほとんどない。一時期は借金もあったが、それは現在では全て返済し終えている。ダンジョン産の山菜を摘んで月に約40万円ほどの収入を得ているため、普通に生活する分には不自由がない。

 

 彼女にとって探索者稼業は半ばやけくそで始めたものだったが、それが当たった形だ。真希子は山菜を一つ一つ丁寧に摘み取り、収納袋に収めていく。その動作は慣れたものだった。

 

 日々の小さな幸せを維持する為に、生活費を稼ぐ。それと老後の資金も。それが真希子の探索者としての道なのだ。切った張ったなんてごめんであった。

 

 緑鮮やかな樹々の間から歓声が聞こえてくる。

 

 真希子のものだ。

 

「やったぁ!シロシロワラシベダケ!一本50万円!」

 

 キノコが山菜かどうかは真希子にはどうでもいい事だった。

 

 金になればなんだっていいのだ。

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