(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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本日2回目の更新です


日常71(歳三)

 ◆

 

 全長20mの長虫が頭をもたげ、空へ向かって咆哮する。

 

 低く、腹にずしりと来る重い声だ。

 

 領域に一帯に声の波動が拡散する。

 

 心逞しくない者が聞けば、それは破滅への残響に聴こえただろう。

 

 これは宣戦布告であった。

 

 矮小な人間風情であるにも関わらず神と同等の階梯に昇ってきた者──…歳三を "贄" ではなく "敵" として認めた証だ。

 

 長虫の強大な神通力がダンジョン領域内に拡散し、領域内の気温が急低下する。

 

 そして数秒もしない内に、領域内は地球上の如何なる場所よりも寒冷な空間と化した。

 

 歳三は肚に(リキ)を込め、襲い来る寒気に備えをする。

 

 備えに要した時間は刹那の時間の数十の一。

 

 そして備えが功を奏したか、-150℃にも及ぶ絶死の空間に依然立ち続けている。

 

 シバリング──…筋肉の微細な振動によって熱を発生させて氷結を無効化しているのだ。

 

 歳三は笑った。

 

 そして恐らくは長虫も笑ってくれているのだろうと思った。

 

 相互いに命を食み合う者達でしか分かり合えない事もある。

 

「来いッ!!!!」

 

 両手を広げ、胸を突き出すようにして歳三が吠えた。

 

 吹きあがる戦気が渦を巻き、歳三はさながら生きた嵐の様にも見える。

 

 戦の場でこれ以上の礼はないだろう。

 

 返礼は、閃光。

 

 大気中に拡散した微細な氷片の摩擦を利用した雷撃だ。

 

 自然界の落雷に匹敵するそれが、数十もの数で以て歳三に襲い掛かる。

 

 瞬間、歳三の右脚が宙空に月を描き、その迅さは軌道上に真空の環を生み出した。

 

 ──望月

 

 例え形を持たない雷撃であろうと、真空中ではその威力を大きく減衰させる。

 

 だが全ての雷撃を切り払えたわけではなく、数撃はその身で受ける事になった。

 

 落雷を立て続けに数度も受ければ普通は死ぬ。

 

 当然歳三と言えども無傷では居られず、皮膚は焦げ、肉は焼けた。

 

 全身の神経網に激痛のシグナルが流れ、しかし歳三は「それでこそ」と太く笑う。

 

 痛みとは即ち生きている証だ。

 

「眠気が飛んだぜ。ありがとよ」

 

 呟きながら歳三は極自然に中段正拳突きの構えを取っていた。

 

 考えてそうしたわけではない。

 

 滾る戦気が脳にまわり、「備えよ」と囁いたのだ。

 

 歳三はそれに従っただけである。

 

 ──新月・四連突き

 

 歳三の "新月" は軌道上のあらゆるモノを抉り貫く。

 

 その様な突きが四つまとめて、音速の何倍かの速度で薙いでくる巨大な何かに叩きつけられた。

 

 結句、その何か──…長虫の尾は弾け飛ぶ。

 

 代償に拳が壊れたが、しかし安いものだと歳三は思う。

 

 長虫は痛苦に悶え、それを勝機と見た歳三は満身の力をこめて大地を踏み抜いた。

 

 いわゆる震脚、しかし今の歳三が放てばそれは局所的な震災を引き起こす破壊的牽制となる。

 

 歳三を中心に半径数キロ圏内の大地がひび割れ、揺れる。

 

 そして長虫は常に大地と接している為、衝撃波の威力を必要以上に受ける事になった。

 

 痛苦に悶えているところに衝撃波が重ねられ、長虫は思わずといった風に高くもたげていた頭を下げてしまう。

 

 瞬間移動かと見まごう速度で駆け出した歳三が長虫の頭部に向けて飛ぶ。

 

「ばァッッッ!!!」

 

 歳三は左手刀を宙空で横一文字に振り切った。

 

 手刀は大気との摩擦により赫々と輝く。

 

 こうなれば手刀などという安直なモノには収まらない。

 

 さながら燃え盛るエネルギーの斬撃である。

 

 そして長虫の頭部を横断しようとして──…

 

 長虫の三眼が赤く輝いた。

 

 ◆

 

 は、と歳三は目を覚ます。

 

 夢を見ていたのだ。

 

 ちゅぱちゅぱと煙草のフィルターを舐め回し、火をつけて煙を吸い込む。

 

 寝起きの一服は欠かせなかった。

 

 デリシャスな有毒煙を吸い込みながら、歳三は夢に思いを馳せる。

 

 それはいつかの敗戦の記憶であった。

 

 乙級指定、氷裂長虫(アイスワーム)との戦いの大切な思い出だ(日常44参照)。

 

 当時の歳三は全盛期も全盛期、しかしそれでも勝てなかった。

 

 いまだったらどうかとも思うが、歳三はすぐに「無理かな」と判断を下す。

 

 ──アイツに本気を出させることも難しいだろうな。俺も年だ。それに煙草を吸いすぎて足もかなり遅くなった。体力が落ちたんだ

 

 歳三による自身の戦力評価である。

 

 彼は自己評価が低いタチにできているものの、足が遅くなったのは事実であった。歳三の現在の最高速度はマッハ4……100mのタイムでいうならば0.07289秒だが、全盛期はもっと速かった。

 

 ──煙草も段々と減らしていかねえとな。健康優先だ

 

 歳三はため息をつき、大きく紫煙を吸い込んだ。

 

 ・

 ・

 ・

 

 ところで氷裂長虫(アイスワーム)が乙級指定だったのは極短い間で、歳三が挑んで少ししてから甲級に差し替えられた。

 

 最初乙級だったのは、協会外部調査部による調査ではミミズと思しき中型のモンスターが多数出没するダンジョンだった為である。

 

 しかし甲級に差し替えられてからの調べで、どうやら氷裂長虫(アイスワーム)とエンカウントする為には一定条件を満たす必要がある事が判明した。

 

 ちなみにこの氷裂長虫(アイスワーム)

 

 元々は某県某所に祀られていたミミズの神様だったのだが、ダンジョン化にともなってモンスターと化した。

 

 凄まじい身体能力に加え、天変地異を引き起こす極めて強力なPSI能力を有する。

 

 更にこのモンスターはモンスターとなる以前の自我を残しており、協会は氷裂長虫(アイスワーム)との対話を試み、交渉し、これに成功した。

 

 通常、神とまで呼ばれる尊い存在と人間の様なドブネズミが対等に交渉できるわけがないのだが、神サイドでなにやら思う所があったらしく交渉はスムーズに進んだ。

 

 以来、協会は氷裂長虫(アイスワーム)の住まいであるこのダンジョンを乙級から甲級とした。

 

 かの神の眠りを妨げないというのは交渉条件の一つである。

 

 人間たちへの見返りはダンジョン素材の定期的な提供。そこには自身の肉体から自然に剥がれた表皮やら滴る体液やらも含まれる。

 

 神曰く「外の存在が入り込んでくるとうるさくて眠れない。一年に一回起きるからその時に素材は持っていけ」との事だった。

 

 この交渉を成功させたのは当時の協会副会長・ 望月 柳丞(もちづき りゅうすけ)である。そして望月はこの功を以て会長となった。

 

 なお甲級ダンジョンは極めて危険か、もしくは特別な事情があるため、甲級探索者にしか探索を許されていない。

 

 この"縛り"は協会所属外の探索者にも及び、外部の者が甲級ダンジョンに入場しようとするならば協会戦力との戦闘になるだろう。

 

 そして戦力の中には当然甲級も含まれる。

 

 もっとも、甲級指定ダンジョンは国内に7つしか無いため部外者が侵入するという事は滅多にないのだが……。

 




2023年おつかれさまでしたー。感想も全部読ませていただいてます、ありがとうございます。誤字脱字報告などもありがとうございます。推敲はしてるつもりなんですが、なんかあんま出来ないっぽくて見逃しも結構あるっぽいです。

2024年もだらだら書いていくと思いますがんばります。

また、サバサバ冒険者を始め全ての作品で言える事なのですが、自分は自作についてその場で思いついたやつをその場で書いてその場で投稿しちゃってまして。なので、感想でなんか展開予想とかあったらパクる事も多々ありましたね。次投稿するまで何書くか全然決めてないので…。

あんまりこんな事を言うのもアレなんですが、整合性は気にしておらず、また、プロットも全部ないので所々アレなとこあると思うんですが、よっぽど酷いミス以外は「ああまたやってるよ」くらいのノリで許してください。

2024年は気がむいたらちゃんとプロットを書いて、とちゅうで投げ出さない事を座右の銘に頑張っていこうと思います。

じゃあ2024ねんもがんばりましょうよいおとしをー
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