(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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今回の更新内容は一部にChatGPTを使用した文章が含まれます。どこの文章かは読めばすぐわかると思います


日常73(歳三、金城権太、ティアラ)&ある日のモブ探索者⑥

 ◆

 

「これこれこういうわけで……」

 

「はい」

 

「つまりこういう事で……」

 

「うん」

 

「勿論協会にそのまま登録すればいいのだけど、ほら、私たちってDETVのダイバーでしょ?そしてDETVって協会と余り仲良くないじゃない?ウチの社長の尾白なんて協会を目の仇にしているし…。だから登録しても結構気まずい感じなんじゃないかなァ~って思うワケ!戌級からやるっていうのはいいのよ、でもずっと生殺しにされかねないかなって不安でね。でも佐古さんが紹介してくれるなら昇級も規定通りにされるとおもうのよね」

 

「なるほど」

 

「だから、佐古さんに相談できないかなって思って連絡してみたんだけど……迷惑だった?」

 

「いえ」

 

「本当にごめんなさい!でも協会へのツテって佐古さんと飯島ちゃんだけなのよ」

 

 ・

 ・

 ・

 

 迷惑ではない。

 

 だから歳三は「いえ」と答えた。

 

 これはそもそも論なのだが、歳三には「迷惑」などという言葉は存在しない。

 

 人に何かを頼まれた場合、歳三は「困る」か「困らない」のどちらかの反応しか返さない。

 

 頼み事をされて迷惑、頼まないで欲しい、という感情は存在しないのだ。

 

 困ると迷惑は似て非なるものである。

 

 前者は自身の遂行能力への不安視だ。

 

 対して後者は、他者の行動や存在が原因で不快感や不都合を感じる状態を指す。

 

 しかしティアラは端末越しに申し訳なさそうにしている。これはティアラが歳三の「困る」を「迷惑」だと取り違えたからなのだが、歳三にはこの辺の心の機微がよくわからなかった。

 

 ◆

 

 話は終わり、歳三は早々に独力でどうにかしようという努力を放棄した。

 

 歳三は情緒を知らない男だが、報告・連絡・相談の重要性は知っている。

 

 そして歳三が相談する相手なんていうのは、現時点ではただの一人しかいない。

 

 ・

 ・

 ・

 

 ──「はいはいはいはい、なるほどそうですかァ~。まあねえ、DETVから協会に鞍替えするというのなら別にそれはそれで構いませんよ。人気ダイバーさんなんでしょう?それで新規探索者さんも増えればいいんですけどねえ。最近はほら、ちょっとあっちに沢山引き抜かれちゃいましてね。ああ、話がそれました。基本的に戌級の間に裏がないか素性を洗って、問題がない人だけを丁級以降にあげてますからいつでも誰でもどうぞという感じですねぇ」

 

 ──「ままま、今後もいつでも相談してください。ところで先輩に…あ、佐々波さんに聞いたんですが、鉄騎ちゃんと鉄衛くんでしたかね、事情は大体了解しました。え?ああ、あの人とは大学が同じなんですよ、部活が一緒でね。ああ、空手部でしたよ。あれでいて旭真七段ですからね。あくまで一般人基準ですが……。ま、それはともかく近々話す機会があると思うんですが、二体、いえ、二人については恐らくは探索者登録をしてもらう事になるとおもいますのでよろしくお願いしますね」

 

 権太お墨付きを貰った歳三は早速ティアラにその旨を伝えようとしたが、ここでまたぞろ悩みだす。通話は苦手なので文章で伝えようとしたのだが、その文章が思いつかないのだ。相手は困っていたようだった。だから安心させるべきだという思いが歳三にはある。しかし必要な事をつたえ、かつ安心感を与えるにはどういう文章を書けばいいのか?

 

 歳三は悩み、煙草を二本吸った所で妙案を思いつく。

 

 これもまた他者の力を借りればいいのだ。

 

 歳三は端末を取り出し、脳裏に先程権太と話した内容を一言一句、正確に再生する。

 

 頭の中でふとっちょの中年男性が邪悪な笑みを浮かべながら「はいはいはいはい……」と喋り出す。

 

 どんな人間にも取柄の一つはあるものだが、歳三の取柄の最たるものが "これ" であった。

 

 ストンと来た事、納得した事──…良い事だろうと悪い事だろうと関係なく、それらが決して色褪せる事はない。

 

 つまり"これ"は、探索者の歳三への祝福であり、一般人の歳三への呪いでもある。

 

 ・

 ・

 ・

 

「頼むぜチャトピィ」

 

 歳三は脳内で再生した会話をチャトピィに整理してもらい、ティアラへのメールの文章を自動生成してもらうつもりだった。そして祈るような気持ちで端末の決定キーに触れる。この時歳三、初めてのAI体験でもあった。

 

 §

 

 件名: DETVから協会への移籍に関して

 

 ティアラ様

 

 こんにちは。歳三です。

 

 先程の会話を振り返り、あなたがDETVから協会への移籍を考えている件について、上の者へ相談をしました。結果をお話ししようと思います。まず協会の総意として、あなたのような人気ダイバーが移籍を考えていることは、協会にとっても非常に嬉しいことです。あなたのような才能あるダイバーが加わることで、新しい探索者たちも増え、協会の活性化に大いに貢献してくれると確信しています。

 

 移籍に関して、あなたが心配しているかもしれない点についてお伝えします。まず戌級の間に協会の職員があなたの素性や過去の活動を慎重に調査し、問題がないことを確認します。これは、協会としての質を保ち、安全と信頼を確保するための重要なプロセスです。あなたのような実績あるダイバーであれば、特に問題はないと考えておりますので、心配する必要はございません。

 

 新しい環境での挑戦は、あなたにとっても新たなステップとなることでしょう。私たちはあなたの才能と経験を高く評価しており、あなたが協会の一員となることを心より歓迎しています。

 

 何かご質問や不安な点があれば、いつでもお気軽にご連絡ください。あなたの移籍をサポートし、新しい道での成功を全力で応援します。

 

 心からの歓迎を込めて

 

 歳三

 

 §

 

 チャトピィとは大量のテキストデータを用いて訓練されたチャットAIだ。性能はそこそこで、まあメールの作成くらいならあっさりこなしてくれる。

 

 生成された文章を見た歳三は重々しく頷き、これなら問題ないだろうと送信する。

 

 そして……

 

 ・

 ・

 ・

 

「え、だれ!?」

 

 メールを見たティアラの第一声がこれであった。

 

 

 

 

 ■■■

 

【ある日のモブ探索者⑥~丙級探索者 城戸 我意亞】

 

 渋谷区代官山町某所に、45階建ての『代官山エグゼクティブ』というタワーマンションがたっている。

 

 城戸 我意亞とその恋人である天津 晴美(あまつ はるみ)は『代官山エグゼクティブ』の39階、3939室で同棲をしていた。

 

 間取りは3LDK+WIC+SIC+S、専有面積147㎡。

 

 これはつまり、147㎡内に3つの部屋とリビング・ダイニング・キッチンとシューズインクローゼットとウォークインクローゼット、さらにサービスルーム(納戸)があることを意味する。

 

 ちなみにリビングは37帖だ。

 

 当然賃貸ではなく、気になるお値段は約7億円。

 

 丙級上位である我意亞の年収は億を軽く超え、身分としては地方公務員にあたる。特別職非常勤職員というやつだ。

 

 通常、公務員であったとしても非常勤の者は契約社員として審査されるのだが、大変異前の常識とはやや異なり、協会所属の丙級以上の探索者については身分としては非常に強いものがある。ゆえに各種ローンも問題はない。

 

 ・

 ・

 ・

 

 黎明(しののめ)遠く、鳥が鳴くにもまだ早すぎる時刻。

 

 晴美はいつもの様にベッドを抜け出した。

 

 隣室──…我意亞の寝室へ行く為だ。

 

 二人は寝室を別にしている。

 

 これは関係が冷え込んでいるからとかそう言う事ではない。

 

 どれほど親しい関係でもいつでもどこでも一緒と言うのは、悪い意味で二人の関係に慣れてしまう。それを危惧した晴美が我意亞に提案し、我意亞もそれを受け入れたからだ。

 

 愛する恋人が近くにいるというのに、一人で眠るのはとても寂しい。

 

 しかし恋の熱に心が炙られ続けていてはいずれ心が疲弊してしまう。

 

 寂しさとはつまり、熱で火照った心を潤す冷水であった。

 

 晴美は合理的な女だ。

 

 合理的ゆえに恋というものがどれだけ不確かなのかを理解している。

 

 どれだけ相手の事が好きでも、所詮は脳の電気信号の産物なのだと理解している。

 

 だが理解しているからこそ、恋の消費期限を先延ばししようとアレコレ考えているのだ。

 

 それもこれも我意亞が大好きだからである。

 

 だがなぜそうと理解していながらも、晴美は我意亞の寝室へ潜り込むのか。

 

 理由は一つしかなかった。

 

 恋の為に必要な冷水の量がちょっと多すぎて、晴美は寒くて寒くて今にも凍え死にそうだったからだ。

 

 自分で言い出しておいてしょうもなさすぎる、とは晴美自身も思ってはいるがどうにもならない事もあるのだと割り切っている。

 

 晴美は合理的な女だが、人間関係は非合理的な要素の集合体であるとも割り切っている。

 

「がっちゃん」

 

 暗い寝室で、晴美はぽつりと呟く。

 

 起こしてしまうかもしれないという危惧はあったが、これもまたどうしようもなかった。

 

 何故かと言われても、非合理的な理由なので晴美にもよくわからない。

 

 ちなみにがっちゃんというのは我意亞の愛称だ。

 

 晴美の視線は我意亞の寝顔で注がれている。

 

 次いで、どこか申し訳なさそうに掛け布団を持ち上げ、そっと我意亞に寄り添って眠りについた。

 

 

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