(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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日常74(歳三、金城権太)

 ◆

 

 結局歳三の策は成らなかった。

 

 端末ハックを疑ったティアラが翌朝に通話要求し、口頭で説明をすることになった。

 

 AIを使用したことまではバレずに済んだと安堵した歳三だが、歳三とティアラでは察しの良さに雲泥の差があるため当然バレている。

 

 だが

 

 ──割りと打ち解けているとおもったけど、佐古さんの中ではそんなふうに手を抜いちゃうくらい関係が希薄ってことか……

 

 などとティアラが勘違いしていたのが失策と言えば失策かもしれない。

 

 ただ、実際に歳三の中では希薄な関係ではあるので問題はない。

 

 それにティアラとしても歳三に対して何か色をふくむ視線を向けているわけではなく、あくまで協会の有力探索者としてのコネクションを確保しておきたいという気持ちが大であるので、勘違いが原因で何かしらのトラブルが発生するという事は考えづらいだろう。

 

 そんな歳三だが、今日は池袋本部で鉄騎、鉄衛の今後の扱いについて金城 権太と面談をしている。肝心の二機は不在だ。間の悪い事にメンテナンスがはいっていた。ここ最近歳三が連れまわしている為、メンテナンスは入念に行っている。勿論ただメンテナンスをするだけではなくて、各種のデータを吸い上げて次回アップデートの為の準備も進めている。

 

 そういった事情もあいまって、二機は後日連れてくるという話になっていた。

 

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 ・

 

「……まあそういうわけで、お二人には桜花征機側の要望もあり、探索者としてのモデルケースになってもらうという話が進んでいます。ただこれは強制ではなく、佐古さんがこれまで通りお二人を、うーん……従者?として扱いたいということであれば断っても構わない話です。まあ先程お話したようにデメリットもありますからねぇ」

 

 デメリットというのは協会の規約に関するものだった。現在の協会規約では自身の等級を上回るダンジョンには入場できないことになっている。だから鉄騎、鉄衛が登録する場合、戌級からの登録になるため歳三との探索は大きく制限される。ちなみにこの規約は協会所属の探索者にのみ適用される。

 

「二人に聞いてみます。それで探索者登録をするってンなら俺はそれでもいいですぜ」

 

 ただ、歳三としてはまあそれはそれで仕方ないかな、くらいのノリであった。誰でも最初は新人からのスタートなのだ。

 

 権太はしばらく歳三を見ていた。瞳には探るような光がある。権太としては、歳三が二機の特別扱いを要求するのでは、という可能性も捨てきれなかったのだが……

 

 ──まあ佐古さんはその手の工作は一切してこない人ですしねぇ

 

 権太はもし歳三が強弁するのなら条件次第では "調整" してもいいと思っていたが、どうやら歳三にはそのつもりはないようだった。

 

「わかりました。では後日、そうですねぇ……来週の水曜日なんてどうでしょう?」

 

 歳三は自身のプライベートがスカスカであることをよく知る者でなければ出せない早さで是を返す。

 

 それを見た権太はちょっと飲みの誘いを増やそうかななどと思ったり。

 

 ◆

 

 帰路、歳三は池袋の雑踏を行きながら脳裏に一本の川を描いていた。

 

 川には一艘の小舟が浮いている。

 

 子供が作ったようなちゃちな造りの小舟だ。

 

 そんなしょうもな船に乗っているのは小さな歳三であった。

 

 これまでは川の流れも安定し、歳三は安心して船に乗っていられた。

 

 しかし段々と流れが速くなってくる。

 

 小舟もぐらぐらと揺れ、歳三は振り落とされない様に必死だ。

 

 だが小舟は進む。

 

 片時も待ってはくれない。

 

 船の縁を掴みつづけているのはとても疲れるが、振り落とされるわけにはいかなかった。

 

 折角乗れた船なのだから。

 

 川の水がどれだけ冷たいかを知る歳三だからこそ必死にもなる。

 

 そんな想像をしながら、歳三は慣れ親しんだボロマンションへ帰る為に歩を進めていった。

 

 しかし

 

 ──ダンジョンにでも行こうかな

 

 ふとそんなことを思う。

 

 知人が増え、所属する組織からも必要とされ、歳三はここまで間違いなくうまく生きている。

 

 しかし歳三の精神には張りがない。

 

 精彩を欠いている。

 

 ──俺は、疲れてるんだろうか

 

 そんな事をふと思い、すぐに首をふって打ち消した。

 

 ・

 ・

 ・

 

 歳三は疲れている。

 

 それは確かだが、別に深刻な事ではない。

 

 要するにそれまで碌に働いた事もないニートが社会に出て気疲れしているようなものだ。

 

 慣れれば治る。

 

 しかししょうもなであるところの歳三が気疲れせず社会生活を送るには、今少しの時間が必要だろう。

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