(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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戌級規定、教導実践講義③

 ◆

 

 民子は3度発砲し、3発とも命中させた。

 

 狙いは胴、胴、頭だ。

 

 DETVのダイバー時代から、民子は銃を愛用している。

 

【挿絵表示】

 

 民子が愛用するIW-HG044『印地』。

 

 まず取り回しが良い。

 

 サイズは掌に収まる程度だが、戌級や丁級のモンスターになら十分なダメージを与えられるだろう。

 

 値段もお財布に優しい。

 

 探索者向けの銃と一般人向けの銃はそもそもの作りや素材が異なっており、価格も大抵は前者の方が高いが、『印地』はかの有名なデザートイーグル(約18万円)よりも3万円程安く購入できる。

 

 そんな『印地』から放たれた銃弾が確かな殺意を乗せ、ゴミが人間の形を取った様なモンスター……ヒトゴミ・モンスターの頭部と胸部を吹き飛ばした。

 

 流血も無ければ肉片も飛び散らないが、ヒトゴミ・モンスターは不意に自重を支えられなくなった様にぐしゃりと潰れる。

 

 仕留めた、そう民子は思った。

 

 非生物モンスターを殺す方法は一つ、過剰な破壊を加える事である。

 

 生物型のそれとは違って負傷などにより行動が鈍くなったりはしないが、非生物モンスターにも "命の総量(いわゆるHP)" のようなものが定められているというのはマニュアルにもある。

 

「やったぁ!」

 

「民ちゃんさん!」

 

 ジェシカとみみは喝采をあげ、しかしすぐに黙り込んだ。

 

 THE・武者が後方から睨みを効かせてきている事に気付いたからだ。

 

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 ・

 

 THE・武者は三人娘からの視線を受けつつ、敢えてゆっくりと周囲を見回した。

 

 モンスターを倒し、喜んでいる間に奇襲を受けて負傷をすると言う事がままある。

 

 油断をするなよ、という思いを込めた所作であった。

 

 その意は正しく三人娘に伝わった様で、ジェシカもみみも慌てて周辺警戒を始める。

 

 ──怖そうな人だけど、結構面倒見がいいのね

 

 民子はそんな事を考えながら先程撃ち殺したヒトゴミ・モンスターの死骸に視線を戻すと──…死んだ筈のヒトゴミ・モンスターの腕が民子の首に向かって伸びていた。

 

 ◆

 

 あっ、と思った瞬間。

 

 民子はTHE・武者の背で尻もちをついていた。

 

 一体いつの間に移動したのか、民子の代わりに今はTHE・武者がモンスターに向き合っている。

 

 と、思ったらモンスターの腕が宙に舞っていた。

 

 THE・武者の右手には一振りの刀が握られている。

 

 つまり、斬り飛ばされたのだ。

 

 THE・武者は移動、抜刀、斬撃を一呼吸にしてのけ、民子を救った。

 

『……………』

 

 その民子だが、どこかぼんやりとした様子でTHE・武者の背を見ている。

 

 何かが聞こえた様な気がした。

 

 誰かが寂しい寂しいとむせび泣いている様な、そんな声。

 

 ともかくも、状況を理解したジェシカとみみが押っ取り刀で駆けつけようとすると、THE・武者が掌を向けてそれを押しとどめた。

 

 周辺警戒を続けろということだ。これに対して二人は素直に従う。

 

「殺したと思ったならば」

 

 背を向けたままTHE・武者がいった。

 

「もう一度」

 

 THE・武者が刀をヒトゴミ・モンスターの胴体に突き刺して、ぐしゃぐしゃとかき混ぜる様にして斬り刻む。

 

「殺すべし。無惨に殺すのだ。さもなければ逆撃を受ける。そして死ぬ」

 

 そう言ってTHE・武者が刀を握ったまま民子の方を向いた。

 

『…………』

 

 民子は先程から聞こえてくる声は誰の声だろう、と胸中疑問を抱く。少なくともTHE・武者が発している声ではない事は確かだった。

 

 寂しさを訴える声は、呼ばうそれへと変じていた。"寂しい、おいで、寂しい、来て" という囁きが民子の耳朶を打つ。

 

 ──刀?

 

 民子の視線がTHE・武者の握る刀に注がれた。

 

 見た目自体は普通の刀だった。

 

【挿絵表示】

 

 だが()()()()()()()()()()

 

 ──あんなに寂しがって、傍にいてあげないと

 

 茫とした様子の民子の目が昏く濁る。

 

 ややあって、まるで今目覚めたとでもいう様にハッと表情を引き締め、THE・武者の持つ刀を見た。

 

 民子はほんの僅かな時間、白昼夢を見ていたのだ。

 

 最低最悪の白昼夢だった。

 

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【挿絵表示】

 

 周囲は暗かった。

 

 地面は硬く、ゴツゴツとしている。

 

 空の彼方にぼんやりと月が見えていた。

 

 朧月というやつだろうか。

 

 鋭く尖った石がいくつも落ちていて、歩くだけでも難儀しそうだ。

 

 いつの間にかそこに立っていた民子は途方にくれて周囲を見渡す。

 

 ──何も、ない

 

 そう、何も無かった。

 

 完全な闇というわけではなく、僅かな月明りで薄っすらと周囲が見えないわけではないのだが、少なくとも見える範囲の光景が民子を勇気づけてくれる事はない。

 

 岩だらけの暗い荒れ地、空には朧月。

 

 民子は直感的に "此処" は世界の果てまで続き、自分は永遠に "此処" から抜け出す事ができない事を理解した。

 

 理解と同時に圧し掛かる絶望の総量は、民子の精神のキャパシティをあっという間に超えてしまう。

 

 ──こんな世界で、独りぼっちで。耐えられるわけがない

 

 民子は舌を噛み切って死のうとした。この時点で彼女の思考は正常に機能していない。しかし……

 

 ──『……か』

 

 ──『……さいか』

 

 誰かの声が聞こえてくる。

 

 声の主を民子は知っている。

 

 怖い人の声だ、無視をするわけにはいかない。

 

 ・

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 ・

 

 そこで正気に戻り、現在に至る。

 

「やはり五月蠅いか。寂しがり屋なのだ、この刀は。(オレ)に色々と話しかけてくる。抜いてくれと己に言う。抜けば抜いたでこの様に振れと言ってくる。色々と五月蠅い刀だ」

 

 THE・武者が刀を見ながら言う。

 

 口調にはやや苦いものが混じっているが、民子は「そんなもの持ってくるなよ……」と大いにドン引きした。

 

 だが……

 

「あの、助けてくれてありがとうございます」

 

 民子が頭を下げる。

 

 モンスターから助けてくれてありがとう、あの寂しい世界から助けてくれてありがとう、二つの意味での謝意だ。

 

 それを聞いたTHE・武者は浅く頷いて言った。

 

「死にたくないのなら、モンスターを殺したと思ってももう一度殺せ。命を守る為に全力を尽くす事は残酷な事ではない」

 

 まさしく探索者にとっての金言だ。

 

 だがTHE・武者のオリジナルではない。

 

 教導支援AI「教え太郎」の戦闘教導の項にこの様な教えがあるのだ。

 

 ──『残心を教導しましょう!残心とは攻撃や動作を終えた後も、高い警戒心と集中力を維持することです。戦闘中はもちろん、一連の動作が終わった後も周囲の状況に注意を払い次の行動に備える必要があります。モンスターはタフで凶悪です!とどめのとどめを忘れずに!ダンジョン探索者協会は探索者たちの安全と成功を祈っています』

 




【シシドの刀】

寂しがりの妖刀。

いつも寂しがっている。

感受性が強い者などは刀身を見るだけで可哀そうになってしまう。

握ればもっと可哀そうだと感じる。

そしてひとたび同情してしまうと一緒にいてあげたくなる。

しかし一緒にいてあげるという事はこの刀の精神?世界で生きていくという事で……。

持ち主を選ぶ刀。

この刀を所持できるのは前所持者であったシシドの様な強靭な精神力の持ち主か、共感能力が欠如している者だけ。
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