(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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日常82(金城権太、鉄騎、鉄衛他)

 ◆

 

 ここ最近、凄まじい勢いで依頼をこなしていく丁級探索者のタッグがちょっとした噂になっている。

 

 所属は池袋本部なのだが、勢いがとにかく異常なのだ。

 

 依頼遂行件数は他の丁級探索者などと比べて倍ではきかず、5倍を超えてくる。

 

 更に平気で "通し" の探索もするし、モンスター素材も完璧な状態で持ち込んでくる。なお、"通し" とは、24時間以上の探索を意味する。

 

 通常、モンスター素材は大なり小なり損傷した状態で持ち込まれる事が常なのだが、彼等は驚くほどマニュアルに忠実に解体して持ち込んでくる。

 

 ダンジョンという異空間でモンスターの襲撃なども受けながら長時間探索するというのは超人たる探索者にも過酷な事で、協会はこの様な探索スタイルを非推奨としていた。

 

 禁止措置をとっていないのはあくまで探索者達の自主性を尊重した結果だが、探索者達にしたところで禁止にされるまでもなくよほどの事がなければ通しの探索などしたりはしない。

 

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【挿絵表示】

 

 池袋本部、買取センター。17時を回ると、日中の探索組がこぞって押し寄せてきた。

 

 探索者は自由裁量で探索スケジュールを組める為、当然ながら勤務時間などは決められてはいない。ただ、午前中に探索に赴いて夕方までには帰還するというスタイルを取る者は多いのだ。

 

 一人の探索者の男が買い取りカウンターの前に立っている。装備からして、丙級には至っていないだろう事が見て取れる。

 

 男の名前は木島(きしま)。今年30を迎える丁級探索者である。装備に見合った低い実力で、もう7年もの間昇級が出来ていない。

 

 木島はバックパックごとカウンターに放って、職員の査定を待っていた。

 

 ややあって職員が査定を終えて金額を提示すると、木島は怒りだした。

 

「なんだよ、これ!安すぎるだろ!」

 

 木島が声を荒げる。

 

 職員は冷静に素材を観察し、落ち着いた声で答えた。

 

「申し訳ありませんが、持ち込んでいただいた素材はかなり損傷しています。当然評価は下がります」

 

「でもな、これでも一生懸命戦って手に入れたんだぜ!」

 

 木島は更に怒りを露わにするが、ここで芋を引く様では査定部の職員は務まらない。ましてや丁級の木っ端相手に引く職員などどこにもいない。

 

「努力は理解していますが、残念ながら買い取り額は損傷の程度で減算、加算されます。ご理解下さいね」

 

 木島はカウンターを叩きながら「くそっ、こんなの納得できるか!」と憤慨したが、職員は全く動じない。

 

 外見はモロ文系女子といった気弱そうな風貌の職員だが、見た目とは裏腹に肚が座っている。

 

 木島が更に何かを言い掛けた時、お、という声があがった。

 

 黒いボディアーマーを着込んだ二人組が、大型のバックパックを背負って入ってきたのだ。

 

 二人組の一人、男と思しき探索者は驚くほど大きいバックパックを背負っている。

 

 ──例の二人か、最近の新人じゃあピカイチらしいな

 

 ──DETVの二人よりも上なのか?

 

 ──うぅん、そいつらも確かに勢いがあるが……

 

 そんな周囲の声が妙に木島の癪に障った。二人組もまた丁級だが、もうすでに丙級は目前と噂されている。才能の差を眼前に示されたようで、木島のプライドがミシミシと軋んでいく。

 

 ──俺だって、昔は

 

 木島はそんな事を思い、歯噛みした。

 

 ◆

 

 二人組は男の隣のカウンターに真っすぐ向かい、大きなバックパックを台の上に置いた。

 

 職員が中身を検分すると、中には丁寧に解体されたモンスターの素材がぎっしりと詰め込まれている。

 

 丁級指定ダンジョンで採取は出来るものの、採取方法が困難なものなども損傷は最小限、ほぼ完ぺきといって良い状態でバックパックの中にしまい込まれていた。

 

「素晴らしいですね!」と査定の職員は喜色をあらわにして査定をはじめ──……一般的な丁級探索者の10回やそこら分の探索成果に匹敵する査定額を告げた。

 

『報酬は振込で』

 

 二人組の女と思しき方の探索者が告げる。二人とも黒ずくめの恰好なのになぜ性別がわかるかといえば、単純にボディラインを見ればわかるからだ。

 

「かしこまりました。ええと、それで本日は……」

 

 職員が何かを言い掛けると、女の探索者がかぶせるのように告げた。

 

『探索はまだ継続します。成果物が嵩んでしまったので一旦清算をしに来ただけです。次の買い取りは20時を回った頃に』

 

 

 木島は二人組に対して何かを言いたげに近づく。

 

「おい、お前ら新入りだろ?最近調子がいいみたいだがいい気になるなよ」

 

 そんな典型的な雑魚のセリフを吐き、周囲の探索者は色々な意味で驚いてしまった。

 

 他の者達は二人組に話しかける事も躊躇していたのだ。探索者というものは人それぞれのスタイルがある。簡単に言ってしまえばエンジョイ勢とガチ勢の様なものだ。

 

 前者のスタイルの者は基本的にフレンドリーな気質な者が多く、とっつきやすかったりする。

 

 後者は探索に対して何か並々ならぬ決意と覚悟を秘めて挑む者達だ。総じて "冗談が通じない" 者が多い。

 

 他の者達と全くコミュニケーションを取ろうとせず、一心不乱に探索をし続ける二人組は、周囲の者達から見て明らかに後者だった。

 

 ちなみに歳三なども後者の探索者として認識され、畏怖されている。

 

 そんな二人組だが、ほんのわずかに二人組同士で顔を見合わせた後、男と思しき方の黒づくめの探索者が木島に言った。

 

『気を付けまス』

 

 妙なイントネーションの返事に木島はややポカンとし、すぐに表情を険しいものへと変えて凄む。

 

「なんだぁ、てめェ……。変声機でも使ってるのか?大体、ツラも見せずに人様と話そうってのはどういう了見だよ!」

 

 探索者の装備は様々で、面頬を身に着けた武者姿の者もいれば全身を騎士鎧に身を固めた者もいる。フルフェイスのヘルメットを被った者だっているし、般若の面を被った着物姿の女だっている。

 

 そういった服装は規約で禁じられてはいない。

 

 つまり、協会としては探索者が変声機をつかってようとどうでもいいし、ツラを隠しててもどうでもいいのだ。

 

 しかし木島はそこに文句をつけた。

 

 酷い言いがかりだと木島自身も思ったのだが、どうにも負の感情を止める事ができなかった。才気煥発なニュービーを前にして、妙に張り合ってしまう邪念を抑えきれない。

 

 あるいはそれは "プライド" と言うモノなのかもしれなかったが、うだつのあがらない中年探索者が自身の心の安寧を守る為に押し出すプライドなんてものは粗悪なドラッグと同じであり、心身に悪影響を及ぼすだけだ。

 

 まあ木島も20代半ば位の頃は才能あふれる探索者だったのだが、そういう過去もあって現在に対しての苛立ちが収まらないのかもしれない。

 

 しかしそれはそれ、これはこれである。

 

「はい、そこまで。木島さぁん、困りますよ。トラブルを起こしてもらっては……」

 

 木島の背後から声が聞こえてきた。

 

 振り返ればそこには金城 権太が立っていた。

 

 権太という男はデブを常態とするのだが、冬という季節もあいまって、その肉体は更に大きく膨れ上がっている。

 

 木島が「あ、あんたには関係」と言った所で、権太がもっちりした掌を木島の肩に乗せてそのままぐいと後ろに引っ張る。木島はこらえようとしたが膂力の差は歴然で、権太との距離が急激に縮まった。

 

「あるんですよぉ、ええ。言っておきますけどね、これは木島さんを守る為に言っているんですよ?」

 

 まるで秘密を共有しようと提案しているかのような囁きだった。続けて、権太は声を潜めて木島に言う。

 

「実はね……あの二人はね、北九州の中規模チームから協会に移ってきた手合いなんですよ。分かるでしょう、北九州……」

 

「な、き、北九州!?」

 

 木島は驚愕で目を見開いた。

 

 北九州地域は修羅が跋扈する恐るべき闘争領域として知られている。大小多くの探索者組織が存在しており、時には探索者同士の抗争に発展する事もある無法地帯だ。ダンジョン探索経験を積んだ暴力団まで存在する。

 

 協会も支部は出しているが、ダンジョン資源を回収して地域経済を潤わせるためというよりは、治安がとことんまで悪化してしまった際の鎮圧弁としての役割を求められることが多い。

 

 ここ最近では、ダンジョン探索者協会北九州支部所属の探索者と特定危険暴力団(特級)に指定された無道會(むどうかい)構成員との決闘で、オフィスビルが一棟倒壊した騒ぎがあった。

 

「実は非常に危なかったんですよ、木島さん。あの二人はことさら凶悪なチームの構成員でしてね……まあもう更生してはいるとの事ですが、もし掴みかかってなんていたらここが協会本部だとか気にせずに……」

 

 そこで権太は言葉を切り、首を掻っ切るジェスチャーをしてみせた。

 

 木島は途端に表情を蒼褪めさせ、「す、すまねえ、助かった……」などと礼を言う。

 

「いえいえ、良いんですよ。まああの二人は探索者経験も豊富ですからね、木島さんも気にしないでもいいと思います。ほら、たまにいるでしょ?戌や丁だっていうのに莫迦みたいにデキる連中が。そういうのはね、他所で経験を積んで、うちに移ってきた人たちだから比べる必要はないんです。マイペースが一番ですよ、ゆっくりやっていきましょう」

 

 木島は引きつったような笑みを権太に向け、軽く頭を下げた。

 

 権太も太い笑みを浮かべてそれに答える。

 

 木島は「何だよ、金城の野郎もとっつきやすいところがあるじゃねえか」などと思いながらその場を立ち去っていく。

 

 ちなみに権太は別に木島に何の思い入れもないが、二人組、つまり鉄騎と鉄衛には注意を払っていた。木島が変に絡み、二機が物理的な排除による解決を目論みやしないかと心配だったのだ。

 

 ──考えすぎだとは思うんですが、桜花征機ですからねぇ

 

 権太は額の脂汗を拭う。

 

 桜花征機の技術力は対モンスター戦を想定して磨かれたものではなく、人殺しの為に磨かれたという一部の者しか知らない事実を権太は知っている。

 

 ──いや、まあ莫迦な武装もあるにはありますが




探索者さんの成果物いろいろ


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