(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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特別な依頼④

 ◆

 

 丙級ダンジョンを探索するには、歳三の力は過剰に過ぎた。しかし中には骨のあるモンスターがいないでもない。

 

『あの影は……!?』

 

 友香の潜めた声が歳三の耳をくすぐるが、歳三はそれに応えない。

 

 通路の先に小柄な人影が立っていた。160前半程度しかない歳三の腰ほどまでしかない。

 

 恰好も奇天烈なモノで、鳥の仮面を被り、薄汚い布切れを纏っているときている。

 

 矮躯。

 

 だがしかし不気味な圧があった。

 

 ──いつの間に出てきた

 

 歳三の警戒心が心の水面に波紋のように広がっていく。

 

「強えな」

 

 歳三が呟くと同時に、旧天津重工、陸戦型戦術歩兵AMT-GS001『少名毘古那(スクナビコナ)』が襲い掛かってきた。

 

『下方に注意してください!』

 

 友香が叫ぶ。

 

 ◆

 

 何かが細かく振動するような音に、歳三は濃密な死の気配を感じて咄嗟に体ごと大きくのけ反らせる。

 

 直後、数瞬前まで歳三の頭があった場所に銀閃が走った。

 

 下方から掬い上げる様にして突いてきたのだ。

 

『佐古さん! 気を付けてください、あれは超振動ブレードです! 原子間のつながりを緩め、単なる刃物よりもはるかに切れ味が向上しています! 一般に知られる振動切削とはわけが違いますよ!』

 

 ()で受ければ歳三の肉体もただではすまないが、防戦一方というのも相手を調子づかせるだけだ。歳三もその辺は感覚的に理解しており、のけ反ると同時に短い脚で蹴り上げた。

 

 破裂音、マッハの蹴りだ。

 

 しかし少名毘古那(スクナビコナ)は素早く身を翻し、蹴りを躱してしまう。

 

 歳三はと言えば、大きい動きで態勢が崩れている。マッハマッハと威勢はよくても、所詮は力任せの荒い業である。

 

 この無様は歳三に本当の意味での武が備わっていない証左であった。

 

 そしてそれを隙とみた少名毘古那(スクナビコナ)が、歳三の下腹部にブレードを突きこもうとし……上から降ってきた踵に肩を叩き潰され、そのまま半身をぐちゃりとやられた。

 

 明らかに勝負あったように見えるがしかし、歳三は手……いや、脚を緩めない。

 

 胴体部に数度のストンピングを加え、徹底的に少名毘古那(スクナビコナ)を破壊する。

 

『やりますねえ! さすがに上級探索者だけはありますね。先ほどの個体は下手な乙級ダンジョンのモンスターよりよほど強力だったのですが』

 

 友香の称賛の声に歳三は応えず、じっと少名毘古那(スクナビコナ)の残骸を睨みつけた。

 

 残心である。

 

 友香も歳三の沈黙が少名毘古那(スクナビコナ)の再起動を警戒してのことだとわかり、歳三の残心を邪魔するまいと口をつぐんで様子を伺う。

 

 しかしここまで徹底的に破壊されてしまっては人ならぬ身であっても堪らないらしく、再起動は無かった。

 

 歳三は軽く息をつきながら「データベースには滅多に遭遇しないみたいな事が書いてあったけれどよ、それが理由でココが丙級に指定されてるってことなのかい?」と呆れた様な様子でいう。

 

 丙級に居て良いモンスターではない、歳三の感覚はそう告げていた。

 

『これまでのデータを勘案するに、交通事故よりやや高い確率でしか遭遇しませんからね! 流石佐古さんです! 旧天津重工関連のダンジョンではこの様に日本神話から拝借したネームドモンスターが現れる事があります。どれもこれも一点物の兵器がモンスターと化した為に強力ですが、見返りも大きく、これらの素材を求める企業も多いのです』

 

 ところで、と友香は告げた。

 

『頭部を避けて破壊してくれたみたいで良かったです、今回の依頼の品とは関係ありませんが、次の依頼を受ける材料にしたいので今から言う部位を取ってもらっても大丈夫ですか?』

 

 歳三は頷き、その場にしゃがみ込む……

 

 ◆

 

 それを遠間から見ていた一団があった。

 

 岩戸重工特殊部隊の面々だ。

 

 といっても、雁首揃えて望遠レンズをのぞき込んでいたわけではない。よくよく見なければ気付けない程度に、その場の空間に歪みが生じている。

 

 何らかの装備で自分達の姿に光学迷彩を施しているのだ。

 

「モンスター化した少名毘古那(スクナビコナ)を鎧袖一触か」

 

 隊長、屍 晃史郎(かばね こうしろう)が低く唸る様に言う。

 

「丙級探索者じゃありませんね、あれは」

 

 隊の狙撃手、東条院が余り良くない顔色でそう言った。

 

 他の者達も真剣な表情だ。

 

 岩戸重工は旧天津重工と深いかかわりがあり、その技術などについて良く知っている。

 

 すなわち、少名毘古那(スクナビコナ)の性能についても事前情報があるのだ。

 

 だからこそそれを一合で葬り去った歳三への警戒心は一際強い。

 

 しかし退くという選択肢は無かった。

 

 彼らの役目は浦田技研に雇われた探索者がダンジョンから "チップ" を持ち帰る事を阻止することである。

 

 可能ならば交渉で。

 

 出来なければ実力行使で。

 

 ・

 ・

 ・

 

 浦田技研が岩戸重工が実効管理しているダンジョンの"チップ"を欲しがる背景には複雑な事情がある。

 

 このダンジョンはかつて旧天津重工が開発した多くの実験的技術が残されている場所であり、その中には現在の技術水準を以てしても再現困難な高度な技術が数多く眠っている。

 

 浦田技研はこれらの技術を回収し、民間企業としての技術力を飛躍的に向上させると同時に、高度な軍事技術を保有することで自社の地位を不動のものにしようとしている。

 

 ……というのが表向きの事情であった。

 

 浦田技研は特定の政治勢力や組織からの支援を受けているという噂があり、その資金力を背景にダンジョン内の技術を獲得しようとしている。

 

 この支援の正体は明確にされていないが、浦田技研が単なる技術研究所以上の役割を担っていることを示唆している。

 

 岩戸重工としてはここでおめおめと芋を引くわけにはいかなかった。

 

 相手が浦田技研に雇われた探索者とあれば猶更だ。

 

 なにせ浦田技研からは "匂い" がする。

 

 鼻を近づけなければ気付けない、ふんわり僅かに香る桜の花弁の匂いが。

 

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