(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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日常84(歳三、鉄騎、鉄衛)

 ◆

 

 この日歳三はとある人物と待ち合わせをして茶をシバいていた。

 

 場所は池袋、歳三の自宅マンションの近くにある「レストランミユキ」という古びた洋食屋だ。

 

 この店は大変異以前から営業している老舗で、現在の店主は二代目である。

 

 昔ながらの洋食屋さんという風情の店で、売りは手ごねハンバーグとビーフシチュー。

 

 量は十分、想像よりワンランク上のサイズの量を出してくる。

 

 店内は薄暗く、店の調度品も一々何というか、派手さが全くない。

 

 重厚感がある木製のテーブル、椅子──……ズシッとした年季が入っている。

 

 店員も無駄に話しかけてくることなどもなく、コミュ障の歳三でも落ち着いて食事ができるお気に入りの店だった。

 

 ちなみにおしぼりがたまに臭い事もあるのだが、そこは小さい個人店だから仕方ないと歳三は割り切っている。

 

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「久しぶりじゃねえか、元気だったかい?」

 

 歳三が珍しく笑顔を浮かべていた。

 

 態度もカジュアルだ。

 

 それも当然で、テーブルの向こうに座っているのは歳三がよくよく見知っている者達だった。

 

「はい、マスター。我々は3度のアップデートを経て、内臓されているクォンタムキャパシタ駆動システム "陽炎" (※)の平均出力に耐えられるボディを得ました。半永久的にとまでは言いませんが、長々時間の連続稼働が可能となっており、残存エネルギーから推察できる我々の状態を簡潔に言い表すとするならば」

 

 蒲田西口商店街ダンジョン⑧、大磯海水浴場ダンジョン⑧などで言及

 

 

「元気ダヨ」

 

 放っておくと永久に話続けそうな鉄騎を遮って、鉄衛が結果だけを歳三に伝えた。鉄騎は何か言いたげに鉄衛に顔を向けるが、鉄衛は黙殺する。

 

 ちなみに鉄衛の声は性別が分からないというか、明らかにマシーンでございというようなロボロボしいものだったのだが、鉄騎は明らかに変声していた。

 

 妙齢の女の声だ。

 

 歳三も鉄騎が声のモデルを変更した事は報告を受けていたため特に声に言及したりはしないものの、内心では「ちょっと慣れるのに時間が掛かるかもしれないな」などと思っている。

 

【挿絵表示】

 

 彼が鉄騎の声から連想するイメージは無表情なキャリアウーマンだ。スーツをバシッと着こなし、ついでに眼鏡をかけている。色々な事を懇切丁寧に教えてくれるが、教えてくれたことを正確にこなせなかったら魂が凍り付きそうな目で注意されたりするのだ。

 

 そんな事を考えた歳三は、心がきゅうと締め付けられる様な気分を覚えていた。

 

 ──それに比べててっぺーはなんだろうな、坊ちゃん刈りの秀才少年ってかんじか

 

 ちなみに歳三は与り知らぬ事だが、鉄衛は歳三の前では敢えてカタコトのなんだか幼い風に振る舞っている。部外者に向ける顔と歳三に向ける顔は夜と昼ほどに違っていた。

 

 次に外見。

 

 これも歳三の記憶にあるものとは少しばかり違うように見える。

 

 特に服装だ。二機は全身タイプのボディアーマーを着こんで、顔はフードで見えない。

 

 どこからどう見ても妖しすぎる風体だが、そこはこの時代と言う事もあり、店員から何かを言われる事は無かった。

 

 なお、歳三の好みは厨ニに寄っているので二機のミステリアスな雰囲気は大歓迎だ。

 

 願わくば自分もそんなダークサイドな恰好がしたいと思ってはいたものの、低身長おじさんがそんな恰好をしても滑稽なだけであると自分でも良く分かっている為諦めている。

 

 ダンジョン干渉によって身長を伸ばすという手がないわけでもないのだが、歳三の場合低身長をそこまで深く気にしていないという部分もあって願いは叶っていない。

 

 高い身長だったらよかったなという思いがないわけではないが、低身長なら低身長でもいいやというマインドである。

 

「そうかい、それにしても二人とも調子が良さそうで何よりだぜ。俺は丁級に5年以上いたからなあ」

 

 歳三はそう言ってアイスコーヒーの入ったグラスを持って、まるで水を飲む様に一気に飲み干した。

 

 レストランミユキのアイスコーヒーはそれなりに美味く、探索者の階梯で例えるなら丙級中位くらいはあるのだが、歳三の舌はヤニで腐っているのでその辺の味の機微は分からない。

 

「マスターも専属オペレーターが付いたとの事ですね。そして先日早速依頼を達成したと聞きました」

 

「まあね」と歳三が懐から煙草を取り出してライターで火をつけようとすると、「マスター、マッテマッテ。イイモノ、ミセテアゲヨウ」などと言った。

 

 言われた通り待つ歳三。

 

 1秒経ち、2秒が経つ。

 

 すると歳三が咥えた煙草の先がじりじりと熱せられ、遂には火が点った。

 

「おっ」

 

「PSI能力デスネ。モウスコシ解析スレバ、実戦デモツカエルヨ」

 

 鉄衛がそんな事を言う。実際、鉄衛としてはPSI能力を実戦投入できるように出来れば良いと考えている。

 

「やるねえ」

 

 歳三は羨望が混じった視線を鉄衛に注いで賞賛した。

 

 PSI能力は意識を波へ、波を粒へ、粒を物質へと伝播させていくれっきとした"技術"であり、大変異前の様な"超常現象を引き起こす不可思議なパワー"という認識よりは科学方面での解析が大分進んでいた。

 

 PSI能力行使にはこの辺の理屈を理論的、もしくは感覚的に理解出来ていなければならない。

 

 つまりオツムかエモか。

 

 歳三はその双方に欠けている為、PSI適正は最悪だ。

 

 ちなみに単純出力ではエモ派が勝る。

 

「ありがとう。ああ、依頼の話だっけ。この前町田まで行ったんだ。まあちょっと依頼をやったんだけどよ、余り詳しくは言えねえんだ。口外できない契約でな。でも報酬は少し多めだったぜ」

 

 少しどころか都心に家を何件も建てられる程高額だったのだが、探索者というのは不意の出費も大きい。

 

 例えば医療用ナノマシンを用いた治癒さえも治癒しきれない大怪我を負ってしまうとする。

 

 そういった場合は肉体組織を一から再生する再生医療か、もしくはサイバネティック手術を受けるという手段がある。

 

 しかしそれは1億2億じゃ済まない程の大金が掛かるのだ。

 

 だから乙級探索者基準で数億というのはまあ"少し"という認識で間違いはない。

 

 ◆

 

 一人と二機はそれから1時間程近況報告をし合った。

 

 歳三は専属オペレーターである今井 友香の事などを、二機はここ最近探索したダンジョンについての事を話した。

 

 内容としては探索者同士の会話としては極々ありふれたものだ。

 

 しかしその中で、歳三は少し気になる事を鉄騎から聞く。

 

「ここ最近、国内のダンジョンが難化しているのではないかという話が出ています。現に探索者全体の死傷率が微増しています。精査しなければ分からない程度の変化ですが、このまま死傷率が上昇した場合協会は何らかの手を打たねばならないでしょう」

 

 それを聞いた歳三はふと町田工場で交戦した小さいロボ──……少名毘古那(スクナビコナ)の事を思い出した。

 

 ──丙級のモンスターにしては強かった気がする。まああの格好いい兄さんよりは強くはなかったけどな。でもあの兄さんはモンスターじゃないから関係ないか

 

 歳三は危うく腕をぶった切られる所だった。似たようなシチュエーションにシシドとの戦いがあるが、屍 晃史郎の振るった刃はシシドのそれよりも深く腕に食い込んだのだ。歳三の肉体に傷をつけられるものは少数だが、晃史郎にせよシシドにせよ、その少数に分類出来る存在だった。

 

「……腕を怪我したのですか?」

 

 歳三が何となく腕を見ていると、鉄騎が静かに言う。

 

 口調は冷静そのものだが、歳三はその口調に冷たい炎を幻視した。

 

「いや、してないぜ。ほら」

 

 鉄騎が醸し出す冷たい雰囲気になんだか少しびびってしまった歳三だが、怪我は完治しており痕も残っていないため堂々と腕を晒す。

 

「体温上昇、心拍数上昇。サイゾ、オイオイ」

 

 しかし鉄衛が秒で看破してしまい、歳三は「ウッ」と呻いた。

 

 気まずさを誤魔化す様に水を一気飲みする歳三だが、「余り無理をされないでくださいね」という鉄騎の語調から "許された感" を見出した歳三はホッと安堵する。

 

 探索に怪我はつきもので、時には死んだりもするだろう。歳三も長年の探索者生活でその辺りの事は理解できているのだが、二機に対してどうにも後ろめたさを感じてしまった。

 

 それはなぜだろうか、と考えるが答えはでない。

 

 もし歳三に家族が居たならば、この後ろめたさは家族に心配をかけたくないという感情のそれに似ている事に気付くだろう。

 

 家族や友人に心配をかけないようにしたい──……この感情はアルトルイズム(利他主義)、要するに他者の幸福を自分の幸福以上に重視する考え方に基づいている。

 

 まあ歳三は養護施設育ちで家族もとっくの昔に行方不明だから分かる筈もない。

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