(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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日常87(歳三他)

 ◆

 

 帝王恵生大学池袋キャンパスは地下一階、地上十階のビル型キャンパスだ。

 

 JR池袋駅東口から徒歩10分くらいでアクセスも良い。

 

 東口というのもまた良い。

 

 これが真逆、西口だったならば治安が余り良くない為に学生の情操教育に宜しくないだろう。

 

 ところで、そのビルの一階部分は当然ながらエントランスとなっているのだが、間借りしているような形でヘブンイレブンも入っている。

 

 一階部分にコンビニがあるというのは非常に便利なもので、昼時や学生の帰宅時間あたりになると店内は学生でごった返す。

 

 言うまでもないが、帝王恵生大学の学生じゃなくても利用はできる。

 

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 歳三は切れたヤニを補充すべく、ヘブンイレブンに来ていた。

 

 自宅から徒歩30秒なので非常に便が良いのだ。

 

 昼時だったので店内には多くの学生がたむろしているが、余り気にはならない。

 

 不思議なもンだと歳三は思う。

 

 少し前ならば、これ程多くの学生が居る場所へ足を踏み入れるなんて考えるだけで気分が悪くなっていた。

 

 しかし今の歳三は様々な出会いと経験を経て、赤の他人が少し多いくらいでは精神の均衡を崩さずに平静を保てていた。

 

 大きな進歩だ。

 

 ◆

 

 ──市販のドリンク剤ってのはどれ程効くのかねぇ

 

 歳三は胡乱気な目でドリンクコーナーを眺める。

 

 視線の先には様々な種類のドリンク剤、ゼリータイプの栄養補給飲料が並んでいるが、値段はどれも2000円超とややお高い。2万円近いドリンク剤もある。

 

 大変異前と比べて物価が高くなっているわけではなく、単純に成分が異なるのだ。これらのドリンクはどれもダンジョン由来の成分がほんのわずかに使用されており、しかしそれゆえに通常の一般人向けのそれより効果が高い。

 

 それと帝王恵生大学の生徒は金がある為、単価を高くしても売れるという目算もある。

 

 歳三は『自分の中のリソースを掌握し、管理出来る者こそ最高の戦士!』などと印刷されてあるドリンク剤を手に取った。

 

『デスダイバー2』という商品名には、ポジティブに死線を幾つも潜り抜けようという男気が込められている……と、開発企業は謳っている。

 

 値段は1万8千円。

 

 一般人が使えば3日3晩は精力的に活動できるだけのタフネスを得られるだろう。勉強、仕事、セックス! あらゆるシーンで活躍が出来る。ただそこで調子に乗りすぎると、薬効が切れた時に地獄を見るのだが。

 

 ただ、協会所属の探索者には無用な品でもある。

 

 社割が利くので精々1000円やそこらで同程度の活力剤を購入出来るのだ。

 

 この辺りの福利厚生も協会の魅力であり、その辺の事情もあって探索者協会は探索者界隈人気ナンバーワンの座を維持し続けている。

 

 歳三も当然それを知っている為、特に購入する事なくドリンクを商品棚に戻した。

 

 煙草を買いに来た事を思い出したのだ。

 

 しかしただそれだけ買うのも芸がないと思い、握り金玉の風情であちらこちらを物色していると、店内の一角で二人の学生がなにやら楽し気に会話をしていた。

 

 

 ──なあこれ良くない? 

 

 ──わ、それ本物? 

 

 ──当たり前だろ

 

 ──何て銃なの? 

 

 ──忘れたけど、探索者用の銃だよ。カリカリで落札した。弾も売ってたから買ったよ。地下で撃ってみる

 

 ──反動とか凄いんでしょ? 

 

 ──らしいけど大した事ないだろ。射撃場の銃とか全然反動ないじゃん。俺らも再来年は探索者になるんだし、慣れておかないとな

 

 ──そういえば、今日来てた蒼島って講師凄かったな。300キロの超圧縮球でジャグリングとか出来ないよ普通

 

 ──探索者になれば俺たちもできる様になるでしょ。乙級っていってもあの若さでなれるんだし

 

 

 この世界、この時代の日本には銃刀法が存在しないため、誰でも銃が所持できる。ただ、それをむやみに使用すると大変な事になる。悪質な銃犯罪者は死んだ方がマシだという目に遭わされるので滅多な事では事件は起きない。

 

 例えば身動きができないように脳だけにされて、精神干渉系のPSI能力の練習台として使われるというような事をされたりする上、その旨を国民に発表しているのだから、所謂"無敵の人"も中々事に及べないのだ。

 

 ちなみに、ただ銃が撃ってみたいというだけなら射撃場に行けばよい。

 

 少し大きな街なら2、3の射撃場があるのが一般的だ。

 

 なお、帝王恵生大学池袋キャンパスの学生は地下射撃場を利用している。

 

 ともあれ歳三は学生たちの会話で気になる事があった。

 

 "若いのに乙級"というワードにややグサリと来たものの、気になったのは銃の事だ。

 

 探索者用と一般用は全く別物である。恐らくは反動で手首ごと持っていかれて骨折なりしてしまうのだろうが、それもまた勉強だと歳三は思った。

 

 痛く無ければ人は覚えない。

 

 ◆

 

 余談だが、「これだけ技術が発展しているのだから探索者用の銃と言えども反動は殺せるのではないか」という向きがないでもない。

 

 これは技術的には可能だが、それをしてしまうとなぜか威力が大幅に減衰するのだ。

 

 アサルトライフルの類が余り流行っていないのはその為だ。

 

 まあアサルトライフル使いの探索者もいなくはないのだが、一発一発の銃弾の反動抑制が一切考慮されていない為に非常に使いづらく、銃本体の消耗も激しいため頻繁な買い替えを余儀なくされる。

 

 これに比べれば、反動は大きいが威力も大きい弾を一発一発発射するハンドガン系の方がずっと扱いやすい。

 

 §§§

 

『流した涙、流した血! その量が多ければ多い程人は強くなるのです。ならば反動が大きければ大きいほど、銃の威力は高くなる。当たり前の話です。例えその反動が自らを傷つける事があろうとも、それはそれで構わないではありませんか! 傷つけば強くなれるんですから! 一石二鳥!』

 

 岩戸重工幹部、とある会合での発言より

 

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