(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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今日2度目の更新


別れ(歳三、飯島比呂他)

 ◆

 

 ──『本日午後4時頃、東京都豊島区、帝王恵生大学池袋キャンパスの地下射撃場で事故が発生し……』

 

 そんなニュースを見ながら、歳三は鞘に納めたシシドの刀を使って肩を叩いていた。

 

「あの兄さんじゃねえだろうな……まあ死んではいないだろうけどよ。それにしても俺も年だなあ、肩が凝って仕方ねえや」

 

 ボヤくように刀に話しかけながらセルフ肩たたきをする。

 

 旭ドウムの戦いから、歳三はどうにも肩こりなどに悩まされる様になっていた。

 

 これがまた妙な話で、少しずつ肩こりの症状が出始めたわけではない。元々何らかの肩こり誘発地雷が埋め込まれていて、それが旭ドウムの戦いを切っ掛けに爆発した様な……そんな感じなのだ。

 

「幽霊か何かに取り憑かれていたりしてな」

 

 歳三は冗談めかしていうが、この世界、この時代の心霊現象は火事だとか交通事故だとか、そういうレベルできちんと存在している。

 

 ちなみに不意の心霊現象に出くわしてしまった場合、警察とか救急を呼ぶノリで11940番に掛けると、最寄りの心霊相談所から高野グループの退魔坊主がやってきて助けてくれる。

 

「それでいてダンジョンじゃ全然平気だってんだから変な話だな」

 

 そんな事を言いながら歳三は窓から外を眺めた。

 

 灰色の曇天、冬らしい空だ。

 

 ──そろそろクリスマスか

 

 どうでもいい話ではあった。

 

 歳三にとってクリスマスとは単に12月25日に過ぎない。

 

 親はいないし恋人は居ないし、知人の様な友人の様な、そんな金城 権太は風俗三昧である。

 

「まあ今年もダンジョンだな。お、そうだ。お前も行くかい?」

 

 歳三は刀に語り掛ける。

 

 当たり前の話だが、刀からの返事はない。

 

「肩叩き棒にしたことを怒ってるのかねぇ」

 

 THE・サムライになり切っていた時、刀は頻りに歳三に「ああ振るのだ」とか「こう振るのだ」と囁いていたが、今は鎮と押し黙っている。

 

 まあいいさ、と歳三は煙草に火をつけて大きく煙を吸い込み、フウと天井に向かって吐き出した。

 

 歳三の部屋は散らかっていて汚いが、これでいて内装はちょっとお金がかかっている。

 

 壁そのものが煙草の煙を吸収、分解するのだ。

 

 とまれ煙はふわり、ふわりと吸い込まれる様に天井に向かい──……

 

「うおっ」

 

 歳三が声をあげた。

 

 視線の先には先程吐き出した煙……しかし、尋常の煙ではない。

 

 どういうわけか煙が揺らめき、踊り、老若男女様々な顔を形作ってニタリと笑っている。

 

 すわ心霊現象かと歳三が拳を固めると、煙は文字通り霧散した。

 

「なんだよ……」

 

 歳三は呟くが、答えは帰ってこない。

 

 恐怖心があるわけではない。

 

 ただ気持ちが悪かった。

 

 それは論理的な気持ち悪さだ。

 

 歳三はこれでいて理屈屋な部分があるので、あらゆる事象にはあらゆる理由が付随するものと考えている。

 

 何か気になる事が起こったなら、その理由もきちんとあるはずだと言う思いがある。

 

 そして、煙に浮かんだ多数の顔……そんな事象にもちゃんと理由があったが、現時点の歳三がその理由を感得する事はなく、それゆえに気持ち悪い。

 

 ──なんだかなぁ

 

 そう思っていると、今度は端末が震えだす。

 

 なんだなんだと確かめてみれば、ディスプレイには『飯島 比呂』とあった。

 

 メッセージ通信だ。

 

「んん~?」

 

 歳三が内容を読んでみるとそこには……

 

 ◇◇◇

 

 ここしばらく、飯島 比呂は悩みに悩んでいた。

 

 人生最大の悩みと言っても過言ではない。

 

 あんな夢(しょうもな比呂ちゃん、何度もイく参照。※R18)を見たり、あんな事(しょうもな比呂ちゃん参照)をしてしまったせいで、妙に歳三を意識してしまっていた。

 

 そこへ来てのクリスマスシーズン到来だ。

 

 そもそも自分は一体何なのか。

 

 男なのか、女なのか。

 

 というより、何をどうしたいのか。

 

 男と女、自分が本当になりたいのはどちらなのか。

 

 ──男に戻っても女のままでいても、僕は何かを失う気がする

 

 こんな事ばかりを考えているせいで、ここ最近の比呂の精神はやや均衡を欠いていた。

 

 精神の防波堤に決定的な罅が入ったのは、3人が比呂の自宅のリビングで次の探索予定を立てている時の事だった。

 

「ねー、なんだか比呂ちょっと最近様子が変だよ。探索も気が入ってないみたいだしさ。どうした?話きこか?」

 

 真衣がそんな事を言いながら比呂の胸を引っぱたいた。

 

 力を込めたわけではなく、冗談としてだ。

 

 比呂の胸がぶるんと震える。

 

「ちょっと真衣、そんな事しちゃダメだって。そういうのはセンシティブっていうか、親しき仲だからこそ礼儀が必要というか……って比呂!?ちょっと!真衣、比呂泣いちゃったじゃん!」

 

 翔子が目を吊り上げて言うと、真衣は慌てて「ごめん!ごめんってば!」と謝る。

 

 しかし比呂は別に胸を叩かれて痛かったからとか、嫌だったから泣いてしまったわけではない。

 

 胸がぶるんと震えたから泣いたのだ。

 

 ぶるるんと震える胸を見て、比呂は自身の男性性がサラサラと砂になって散っていくのを感得した。

 

 だから泣いてしまったのだ。

 

 死んだ、と比呂は思った。

 

 ──僕の中の、いや、私の中の男の子はもう死んだんだ

 

「違う、違うから。大丈夫だから……ぼ、私…僕が泣いたのは……」

 

 

【挿絵表示】

 

 比呂は静かに、しかしぽろぽろと涙を零しながら、真衣と翔子に自身の胸中を打ち明けた。

 

 飯島 比呂は自分の中の "男" を捨てる事を選んだ。

 

 なぜなら男に戻れば、歳三への思いもまた諦めねばならないと思ったからだ。

 

 つまり、この涙は自身の男性性への別れの涙である。

 

 それを聞いた二人は、「よりにもよって」という思いがある。

 

 よりにもよって自分より倍以上年上の中年男性に恋をしてしまうとは、と。

 

 どこが良いのか、とは思わない。

 

 強いという事には若いという事以上の価値があるからだ。

 

 ──でも、ねえ

 

 真衣も翔子も難しい顔をする。

 

 応援するにはすると思うが、もう少し年が近い相手を選べなかったのかという思いがある。

 

「ま、取り合えずご飯にでも誘ってみたら?」

 

 ややあって、考えるのに飽きた真衣が雑にそんな事を言った。

 

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