(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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呼び出し

 ◆

 

 ──も、ちづき?

 

 その名は歳三にとって特別な名である。

 

 数十年が経った今でも決して色褪せぬ名だ。

 

 しかし、流石の歳三も "あの望月" が "この望月" であると考えたりはしなかった。

 

 ──何十年も経っているわけだしな。それに……

 

 確かに気になるには気になるが、もっと気になる事もある。

 

「大変な事に、なっちゃいましたね」

 

 ぽつんと比呂が言う。

 

「……ああ」

 

 歳三が答える。

 

 ただ、歳三には何がどう大変なのか良く分かっていない。分かっているのは "職場がなんだか不安定なカンジになっている" 位の事である。

 

 だがその"不安定なカンジ"が歳三の精神を酷く苛むのだ。

 

 果たして自分はこのまま探索者のままで居られるのか、という心配が歳三の中にあった。冷静に考えればそんなものは杞憂でしかないのだが、歳三が冷静で居られるのは戦闘中だけだ。

 

「そう言えば歳三さんは金城さんと親しかったですよね。事前に聞かされていなかったりはしなかったんですか?」

 

 歳三はかぶりを振った。

 

 何も聞いていない。だがそれでハブられたとは思わない。金城という男が業務に関する事を、ただ知人だからという理由でべらべらしゃべくるわけがないと言う信用がある。

 

「そのうち説明とかあるだろうけどよ……。まあ気にするのは後にして、取り敢えず飯を食わないか?冷めたらもったいないしな」

 

 歳三が平静を装って言うと、比呂も「そうですね」と笑顔を浮かべて頷く。

 

 ──協会が割れた。望月前会長は新しく探索者団体を立ち上げる。歳三さんはどうするんだろう?歳三さんは金城さんと昵懇だ。そして金城さんは望月前会長の息が掛かっていた人だ。すると……

 

 比呂の脳裏をいくつもの考えが浮かんでは消えていく。

 

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 結局二人は特に男と女の色々なアレもなく、普通に食事を楽しんで時間を過ごした。

 

 そもそも元男ということで引け目を感じている比呂と、アレな歳三だ。

 

 一度や二度食事をしただけでどうにかなるはずもない。

 

「それじゃあ歳三さん、今日はお付き合いいただきありがとうございました。私は殆ど都内のダンジョンばかりだから、他の地域のダンジョンのお話とか聞けて良かったです。協会の事で今後色々な事がありそうですけど、変わらないお付き合いをさせて貰えればとおもいます」

 

「あ、ああ。こちらこそ」

 

 店の外でぺこりと頭を下げる比呂に、歳三は冴えない言葉を返す。

 

 ボキャブラリーが貧困なため、文字数の多い返事が出来ないのだ。

 

「また、お誘いしてもいいですか?」

 

 比呂の言葉に歳三は頷く。

 

 そして、「それじゃあこの後は違う店で飲みでも」なんて話もなく、歳三は軽く手をあげてその場を立ち去って行った。

 

 現地解散だ。

 

 ◆

 

 ──楽しかったには楽しかったけどな

 

 別に不満があるわけではない。

 

 だが、どうにも落ち着かない。

 

「ダンジョンにでも行くか」

 

 ひとりごち、そしてそのまま手頃なダンジョンへ……はいかずに、一端帰宅して、ボディスーツとバックパックを持ってからふたたび外へ出る。

 

 自分は強いから私服でも平気だろう、という考えは歳三にはない。

 

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 歳三は雑司ヶ谷ダンジョンへ向かう事に決めた。

 

 比呂達と出会った場所である。

 

 なぜ雑司ヶ谷ダンジョンにしたのかちゃんとした理由もある。

 

 歳三は比呂から高みを目指す理由を聞いた。

 

 それは "両親の遺品となるものをダンジョンから回収する、そして可能なら仇を討つ" というものだ。

 

 立派だな、と歳三は思う。

 

 そして出来る範囲なら協力してやりたいという気持ちが湧いた。

 

 だからかつて比呂達が探索失敗の憂き目に遭った雑司ヶ谷ダンジョンの、直接的な原因であるイレギュラーモンスターと再度闘い、色々情報を得ようと考えたのだ。

 

 ──どうせダンジョンに行くなら、まあ、な

 

 折角だし、だとか、ついでに、だとか理由をつけて雑司ヶ谷を選んだ歳三だが、比呂の事情を聞いていなければ恐らく雑司ヶ谷ダンジョンを選ぶことはなかったに違いない。

 

 つまりはそれだけ歳三は比呂達を身贔屓している事になる。

 

 もしくは、比呂を、だろうか。

 

 ◆

 

 池袋から雑司ヶ谷までは距離にして2、3キロ。

 

 地下鉄で一駅で行けるが、もう年なんだから健康のためにと徒歩で向かった。

 

 勿論走ったりはしない。

 

 走ったら3秒もあれば到着してしまうし、走る際に発生するソニックブームで周辺に甚大な被害も出る。

 

 しっかりと、ゆっくりと。

 

 地を踏みしめる様にして歩く。

 

 もしかしたら職場がなくなるかもしれない──……そういった不安定な状況に、流石の歳三も不安を感じているのだろう。

 

 一歩一歩に「足元よ固まれ、職よ安定せよ」という念が込められている様にも見える。

 

 15分後、歳三は雑司ヶ谷ダンジョンの前にいた。

 

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「あの毛むくじゃらが居ればいいんだけどな」

 

 そんな事を言いながら、ダンジョンの入口で大きく拳を振り上げる。

 

 腕はぶるぶると震え、顔も赤い。

 

 相当に(リキ)が入っている様だった。

 

 そして──……

 

「う、しゃあッ!!」

 

 雄たけびと共に拳を地面に振り下ろした。

 

 空気との摩擦でナックルガードが赤熱し、地面に直撃した瞬間に砕け散る。

 

 そして地面が爆裂した。

 

 比喩ではなく、本当に爆裂したのだ。

 

 石や砂、木切れ、そして衝撃波が周辺の墓石を粉砕し、ぶっ飛ばしていく。

 

 無数に立ち並ぶ大小の墓石の影にはモンスターが隠れていたのだが、残念ながら歳三を奇襲することは出来なかった。

 

 骨人という中までみっちり骨が詰まったモンスターはばらばらになって吹き飛ばされ

 

 屍人という所謂ゾンビもグチャグチャになって吹き飛ばされ

 

 墓石の群体ともいうべき無機物系のモンスターも木っ端みじんになって吹き飛ばされた。

 

 歳三の拳が直撃した地面はまるでクレーターだ。

 

「肩の切れ、良し。肩こりも大丈夫そうだ。ダンジョンなら平気なのはどういうワケなんだろうな。まあいいか……さあ、出てこい、毛むくじゃら。地面は均しておいてやったぜ。俺と、()ろう」

 

 歳三は言うが、雑司ヶ谷ダンジョンのけむくじゃらこと、イレギュラー指定「毛羽毛現(けうけごん)」は出てこない。

 

 仕方がない話ではあった。

 

 イレギュラーというのは、イレギュラーなんだからイレギュラーなのだ。

 

 遭遇する確率よりしない確率のほうが遥かに高い。

 

 待てども待てども、お目当ての相手は出てこない。

 

 だめか、とため息をつく歳三。

 

「もう少し奥に行くか。それかいっそここを全部更地にしちまうか」

 

 そんな事を言っていると、Sterm端末がメッセージを受信する。

 

 歳三がそれを確認すると──……

 

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 ・

 

『佐古さん。これから池袋で会えたりしますかね?』

 

 差出人は金城 権太であった。

 

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