(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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巣鴨プリズン②~歳三の場合~

 ◆

 

 挑むと決めたのならば、と歳三はStermの依頼掲示板に目を通す。

 

 実生活は甚だ気の利かない歳三なのだが、ダンジョン関連では多少気を回す能もある。

 

 見れば、巣鴨プリズンダンジョン関連の依頼も僅かではあるがアップされていた。

 

 ちなみに依頼は複数でも同時に受注することができるが、問題はそれを達成できるかどうかである。

 

 一旦受けた依頼を破棄するとなるとペナルティが課せられたりする。

 

 破棄に至る経緯に情状酌量の余地がないとなると、場合によっては刑事罰を受けたりもするのだ。

 

 自分の実力と依頼の難易度を照らし合わせ、達成可能かどうかを判断する能力は探索者にとって必須といえよう。

 

 もちろん歳三にそんな能力はないため、明らかに簡単に達成できる依頼以外は受けないで来たのだが……

 

「やっぱりよくわからねぇな。今井さんに聞いてみるか……」

 

 と、早々に自己判断を諦めて端末を手に取る。

 

 実のところ歳三も "難関ダンジョンである" という話くらいは聞いた事があるものの、巣鴨プリズンダンジョン自体には行った事がないのだ。

 

 友香に目を通してもらい、歳三に可能な依頼を選別してもらう──……それが歳三の思惑である。

 

 友香からの連絡は先の探索以降は来ていない。

 

 専属オペレーターの中には担当する探索者と個人的な関係を深める者もいるが、あくまで仕事のみの関係に留める者もいる。

 

 友香は後者だ。

 

 ◆

 

 う~ん、と今井 友香は伸びをした。

 

 その表情はお世辞にも機嫌良くは見えない。

 

 ここ数日、今井 友香は歳三に仕事を振る事ができていない。

 

 理由はいわずもがな、協会が割れた事に対しての余波である。

 

 前協会長望月が去った事で、後を追う様に協会を辞していった上級の探索者が少なからず居たのだ。

 

 ダンジョン探索者協会は全国の企業、個人から数多の依頼を受注し、それを探索者に振っているのだが、難関ダンジョンの素材を手に入れる事ができる探索者の絶対数が減ると、それだけ依頼達成の効率が下がる。

 

 効率が下がれば依頼者からの信頼を失い、別の探索者組織へ仕事が振られたりもするだろう。

 

 それはバックに日本国を据えている協会にとっては甚だ不都合な事であった。

 

 国としては探索者協会という組織を通じて探索者達を管理し、国が抱える武力として取り扱いたいという思惑があるからだ。

 

 ・

 ・

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 協会から宛がわれたオペレーションルームから退室し、廊下の自動販売機でホットコーヒーを買う。

 

 ──何だか疲れたなぁ

 

 そんな事を思うが、疲れの原因は明らかだった。

 

 担当探索者が増えたのだ。

 

 歳三の外に、丙級探索者が一人、そして丁級探索者が二人。

 

 合計4人である。

 

 本来、専属オペレーターというのはマンツーマンが基本とされていたが、人員調整の為にこれは仕方がない措置であった。

 

 ともかくも友香はこの四人の探索プランを練る必要がある。

 

 しかも、歳三はともかくとして他の三人が非常に、なんというか──……

 

 ──個性的、なんですよねぇ~

 

 何となく温かい缶を頬に当て、友香はため息をついた。

 

 あれはいやだこれはいやだ、危ない危険だデンジャーです、そんな理由でプラン設定が難航し、歳三用の難易度ルナティックな探索プランを練る事ができないでいた。

 

 頬がほかほかと温まり、多忙で瑞々しさを失った心が気持ち癒される。

 

 友香は何となく他の三人の一人、一番面倒くさい丙級探索者の男の事を思い出した。

 

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 ──『いや、この先に進むべきじゃねえな。俺には分かる。風が、囁いてる。"危機" ってやつを。優れた探索者にしか聴こえない囁きだ』

 

 ──『いや、その依頼は別の奴に振ってくれ。俺は生物系のモンスターは好きじゃねえんだ。モンスターの血の匂いがついちまう。あ? 潔癖症? ……違うね。血臭は俺の中のウルフを目覚めさせ……おい、聞いてるのか?』

 

 ──『おい、アンタは桐野のヤロウから何か言い含まれてるんじゃないのか? 俺に何かをさせたい、そんな精神の波動を感じるぜ』

 

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 ・

 

 担当した丙級の男は、始終そんな調子でしゃべくり散らす。

 

 男は思わせぶりな事ばかりいうが、友香には何となく分かるのだ。

 

 "コイツは適当に思いついた事を適当に口走ってるだけだ" と。

 

 感覚でそれが分かるのだが、その言が的を射た事も多々ある為にどうにもやりにくい。

 

 逆に、と友香は歳三の事を考えた。

 

 歳三は逆に聞き分けが良すぎる部分がある。

 

 アレを受けて──ハイ

 

 これがお勧め──OK

 

 もう少し奥部まで探索しよう──YES、YES、YES

 

 何でもかんでも受け入れてしまう。

 

「それはそれで何となく歯ごたえがないんですけどね。まあいいか」

 

 これほどの強者が死を感じる程の試練、修羅場、そこを乗り越えてより強く美しく輝いた瞬間を目に収める事が出来たなら、と友香は思う。

 

 ──その時は、死んでもいいかも! 

 

 と、やや不穏な事を考えた所で端末が震えた。

 

 ◆

 

「えええ~!? 巣鴨プリズン!?」

 

 友香は思わず大声を出してしまった。

 

 無理もない、巣鴨プリズンダンジョンは特殊なダンジョンである。

 

 探索者稼業をしていく上で、天然自然に「さあ巣鴨プリズンダンジョンへ行こう!」とはならない。

 

 通常は考えもしない、いや、考える事が出来ない様になっている。

 

 もし探索者が巣鴨プリズンダンジョンへ行こうなどと思い立ったのならば──……

 

 友香は慌てて歳三へ通話を要請し、声を押し殺して端末越しに問いかけた。

 

「佐古さん、もしかして何かやらかしました……?」

 

 端末の向こうで歳三の「ウッ」という声が聴こえる。

 

「どうして、それを」

 

 歳三の疑問に、友香は刺々しい声で答える。

 

「罪人しかあそこに行こうとは思わないからですよ、そういう場所なんです。つまり巣鴨プリズンへ行こうとした時点で佐古さんは犯罪者なんです。何をしたんですか?」

 

 その後しばらく沈黙が続き、やがて観念をしたように歳三の沈鬱な声が返ってきた。

 

『俺は……一人の女性の人生を、壊したンです』

 

「それは……性犯罪ですか?」

 

『……へぇ』

 

 よりにもよってレイプか、と友香は俯く。

 

 人生を壊す程の性犯罪、これはもうレイプか、それに準じる何かであることは明白だった。

 

 探索者による一般人のレイプは重罪だ。

 

 場合によっては "処理" される恐れもある。

 

 それ以上に、友香にはレイプを格別忌み嫌う理由があった。

 

 痛々しい沈黙が二人の間を流れ、友香はぽつりと言った。

 

「ただ力を振るう事だけを覚えましたか……。残念です。佐古さんとはもう一緒にやれません……」

 

 でも、と友香が続ける。

 

「佐古さん、あなたは女性の天敵の様な存在です。しかし自分の行いを悔いる程度には救い様があるみたいですね。巣鴨プリズンの影響圏内に在りながら自身の良心に何の痛痒も覚えない人もいます。それこそが真の悪といえるでしょう」

 

 歳三は答えない。

 

「……佐古さん、私からの最後のお仕事を依頼しても?」

 

『へい』

 

「巣鴨プリズンダンジョンの最奥部で "在監証明書" が受け取れる筈です。それを受け取り、戻ってきてください」

 

 在監証明書とはこの人物は〇〇~〇〇の期間、刑務所に居ましたよと証明する書類である。出所した際、各種の身分証明書が失効していても、この在監証明書があれば福祉の援助を受ける事ができたりする。

 

 巣鴨プリズンダンジョンに於いてそれは禊の証だ。

 

 歳三に否やはない。

 

 自身の抱える闇と向き合う時が来たのだ。




ここ数日、短篇を2本書いてます。
どっちも恋愛?系だとおもいますが、そっちもよければ読んでくださーい。

愛、螺旋(現代恋愛)
常識的に考えろ、と王太子は言った(異世界恋愛)
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