(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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閑話【ある日のモブ探索者~暴露系配信者ポレポレ~】

◆◆◆

 

「はい、それではですね。皆さん今回はですね。ダンジョン探索者協会の大手探索者チームのリーダーから被害を受けたと! そういう相談者さんがいるんですね。とりあえず配信にあがってきてもらいましょう」

 

 ディスプレイの向こうで、ふくよかな体躯の男がさも大事件が起きているかのように言った。

 

 男の名前は "ポレポレ" という暴露系ミューチューバーだ。

 

 これでいて一応は探索者としての経験もある。

 

 ぽよとした肉体は暴食と暴飲の結実であり、研鑽の後は全く見られない。

 

 まあ探索者のいわゆる "見えない筋肉" は外見に現れない事も多く、見た目だけで探索者としての格を量る事は難しいのだが。

 

 ・

 ・

 

 ひらりんマン: いつもの

 

 

 StarGazer101: こっわ

 

 

 お茶: 痩せろ豚

 

 

 笑顔のマーチ: !? 

 

 

 TAKUMI_no_takumi: さすがチュバップ、探索よりも配信かよ。これは配信者の鑑。探索者の屑

 

 ・

 ・

 

 配信が始まると、早速リスナーがコメントをし始めた。

 

 ポレポレはトーク力や盛り上げ方が優れており、多くのリスナーから支持されているのだ。いつの世もゴシップ好きな者は多いという事だろう。

 

 ちなみに"チュバップ"とは配信者を貶める蔑称である。

 

「はじめましてポレポレですー。それで今日は相談があるという事なんですが……」

 

 ポレポレが尋ねると、相談者がややかすれた声で話始めた。

 

 声には張りがなくオドオドとしている。

 

「はい。実はチームから追放されてしまいました。突然の話で……ある探索の後、呼び出されて……。私も困惑しました。理由を尋ねたところ、役立たずで何もしていないからと言われたんです」

 

 ポレポレが尋ねた。

 

「要するに雑用だったわけですね? その内容に関して、お互い同意の上で契約を結んだのですか?」

 

 女性は消え入る様な声で答える。

 

「はい、そうです。戦闘は苦手でしたので、その代わりに細かい作業を担当することになっていました。探索日程を組んだりとか、遠征になりそうなら宿の手配をするとか……」

 

「なるほど、そのような契約を結んでいたにも関わらず、突然契約を破棄されたというわけですね?」

 

「はい、そうです。でもそれだけなら相談はしていませんでした。追放された後、他のチームに入ろうと思っていたんですけど、全部断られてしまって……。チームのリーダーが私の悪評を広めているようで、どこも私を受け入れてくれません。それが今回相談に上がった理由です」

 

 ・

 ・

 

 ひらりんマン: 協会さんさぁ

 

 ゼフィたん: また虚言BBAじゃないの

 

 tuge: なんてチーム? 

 

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 ・

 

 ポレポレは相談者から提供された連絡先に電話をかけた。

 

 しばらくして、快活な声を持つ一人の男性が応答する。

 

「はい」

 

「どうもはじめましてポレポレと言う者なのですが、今回ですね──……」

 

 ポレポレが男に事情を説明すると男性は、「事情は理解しました。ただちょっと事実とは違う部分があるんですが……」と答える。

 

 声は苦々し気だ。

 

 ポレポレは男の声の調子から、「ああ、これはいつものかな」と思い始めた。

 

 ポレポレの配信には多くの相談者が訪れるものの、相談内容と実情が一致することというのは余りない。

 

 相談者が相談する際、何かしら自身に有利になるような虚偽を織り交ぜる事が多いのだ。

 

 ポレポレがその辺を指摘することで配信は盛り上がり、リスナー達が沸く……これが人気のコアのような部分であった。

 

 男は言う。

 

「実は私はそこの相談者さん、いやそこの女からストーカー行為を受けていまして」

 

 男がそう言うと、ポレポレは「えっ?」と驚いたような声を上げた。

 

 コメント欄もざわめきたつ。

 

 相談者の女は「いや違うんです。そうじゃなくて」などと弁解じみた声を上げるが、ポレポレが「しぃーずぅーかーにぃ! まずはお二人から話を聞いてみたいので、相談者さんは黙っててくださいね」と一喝した。

 

 それでもなおも相談者は「話を聞いてください」などと言う。

 

 するとポレポレは、「黙れBBA! 話を聞くのはお前だよ!」と罵言を吐いた。

 

 ポレポレがこうした口が悪い対応をすることは珍しくはない。

 

 それに対して眉をひそめるものも多いが、これがポレポレの配信だよとばかりに喜ぶ者もまた多い。

 

 男は続けた。

 

「彼女は元はといえばチームメンバーの紹介でチームに入ったんです。彼女は丁級探索者なんですが、本来私たちのチームは丙級探索者以上を対象としたチームで、丁級の探索者は受け入れてないんです。 ただ、その縁故採用と言いますか、コネと言いますか……チームメンバーの紹介ということで、今回その、特別に下積みという形で受け入れた受け入れたんです」

 

「なるほど。そういった形でメンバーを受け入れるチームは珍しくはないですが、とりあえずここまでは特に問題なさそうですね」

 

 ポレポレは男の言葉に頷きながら答えた。

 

「はい。問題はそこから先で、チームとして活動していく上で何かと面倒を見ていたら──……その、彼女が私にその、自分で言うのもあれなのですが、男女の情と言いますか……恋愛感情を抱いてきまして。つまり、告白されたんですよ。ただ、私としてはその、 "そういう目的"でチームに入れたわけじゃなくて、あくまでも 探索者としての関係に留めたいと、そう思っているんですね。だから断ったのですが、そこから段々と様子がおかしくなってしまって」

 

 男はため息をついてそう言った。

 

 ・

 ・

 

 お茶: あるある

 

 ひらりんマン: こういうのがあるから性別縛るチームも珍しくないんだよなあ

 

 maimai.4: 男女混合でも恋愛禁止の規則を取り入れてるチームとか多いよね

 

 ・

 ・

 

「なるほど、ですね。ええと、詳しく話してもらえたりはしますか?」

 

 ポレポレがそう言うと、男は「ええもちろんです」と答えて更に詳しく説明をした。

 

 ◆

 

「もともと控えめな女性だと思っていたんですが、だんだんと積極的になっていったといいますか……。特に頼んだ覚えもないのにお弁当を作って持ってきたり、オフの日には 私用の連絡を何度も入れてくるんですよ。内容は大した話ではないのですが、私の個人的な趣味嗜好、そういったものを確認するような意図が見え隠れする質問などが多かったです。うちのチームはチーム内の恋愛を禁止しています。それは彼女にも伝えているのですが」

 

 男がそこまで言うと、ポレポレは「ええと、それはリーダーさんの何と言いますか、自意識過剰ということではないんですか?」と尋ねた。

 

 男は答える。

 

「もしかしたらそうかもしれません。ただ、探索者としての活動に関係のない質問があまりにも多くて。それに明らかにデートの誘いと言えるような、まあ個人的な誘いが 散見されるようになりまして。私もチームの運営をしている以上、決めたルールは率先して守らなくてはいけませんし、彼女に釘を刺すような形で伝えたんです。 "そういうこと"なら自分にその気はないので探索者としての活動、チームの一員としての活動に専念して欲しいという様な事を伝えたんです。すると彼女は "もちろんわかっています"と答えました。単純に仲良くなりたかっただけだと、そのようなことを言っていました。それならと私も安心して普段と変わらない対応を彼女にしていたのですが」

 

 ・

 ・

 

 お茶:不穏になってきて草

 

 GAIA777: 俺のチームは女もいるけど問題はねぇぜ。チームの運営能力の問題じゃねえの? 

 

 お茶: 隙あらば自分語り

 

 ひらりんマン: お前のトコの女って元男じゃん

 

 ・

 ・

 

「ある日、彼女が急に私を夜に呼び出しまして。どうしても話したいことがあるからとの事でした。その頃には彼女もチーム内でプールしているお金をある程度触れるような仕事をしていましたし、私としては最悪の事態──……まあ、つまり横領のようなことを想定してちょっと身構えていたのですが。いざ会ってみると内容は全く違うものでした」

 

 ポレポレがここで口を挟む。

 

「ああ、つまり、そこでその告白をされたみたいな感じですか??」

 

 男は答えた。

 

「ええ、そうなんです。私はチーム内の恋愛禁止と仮にチームに所属していなかったとしても、男女の関係になるつもりはないということを伝えました。というのも、私にはその、まあ好きな人がいまして。その辺はあまり詳しくは言いたくはないのですが……」

 

「はい、その辺はプライベートなことなので言う必要はありません」

 

 男は安心したように軽く息をついて、話を続けた。

 

「彼女は私がそう言うと、その時は納得したように見えたのですがそれから無言電話や、こまごまとした私物がなくなったりとか、あとは私に関する悪評が協会内に流れたり……そういったことが起こりまして」

 

「悪評!?」

 

 ポレポレがオーバーリアクション気味に言う。

 

「はい。本当にこれは根も葉もないことなのですが、私が丁級や戌級の女性探索者に多数声をかけて、気持ちを弄んだりだとか、変な話、その、やり逃げのようなことをしているといったような名誉を貶めるような悪評なんですよ」

 

 ポレポレは「それは相談者の女性が流したものなのですか?」と尋ねた。

 

 男が答える。

 

「結果的にはそうなります。 状況を把握した当初は確証はなかったのですが、やはり度が超えているということもあり、知り合いのPSI能力者に協力を頼んで心当たりのある相手数名と接触してみたんです」

 

 ほうほうほうほうポレポレは何度もうなずく。彼が頭を振るたびに顎の下の肉がそのたびに揺れていた。

 

「PSI能力者と言いますと、やはりマインドリーディング系の方ですか?」

 

 マインドリーディング系のPSI能力者とは、要するに読心能力者のことだ。上級者ともなるとかなり正確に相手の考えていることがわかる。ただこれは非常に繊細な能力で、技術的にもかなり高度なので扱える者は少ない。

 

 協会は大きな組織だが、マインドリーディング系の能力者というものはそれほど多くは在籍していない。

 

 男は答えた。

 

「まあそこまで高位の能力者ではないので、真偽判定がそれなりの精度でできる程度に留まるのですが」

 

 男は続けて言う。

 

「それで結果的にはその彼女が、まあこう言うとあれなのですが、すべての元凶であったと。 私はその辺の事情も彼女に問いただして確認を取りました。すると彼女もこれ以上嘘はつけないと思ったのか、自分のやったことを認めたんです。私は表沙汰にしない代わりに、彼女をチームから外す決断を下しました。彼女がやったこと──……協会探索者に対する悪評の流布は、探索者協会の違反行為となります。なので協会に申告すれば彼女は相応の罰を受けることになりますが、私としても彼女はチームメンバーの知り合いということもありますし。チームからの追放で事を収めることにしました」

 

 ・

 ・

 

 maimai.4: せっかく配慮したのに逆恨みされたってことかぁ

 

 お茶: 虚言BBA

 

 お茶: 女って虚言ばかりだよな

 

 お茶: ほんとありえん

 

 ひらりんマン: お茶こわ

 

 ・

 ・

 

「──……ということなんですが相談者さん、どうでしょうか? 最初に相談してもらった事とだいぶ話が変わってきているんですが」

 

 ポレポレがそう尋ねても相談者の女は何も答えない。

 

 ポレポレはやや声を大きくして「もしもーし! 聞こえますか?」とやや嫌味ったらしく尋ねた。

 

 そこへ来て女はようやく「はい、聞こえます」と消え入るような声で答える。

 

 ポレポレはなおも言う。

 

「あの嘘つくのやめてもらっていいですか? 僕の配信、なんか虚言癖持ってる人が多いんですよね。関係者に配信に上がってもらって事情を聞けば、そんな虚言なんかすぐバレてしまうと思うんですが、それでも減らないんです。 まあ相手の男性への好意が受け入れてもらえなくて悲しいというのは分かりますが、だからと言って 嘘ついて悪評を広めて、それはちょっと違うんじゃないですか?」

 

 ポレポレがそう言うと女はでもでもだってと何やら言い出す。

 

「私が持ってきたお弁当とかもリーダーは食べてくれましたし、いろいろと相談にも乗ってくれました。最初から気持ちがなければそういう風に親切にして欲しくなかったです。私だけが悪いんですか?」

 

 女はやや逆ぎれ風味に答える。

 

「黙れぇええ───ババア! なんか一方的ですよ。それ、自分の気持ちをわかってくればっかりで、リーダーさんのこと何も考えてないじゃないですか。あ、もしかして自分のことが良ければ他の人の気持ちはどうでもいいみたいな感じの人ですか? 結局相談者さんが好きなのはリーダーさんじゃなくて、恋する自分のことなんじゃないですか?」

 

 すると女はそんなことないですと反論する。

 

「私は本当にリーダーのことが好きですし。 恋に恋しているわけではありません」

 

 だったらとポレポレが言う。

 

「相手の気持ちや立場をもっと理解しようとしてあげないと。別にリーダーさんだけの話ではないですけど、自分の気持ちだけを押し付けようとしてくる人のね、お気持ちを理解しようだなんて人はいませんよ」

 

 純度が低いよな、純度が! とポレポレが憤る。

 

「その人のことをどれだけ好きか、大切かなんてのはね、自分基準じゃなくて相手基準で考えるもんなんですよ」

 

 女はかすれた声で「そうかもしれません」と答えた。

 

 ポレポレはなおも続ける。

 

「だったらここはリーダーさんに謝罪して、まあ迷惑かけてすみませんと。 そう言って許してもらって、一旦頭を冷やすために距離を取る……そういう感じでどうでしょうか? ここで変にこじれて協会の査問部沙汰になったりすると、相談者さんの将来にも関わりますし、なにより相談者さん自身の恋心を汚す事にもなっちゃうんじゃないですか? それにリーダーさんもその辺のことをあなたにわかってもらいたいから、おおごとにせずに追放だけにとどめてるんじゃないですか?」

 

 ポレポレがそう言うと、女は泣きながら「ごめんなさい」と言う。

 

「じゃあそういう事でね、もうストーカー行為を始め、迷惑行為はしないと。そう約束してくれますか?」

 

 ポレポレが念押しをすると、女は「はい」と答える。

 

 これで配信が終わる──……誰もがそう思っていたのだが。

 

「……最後に一つだけ聞きたい事があります」

 

 女がそんなことを言った。

 

 ポレポレは「ん?」と首をかしげるが、まあ最後ならいいだろうと先を促す。

 

「なぜ私じゃダメなのですか? リーダーの好きな人と私は何が違うんですか? 彼女のどこが私よりもいいか教えてほしいんです。私はどう変わればいいのか教えてほしいんです。私じゃダメでその人なら良いっていう事は、何か選ぶ基準があったと思うのです。その基準を教えてください。私はこれまで、チームのために、リーダーのために頑張ってきました。雑用といってもその内容は多岐にわたります。探索に必要な物資の手配、チームの戦力に応じた依頼の取捨選別、チームへ寄せられる数々の問い合わせとか、そういうものを処理するための窓口的な事もしてきました。前のチームではそういった雑用を評価されなかったけれど、リーダーは私を評価してくれて──……私はとてもうれしかったんです。リーダーは言ってましたよね、チームで活動するっていうのはメンバー全員で一人の強大な探索者になるようなものなんだって。メンバーの一人ひとりが手となり足となり、頭となり、誰一人として欠けちゃいけないんだって。そんなリーダーを慕う人はとても多いです。たくさんの女がリーダーに色目をつかって、その中には悪い考えを抱いていた人もいました。だから私は少しでもリーダーの負担を取り除きたくって、リーダーの悪い噂を流しました。それは悪い事だとは思います、でもそうする事でリーダーの負担が減った事も事実です。リーダーのことをろくに知らないくせに、リーダーがどれだけすごい探索者なのかを知らないくせに、軽い気持ちで声をかけてくる悪い女がどれだけいた事か……」

 

 女は俯きながら延々と語る。

 

「ちょ、ストップ!!! 落ち着いてください! おい! 落ち着け! 落ち着けババア!」

 

 ポレポレが焦りを滲ませながら女を制止するが、女は止まらない。

 

 そればかりか、VCの声が高くなり、低くなり、 聞いているだけで精神の均衡が乱れてくるようなサイコなものになってくる。

 

 ・

 ・

 

 maimai.4: ひえ

 

 お茶: 唐突なホラー展開やめろ

 

 きりきりぼだなん: ポレさん! 配信とめてください、精神干渉系のPSI能力に似たモノを感じます

 

 ひらりんマン: 配信事故

 

 ・

 ・

 

 コメント欄は阿鼻叫喚だ。

 

 リーダーは既に配信から落ちていた。

 

 女はそれに気付かず、べしゃり続ける。

 

 しまった、とポレポレは顔を(しか)めた。

 

 自分の気分がひたすらに沈みはじめている事に気付いたのだ。

 

 まるで長年飼っていたペットの猫が死んだときの様なロス感さえも覚える。

 

 配信で嘘がめくれて逆切れ発狂する相談者は少なくない。そういった相談者をこき下ろす事で一種のカタルシスの解放めいたものを視聴者へ味合わせる──……それが配信の人気だったりもするのだが、触れてはいけない相談者というものもいる。

 

 それがPSI能力者だった。

 

 特に精神干渉系の能力者はまずい。

 

 能力の質にもよるが、彼らは人の感情や意識に深く干渉することが可能だからだ。

 

 能力の影響下にある者を無理やり怒らせたり、悲しませたり、または極度の恐怖を感じさせることも出来る。

 

 極まった能力者ともなると、希死念慮を増大させて自殺を強要することさえも出来る。

 

 配信中にこれをやられると、視聴者や配信者自身に深刻な精神的影響を及ぼす可能性がある。

 

 ポレポレは練達の配信者であるため、相談者の背景はある程度洗い、PSI能力者であるなら相談を断る事もあった。

 

 ◆

 

 ──配信中に能力に目覚めるとか勘弁してくれよ

 

 ポレポレがうんざりしながら打つべき手を模索する。

 

 無理やり配信を止めてしまうというのもアリだ。しかし、それをすると相談者の精神が崩壊する恐れもある。

 

 もうとっくに崩壊してるじゃんという向きもあるにはあるのだが、どれほどイカれたアホたれといえども、不可逆的な不幸に見舞われる事をポレポレは良しとはしない。

 

 この辺の甘さというか、慈悲めいた側面が彼にはあった。

 

 ポレポレはメッセージアプリを起動し、とある人物へヘルプを求める。

 

 相手は "閼伽金(アカキン)" と呼ばれる高野グループの僧にして、ポレポレと同じく配信者稼業で荒稼ぎしている知人であった。

 

 閼伽金は拝金生臭僧であるが、実力は確かでこれまでに数多くの心霊インシデントを解決してきた実績がある。

 

 だが除霊稼業は危険を伴い、時には心身に大きな傷を負う事も珍しくはない。そこへきて閼伽金はリアリストでもあるため、僧を辞めた後のことも考えていた。

 

 それが配信者稼業だ。

 

 ・

 ・

 ・

 

 ヘルプの連絡をいれてから数秒後、配信画面には四角い顔をしたふくよかな男が映りこんだ。

 

 年のころは30そこそこか。

 

 僧衣に身を包み、やけに大きい眼鏡をしている短髪の男であった。

 

 彼こそが閼伽金である。

 

 腕に光るロレックスは大変異前の貴重な一品。

 

 今では金を積んでも手に入らない代物だ。

 

 閼伽金は満面の笑みを浮かべながら画面に向かって言う。

 

『霊力ぎゅんぎゅん、ヤッホー! ミューチューブ、閼伽金です!』

 

 これはただの馬鹿みたいな挨拶ではない。

 

 精神鎮静の念を込めたPSI能力起動の真言である。

 

 高野グループ所属の僧は皆、 "真言" に能力起動の詳細な条件を設定しているのだ(魔胎⑧~半月~参照)。

 

 途端、声に乗せられた精神鎮静のPSI能力の波動が相談者、ポレポレ、リスナーをクールダウンさせた。

 

 相談者から放たれる身の毛がよだつ様な錯乱じみた声も鳴りを潜める。

 

 静かになった配信画面には、ただポレポレと閼伽金の顔が映るのみ。

 

 相談者は放心状態にあった。

 

 その沈黙を破ったのはポレポレの重いため息だ。

 

「ありがとうございます、閼伽金さん」

 

 閼伽金はにっこりと笑って、ポレポレの礼に答える。

 

「いえいえ、こちらこそ呼んでいただいて。いやあそれにしても大変でしたね、やっぱりねー、好きって気持ちは中々抑えがたいですからねー」

 

 ポレポレは苦笑し、相談者へと語りかけた。

 

「相談者さん、落ち着きましたか? 心中お察しします。ていうか、マジで勘弁してくれよ、命ネタも嫌だけど発狂ネタも困るんですよね。まあいいや、辛いのはわかりますし。今のところは実害もないですしね。話なら聞きますから、僕が。僕はほら、虚言BBAとか発狂BBAとかにも慣れてますからね」

 

 冗談めかしていうポレポレに、画面の向こう側の相談者が小さな声で答えた。

 

「すみません、ちょっと取り乱してしまって……本当に申し訳ありませんでした」

 

 ここで閼伽金が柔らかく微笑みながら応じる。

 

「大丈夫ですよ、人間誰しも感情の波はありますから。しかしここは一つ、深呼吸して、心を落ち着けましょう。過去は戻ってきませんし、変えられませんから。変えられるのは現在と未来だけです。よりよい未来を呼び込むために、少しでも現在をよくしましょうや。僕らもお手伝いさせていただきますよ、ところでポレさんは相談者さんの事をBBAとか言っていますけど、おいくつなんですか?」

 

 閼伽金が言うと、ポレポレは苦笑いしながら答えた。

 

「28だったかな? 年齢だけならBBAじゃないんですけど、僕は僕の話を聞かずに一方的にお気持ち表明する女は全員BBAって呼んでるんです。男ならGGIですね。いまはちゃんと話きいてくれそうだし、BBAじゃないですよ。あ、スパチャありがとうございます」

 

 緊迫した雰囲気は既に失せて、雑談配信の様相を呈している。

 

 リスナーたちも二人のノリにあわせて、なるべくマイルドな言葉を選んで茶々をいれたりしていた。

 

 ・

 ・

 ・

 

 今回も無事に終わりそうだ、とポレポレは胸中で息をつく。

 

 この時代、配信者稼業も結構色々あるのだ。

 

 場合よっては配信者、リスナーがまるっとメンタルブレイクして精神病棟へ放り込まれる事すらある。

 

 それでもポレポレは配信者稼業をやめられない。

 

 ポレポレは何処か満足そうにコメント欄を眺め、相談者が話すどうでもいい自分語りを聞きながら、同接を確認し、うんうんと頷いた。

 

 人間の生々しさというか、リアルな台本のないドラマが配信にはある。

 

 ポレポレはそれがたまらなく好きで、ゆえに危険だとわかっていても配信者稼業から足を洗う事ができないのだった。

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