(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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ある日歳三はテレビでメジャーリーガーの小谷の結婚ニュースを見た。結婚──突きつけられるその二文字に、歳三は己の "リアル" を思う。

今はダンジョンがあるからいい、しかし戦えなくなったその時、老後はどうなる?たった独り、マンションの一室で寂しく背を丸めて日々を過ごす事になるのだろうか?

そんな想像に言葉にできない怖気を感じた歳三は、己がもっと強くなればきっとうまいかんじで人望なども集まって、もう少しまともな老後が過ごせるかもしれないと思いつく。

男をもっと磨く必要がある──そのために必要なものは試練だ

そう考えた歳三は手頃な高難易度ダンジョンについて調べ、巣鴨プリズンダンジョンへ挑戦することを決意する。

そのことを専属オペレーターである今井友香に告げたところ、友香はなぜか歳三の犯罪歴について尋ねてきた。

歳三は素直に過去の痴漢の一件を明かすが、伝え方が悪かったために友香は歳三が強姦、もしくは強姦殺人をやらかしたことがあるのだと誤解してしまった。

巣鴨プリズンダンジョンは "罪人" を誘引する力が あり、歳三もまた罪の意識に苦しめられていると考えた友香。

本来、強姦犯など去勢した上で首もついでに叩き斬ってしまえと思っている彼女だが、巣鴨プリズンダンジョンに "赦された" ならば、と歳三に対する最後の依頼になるかもしれないと思いつつも "在監証明書" を持ってくるように依頼をする──・・・

(巣鴨プリズン編、簡単なまとめ)



作業所エリア①

 ◆

 

 歳三と蒼島は先を急ごうと歩を進めていく。

 

 一歩また一歩と踏み出すたびに、ダンジョンに入場して以来感じていた重圧は少しずつ軽くなっていった。

 

 それは歳三はもちろん、蒼島も同様である。

 

 歳三の姿に強者のあり方を見出した蒼島は、一皮剥けたというか、開き直りに近い心境の変化を経ていた。

 

 ──弱いということは、それだけで罪だ

 

 つまり、精神寄生体のような卑小な存在に乗っ取られ、肉体を奪われたオペレーターの女性はその弱さゆえに罪であるし、そんな弱者を救うことができなかった自分自身も許されざる罪人だと感得した。

 

 この心の変化が、蒼島に及ぼしていた巣鴨プリズンダンジョンの精神縛鎖を打ち砕いたのだ。

 

 更生とは好ましくない生活態度を改めること、事件や事故を引き起こした犯人が二度と同じ過ちを繰り返さないようにすることを意味する。

 

 蒼島のそれが更生と言えるかどうかは甚だ疑問だが、少なくともこのダンジョン脱出のための特殊な条件を満たしたことは事実であった。

 

 ちなみに歳三の場合は──……

 

 ──てっこやてっぺいはどうしているかなぁ。金城の旦那も協会があんなことになっちまって、色々苦労してるんだろうか。俺も何かできる事があればいいんだがよ……。聞いてみるか、待ってるだけじゃあガキの使いだぜ

 

 特に心境の変化は見られないが、マリを救おうと慈悲の心で木端微塵にしてやったことが、どういうわけか巣鴨プリズンダンジョンに認められ脱出の条件を満たしている。

 

 しかし条件を満たしたからといってすぐに出て行けるわけではない。条件を満たせば本来の力を発揮できるようになるが、この領域から出て行くためには"在監証明書"(巣鴨プリズン②~歳三の場合~参照)が必要だ。

 

「なあ蒼島さん、俺たちは今牢屋の、あー、エリア? から出ていこうとしてるんだよな。それはいいんだけどよ、俺は"在監証明書"ってのが必要なんです。オペレーターの今井さんから依頼されてて……。蒼島さんは "在監証明書" がどこにあるか知ってますかね?」

 

 歳三が後ろを振り返りながらそう尋ねた。

 

 ◆

 

 在監証明書か、と蒼島は考えを巡らせる。

 

「在監証明書というのは、刑務所に入所していた事実を発行してもらう証明書のことですが……今井さんというのは今井友香さんのことですか?」

 

 蒼島の表情はやや渋い。

 

 それも当然だった。

 

 根が事前情報至上主義者である蒼島は今井友香を知っている。

 

「死神」や「セイレーン」、さらには「猿の手」といった不気味なあだ名がつけられているひどい女だ。

 

 友香は元々、ある政治家が有する私兵部隊のオペレーターをしていた。その政治家は副会長派と懇意であり、その関係で協会への出向が決まったという背景がある。

 

 彼女は依頼に対する嗅覚が異常に鋭く、私兵部隊に「彼女好みの依頼」を多数振っていた。一言で言えば超高難度の依頼だ。

 

 しかし達成不可能というわけではなく、特殊部隊の面々が全身全霊を懸ければどうにか達成できるだろうという絶妙なラインをついていた。

 

 戦士という宝石が輝くためには血によって磨かれなければならないが、友香が選んだ依頼は部隊員たちの肉体と魂を燦然と輝かせるに十分なだけの流血を伴っていた。

 

 力こそが何よりも重要だというこのダンジョン時代において、100人の屍で1人の精兵が得られるのならば損にはならないというのが大方の見方ではある。しかし、蒼島は違う考えを持っていた。

 

 全身全霊というのは、いつでもどこでも気軽に発揮できるものではない。後先のことを考えてしまえば発揮など決してできないが、そもそも探索というのは後先のことを考えながら行うべきものである。骨が折れて修復される際に強くなるからと言って、車に飛び込むバカがどこにいるだろうか。

 

「ああ、知ってるのかい? 気立てのいい娘さんでね」

 

 歳三の身を案じる蒼島だったが、歳三のナチュラルな返答に自分の懸念は無意味だったと気づいた。

 

 ──この人にとって試練は試練じゃないんだ。なぜなら日常そのものが試練のようなものだから

 

 ◆

 

 歳三に対する尊敬の念を一層強めた蒼島。

 

「在監証明書という名称からして、出るための証か何かでしょう。となると、ある程度場所も絞られてきます。僕はこのダンジョンの地図を記憶しているので、よければ僕も一緒に連れて行ってくれませんか」

 

 もともと牢獄エリアから脱出した後、押収された装備類を回収した後で二人でそのまま脱出するか、あるいは別々の道を進むかは決めていなかったが、ここで改めて蒼島は歳三との同行を希望した。

 

 歳三が言う今井友香が自分の知る人物であるならば、とても安穏無事に脱出とはいかないだろうと気づいたからだ。

 

 自ら試練を追い求める常在戦場の心意気で、蒼島は熱く燃えている。

 

 歳三は「それは助かる」と破顔し、内心である種の感慨を抱いた。

 

 思えば、と歳三はかつての探索の日々を思い出す。

 

 ・

 ・

 ・

 

 ──おい、おっさん! もう少しまともな装備はないのか? 今時、素手でなんて……!? やべえ、大猛毒牙蜥蜴だ! 毒を飛ばしてくるぞ! おっさん、下がれ! ……え? 

 

 ──あのおっさん何なの? 毒を素手で、こう、手をぐるんってさせて弾いてたけど

 

 ──俺、あのおっさんにジュース奢らせちゃったよ、お礼参りされたらどうしよう

 

 ──何考えてるかわからないのが怖いよね。休憩時間もずっと黙ってるし

 

 ──強いのはいいけど、年齢もだいぶ違うし無口すぎるし、俺、あの人がいると息苦しいよ

 

 ──あの~、せっかく協会から紹介してもらったのに申し訳ないんすけど、実は俺たち後衛の探索者を探してて……前衛は足りてるんで、今回はちょっと……

 

 丙級時代、こんな感じで周囲から避けられていた歳三だが、丁級の時も戌級の時も似たようなものだ。

 

 その持ち前のコミュニケーション不全能力のおかげで、歳三は孤独な日々を過ごしてきた。

 

 乙級になる頃には他人(特に女)と会話するだけでも発狂しかけるほど精神状態が悪化していたが、様々な出会いを経て成長することができた。

 

 そして今──

 

 ・

 ・

 ・

 

 ──俺もなんだか少しずつまともになっていっている気がするぜ。蒼島さんを見ろよ、若くてイケメンだ。きっと彼女とかもいるんだろうな。キラキラしすぎてる。以前の俺ならとてもじゃないが話かけることもできなかった。なのに、自然に一緒に探索しようって流れになった。ダンジョンが俺を成長させてくれたんだ

 

 内心で太い笑みを浮かべ、どこかハイになる歳三。

 

「案内助かりますぜ。道中モンスターも出てくるだろうが、そこは俺がしっかりやりますんで」

 

「心強いですが、僕の分も残しておいてくださいよ。ダンジョンで戦えば戦うほど強くなれる。僕ももっと強くなりたいので……」

 

 歳三の言葉に、蒼島が僅かに頬を赤らめながら答えた。

 

 そして「まあでも」と語を継ぐ蒼島。

 

「監獄エリアはもう抜けられるはずです。協会のデータサイトにあがっていた電子地図によれば、そこから先は "作業所" と呼ばれるエリアが広がっているとのことですが……」

 

 ほら、と蒼島が促す先には錆で覆われた大きな鉄の扉があった。




メガテンVV、ワンスヒューマン、ダンジョンボーンとしこたま楽しんできました。また面白いゲーム出るまでは更新しようかなと思います。説明が色々多いですが、間が空いてしまったということで……
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