(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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日常93(歳三、鉄騎、鉄衛)

 ◆

 

 世田谷区の一角にその家はある。

 

 世田谷といえば高級住宅地だが、地域一帯がそうであるというわけではない。

 

 歳三にあてがわれたのは、極々庶民的な民家で、やや古びた感のある木造一軒家だ。

 

 ・

 ・

 ・

 

「で、ここかい」

 

 歳三はじろりと家を眺めた。

 

 悪くない、と思う。

 

 ちょっとした庭までついているのが良い。

 

 その庭にしても豪奢な感は全くなく、雑草がボウボウに生い茂り、ついでに枯れ木が2、3本。

 

 この自己主張の無さが妙に気に入ってしまった。

 

 全体的に見て、しょうもない感じの家だ。

 

 先だっての比呂の家は余りにゴージャスが過ぎ、根がド貧民スラム階級にできている歳三としては落ち着かない事この上なかった。

 

 しかしこの家はどうだ、野球でガイアンツが打線の援護0で完封負けを喫した時など、苛立って壁でも殴ろうものならばそのまま倒壊してしまいそうではないか。

 

「物件情報にアクセスし、間取りなどを把握しました。鍵はありますが、Sterm端末でも解錠が出来ます」

 

 鉄騎はそう言って錆の浮いた鉄製の外門を開き、案内役を買って出る。

 

 そしてやはりこう、しょぼい感じの玄関を指し、鍵穴を隠しているカバーを指さして──「ここへマスターの端末を接触させてください」と言った。

 

 歳三は「ハイカラだねぇ」と死語を飛ばしながら指示通りに端末を当てると、かちゃりと音を立てて電子錠が開いた。

 

 ◆

 

 玄関を開けると、ふわりと漂うのは真新しい木の香りだった。

 

「そういえば内装はリフォーム済みだって今井さんが言っていたな」

 

 歳三が呟くと、鉄騎が即座に説明を始める。

 

「この家の建材はダンジョン素材です。通常の不燃木材よりも更に燃えづらく、経年劣化の速度も大幅に遅くなっています」

 

 不燃木材とは木材に不燃薬剤を注入して不燃性を高めた建築材料だ。

 

 この家に使われているそれは、その不燃木材より遙かに燃えづらい。

 

 具体的に言えばガソリンをぶっかけて火をつけても火災にならない程度には。

 

「そりゃあいいな」

 

 歳三はそう言った所でふと気付いた。

 

 そこまで手を掛けておきながら、なぜ外装は()()なんだろう、と。

 

 どうせなら、まるっと全部新品にしてしまえばいいではないか。

 

 そんな内心を見通したかの様に、鉄衛が説明を付け加える。

 

「訳アリ物件ダカラダ、サイゾ!」

 

 探索者界隈で「訳アリ物件」と言えば、通常は心霊インシデントが発生し、それを何等かの手段で解決した物件を指す。

 

 例えば踏み込んだ者を呪い殺す家だとか、墓地の上に建てたせいで住人が全滅したマンションだとか──そういう物件の根本原因を、探索者なり高野坊主なりが破壊・殺害して、除霊した物件を意味する。

 

「ああ、なるほどね」

 

 歳三は鉄衛の説明に納得したようだった。

 

 一般人にとっては訳アリ物件など有害でしかないのだが、探索者にとっては別だ。

 

 ダンジョン外の死霊、怨霊など基本的には物の数ではない。

 

 言ってしまえば単なる不定形モンスターというだけだし、そういった存在への攻撃手段も昨今の探索者なら持ち合わせている。

 

 ()()幽霊など、ダンジョンの干渉を受けていない分、脆弱ですらあった。

 

 まあ鬱陶しいには鬱陶しいが、そういう些細なデメリットを無視するようなメリットが訳アリ物件にはある。

 

「この辺は安全だってことだな」

 

 歳三が言った。

 

 つまり、歳三は訳アリ物件のメリットを理解しているということだ。

 

「物件のデータに記載されていましたが」

 

 鉄騎が言うと、歳三は中年男性のくせにエヘヘと気恥ずかしそうに笑い、「すまねぇ、読んでなかった」と答えた。

 

 訳アリ物件のメリットはただ一つ。

 

 それはその物件がダンジョン化しないという点だ。

 

 ダンジョンは基本的に人の情念が凝り固まる場所に生成されるのだが、ダンジョン生成にはいくつかの法則、条件がある事が知られている。

 

 その一つに、既に破壊済みのダンジョン跡にはダンジョンが再生成されない事が挙げられる。

 

 心霊現象が起きている物件を放置しておくと、いずれはダンジョンになってしまうという事例はいくつも確認されており、その観点から考えると心霊物件とはダンジョンのなり損ない、または生成途中の状態と言える。

 

 従ってこれを除霊、つまり異界生成の根源を破壊してしまうことで、 "ダンジョンを破壊" という条件を満たす事になる。ゆえにその場所ではダンジョンは生成されなくなる──というのが政府の見解だ。

 

 しかしそれがこの家の外っ面を改装しない理由になるのかといえば、これはなるのであった。

 

 "ダンジョン跡" というのがミソで、完全に更地にしてしまうと再びダンジョン生成のリスクがうまれてしまう。

 

 かつてそこはダンジョンであったという()がなければいけないのだ。

 

「まあ見た目があんまり豪華でも、正直落ち着かねえんだよな」

 

 歳三はそう言いながら、荷物──といってもナップザック程度だが、床に置いた。

 

 ついでにシシドの刀もテーブルの上に放る。

 

「で、だ」

 

 歳三はどかんと座り込み、話を切り出そうとするが──

 

 立ったままの鉄騎と鉄衛に「てっことてっぺーも座ってくれよ、なんだか居心地が悪いじゃねえか」といってくしゃりと笑った。

 

 ◆

 

「それでな、今後の事なんだけど」

 

 歳三は二体を見ながら、自身の考えを告げた。

 

 つまりは富士樹海へ威力偵察をするというアレだ。

 

 話ながらも、ちらちらと鉄騎と鉄衛の下半身に目を遣る。

 

 別に不埒な事を考えているわけではなく、二体の個性が少し面白く感じたのだ。

 

 女性型の鉄騎は人魚座り──いわゆる女座りをしており、男性型の鉄衛は正座をしている。

 

 それぞれ戦闘型、偵察型として作るにあたって、座り方をプログラミングする理由はない。

 

 ないのだが、桜花征機は(無駄な)拘りを大切にしている企業なので、こういった所作の一つ一つにも匠の技が光っている。

 

「反対はしません」

 

「反対ハシナイゾ」

 

 鉄騎も鉄衛も声を揃えてそう言った。

 

 これは実質的には反対の意だったりする。

 

 しかし鉄騎にせよ鉄衛にせよ歳三を主だと絶対視しているので、表立っては反対しないだけだ。

 

 ただその辺の機微に歳三が気付く筈もなく──

 

「よし、じゃあ情報集めを手伝ってくれ。それと富士樹海は甲級だからな……乙級の俺は届出をださなきゃならねえ。す、すまねぇが、そっちも手伝ってくれねぇか……?」

 

 原則、自身の等級より上のダンジョンに挑戦はできない。

 

 これはあくまでも協会の取り決め──ローカルルールであって、別組織や野良の探索者には適用されない。勿論一般人にもだ。ただ、一般人がダンジョンに立ち入った場合、数分と経たずに命を落とすだろうが。

 

 従って協会ではどうしてもという時は申請を出す事になっている。

 

 ともかくも歳三のそんな申し出に二体は──

 

「…………」

 

「…………」

 

 じっと顔を見合わせるのだった。

 

 




ネトコン二次突破しました。

応募総数20,826作品のなかから二次選考を通過した作品は、150作品(全体の約0.72%)となります──とのことで。

もなおじはHJ前期の最終選考まで残って、ネトコン一次突破した時点でどちらかを選ばないといけなかったんでうsが、なんとなくネトコンのほうが偉そうに感じたのでHJを切りました。これがイイ感じでハマったみたいです。

ということでElinで忙しいんですが、ちょっと本編も更新しようかなと思ってます
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