(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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日常95(歳三、金城 権太他) 

 ◆

 

 歳三の申請を協会は当然のように拒絶した。

 

 乙級認定の探索者である歳三には、甲級指定の富士樹海ダンジョンへの立ち入りが許されるはずもない。

 

『マスター、協会は申請を却下しました』

 

 鉄騎がそう告げると、歳三は頭を抱えた。

 

 飯島 比呂との仁義を優先するか、それとも協会への筋を通すのか──どちらを選んでも片方を裏切ることになる。

 

 前者に傾きかける思いはあるが、いままで散々世話になった協会に泥を塗るのも気が引けた。

 

 しかし、悩んでいても埒が明かない。

 

 こういうときこそ報連相である。

 

 歳三は金城 権太にメッセージを送ることに決めた。

 

 すでに権太は協会を離れ、望月 柳丞という前会長に付き従っていると聞くが、それでも歳三にとっては数少ない友人のひとりに違いない。

 

 飯島 比呂らの親が樹海に消えた事、飯島 比呂がいずれ樹海に挑むだろうという事、しかし相手は甲級ダンジョンの中でも特別悪質な事で有名な富士樹海。

 

 ならば自分がいっちょどんなもんか様子を見て、その難易度に応じて飯島 比呂を鍛えてやりたいという事。

 

 これらを小学校三年生並みの文章力で書き連ね、ポンと送信。

 

 メッセージを送ってしばらくすると、権太から通話要求が届いた。

 

 歳三が応じると、端末越しに聞こえてきたのは多少のざらつきを帯びた男の声だ。

 

 ──金城の旦那、大分疲れてるみたいじゃねえか

 

『佐古さん、とりあえず話は分かりました。実の所、我々も佐古さんに声を掛けようと思っていた所なんです。会長は……ああ、望月前会長は各地に散った甲級の探索者に招集をかけていたのですが、全てとは言わないものの、極少数は応じてくれました。それにしても……そうですか、お友達ができましたか』

 

 その言葉を聞きながら、歳三は思い出す。

 

 ──権太の旦那が以前、富士樹海がどうのと話していたのはこれだったのかもしれない。力を貸してほしいというのは、つまり富士樹海へ行く算段のことだったわけだ

 

『協会を首になるということはありませんよ、どのみち裏で繋がっている話ですから。上層部に話は通しておきます。来てくれますか、富士へ』

 

 権太がそう持ちかけてきたとき、歳三の心は決まっていた。

 

『行きますぜ』

 

 こりゃあ威力偵察じゃ終わらなそうだとは思いながらも、歳三は首肯した。

 

 富士樹海へ──比呂のために。そして、それは同時に協会と真っ向から衝突することではないらしい。

 

 権太がそう保証してくれるのなら、歳三としてもありがたかった。

 

『ではその前に、一度会長に会ってもらいましょう。本当ならもっと早く面通しくらいはしていたはずなんですけれどね。ところで、佐古さんはやはり今でも会長を恨んでいるのですか?』

 

 権太の問いかけに、歳三の頭の中は「?」で一杯になる。

 

 恨むも何も、望月 柳丞という男になど会ったことはない……少なくとも歳三はそう思っていたからだ。

 

『いや、恨むってどういう……その、会長さんでしたかね、その人が俺に何かしたんですかい?』

 

 その返答に権太はしばし沈黙して、やがて口を開いた。

 

『覚えていない……いや、まさか。あのう、佐古さん、つかぬ事をお尋ねしますが、望月 柳丞という名のお知り合いはいませんか?』

 

『ああ、小さいころ世話になった、まあ恩人というか……センセイというかね、そんな感じの人ですが。なんで金城の旦那がご存じなんで?』

 

 そこまで言われて、端末の向こうで権太は軽く息を吐いた。

 

 ──ああなるほど、佐古さんが会長に一向に連絡を取ろうとはしなかったのは……

 

 要するに気付いていなかったからだ。

 

 しかしそんな事があるだろうか? 

 

 協会会長望月 柳丞の名前も顔も、メディアではいくらでも出てくる。

 

 なんだったら協会が発刊する雑誌『月間 探索野郎』でもよく表紙を飾っているではないか。

 

 2、30年もの間、全く気付かないなんて馬鹿な話があるか? 

 

 権太は頭を抱えるが──

 

 ──あるんでしょうな、佐古さんですし……。それに望月さんも望月さんだ

 

 望月は歳三の前から忽然と姿を消した手前、てっきり恨まれているものと思い込んでいた。

 

 後から調べた話によると、望月が転校という名目で失踪したあとの歳三は同級生たちから壮絶ないじめを受けていたらしい。

 

 それまでは歳三の異様な容姿や独特の精神性が嫌われていたにせよ、望月が防波堤となっていた間は大事には至らなかった。

 

 ところが望月の突然の失踪によってその支えを失い、歳三は集中砲火を浴びるようになったのだ。

 

 いじめというか、もはやリンチのようなものである。

 

 なぜそこまでいじめが激烈だったかと言うと、当時の歳三はナメクジ並みの戦闘能力・身体能力で、はっきり言ってしまえば生物として弱い。

 

 その弱さが嫌悪されたのである。

 

 ダンジョン時代以前ならばそういった理由でいじめられる事は早々なかった。

 

 だが、ダンジョン時代以降は世界規模で人々の価値観が変わってしまったため、弱いと言う事に対してより強い拒否感を持たれるようになってしまった。

 

 ともかくもそういった事情もあって、望月は歳三が一向に連絡を取ってこないのは自身を恨んでいるからだと思い込み──

 

 ──数十年の不干渉が続いたわけですな。アホですな……

 

 お互いいい年なのになぁ、とおもいつつも。

 

 権太は歳三と望月の面通しのセッティングの段取りをするのであった。

 

『ま、まあとにかく。じゃあそうですな……早速明日にでも六本木で会えませんかな。18時くらいはどうです?』

 

 権太の言葉に、うおっとのけぞる歳三。

 

 六本木──ギロッポンは銀座と並ぶ "お高い" 世界だと歳三は認識している。

 

 高いとは物価ではなく、なんというかレベルだ。

 

 存在のレベルが高いと歳三は思っている。

 

 歳三の如き陰の者には余りにも煌びやかな世界であり、ただそこにいるだけでも自己肯定感がバリバリと削られていくのだ。

 

『な、なるほど六本木。大丈夫ですぜ、時間は……』

 

『でしたらよかった。いや、まあ個室がある店で面通しをしますので大丈夫。服装とかもいつも通りで構いませんよ。なんだったら探索用のボディスーツ……は不味いですな、まあスーツが無難ですが無ければジーンズにシャツかなにかでも……』

 

 スウェットは駄目なのかとは流石に尋ねなかった歳三であった。

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