(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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しょうもなおじさん、ダンジョンに行く⑥

 

 

力が逃げる――土門の関節と内部構造が衝撃を巧みに分散している。

 

それを闘争者の本能で敏感に感じ取った歳三。

 

同時に、その磨き抜かれた業を破るには自身のそれでは足りないとも悟った。

 

──でもよ、全然足りてないわけじゃねえんだよな

 

歳三はちらと土門の頭部のへこみを見る。

 

土門はそのメカニカルな口元を吊り上げ、薄く笑う。

 

「儂を倒すには、その程度の拳じゃ力不足じゃな」

 

歳三はその言葉を受け、わずかに唇の端を歪める。

 

「確かにな」

 

そう、自分では力不足だ──だったらどうすればいい。

 

悩みの解決を求める歳三の脳裏に、ふととある言葉が甦る。

 

 

『どうしたんだい、そんな顔しちゃって。その顔は……悩みがあるのかな。なるほどね、全然友達ができない……か』

 

でもね、と望月少年は言う。

 

『どんな事でもそうだけど、悩んだ時、困った時こそ地に足をつけて進めていかなきゃね。特に友達作りなんていうのは、パッとは出来ないものだよ。一つずつ……積み木を積み上げるみたいにしてさ』

 

 

それは教えというには余りにささやかな助言ではあったが、歳三の脳裏に閃くものがあった。

 

──なるほど、一つ一つ……つまり地道にやれって事か

 

要するに、たった一度失敗したくらいで諦めるなという事だ。

 

手を変え、品を変え、トライしていけばいい。

 

「分かったぜ、望月君よう」

 

歳三はにまりと太く笑い、低く腰を落として土門に向かい合う。

 

「ほ……まだやるか。まあそうでなければ面白くない。儂も“こう”なり、強くなり過ぎた。お主くらいだろうよ、今の儂を愉しませてくれるのは──っ!?」

 

歳三は土門の正面へ躍り出た。

 

地面を蹴るというより、大地を踏み砕く勢いだ。

 

「しゃあッ」

 

声が雷鳴をまとい、肩から突っ込む。

 

土門は避けない。

 

僅かに顎を引き、関節の遊びで衝撃をいなすだけだった。

 

渾身の突撃は──

 

──効かねぇ

 

土門のボディブローが歳三の腹へずしりと沈み込む。

 

口の端に僅かに血の泡が浮いた。

 

「言うたろう。力任せでは儂は倒せん」

 

老兵は嘲るでもなく、じわじわと鼓膜を圧す低音でそう宣言した。

 

 

が、歳三は耳を貸さない。

 

──効かねぇのは織り込み済みだぜ

 

瞬時に土門の腰へ腕を回し、ゴキブリのように土門の背後へと滑り込んだ。

 

「地だ……地球だぜ」

 

──は?地球?

 

何を急にわけのわからん事をと思う土門だが、歳三の呟きからは“必殺”の血なまぐさい匂いが濃厚に漂っている。

 

「俺一人の力で足りねぇなら、力を借りるまでよ!」

 

火花が散るような烈声をあげた歳三は土門の腰に組み付き、脚を爆ぜさせる。

 

風圧で周辺の木々が薙ぎ倒されるほどの勢いで、ふたりの影が急上昇していく。

 

昏い天蓋から星々がこぼれ、風圧が渦を巻いて梢を刈り取り、土門の目に映る光景は樹海から一瞬で夜空に変わった。

 

「行くぜ……!」

 

地上10メートル。

 

50……150……300!

 

垂直飛び300mなどバカみたいな数字だが、カンガルーのせいぜい100倍である。

 

歳三にとっては造作もない事だ。

 

そんな歳三は空中で体軸を捻り、頭を下に。

 

もちろん土門ごとだ。

 

「お主ッ……まさか!」

 

老兵の眼が赤く閃き、関節のトルクが唸るが、もう遅い。

 

歳三は足場がなくとも、その狂った脚力で空気を蹴りつけて勢いをつける事ができる。

 

落下速度はさらに加速した。

 

──これでいいかい、望月君

 

この業

 

 

激突。

 

樹海が叫び、半径三十メートルの大地が裏返り、粉塵が蒸気を帯びた茶けた吹雪となって空を埋めた。

 

空振が数秒遅れて炸裂し、千本の幹がまるでドミノ倒しのごとく連鎖的にうなり、夜の森は丁寧に積み上げた書架が崩れるかのような轟音を上げる。

 

衝撃の中心には、鋼鉄の残骸──土門兼次だったものだ──が拉げた姿が鎮座している。

 

完全に戦闘不能と言っていいだろう。

 

頭部は胸郭と融け合い、外骨格は縦横に断裂し、油圧ケーブルが腸のようにぶら下がり、赤黒い作動油が泥と混ざってぬらぬらと光っている。

 

それでも赤いセンサアイが一基だけ明滅していたが──

 

それも薄暗くなっていき、やがて完全に光を失った。

 

歳三は膝をつき、土門の胸部をぶち抜いていた拳を引っこ抜く。

 

「手ごわい爺さんだったな」

 

ぼそりと呟き、掌を合わせてしばし黙祷。

 

ややあって、歳三は一人森の奥へと消えていった。

 

 

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