(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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大磯海水浴場ダンジョン⑦

 ■

 

  "鉄騎" の狙いは正確無比で、宙を浮くクラゲは悉く撃墜されていった。その光景を見て歳三は疑問に思う。

 

 ──…浮いているだけか?

 

 だがそんな歳三の疑問はすぐに氷解した。

 

『行動パターン変化。マスター、注意してください』

 

『ライキクラゲ、ヘイキュウシテイモンスター。フッテクルゾ、シッカリウチオトシナサイ』

 

 なぜか偉そうな "鉄衛" だが、左腕をあげてクラゲの群れに向けている。クラゲの群れはゆらゆらとした動きを止め、一斉にぶるりと震えるやいなや、まるで歳三達に引き寄せられているかの様に高速度で突撃した。

 

 丙級指定モンスター、雷気海月。

 カツオノエボシという触手に強い毒を持つ、通称電気クラゲと呼ばれるクラゲがいるが、これは実際に発電しているわけではなく、刺されると電気ショックを受けた様な痛みを感じるからそう呼ばれている。

 

 だが、雷気クラゲと呼ばれるモンスターは文字通り発電するのだ。それも、触れれば成人男性が一瞬で失神するほどの電気を纏って。

 

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  "鉄騎" は懸命に投石を続けるが、すぐに間に合わないと知る。

 歳三はいよいよ俺の出番か等と気を引き締めるものの…

 

『ヒートネット ステンバーイ ステンバーイ! シャ(射)ッ!』

 

 鉄衛の左腕がまるでクリオネの捕食口のようにぱっくりと開き、そこからネットが射出された。

 

 ヒートネットは鉄衛の左腕部から空気圧によって射出される。これにより初期の加速が得られ、ネットが適切な方向に飛び出す。そして、射出されたネットはその四隅に取り付けられている小型推進ユニットによって飛行し、標的を追尾する。

 

 推進ユニットは "鉄衛" によって無線操作される為、回避行動のみで捕獲を免れる事は非常に難しい。

 

 そして標的を物理的に捕獲したら、高熱を発生させる。これにより標的は直接的な物理的な束縛と同時に、熱の影響による機能低下に直面する。

 

  "鉄騎" に搭載されている兵装群が直接殺傷能力に特化しているのに対し、 "鉄衛" の兵装群は拘束や弱体化に特化しているのだ。ただし、拘束・弱体化に特化しているからといって殺傷能力がないわけでもないが…。

 

 ともあれ結句、伸縮力に優れたネットは "鉄衛" の無線操作で縦横無尽に空を駆け巡り、突撃してくる雷気海月をまるで生き物のようにぱくぱくと捕獲し、さらには高熱によって致命的なダメージを与えて皆殺しにしてしまった。

 

 雷気海月の放つ電撃もネットには全く意味をなさない。

 なぜならばヒートネットはダンジョン素材であるフレクトロムで作られているからである。ちなみに "フレクス"は伸縮性を表し、"ロム"は電気抵抗値の高い合金で知られるニクロムから引用されている。

 

 見事な捕獲劇だったが歳三はふと疑問を覚え、 "鉄衛" に尋ねた。

 

「なあ、なんで最初から使わなかったんだ?いや、責めているわけじゃないんだ。不思議に思ってしまって」

 

『イチドシカツカエナイ!マトマテ ナイ ト タイパ ワルイダロ』

 

『ヒートネットは使い切りの兵装です。小型推進ユニットの推進剤が一般的に販売されていないからです。つまり一度の探索で一度しか使えません。使用後は "桜花征機" 本社で再度調整をしてもらう必要があります。だから一度の射出でより多くの標的を捕獲しないとタイパ…つまり、コスト対パフォーマンスが悪いと "鉄衛" は言っているのです』

 

「へー、凄い!」

 

 歳三はまるで小学生の様な反応を返したが、これでいて根がキッズ体質にも出来ている歳三は、凄いと思った事は素直に凄いという男なのだ。

 

 そんな歳三の素直キッズめいた様子に、 "鉄騎" と "鉄衛" は何とはなしに自身の冷たいはずの機械の心に火が入れられるのを感じた。同時に、このマスターには自分達がついていてあげなければならない、支えてあげなければならないという使命感も覚える。

 

 つまり、歳三は歳三で二機に対して、本人としては無自覚に親心めいたものを感じてはいるが、二機もまた歳三に対して親心めいたものを感じているという事だ。皮肉と言えば皮肉だし、滑稽だと言えば滑稽な話なのだが、本人達が良いのなら問題はないだろう。

 

「いや、本当に凄いなァ!小型推進ユニット…〇ァンネルみたいなものだろう?とんでもねぇ話だ…本当に…──しぇあらァッ!」

 

 ──雷切

 

  "鉄衛" を下手っぴトークで本心から褒めたたえていた歳三は、突如絶叫し、戦慄のハイキックを宙に放った。次瞬、白光と轟音が鳴り響き、何かが炸裂、霧散する。

 

 水平落雷にも似た雷撃である。

 更なる敵がいたのだ。

 だが、その雷撃は歳三の真空遮断蹴りに防がれた。

 歳三は拳打で真空を作り出せるのだから、当然蹴撃でも作り出せる。真空は空気に比べてとても絶縁性能が高いのだ。

 

 歳三の脳裏を金城権太との過日の会話が過ぎる──…

 

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『佐古さんってダンジョンに行かない日は普段何をしているんです?…ほう、ゲーム?どんなものをされるんですか?ははぁ、覇王…?いや、分かりませんが、え?満国志?ああ、知っていますよ。それなら少しやった事があります。なるほど、その会社が開発したゲームなんですか。どういうゲームなんです?へぇ、 戦国時代末期のねぇ…アクションゲームなんですね。いやあ、私ゃダメですよ、反射神経っていうんですか、そういうのが大分落ちちゃってねぇ。…ぐはは、信長とかも出てくるんですか。歳三さんはクリアしたんです?え?立花宗茂に勝てない?ははぁー、西国無双の大名さんですな。そういえば義理の親父さんの道雪もね、凄い逸話があってね。雷を切ったっていうんですから…え?どうやって?そら、刀で…え?詳しく?うーん、まぁなんか、そう凄い早さで斬ったんでしょう。真空とか作っちゃってね。え?やってみる?無理でしょうよアンタ!そんな無茶苦茶なコト、出来てたまるかって話ですわな』

 

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 なるほど、真空は電気を通さないらしい…と "心から納得" してしまった歳三は、権太が言う所の無茶苦茶な事が出来てしまった。そう、歳三は出来るのだ、大抵の事が。納得さえすれば。

 

 しかし他の者に同じ事が出来るだろうか?出来る者もいるかもしれないが、出来ない者のほうが多いだろう。

 そもそも拳打などで鋭く宙を打てば真空が作れるなど、多少なりモノの道理を知っているものならば一笑に付す筈である。

 

 出来ると思えばできるように、出来ないと思えばできないように、そして自身はこうあるべきだと思えばそのように。

 それがダンジョンの干渉だが、これが歳三にどう影響を及ぼしているかと言えば…

 

 ■

 

 歳三は海上を見やった。

 "ソレ" には目がない。

 だが、歳三は "ソレ" の意識が自身に向けられていると感じる。

 そして、互いが互いの決定的な破滅を望んでいる事を理解した。

 

 

【挿絵表示】

 

 視線の先には不気味で巨大なクラゲ。

 つまりはヌシの姿があった。

 




作中で言及されているゲームは、コーエーテクモゲームスが開発した「仁王」とは何の関係もありませんのでご了承ください。
あと、表紙挿絵設定しました。
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