(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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日常13(城戸我意亞、青葉日美子他)

 

夕方。探索者協会池袋本部買取センターにて。

 

「ああ、そろそろ帰るよ。…怪我?ないよ。だが、逆に殺されていてもおかしくはない相手だった事は確かだ。俺は奴について前もって調べていて、奴は俺の事をよく知らなかった。それが生死を分けた…それだけの事さ。っと、ごめんよ、心配かける積りはなかったんだ。え?今日?…そうだなあ…いや、迷惑なんかじゃないさ。ただバトル・スーツを着込んでいるから一度着替えてからが良くてね。ああ、じゃあ2時間…いや、3時間たったらおいで」

 

と、城戸我意亞は恋人との通話を切った。

そしてカウンターに目を遣る。計算は大体済んだ様だ。

 

「恋人さんですか?」

 

買取価額を表示させた端末を見せながら、買取センターの職員、青葉日美子が城戸に尋ねる。

ああ、と頷いた城戸は意味も赤く染めた髪を意味もなくかき上げた。城戸の癖だ。何かにつけて髪をかき上げる。

格好よく見える…と城戸はそう思っているのだ。

ちなみに城戸は端末をちらと見ただけで、可も否も告げない。

 

「心配性な子なんだ。まあこういう仕事だからな。心配してくれる事は有難い事だと思っているが」

 

日美子はちらと城戸が持ってきた素材に目を落とすと、内心でやや首を傾げた。

 

城戸が持ってきた素材は丁級指定ダンジョン、"池袋東口旧ダックカメラダンジョン" のモンスター素材だ。金属素材が各種…知識がなければ取り外しが難しい希少パーツがいくつも含まれている。それはそれで価値があるのだが、素材の元となっているモンスターはどれもこれもが城戸の実力をもってすれば容易く狩れるだろうと思われるものばかりだった。

だからこそ、先ほどの通話で聞こえてしまった "逆に殺されていてもおかしくはない" という城戸の言葉が腑に落ちない。

 

──イレギュラー個体でも出現したのかしら。まあいいか、それより買取額…駄目だったのかなぁ。さっき端末みたよね?

 

日美子はそんな事を思うが…

 

城戸の右機械腕から少量の蒸気が噴出され、日美子はびくりと肩を震わせた。その様子に気付いたか、城戸は苦笑しながら言う。

 

「ああ、ごめんよ。熱がこもってたみたいで自動冷却機構が作動してしまったみたいだ。ちょっと…想定外の事態があってね。少しだけ本気を出したんだ。そう、俺の "焦熱爆杭砲"(ヒート・パイル)は超接近戦で真価を発揮して……」

 

なんだか妙に得意げに語り出した城戸だが、日美子は余り話を聞いていなかった。城戸の背後には順番待ちの探索者達が列を作っており、その表情は控えめにいってもウンザリ2歩手前といった様子だ。他のカウンターも、金城権太の担当場所以外は混んでいた。夕方くらいは一番混むのだ。

 

§

 

『ほんま大概にせーよ。あいついつまでくっちゃべってるんだ』

 

『あの人の話って3割くらい盛ってますからね』

 

『でもやり手なんだろ?』

 

『まあ、それは。腐っても岩戸重工の専属探索者ですし』

 

§

 

「でもこれ以上は体を弄る気はないけどな。恋人が泣いて俺を止めるんだよ、これ以上は無茶しないで、って」

 

城戸は背後からの声が聞こえないのか、やはりまだ喋りつづけている。話の合間にも髪の毛をファサとかき上げるのだが、そのたびに妙に良い香りが日美子の鼻をくすぐるのだ。

 

§

 

『あれ、弄ってるんじゃなくて "背伸び" して無茶やって両腕を吹き飛ばされたからですよ』

 

『知ってる知ってる。協会の規定を無視して乙級ダンジョンにソロで挑んで死にかけたんだよね』

 

『何でそんな事を?ただの自殺志願だろ』

 

『金ぴがいってたけど、強いって思われたい…えーと…自己顕示欲がなんか暴走しちゃったんだとか』

 

『金ぴって?』

 

『金城さんだよ。稼ぎ少ない時とかはたまにお小遣い稼ぎさせてもらってるんだ~』

 

『うわ、パパ活ってやつじゃんそれ』

 

『違うって。ちょっとお話して仲良くしてるだけだって。良い依頼をまわしてくれたりするよ』

 

§

 

城戸はどこぞの乙級探索者と違って、都合の良い事しか耳にはいらないのか、後ろから聞こえてくる言葉には一切反応をしめさずにやはりまだ延々と話していた。

 

日美子も強く言えばいいのだが、彼女はまだ新米受付嬢なので、丙級上位と目されている城戸の不興を買うというのはやはり憚られるものがある。他の職員に助けを求めようとするものの、誰もかれもが日美子と視線が合うと目を逸らすのだ。

 

──そうだ、金城さんは…

 

金城権太は探索者たちからは妙に敬遠されるねっとりおじさんなのだが、厄介探索者の相手を率先して引き受けてくれるために職員の間では評判がいい。

 

『ああ、佐古さん、どうもどうも。こんばんは。いやね、昼間の顛末をちょっと伝えたくてお電話差し上げたんですよ~。あら?なんだから暗いですね、ははぁヤニ切れですか?我々はもう良い大人なんだから、頭がおかしくなる前に定期的にヤニを補充しなきゃあだめですよ。ああ、それで昼間の。うん、佐古さんが取り押さえた男ですけど…』

 

しかし権太はなにやら電話をしている様子。

端末を再度提示するが、城戸はやはりちらと見ただけで可とも否とも告げず、今度は最近学んでいるというジークンドーの話をしている。

 

日美子はウウ…としょぼくれながら城戸の話を聞き続けた。

 

§

 

『そういえばさ、駅前で事件があったんだって。銃撃事件!』

 

『うわ、物騒。どうなったの?』

 

『変なおじさんが取り押さえたんだって。Switterに動画あげられてるよ』

 

『あれ、この人って…』

 




青葉日美子は第一話で出てきました。
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