(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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新宿歌舞伎町Mダンジョン②

 ◆

 

 色々と歌舞伎町Mダンジョンについて調べた日の翌日。

 

「よう、元気だったかい?」

 

 何を思ったか、歳三は品川の桜花征機本社、『鉄騎』と『鉄衛』の前で、軽く手をあげてウルフな雰囲気を出しながら挨拶をしていた。だだっ広い応接室にいるのは先の二機と佐々波 清四郎だ。

 

 二機は無言で顔を見合わせ、『鉄衛』が口? を開く。

 

『エ、キョウ ダンジョン イクノ? ジュンビ デキテナイガ!』

 

 歳三は苦笑しながら「いや」と答え、佐々波に頭を下げて言った。

 

「いや、今日はいきなり申し訳ないです。最近ご無沙汰していたンで……日頃お世話になってますから……ここは一つ、挨拶をしておこうと。それに、ちィっとダンジョンについても相談をしておこうと……ほ、ホウレンソウは大事ですから、ええ」

 

 ぎこちない歳三を見ながら、佐々波は目をパチパチと瞬かせた。

 

 ──妙に卑屈というか、なんというか。しかし騙されるなよ清四郎ッ。『鉄騎』と『鉄衛』の録画データを見たが、彼は怪物だ。しかも新宿急襲の際に、某国の襲撃チームを一方的に撃退……いや、殲滅したという話もある。大磯でのデモンストレーションの動画も、あれはなんなんだ? 物理法則をなんだと思っているんだ?

 

 あれ、なんだか無茶苦茶過ぎて、一理系人として少し腹がたってきたぞなどと佐々波が考えていると、グワワと凄い勢いで目の前に何かが差し出された。

 

「うおッ……! あ、ああ……ええと、これは……ア、アップルパイ?」

 

 差し出されたのは箱だった。サンドリーの厚切りアップルパイ、と書かれている。

 

「ええ、ま、手土産って奴でさぁ……受け取ってつかぁさい」

 

 つかぁさい? と内心で首を傾げながら佐々波は礼を言って箱を受け取る。そして、おお美味そうじゃないか、と口の端に笑みを浮かべた。佐々波は甘党なのだ。

 

 ちなみに歳三の妙な言葉遣いは、これは当然アニメだか漫画だか小説だか雑誌だかの影響である。広島の方言である所のこの言はビジネスの場で使うべきではない類の言なのだが、根がサブカル体質にできている歳三はその辺がちょっと良く分かっていない。なんか下っ端っぽい登場人物が偉そうな相手に使っている言葉……くらいの理解しかないのだ。

 

 ちなみにサンドリーの厚切りアップルパイは割りと良い感じの菓子である。六個入りで税込み千四百七十五円。国産バターを使ったパイ生地、更に国産の林檎と蜂蜜風味なクリームを合わせて焼き上げられている。チョイスとしては悪くはない。まあネットの力なのだが。

 

 ◆

 

「ははぁ、なるほど。ふむ、そうですか。歌舞伎町Mダンジョンですか。人型モンスターですな」

 

 佐々波の言葉に、ええと頷く歳三。

 

「まあ確かに、佐古さんの戦闘スタイルからすれば人型の方が都合がよろしそうですね。『鉄騎』や『鉄衛』もそうです。基本的にウチの武装というのは対人……ああ、ンンッ、人型モンスターを想定していますからね。乙級指定というのは確かに不安要素でしょうね。ただ、この数日で両機とも少々バージョンアップしておりますから……早々足を引っ張る事はないと思いますよ。とはいえ、出発が明日という事でしたら、ええ……まあ少し調整もしてみましょうか。それより、どうです? 『鉄騎』は。相当アレしたでしょう……ええと、そう、イメチェンを」

 

「はあ、バージョンアップ……イメチェン……」

 

 それはつまり凄くなったという事なのだろうか、と歳三は鉄騎のボディをじろじろと見遣る。よくよく見ればボディの造形が以前とはかなり異なっていた。察しの悪さでは人後に落ちない歳三は、色が合ってれば大体同じようなものだと判断するアニマル的気質なのだが、それでもよくよく観察すれば相当の「イメチェン」が行われている事が分かる。

 

「……すげえッ! これは……プロの仕事だな……なあ、てっこ、腕を広げてみてくれるか?」

 

『どうぞ、心ゆくまでご確認下さい』

 

 『鉄騎』がなにやら得意げに言った。彼女としても自身のニューボディは気に入っているらしい。

 

 フィット感のあるボディスーツめいた金属的な外観はスリムな印象を与えるがしかし、胴体部のスレンダーさに比して両肩部がかなり大きく、このおかげでパワフルな印象も同時に受ける。

 

「肩、触ってもいいかい?」

 

 歳三が聞くと、『鉄騎』は『……はい』と頷いた。

 

『ヤサシク スルンダゾ』

 

 『鉄衛』が茶々を入れ、佐々波はどうした事かぎょっとした様子で『鉄衛』を見ていた。

 

 ──感情模倣機構(エモーショナル・ドライブ)は積んでいない筈なのにまるで生きているような。感情の機微を理解しているような口ぶりだ。『鉄騎』もそうだ、なぜ内股に? 照れているという事か? ありえん、ありえんが、現実の光景として私の前に広がっている。やはりダンジョンか。ダンジョンは無機物にも干渉をするという事か

 

 そんな内心はともかくとして、佐々波は二機がどれほどの進歩、いや、進化を遂げるかに非常に興味があった。ダンジョンは精神よりも肉体への干渉の方が強いが、それは機械にはどういった影響を与えるのだろうか? ともかくも、と佐々波は借金返済で頑張ろうとしている歳三には絶対聞かせられない事を考える。

 

 ──借金でも義理でもなんでもいい、彼をウチから離れられない体にしてやる

 

 それはもはや策謀だ。

 謀り事である。

 

 ただ、それはそれとして、中年男性が中年男性に向ける感情としては、その意図はどうあれ……ちょっと気持ち悪いしょうもなさを禁じ得ない。

 

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