(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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日常17(おじさん、おじさん)

 ■

 

 男が二人、落ち着いた雰囲気の和室に向かい合って座していた。

 

 一人は一見すると青年にも見えるし、逆に100年近くの時を生きてきたかのようにも見える謎めいた男だった。

 

 もう一人は禿頭の中年男だ。恰幅が良く、垂れた眦がまるで狸を思わせる。

 

「佐古君はどうかな」

 

 謎めいた男がそういうと、禿頭の中年男が答える。

 

「ま、ま、友人もできたようですよ。人間であるかないかはこの際関係がないでしょうな。大分落ち着いている…様な気がしないでもありません」

 

 禿頭の男はやや苦笑交じりだ。

 

「彼らしい。では、(わざ)は?」

 

 謎めいた男が再び問う。

 すると中年男はふむと考え込む。

 

「 "桜花征機" からの映像資料はみたでしょう?異様としか言い様がありませんな。おっと、駄洒落ではありませんよ。ま、敢えて言うならば…硬く、重い武器が佳しとされる世界があったとして、多くの者がその材質に拘るでしょうな。しかしかの御仁はそれがひの木の棒であろうと、調理用のトングであろうと、錆び塗れの釘であろうと、一切合切を束ねあわせてしまうのです。そうすれば酷く歪で重く、大きい良く分からないモノが出来上がりますな。しかしそれを以て人を殴りつければ、殴られた者は死ぬでしょう。武器を破壊する事もできませんな、余りに質量がありすぎる」

 

 中年男性の言を聞いて、謎めいた男は "益々彼らしい" と笑った。ややあって、謎めいた男が語を継ぐ。

 

「ところで、鼠の駆除の方は進んでいるのかな?」

 

 ええ、と中年男が頷いた。

 

「久我調査官が随分と張り切っておりましてね。彼は有能だ。見切りが早すぎるきらいがありますが。そういえば新宿では佐古さんもご活躍でしたなあ。監視カメラの映像を見ましたが、思わず笑ってしまいました。戦力としては、既に甲級相当は間違いありませんな」

 

 うん、と謎めいた男は頷くが、その口の端には苦笑めいたものが浮かんでいる。

 

「まあ…それはそうなんだけどね。暫くは留め置く。もう少し…そうだね、面の皮が分厚くなれば…考えてもいいかもしれない」

 

 中年男も苦笑した。

 女性職員に話しかけられて思わず後退(あとずさ)ってしまったと項垂れる情けない友人の顔が思い浮かぶ。

 

「それはそうですな。しかし、佐古さんのあの性格がなければ、あれほど迄に常軌を逸する事は無かっただろうことを考えると、適度にウジウジしてくれていた方が良いのも事実で、これはもうウチで調整するしかありますまい。しかし、会長はまだ佐古さんには…?」

 

 中年男が言うと、謎めいた男は頷いて言った。

 

「今はまだいいかな。ただ、調べようと思えば分かる事でもある。下の名前は変わっていないのだし、多少手間はかかるだろうが、然るべき場所で然るべき方法を取れば、僕の写真なり見つかるだろう。とはいえ、いつまでもこのままと言うわけにもいかないから、富士を潰す際には姿を見せようとは思うよ。でもきっと彼はその日まで僕の存在に気づきもしないだろうね」

 

「察しが悪いですからなぁ…。それにしても富士ですか。やはり?」

 

 中年男性の脳裏には薄気味の悪い大森林が想起されていた。

 枝葉は絡み合い、太陽の光を遮り、薄暗い光景を作り出す。

 かの大樹海に赴いた者は、まるで人里離れた異世界に足を踏み入れたような錯覚を覚えるだろう。そして気付くはずだ。奇妙な形状の木、ねじれた枝や歪んだ幹。そのすべてが自身の命をかすめとろうと企んでいるという恐るべき事実を。

 

 ──あの森は、果たしてどれ程の命を吸ってきたのか

 中年男の背筋が僅かに冷える。

 

「ああ、少しずつ広がりを見せている。どうあれ、僕の代で解決したい問題だ。問題はそれだけではないけれどね…ダンジョンの発生件数も増えている。問題は山積みだ。探索者の数を増やさなければならないね。小さい組織を取り込んで、有益な者は人財として教育を施して。有害な者は…」

 

「資材として」

 

 中年男が合わせると、謎めいた男は "ふ" と嗤って冷えた茶を飲みほした。

 

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