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東京都港区青山某所の一角に「ダンジョンエクスペディションTV」、通称『DETV』は本社を構えていた。本社ビルは、地上二十四階建ての近代的なガラス張りの高層ビルだ。これだけのビルがそっくりそのままDETV社のものだというのだから、その資金力は並々ならないものがある。
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その二十四階、社長室に怒声が響き渡った。
「なんでやねん!!!!」
声の主は容姿端麗な青年である。
DETV社長、
所謂源氏名というやつだ。
ホスト上がりの尾白だが、陳腐な言い方をしてしまえばこの男にはオーラがあった。これは特殊な能力云々の話ではなく、簡単に言えば人を惹きつける力だ。惹きつけ、楽しませる事にかけては尾白と言う男は異様なまでの才能を見せた。
現役時代の尾白は、当時神と呼ばれたゴッドホストの年間売り上げ、一億二千万に迫る六千五百万の売り上げを達成し、現役引退後はホストクラブの経営に携わったがそれもやはり成功。
そのままホスト界をけん引していくと思われたが、ある日、そもそも論な事に気付いてしまう。
──ホストの時代、もしかしてもう終わっとる?
そう、終わっていたのだ。
こんな年間売り上げはホスト界隈全盛期の数分の一である。この先盛り上がるかといえば非常に怪しく、むしろホストという職業が消滅しかねない凋落っぷりであった。
なぜかって、ダンジョンが出来てしまったからである。
ダンジョンが出来てホストの時代が終わるのかといえば、これは終わる。完全無欠に終わる。
なぜならば十全に自身の理想を体現できた探索者というのは、当然ながら自信に満ちており、金があり、外見なんかもどうにでもいじる事が出来たからである。
コミュニケーション能力という土俵での勝負も、当初こそホスト達に分があったものの、次第に探索者達に完全に寄り切られてしまうようになった。
なぜならばその辺の、つまり、もっとべしゃりが上手くなりたいだのと本気で思いながら探索を繰り返していると、二、三回死線を潜った頃には何故か立て板に水の如く言葉を繰り出せるようになったからである。
勿論職業そのものが違う以上、競合相手にはならないかもしれない。しかし、強く、稼げて、しかも外見も良い連中が世間に大量に溢れればどうなるのか?
べしゃりが上手くちょっと外見がいいだけの一般人の魅力というものは相対的に低下しないといえるだろうか。
尾白はその辺の事を敏感に察知し、稼いだ金でDETVを立ち上げたという次第である。探索者はよくも悪くも欲がある、そして野望がある。しかし全員が全員、その欲を満たせるほど稼げるかといえばそうではない。
尾白はそんなくすぶっている探索者を引っこ抜き、もしくはひろいあげ、DETVの土台を補強していった。
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「なぁ~~!? なんでなん!? なんで四人もおっ死んじまったん? カメラマンはええと、伊東か! あいつもアレやろ? レベル六十五だったよな? この前車引っ張って力自慢しとったよな? あっさり死んどるやんけボケカスがァ!」
尾白は怪しい関西弁でまくし立てた。
ちなみに彼の出身は千葉県である。
尾白の前には女性が一人、俯きながら立っている。
ハルだ。
新宿歌舞伎町Mダンジョンの件で尾白から叱責を受けているのである。だが尾白はダイバー四名を喪ったことについて怒っているのではなかった。
「なァ! ハル、なんでボクが怒っとるんかわかるか?」
尾白はつかつかとハルの前に歩いて行き、俯くハルの肩に手を置いた。
「それは、わたしが……皆を護れなかったから……です」
消え入るような声でハルが言うと、尾白は「ちゃうわボケ」とハルの肩をつき飛ば……せなかった。
床に根を張ったようなハルの安定感は、尾白の腕力ではちょっとこれはどうにも動かせない。なんだかんだでハルの身体能力は常人を超越しているのだ。そして尾白は一般人である。
尾白は同じ体格の男性と相撲を取れば苦戦するかもしれないが、ハルは現役横綱と相撲を取っても良い勝負をするだろう。
「なんや! オウ! おら! うう! ……てめっ! なめとんのかい! ……はあ、はあ……」
尾白はドンドンドンドンとハルの肩を突き飛ばすが、ハルは微動だにしない。諦めた尾白は「こんなとこで勘弁したるわ」などといい社長デスクへ戻って、どっかと座り、机の上に脚を投げ出した。
「ま、ええわ……あのな、ボクが怒っとるのは、君らがプロとして未熟だからや。ダンジョンってのはな、いわば魔境やで君! 想定外なんていくらでも起こるんや! ええか? それでもなお勇気一つを武器に挑み! 駄目ならダメで……せめて映像データくらいは持って帰ってこいやアホンダラァ!」
要するにそういう事であった。
尾白はハルたちのチームがその探索動画をアップロードできない事に怒っていたのだ。
「ドッカンドッカン!!!」
そんな事を叫びながら、尾白は両の掌を下から上へとかきあげた。
「ドッカンドッカンや!
尾白は全く間を取っていない計算をしたが、ともかく高レベルダイバーが難関ダンジョンに挑み、その探索内容の動画をアップロードとしたとなれば、これは大変な額が動く事は間違いなく、また、案外にもアコギではないDETVはその報酬をダイバーにしっかりと渡す事もまぁ間違いではない。
率直にいって、ダンジョン探索者協会所属の探索者となるより稼げるだろう。
「夢!!! 掴んでいこうや! なぁ! 君らのグッズ作成! 企業とのコラボ動画、テレビ・CM!! ウチが面倒な事手続きしたるさかい、ガッツンガッツン稼いでいこうや! その為には動画や! アップロードガンガンガンガンせな! ええやん! 腕ちぎれても足ちぎれても! マネーがあるんやから! すぐ治るやろそんなもん! 一に映像データ、二に映像データ! 三四にデータで五に命や! 頑張れや! 頑張れ頑張れ頑張れ! おら! お前らもゲキかけたらんかい!」
尾白は部屋の隅に佇むボディガードに怒声を浴びせる。
黒スーツのただならぬ存在感を放つ男たちだ。
実際只者ではなく、高レベルダイバー並みの実力がある。
「「「がんばれ がんばれ」」」
男たちは無表情で、何の感情もうかがわせぬ激励をハルに浴びせた。
──うう、辞めたい……でもお金も欲しい……それに辞めたら殺される……
ハルの脳裏に機械女の脅迫が蘇る。
『ハルさん、貴女の個人情報は既に「鉄衛」が照会済みです。貴女が日本国民である限り、個人情報を調べるなどというのは簡単な事です。裏切ったならば、わかっていますね。貴女が敵に回すのは我々だけではありません。ダンジョン探索者協会、桜花征機、ひいては日本と言う国そのものを敵に回すことになるでしょう。それが嫌ならば、DETV社の内部情報を流しなさい。安心してください、近い将来、貴女方は我々の正式な仲間となるでしょう。無理な探索をさせられる事もない、より大きな翼の下に庇護されるのです』