(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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日常20(城戸我意亞、その他)

 ◆

 

 ここ最近になっての事だ。丙級探索者、城戸 我意亞は「夜勤」に励んでいた。夜勤とは夜間に探索をする事をいう。

 

 城戸は元々日中活動するタイプだったが、ここ最近はずっとそんな感じであった。というのも、城戸の恋人の仕事が夜勤帯にシフトしたからである。一方が日勤、一方が夜勤のカップルは上手くいかないとまでは言わないが、やはり様々な場面で都合が悪い。

 

 ……というのは体面に過ぎず、結局の所城戸は自分の女と逢う時間が減る事に我慢がならないだけであった。

 

 二人は探索者と一般人のカップルだ。城戸が探索者、その恋人は看護師をやっている。

 

 二人の付き合いは十年以上にも及ぶ。城戸がうだつの上がらないホスト、女がぱっとしない風俗嬢だった時代からの付き合いだ。

 

 探索者と一般人のカップル。

 これは案外に珍しく、探索者は探索者と、そして一般人は一般人とくっつくのが一般的であった。それはやはり価値観が合わないし、身体強度が合わないからだ。

 

 命懸けを常とする探索者の価値観は、多くの一般人のそれと背反するだろう。一般人の大部分にとって、命というものは大切にするのが当然である。恋人が平気の平左で死地へ飛び込んでいくのを笑って見送る事が出来る者が果たしてどれ程いるだろうか。

 

 また、身体強度というのも重要である。

 例えば交合だ。

 

 ダンジョン時代黎明期は、探索者と一般人のカップルでの悲劇が相次いだ。悲劇というのは、一方が一方の肉体を破壊してしまうという事件の事である。

 

 人が猛虎と交合して無事でいられるだろうか?

 人が凶猛な人食い鮫と交合して無事でいられるだろうか?

 要するにそういう事である。

 

 だが城戸は案外にその一般人の恋人と上手くやっていた。

 

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 ──池袋東口旧ダックカメラダンジョン

 

 深夜、城戸 我意亞は仲間達と探索者稼業に励んでいた。

 このダンジョンは丁級指定なのだが、

 

「おい、サス、ダン。あと一、二時間で帰るぜ」

 

 城戸はバンバンとマグナムを撃ちながら言った。城戸の言葉はその大部分が轟音にかき消されてしまっているが、それでも一緒に探索をしている二人の仲間にはしっかりと聞こえていた。

 

 岩戸重工製のインカムを使っているのだ。高性能なノイズキャンセラ機能も備えており、銃撃音で聴覚を損ねる事が無くなる。このダンジョン時代では様々な企業が様々な製品を世に送り出しているが、当然企業ごとの色というのも存在しており、岩戸重工はサイバネと銃ならココで決まり、と言われる程に信頼性があった。

 

 ちなみに桜花征機はやたら良く斬れるブレイド(すぐ壊れる)や、最低限の防御を残して軽量化したボディアーマー……つまり攻撃力と機動力が企業色である。

 

「またコレかよ?」

 

 城戸の仲間の一人である流石 小次郎(さすが こじろう)が小指を立てて言う。百六十五センチ程の小柄な男だった。しかし軟(ヤワ)ではない。空いた片手ではやはりバンバンと銃撃をしているが、一般人では一発でも撃てば手首の骨が砕けるだろう。

 

 流石もまた丙級探索者で、城戸と良く組んで探索者稼業をしていた。地肌が見える程に短く刈り込んだ頭髪を金色に染めている。両の腕と脚は太く、そして胸板も分厚い。身長が低いにも関わらず、まるで岩石が人の形を取っているような屈強な印象を受ける。背に鉄棒の様なものを担いでいるが、それを使おうとせずに銃を構えていた。

 

「へっへっへ、今夜はお楽しみって事ね。あ、でも城戸、アンタはマグロだっけ。自分で動いたら彼女さんブッ壊しちゃうもんねぇ。マグロ・スタイルこそが愛の証って事……ちょっと! 私を撃たないでよ!」

 

 人間性が疑われる発言をしたのは四段(しだん) 丈一郎(じょういちろう)。百八十センチに迫る身長、すらりと伸びた四肢。腰まで伸ばした髪はよくよく手入れがされているようで、戦場にあっても艶を保ったままといった風情であった。

 

 胸もでかく、尻もでかい。

 腰は絞れており、面(ツラ)だって悪くはない。

 男の欲情を煽るような肉感的な唇がいやに蠱惑的だった。

 

 しかしその名前は丈一郎。

 男性名である。

 というのも当然で、彼女の性別は元男性の現女性。この時代、余り珍しくもない。

 

 等級は丙等級。性的嗜好はバイセクシュアルで、ダンジョンの干渉による性別変更もほとんどノリと気分でやった。「突っ込むは飽きたから、次は突っ込まれる方を体験してみたい」とは彼女の談である。得物は銃、そして腰に挿した黒々とした鞭だ。

 

 なんて下品な奴らなんだ、と城戸は呆れながら前方に引き金を引く。金属に硬いモノがぶつかり、軋む様な引き千切れるような嫌な音が響いて何かが崩れ落ちる。

 

 だが、崩れ落ちた何かを踏み越えるようにして、更に多数の影が三人の前に現れた。

 

 機械系モンスターだ。

 

 電化製品……液晶テレビ、洗濯機、エアコン、冷蔵庫……そんなものから機械肢が生え、何とも言えない奇妙な様相をしている。

 

「あら~……少し数が多いかしら?」

 

 四段が呟く。銃撃の合間を縫って飛び込んできたドローンを、流石が鋭いジャブで小突き、素早く掴み取ってモンスターの群れの中に放り込んだ。そして爆発。

 

「アレ、行くか? 武器はトぶけどよ、十分ペイできるだろ。節約する場面じゃねェーぜ城戸」

 

 流石が城戸に言う。

 城戸は頷く。

 

「サス、ダン! 過電網領域(ガルバニック・グリッド)を仕掛けるぞ!」

 

 叫ぶなり、城戸はサイバネティックアームの出力を高めていく。城戸のサイバネティックアーム、『ガルバニック・インパクター』は岩戸重工が製造した先進的なサイバネティックアームである。これは左腕全体を置き換えるための機械腕で、非常に精巧に作られていて、まるで自身の腕であるかのようにスムーズに動かすことができる。

 

 その機能はたんなる腕代わりだけには留まらない。内部に強力な電源を備えていて、それを利用して敵を感電させることが可能だ。直接接触するだけでなく、一定の距離まで電流を放出することも可能で、これにより接近戦だけでなく、中距離の敵に対する攻撃も可能となっている。

 

「応よ!」

 

 流石が叫ぶなり背に担いでいた鉄棒を構え、握り手の部分を強く握り込む。といっても、それで殴りかかるわけではない。流石はその黒い鉄棒を投擲したのだ。肘、肩、腰のサイバネ機構の動きが連結し、連携する。丙級探索者の中位以上ともなると何かしらの奥の手を隠し持つ者が多くなってくるが、流石 小次郎の場合はこの投擲能力である。

 

 かつて同等級の飯島比呂は、槍の投擲で黒剛熊の頭部を刺し貫いたが、流石が同じことをすれば頭を吹き飛ばしただろう。生身とサイバネの純粋な膂力差であった。

 

 だが空気を引き裂いて飛襲する鉄棒は、機械モンスターのどの個体にも突き刺さる事はなかった。床に突き刺さってしまったのだ。外したのだろうか? いや、そうではない。

 

 一定以上の衝撃が与えられた鉄棒は、びしゃりとその姿を崩し、とろけさせ、モンスターたちの足元へ広がっていく。これもダンジョン素材だ。強力な衝撃を受けると液状化する。衝撃吸収素材として非常に優秀だが、これは武器としても使う事ができる。ただ、やや特殊な使い方だが……。

 

 モンスター達の足元に広がった液体金属は薄く広がり、だがそれだけであった。それ自体がモンスター達を害する事はない。だが元気一杯の機械・モンスター達をすかさず絡めとるものがあった。

 

 四段 丈一郎の多条鞭である。

 鞭を振るう四段の瞳は嗜虐に濡れていた。

 

 太い鞭が振るわれる。それは宙空でばらけ、それら一本一本の副鞭が特殊警棒の様にその長さを伸長させ、まるで生きている様にうねり蠢く。

 

 これらは全て四段が操作しているのだ。脳に超小型のデバイスを埋め込んでいる彼女は、掌の端子部分と柄に仕込んだ端子を接触させ、コンピューター制御で副鞭の一本一本を操作している。

 

 四段は機械モンスター達の動きを短時間で解析、予想し、最短距離で拘束する。そしてなんと鞭の柄を城戸へ放り投げてしまった。

 

 勿論戦闘放棄ではない。流石が仕込み、四段が拘束、お膳立てをし、城戸がぶっぱなす。彼等のお得意の連携である。この一連の流れに五秒もかかっていない。

 

 城戸は鞭の柄を機械腕で握りしめ、大電流を放射した。電撃というものは強力だが、そのエネルギーがとかく放散されやすい。しかるべき通り道、滞留場所をつくってやらないとエネルギーの大部分が無駄になってしまうのだ。

 

 城戸はその問題を流石、四段との連携で解決した。鉄棒や鞭といった武器は無駄になってしまうが、三人でこれを使用する際は大きな稼ぎが見込める相手の場合のみなので問題はない。

 

 結果は……

 

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 凄まじい白光が炸裂、奔流。

 結句、スクラップの山ができあがった。

 

 過電網領域(ガルバニック・グリッド)とはメカメカしい三人の丙級探索者の連携技である。たんなる連携に一々技の名前をつけるというのはこれはちょっと幼稚にも見えるかもしれないが、名前というのは案外に重要であり、一言でその場の全員が自分がすべきことを理解するというメリットは非常に大きい。なお、命名したのは城戸だ。

 

「いいねぇ、お前らと組むと楽に稼げて助かるぜ」

 

 流石がニタニタしながら機械モンスターのスクラップ群を見て言う。稼ぎを計算している卑しいツラをしている。

 

 流石小次郎という男は金銭への執着心が強い。金に執着するのは金を遣うのが好きだからだ。流石は毎晩の様に呑むし、打つし、買う。

 

 しかし、銭ゲバ野郎だからといって。博打めいた探索はしない慎重さもある。本当に金の亡者であるならば協会などに所属はしないものだ。探索者協会に素材を売り払うと、直接それらをどこかの企業なり組織なりに売り払うよりも稼ぎは悪くなるからだ。

 

 ──まず俺の命、そして金、その次に他人の命。これがこの世界の価値あるモノBEST3だ

 

 流石の言である。金の次とはいえ他者の命を尊重するのはやや意外だが、他者の命は自分の命の肉盾となるから重要だと流石は言う。

 

「……うぅん、やっぱりこれまだ熱いわね……。暫くかかっちゃうんじゃないの?」

 

 四段が人差し指をぽってりした唇にあてて不満そうに言った。左眼が仄かな赤光を宿している。妖しい光だ。彼女の容姿も相まって魔性の光にも見える。勿論魔性の光ではなく、サイバネ技術の光なのだが。

 

「少し休むか。この階層は一掃したからな。暫くは『補充』もされないだろ。二、三十分休んだ後、冷却剤をぶっかけてめぼしいものをかっ攫ってトンズラだ。お前らの得物代、弾薬費差し引いても十分黒字だろう。これ以上欲張るのはよくねえな。嫌な予感がするんだよ。肌がピリつきやがる。電磁波が影響しているのかもしれねえ。こういう時は強敵とカチ合うもんだぜ」

 

 城戸がしたり顔でいうが、流石も四段もろくに聞いていない。城戸 我意亞という男が帰りたくなったら適当ぶっこく男だという事を既に理解しているのだ。しかも意味ありげに適当をぶっこくものだから、城戸の言葉はどうにも軽薄に聞こえてしまう。

 

 城戸は決して小物ではないのだが、なぜか小物っぽい印象を受けるのはひとえに彼の性格が原因なのであった。

 

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