(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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日常23(歳三)

 ■

 

 夕方。右腕の調子が未だにイマイチな歳三は探索に赴く事は無く、また酒をかっくらって怠惰に過ごす事もなく、ベッドの上であぐらをかいて黙ってタバコを吸っていた。

 

 とんでもない設定のアニメが恐ろしくつまらなかったからではない。むしろ歳三はあのアニメをとても好きだと公言できないものの、ちょっと気にいってさえいた。

 

 ──見た目がおっさんなのがいいな。中身が美少女ってのは…ちょっと、嫌だが

 

 そんな事をおもいながら視線を窓へ向ける。

 赤い夕陽が部屋へ差し込んできており、なんとも言えない懐郷感めいたものが歳三の心へ染み込んでいく。

 

 歳三は今、特に何をしているというわけではないが、敢えて言うならば夕日を肴にタバコを吸っていた。

 口元がぱくぱくと鯉の様に動く。

 控えめにいって醜いザマではあるが、それでもなにか愛嬌めいたものを感じさせるモノがあった。

 

 そんな歳三は暫くお口パクパクして煙の輪を量産していたが、ふと何かを思いついた様な表情を浮かべた。

 

 

「友遠く 過日の輝き 君ぞ見る」

 

 

 夕日を見ていた歳三が即興で考えた俳句である。

 遠くにいる友人への想いと、過去の日々の美しさ、そしてその友人が今、同じ夕日を見ているかもしれない…そんな(あま)(やわ)な考えをうたったものだ。

 

「綺麗な夕焼けさんに免じてよ、今夜は飲酒はしないでおいてやるか…」

 

 こんな事を独りの部屋で呟く歳三の表情はどこか満足げであった。これでいて根がネイチャー指向に出来ている歳三は、綺麗な夕日だとか朝焼けだとか、満天の星空が好きだったりする。この辺の好みは歳三の技のネーミングセンスにも現れており…

 

 例えば水分子を圧縮し、プラズマを生成して自分と敵もろともに焼死させる滅茶苦茶な自爆技 "太陽"

 

 例えば満月と友人の名のダブルミーニングである所の、足撃による回転受け "望月"

 

 例えば恐るべき脚力によって一気に彼我の間合いを潰し、フック気味の真空飛び膝蹴りを叩き込む "半月落とし"

 

 そして全身と全霊を籠めた突き、"新月"

 

 というように、歳三は月だの太陽だのが好きなのだ。

 ちなみに中学生時代は天文学部に入ろうとも考えていた彼だが、歳三の通っていた中学校にはそもそも天文学部は無かった。

 

 それは兎も角として、歳三は部屋の片隅にちらと目を遣った。

 そこに立てかけてあるのは一本の刀だった。

 購入した訳ではない。ダンジョンから持ってきたのだ。

 その刀の前の所持者の名はシシドと言った。

 

 いい値段がつく事は歳三にも分かってはいたのだが、何となく売り払う気になれなかったのである。

 シシドと対峙した時感じたドロドロとした妖気染みたなにかは既に感じない。青野千鶴もこの刀を見たが、やはり何も感じなかった。

 

 ──多分、成仏しちまったんだろうなあ

 

 歳三は何とはなしにそんな事を思う。

 歳三は既に全盛期を過ぎたとはいえ、シシドは歳三にある種の覚悟を決めさせた強敵だ。そんな相手の遺品を保管しておくのは悪い考えではないように歳三には思えた。

 

 二本目のタバコを吸いながらシシドの刀を見遣る。

 

「俺が刀を使えればいいんだけどなァ」

 

 歳三は刀を引き抜き、正眼に構える。

 

「ウシャアッ!」

 

 謎の奇声を発し、袈裟に斬る。

 

「ぬっ」

 

 だがすぐ呻き声をあげる。

 失敗したのだ。

 ベッドの端っこが少し斬れてしまった。

 

「チッ!今日は調子が悪いな!だめだだめだ、酒を飲んで野球でもみよう!今日はスーパー・酒ナイトで決まりだぜ!」

 

 首を振って冷蔵庫にしまってあるハイパーゼロ(アルコール度数18%のチューハイ)を取りにいく歳三。

 

 その背を夕日が寂し気に照らしていた。

 




Haikuは作者が適当にそれっぽいのを考えたので、ちょっと考えてるのと意味が変わるかもしれません。正式なフォーマットとか知らないので。まあ歳三だからしゃあねえやくらいのかんじでよろしくおねがいしまぐ
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