(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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秋葉原電気街口エムタワーダンジョン⑦

 ■

 

『え~、ここでちょっとしたイベントが発生しましたぁ~!なんと!探索者協会の探索者さんが一時的に同行してくれるそうです!彼の名前は【THE・カラテ】!銃や武器に頼らないフィジカル系の探索者さんです!修める流派は無道流空手道だそうです!我が前に道は無く!我が後に道は無し!我こそ道なり!それが無道流の真髄だそうです!エモいですね!!彼はたまたまこのダンジョンを探索していたそうです!入場タイミングが近かったみたいですね~!』

 

 DETV所属のダイバー、ティアラが満面の笑みでカメラに語り掛けた。繊手が促す方向には一人の男が立っている。

 妙に長い鼻の天狗の面を被っている男だ。

 アダルト・グッズ界隈に詳しいものならば、その面がただの天狗面ではなく、鼻の部分を女陰に突き込むタイプの面である事を看破したかもしれない。

 

『THE・カラテさんは言葉じゃなくて拳で語るタイプです!俺の背を見ろ!って奴ですね!早速ですが前方からエチエチ☆モンスターがやってきましたよ!助けてTHE・カラテ~!』

 

 薄暗い通路の奥からひたひたと歩いてくるのは、金剛力士像の如き見事な筋肉を誇る巨漢である。無論全裸だが、注目すべき点はそこではない。頭部がないのだ。アイルランドのダンジョンにはデュラハンという首無し騎士のモンスターが現れるが、それとはまた違う。

 

 頭部とは理性と制御の象徴である。

 それがないという事はつまり理性がないという事で、更に見事な筋肉を持つ巨漢という姿は、欲望が肉体的な力として現出している事を意味する。

 

 全裸巨漢が両の拳を握り、胸を突き出すようにして両肘を引いた。その瞬間、その場の者達は皆、声無き咆哮が周囲に轟く様を感得した。

 

 全身を威圧感で充溢させた全裸巨漢は、凄まじい勢いで突撃してきた。

 

『あ~…あれは、ちょっと…よくない…かな?』

 

 ティアラの手が腰のマグナムに伸びる。

 

 ──★★☆☆☆(ダブル・スター)のモンスターじゃあないねあれは。トリプルか。クアドラって事はないと思うけど。普段なら御免被る相手だ。でも…

 

 THE・カラテは特に気負った様子もない。

 走り寄ってくる全裸巨漢を前に、迎撃の態勢すらとっていない。

 

 THE・カラテと全裸巨漢があわや衝突するかというその瞬間、THE・カラテの姿がブレた。

 ティアラの目が驚愕に見開かれる。

 

 ──見えなかったッ…!

 

 次瞬、全裸巨漢が真っ二つに割り裂かれ、右半身と左半身に分かれた肉体が両側面の壁にぶち当たってべちゃあと斃れ込む。

 

 言うまでもない話だが、手刀とは斬撃技ではなく打撃技である。しかしTHE・カラテは長年の修錬により、己が手を刃と化すことに成功した。

 

「走りきたる馬をも、虚空を斬るが如く容易く一刀で両断する。これぞ無道流、虚空斬馬(ヴォイド・リッパー)

 

 §

 

『サイゾ、スゴイタノシソ』

 

 鉄衛が言うと、ティアラはちらと見た。

 

「すごい流暢に喋りますよね」

 

『ペルソナコウカ デスネ』

 

 そう、歳三は普段の様子が嘘のように流暢にしゃべっていた。

 いや、今の歳三は歳三ではない。

 無道流・師範代、THE・カラテである。

 

 では師範が誰かといえば、そんなものはいない。

 無道流自体が虚構の流派だ。

 ティアラが何となく設定を作った。

 

 だがそもそもなぜこんな道化みたいな真似をしているのか。

 それは、ティアラたちとの間に一つの契約を結んだからである。すなわち歳三を使って映える動画を撮り、その収益の一部を…というわけだ。

 

 最初は抵抗を示した歳三であったが、ダンジョン内でゲットしたアダルティックなお面をかぶり、"キャラ設定" を聞く事でなんとなくその気になってしまった。

 

 結句、歳三の弱点であるメンタリティが大幅に改善されたカラテ・モンスターが生まれてしまった。

 

 まあ、歳三が繰り出す技の数々が空手の技かどうかという点では非常に、ちょっと、どうにも怪しいものではあるが。

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