ウマ娘×JWC。耳かきを添えて   作:雨宮季弥99

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ブルボン×ギンシャリで書きました。

史実では菊花賞でライスに敗れた後に故障により引退。ウマ娘ではライスが非常に目立ち、出番もカップリングも多い中、ブルボンってそんなに目立ってないんじゃない? 同室のフラワーはほとんど史実夫婦で組んでるし、史実で一緒に走ったタンホイザとも絡みそんなないしで、バクシンオーぐらいですかね? 二次創作に至ってはライスを救う話ばかり見るし(あくまで個人の感想です)

そんな事を考えたので、もしもギンシャリと出会ったら。そんな妄想を元にしたお話です。


ブルボン×ギンシャリ

トレセン学園のターフ。毎日誰かしらのウマ娘が走り、本番のレースに備えてトレーニングを積む重要な施設。

 

 そんなターフの近くで走るウマ娘を見つめる一人のウマ娘が居た。彼女の名前はミホノブルボン、皐月、ダービーを勝利した二冠ウマ娘である。

 

 しかし、彼女はその後の菊花賞にてライスシャワーに敗北。更に体の故障によってレースから離れざるを得なくなっていた。

 

「……ッ」

 

 そんな彼女はターフを見つめながら自分の唇を噛み締めていた。それはライスシャワーに敗北した事により三冠を達成できなかったからか、それとも故障によって走れないからか、それとも……。

 

「先輩、どうかしたんですか?」

 

 そんなブルボンに不意に声がかけられた。彼女が振り向くと、そこには栗毛色の髪をした、一人のウマ娘であった。

 

「……貴女は?」

 

 見覚えのないウマ娘に戸惑いを覚えるブルボン。

 

「ギンシャリボーイと言います。ブルボン先輩とは初めてお話させてもらってますが……ダメですよ、私達は体が資本なんですから、そんな腕を握り締めるのは」

 

 そう言ってギンシャリが握ったのは、自分の左腕を力強く握っている自身の右手であった。

 

「あ……すみません」

 

 握られて初めて自分の状態に気づいたブルボンは慌てて手を離す。

 

「……先輩、良ければそんな眉間に皺を寄せてターフを睨みつけている理由を教えて貰ってもいいですか? これも何かの縁ですし」

 

 ギンシャリの言葉にブルボンは迷った。彼女にとって目の前のウマ娘は今まで話したこともない赤の他人だ。だが、自分を見上げるギンシャリから醸しだされる雰囲気は、ブルボンの警戒心を解し、自然とブルボンの口が開いていた、

 

「……私は菊花賞でライスさんに負けました。その事に悔しさはありますが……ライスさんを憎むような気持ちはありません。しかし、ファンの皆さんはライスさんを一方的に悪者扱いしています……それが悲しい。そして、何もできない自分がとても悔しいんです……再度の故障の危険により、レースへの復帰もなにもできない自分が……腹立たしい……」

 

 悔しさを思い出し、再び悲しみを深めるブルボン。そんな彼女の手を取ったギンシャリは、ブルボンを見上げながら言葉を発する。

 

「ブルボンさん、もし良ければ私にお手伝いさせてもらえますか? 私のトレーナーは優秀ですから、きっと力になれますよ」

 

「え? いえ、そんな私は……」

 

 断ろうとするブルボンだが、それを遮りギンシャリはブルボンの腕を掴んで歩き出す。

 

「遠慮しないでください。ささ、早く早く」

 

「あ、ちょ……」

 

 そのまま強引に連れ去られたブルボン。そして、翌日から彼女の生活は一変した。

 

 ギンシャリのトレーナーである松岡正美トレーナーはベテランのトレーナーであり、ギンシャリの要望をアッサリと了承すると、ブルボンのトレーナーと話し合い、ブルボンとギンシャリ、二人のトレーニングメニューを共同で作り上げた。

 

 更に、ギンシャリはどういうツテを使ったのか、アメリカやヨーロッパで使用されているウマ娘用の高度な医療機械を揃えて、ブルボンの体調を第一に協同トレーニングを行うように整えたのだ。

 

 そして月日が過ぎ、ブルボンは新たな故障に合う事もなく、ギンシャリと共に順調にトレーニングを積み重ねていく。そんなある日、トレーニングを終えた二人がトレーナー室で休憩をしていた。

 

「ふぅ……ふぅ……今日は疲れましたね、ギンシャリさん」

 

「はい。でも、ブルボンさんはどんどん調子が上がってますから、もうちょっとトレーニングの内容を変更しても良いかもしれませんね」

 

 ギンシャリの言う通り、ブルボンは故障から回復して以降、中々トレーニングを積む事ができていなかったが、ギンシャリと共にトレーニングをするようになってからは調子が右肩上がりであり、故障をするより前の水準でのトレーニングもこなせるようになっているのだ。

 

「では、ブルボンさんはそこのポッドで高濃度酸素の吸引してください。あ、操作は絶対にしないでくださいね。私がしますから」

 

「了解しました」

 

 言われるがままにポッドに入ったブルボンはそのままギンシャリの操作によって満たされる高濃度酸素を吸引していく。中からの操作もできなくはないが、以前ブルボンが操作してポッドが爆発しかけて以来、ギンシャリは絶対にブルボンに操作はさせないようにしているのだ。

 

 暫くの間高濃度酸素の吸引を行ったブルボンは時間経過により自動で開かれたポッドから出て大きく体を伸ばす。

 

「それじゃぁブルボンさん、今日は耳のマッサージをしますから、こっちに来てもらえますか」

 

「わかりました」

 

 ソファーに座って自らの膝を叩くギンシャリの元に行き、ソファーに寝そべってギンシャリの膝の上に頭を置くブルボン。体勢を整えたのを確認すると、ギンシャリはブルボンの耳を摘まみ、観察する。

 

「ふむふむ……やはりトレーニングでストレスが掛かってますね。では、こうして……凝っている部分を指圧していきましょう」

 

 ブルボンの右側の耳を両手で包み、筋肉が凝っている部分を親指で力強く、だが無用な痛みを与えないようにブルボンの表情を観察しながら指圧していくギンシャリ。凝りによって滞っていた血流が促進され、痛みと気持ち良さの混ざり合った感覚に、ブルボンは口から息を吐き出す。

 

「はぁ……ん……あ……♡」

 

「あらら。相変わらずブルボンさんった艶のある声を出されますね。これはやりがいがあるという物です」

 

 楽しそうに囁きながらギンシャリはマッサージを続けていく。敏感な耳を他人に任せ、自分では調整できない指の動きによる快感に、普段サイボーグと呼ばれるブルボンの口からは熱と甘さが入り混じった息が吐き出され、顔や耳にも熱が篭っていく。

 

「凝っている部分をグリグリと圧力をかけて……ツボもギューッと、ギューッと押して血流促進。ブルボンさんのお耳のストレスを解消していきましょうね♪」

 

 グリグリ、ギュッギュッ

 

 グー……グリグリ……モミモミ

 

 柔らかい指に込められる力強さによって解される凝り。その快感にブルボンは身を任せ、体を脱力させ、快感を享受していく。

 

「モミモミモミ……うふふ、そんなに気持ち良さそうにされたらやってる甲斐があるってものですよブルボンさん。それでは、今日はこちらもしていきましょうか」

 

 そう言うとギンシャリはブルボンの耳から手を離し、代わりに近くに置いて置いた耳かきを手に持つ。

 

「シャワーを浴びた後とは言え、細かい所に汚れは残ってますからね。カリカリカリ♪ カリカリカリ♪」

 

 楽しそうにオノマトペを囁きながら耳かきを動かすギンシャリ。ウマ娘の耳はその大きさに比例して多くの耳垢や、空気中の埃等が汚れとして付着する。それらを匙の部分で搔き集め、和紙の上に捨てていく。

 

「ブルボンさんのお耳は良いお耳です。風を受けて、ストレスに晒されながら成長し、立派な筋肉の着いた良い耳ですから。丁寧にお手入れしないといけません」

 

「あ、ありがと……あっ、あっ♡」

 

 耳かきがちょうど良く気持ち良い部分を掻かれ、ブルボンの口から甘い声が漏れる。それに気を良くして笑みを浮かべながら、ギンシャリは耳かきを続けていく。

 

「ふふ、ブルボンさんの反応は可愛いですね♪ それでは……耳の穴の中も掃除していきましょうね」

 

 そして、耳かきが耳の穴の中に入っていく。外側と違い、硬質化して塊となった耳垢を耳かきが少しずつ剥がしていき、穴の外へ掻き上げていく。

 

「カリカリカリ♪ カリカリカリ♪ ブルボンさんの耳の中をカリカリして、耳垢を剥がしていきますね♪」

 

 耳かきが耳の中に入っていき、小さい物も大きい物も掻き出していく。穴の中は外側よりも更に敏感な部分であり、下手な動かし方をすれば当然痛みを与える。だが、ギンシャリは巧みに耳かきを動かし、ブルボンの表情を観察して、快感だけを与えていく。

 

「ふふ、ブルボンさんの耳垢は適度な硬さで崩れにくくて、それでも素直に剥がれてくれますからやりやすいです。ここも、ここもカリカリカリ♪」

 

 楽しそうに語りながらギンシャリは耳かきを動かす。そのたびに黄色い粉や、塊が和紙の上に捨てられ、耳の中がどれだけ汚れていたのかを実感させる。

 

「ちょっと……恥ずかしいですね。こんなに汚れているのは」

 

「いえいえ、大体これぐらいだと思いますよ。気にしすぎてるブルボンさんも可愛いですけど、気にしすぎると体に毒ですよ」

 

 そんなやり取りをしながらもギンシャリの耳かきは動き続け、やはて汚れを取り終わったのか、耳かきが引き抜かれ、代わりにローションが塗られた綿棒が入っていく。

 

「ぬりぬり~♪ ぬりぬり~♪ 痛い所はございませんか?」

 

「はい、大丈夫で……ひゃっ……ん……♡」

 

 元々耳の中は敏感であり、更に耳かきによって熱を帯びている中に冷たいローションが塗られ、ブルボンの体が反応し、口からも息が漏れる。その反応を見ながらローションを塗っていき、程よく塗り終えた後にギンシャリは顔をブルボンの耳に近づけ。

 

「ふ~……ふ~……」

 

「は……ッあ……ッ」

 

 最後に息を吹きかけられて、甘く息を吐くブルボン。そして、ギンシャリは再び耳かきを手にして反対側の耳を摘まんだ。

 

「さぁ、それではこちら側をやっていきましょう。このままじっとしてくださいね」

 

「ん……わかりまし……た」

 

 了承の言葉を聞き、ギンシャリは残る耳の掃除を開始した。

 

「ブルボンさんのお耳を両手で摘まんでギューッ♪ ギューッ♪ 凝りをモミモミ、血流促進♪」

 

 反対側の耳がギンシャリの両手に包まれ、凝りを的確に解されていく。

 

「はぁ……♡ ギンさんの手が……暖かいです」

 

「アスリートは基礎体温が高くなりがちですからね。モミモミ……グッグッ……ギューッ……やりすぎると痛くなっちゃいますからこの辺で、程よく汗をかいた耳の中に耳かきを差し込んで」

 

 カリカリカリ……カリカリカリ……

 

 バリッ……ゾリッ……ズズズ……

 

 ブルボンの耳から離れた右手が耳かきを手にして、そのまま耳掃除を進めていく。薄い物が音を立てて剥がされ、そのまま引きずられていき、耳の外へと出される。

 

「あ……そこ……気持ち良い……♡」

 

「耳かきは気持ち良くなきゃダメですよね。ほら、ここの耳垢をこうして……慎重に剥がしていって……♪」

 

「あっ……♡」

 

 大きめの耳垢が剥がされた時の快感に思わずブルボンの口から息が漏れる。痛みによるものでない吐息にギンシャリは笑みを浮かべながら耳かきを続けていく。

 

 とは言えブルボンの耳の中は殊更汚れているというわけでもなく、程なくして主だった耳垢は掻き出された。

 

「それじゃぁ次はローションで耳の中の保湿をしていきましょう。こういうのが意外とちゃんとした効果があるんですよ」

 

 綿棒に塗られたローションがブルボンの耳の中に塗られ、熱を帯びる耳の中をひんやりと冷やしていく。

 

「そして最後に……ふ~……ふ~……」

 

 ローションが塗られた耳の中をギンシャリの吐息が通り、ひんやりとしている耳の中から更に熱を奪い、自律神経を刺激する。アップになるギンシャリの目に見つめられるブルボンは思わず自分の鼓動が早くなるのを感じてしまった。

 

「さぁ、お疲れ様です。掃除は終わりです」

 

 そんなブルボンを他所に耳かき等を片付け、ギンシャリはブルボンの頭を撫でる。耳かきによる効果とトレーニングによる疲れからか、ブルボンの目は半分以上寝に入っていて、ギンシャリもそれを理解しているのか、ブルボンの頭を撫でつつ、手を握っている。

 

「んん……ギンシャリさん……起きない……と」

 

「大丈夫ですよ、このまま寝ちゃってください。十分な睡眠をとることが健康の秘訣ですよ。起きたら新潟産コシヒカリとカンパチのお寿司でも食べましょうか」

 

 そんな事を言いながらブルボンの頭を撫で続けるギンシャリ。再びに眠りに落ちそうになる。そんなぼんやりとした頭の中、ブルボンは言葉を発した。

 

「ギンシャリさん……どうして貴女は、私にそんなにしてくれるんですか? 私は……なにもお返しできないのに」

 

 それはブルボンにとって謎であった。確かにギンシャリの行動はブルボンにとって多大なメリットである。デビュー前とは思えない程に成熟した技術と勝負勘を持つギンシャリとの併走、謎のツテを使った外国製の医療機械、熟練のトレーナーによる指導。そのどれもがブルボンを成長させていく。だが、対してブルボンはギンシャリに対して何かを与えている実感は何もない。これではギンシャリが一方的にブルボンに奉仕しているようなものだと感じている。

 

「んー……そうですねぇ……理由は色々ありますよ。例えば二冠ウマ娘の詳細な情報は中々手に入りません。特にブルボンさんはマイルから長距離まで適性がありますから私にとって参考になりますし……海外製の医療器材も使用データが欲しかった所ですしね……」

 

 そこまで言った所でギンシャリは一度言葉を切った。

 

「まぁ……この辺は松岡トレーナーを納得させるための方便ですけどね。実際は、ブルボンさんを放っておけなかったからですかね。ライバルとは本気で戦って……勝っても負けても後腐れない方が良いですから」

 

 そう言うと、ギンシャリはブルボンの頭を撫でる。

 

「さぁ、そんな事よりも……。もうお眠のブルボンさんはお昼寝しましょうね。起きたら午後は勉強ですから、疲れを残していたらダメですよ」

 

 優しく頭を撫でられ、ブルボンは再び眠気に襲われていく。そして、やがて彼女は温もりの中で眠りに落ちていった。

 

 

 そうして月日は過ぎていき、春の天皇賞。この日の天皇賞は常にも増して多くの注目を集めていた。春の天皇賞三連覇を狙うマックイーン。菊花賞でブルボンに勝って以降ヒールとして見られ続け、今回もマックイーンを阻む、望まれない勝利者になるのではないかと疑われるライス。そして、菊花賞の敗北以降、故障によってレースから離れていたブルボンの三人が出走するからである。

 

「さぁ、今回の春の天皇賞。やはり注目は三連覇を狙うマックイーンでしょうか」

 

「そうですね。そして、ミホノブルボンとライスシャワーの戦いも注目です。ミホノブルボンには是非とも菊花賞の屈辱を晴らしてもらいたいものです」

 

 実況から流れる音声にライスシャワーの勝利を願うものはなく、観客たちからもライスが負けることを願うような声が聞こえている。そんな中、ライスは前を向いてこそいるが、その胸中では自責の念に駆られていた。

 

(もし……もしライスが勝ったら……マックイーンさんもブルボンさんも悲しませて……誰も……誰も……)

 

 そんな考えが頭の中で回り続けるライス。そんな中でもレースへの流れは進んでいく。

 

「G1天皇賞春のファンファーレ、各ウマ娘これよりゲートインです」

 

 そしてついにゲートインの時間になり、各ウマ娘がターフを歩いていく。そんな中、ライスに話しかけるウマ娘が居た。

 

「ライスさん」

 

 声をかけられたライスがその方向を向く。そこではブルボンがしっかりと、彼女の事を見ていた。

 

「周りの事なんて気にしないでください。私は……全力の貴女と戦いたい。それだけの為に、私は今回のレースに出走するんですから」

 

 それだけを伝え、ブルボンはゲートに入る。その言葉にライスは一度目を瞑り……そして、覚悟を決めた瞳でゲートに入った。そして最後にマックイーンが入り、ゲートが閉じられる。

 

 そして、レースが開始された。パーマーとブルボンが先頭を走り、その後ろにマックイーン、ライスが続き、その後ろからタンホイザを始めとした他のウマ娘が追走していく形でレースは進んでいく。

 

 第二コーナーを曲がる頃にはパーマー、ブルボンの両名が後続を引き離しにかかるも、後続達はそれに追走。第四コーナーからマックイーン、ライスに追いつかれ、そのままパーマーは失速。なんとかブルボンが先頭を維持しつつ、後ろからマックイーンを追い抜いたライスとの一騎打ちの形となった。

 

 もしもブルボンが以前のままであるなら彼女はこの直線で抜かされただろう。ブルボンの走り方の最大の特徴は完璧なペース配分である。つまりライスからすれば自分がどのタイミングで走り、どのタイミングでスパートをかけるべきなのかが全て分っているという事になる。そして、長距離ではブルボンよりもライスの方に分がある。

 

 それはブルボンもわかっていた。他のウマ娘ならともかく、ライス相手ではこのままの走りでは追い抜かれる事もレースの中で悟っていた。だからこそ、彼女には一つの策があった。

 

「はああああああ!」

 

 ブルボンの上半身が一気に前に倒れ込む。地面に向けて体を思い切り倒し込むことにより前に崩れそうになる体を支える為に足を強制的に前に出さなければならなくなり、ブルボンのスピードが一気に上がっていく。

 

(加速!? ま、まだだから! 絶対に付いていく!)

 

(そのような無茶な加速を! ま、負けませんわ!)

 

 それを見てライス、マックイーンもスピードを上げていく。この走り方は菊花賞までのブルボンにない走り方であり、故障以降のレースでも一度も発揮された事はない。そして、この走り方は一歩間違えれば全力疾走からの転倒と言う大事故にも繋がる。故障によってレースを離れていたブルボンから出てくるとは思えない危うい走り方に二人の反応は遅れ、ブルボンとの距離は離されていく。

 

(まだ……まだ……! ライスさんもマックイーンさんも……まだ、追いついてくる!)

 

 後ろからの気配を感じつつ、ブルボンの頭には一つの記憶が蘇っていた。それは、春の天皇賞が決まってすぐの時である。

 

「……必勝の策……ですか?」

 

 トレーナールームでブルボンの呟きを聞いたギンシャリは思わず聞き返した。

 

「はい、ライスさんもマックイーンさんも強敵です。今のままのトレーニングを積み重ねても勝てるかどうか……正直、不安があります」

 

 そう言って俯くブルボン。一度負けていることに加えて体の故障により長らく本格的なトレーニングやレースから離れていた事もあり、彼女の中には自信よりも不安の方が大きく根付いているのだ。

 

「……でもブルボンさん。正直に言えばレースでそんなものなんてないですよ。強いて言えば毎日キチンとトレーニングを積み重ねる事だって言うのは貴女自信が良くわかってると思いますけど」

 

「はい……そうですよね」

 

 坂路の申し子。そう呼ばれる程にトレーニングを積み重ねたブルボンは才能以上に努力によって勝利してきたウマ娘である。だからこそレースにおいて必勝方なんてないのはわかってはいるはずなのだ。

 

 だが、だからこそ、長らくトレーニングを積み重ねられなかった事への不安もまた人一倍大きく感じているのだろう。

 

「うーん……あ、そうだ。あれならどうかな?」

 

 そう呟くと、ギンシャリはブルボンに近づき、その足を触る。突然の行動にブルボンが驚くが、その触り方に嫌悪感を感じるどころか、足から甘い疼きすら感じる。

 

「ん……♡ ギ、ギンシャリさん……?」

 

「うん、この筋肉なら大丈夫かもしれませんね。えーと、今の時間なら起きてるかな?」

 

 ブルボンから離れたギンシャリはパソコンを起動させるとそのまま電話をかける。そしてしばらくすると誰かが電話に出た。

 

「ギンシャリ? こんな時間に何か用?」

 

「あ、リムジン。ちょっと今大丈夫? リムジンのラストスパートのやり方を教えて欲しいんだけど」

 

「え……? 別にいいけど、ギンシャリって別にあの走り方する必要ないよね?」

 

 そんなやり取りが聞こえてきて、ブルボンがギンシャリの後ろに回ってパソコンの画面を見てみると、そこには金髪の外国ウマ娘の姿が映し出されていた。

 

「私じゃなくてこちらのウマ娘……ブルボンさんが合わないかなって思ったの。彼女のトモの筋肉なら十分耐えられると思うから」

 

「んー……私達ならともかく普通のウマ娘がやるのはあまりお勧めできないけど……。わかったわ、前に自分のフォーム確認用に撮影したのがあるから、それを編集して送るわね」

 

「ありがとう。今度またお礼させてね」

 

 そうしてやり取りを終え、電話を切ると、ギンシャリがブルボンの方を向く。

 

「ギンシャリさん、あの方はどなたなんですか? それに、あの方のラストスパートのやり方と言うのは一体?」

 

「さっきのはアメリカの友人、ハリウッドリムジンです。彼女のラストスパートのやり方は……まぁ、常時使うのは絶対にお勧めできませんが、何かあった時の最終手段として割り切るなら有用な物かなと……まぁ、しばらくしたら動画がくると思うので、そちらを見てから考えれば宜しいと思います」

 

 そうしてしばらくして、件の動画が届けられた。動画を見たブルボンはしばし考え、そして二人のトレーナーと相談。結果として練習こそ行いはするが、それでもあくまでも保険であり、この走り方をせずに勝つことを目標にするように。そして、春の天皇賞が終われば絶対にこの走り方をしてはいけないと強く念押しされる事となる。

 

 だが、ブルボンは理解した。この走り方をしなければ勝てないと。その為に彼女は何回も練習を繰り返し、この走り方を物にしたのだ。

 

 そして今、ブルボンはただ前だけを向いてがむしゃらに走る。一瞬でも気を抜けば体勢を崩して復帰できなくなる。後ろを振り返る余裕なんてまったくなく、ただゴール版を駆け抜ける、その為だけにブルボンは走り続ける。そして。

 

「ゴール! ミホノブルボン! 一着はミホノブルボン! ライスシャワーを制し、菊花賞の雪辱を果たしたー!」

 

 ついにゴール版を駆け抜け、ブルボンは少しづつ勢いを落とし……そして足を止めると、ウイニングランすら忘れ、膝に手をついて大きく呼吸する。無茶な走り故の疲労と酸素不足によって視界が赤く染まり、体からは膨大な汗が滴り落ちている。坂路の申し子と言われる程に鍛え上げられたスタミナと両足。そしてギンシャリと共に積み上げた修練の成果が無ければ……菊花賞までの彼女であれば恐らくは途中でバランスを崩し、大事故を起こしてていたであろう走り故に。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 暫くの間真面に動く事もできなかったが、それでもなんとか呼吸を整えたブルボンが前を向くと、そこには彼女を見つめるライスの姿があった。

 

「ブルボンさん……強かったよ……! やっぱり、ライスが菊花賞で勝ったのは間違いだったんだね……ブルボンさんは……本当は、三冠ウマ娘だったのに……」

 

 ブルボンを見上げ、今にも涙が零れ落ちそうなライス。それを見たブルボンは、ただ力強くライスを抱きしめた。

 

「ひゃわ!?」

 

「違います……ライスさん……それは違います」

 

 抱きしめられ、ブルボンの胸に顔の埋もれるライス。そんな彼女の耳にブルボンの言葉がはっきりと聞こえる。

 

「ライスさん……貴女が強かったから、あの時貴女に負けたから、私はここまで強くなれたんです。だから……貴女が勝ったのは間違いじゃないんです。貴女がそれだけ強いんです」

 

「……貴女の強さが私をここまで強くしてくれた……だから、お礼を言わせてください。ありがとう……本当に……ありがとう……貴女は、私にとって三冠ウマ娘の称号なんかよりも大事な……大事な友達なんです」

 

 ライスを力強く抱きしめ、感謝を告げるブルボン。そんな彼女の肩が不意に叩かれ、視線を向けた先に居たのはマックイーンであった。

 

「あの……そろそろ離してあげたほうがよろしいのでは……?」

 

 そう言われブルボンがライスを少し体から離すと、そこには顔を赤くして目を回しているライスの顔が見えた。

 

 そもそも、このレースは長距離レースであり、いかに適性があり、鍛え上げたウマ娘であっても当然激しく体力を消費し、呼吸は荒くなり、体温は嫌でも上昇する。そして、ブルボンの勝負服は非常に彼女の体のラインが見えるタイプのものである。

 

 つまり、今の彼女は全身から流れる汗によって服がピッチリと張り付き、高い体温を発している。そんな彼女の胸に今のライスの顔が埋もれると言う事は、熱く豊満な胸に顔を埋めながらブルボンの匂いに頭が犯されている状態に陥るという事に他ならない。ウブなライスがそんな状況に耐えられるはずもなく、既に半分以上気を失っていたのだ。

 

「……困りました。ライスさんがネガティブな発言をしていたら自分の精いっぱいの気持ちを伝えるようにギンさんに言われたのに……」

 

「それはライブの後で良いと思いますわ。さぁ、取り敢えず戻りましょう」

 

 マックイーンに先導される形でライスを抱きしめたままターフを後にするブルボン。当然その光景は全ての観客達が目撃していた。

 

 その後、レース後のインタビューによってブルボン、マックイーンの両名がライスの力を称え、また一部の過激なファンによる誹謗中傷を望まないと明確に宣言したことによりライスへの誹謗中傷は収まりを見せた。無論ブルボンの無敗三冠、そして結果としてブルボンが一着になりはしたが、そうでなくてもライスによってマックイーンの天皇賞三連覇が阻止されていたであろう事に対して思う事のあるファンは居なくなったわけではないが、少なくとも表立って騒ぎ立てる者は居なくなった。

 

 それからブルボンはライスと親交を深め、そんな彼女が見せる表情の豊かさに、ブルボンの事をサイボーグと呼ぶ声も少なくなり、テイオーを始めとして新しく親交を深める者が現れていった。そして月日は流れていき。

 

 秋の天皇賞、春と並ぶもう一つの天皇賞。この日、ブルボンはこのレースへの出走が決まっており、パドックを終えた彼女達は既にゲートへ向かって歩いていた。

 

 ゲートへ向かって歩く彼女の頭の中に、春の天皇賞の後のギンシャリとの会話が思い浮かぶ。

 

「ブルボンさん、おめでとうございます。見事なレースでしたよ」

 

 レースの翌日、合同のトレーニングルームに入ったブルボンにギンシャリが笑顔で声をかけてきた。

 

「ありがとうございます……ギンさん。貴女のおかげで私はライスさんに勝つことができました。このご恩は……一生忘れる事はありません」

 

「ん、そんなに重く考えなくて大丈夫ですよ。前にも言いましたけど、私にとっても利のあった事ですし」

 

 そう返すギンシャリだが、ブルボンの真剣な目に少しの間どう返そうか悩む。だが、ふと何かを思いついたのか、手を叩いた。

 

「そうですね……ブルボンさん、私、秋の天皇賞で三連覇するのが目標なんですよ。ですから、来年の秋の天皇賞で戦いませんか? 勿論……全力で、ですよ……あ、あのラストスパートはもうダメですよ」

 

「……! わかりました。それが貴女の望みなら、私は全力で戦います」

 

 ギンシャリの言葉にしっかりと頷くブルボン。こうして、二人の戦いの約束が成された。

 

 そして、その年の内にギンシャリは無敗三冠を達成し、更に勝ち鞍を重ねていく。その間ブルボンも当然ながらレースを重ね、実力を伸ばしていく。そうして高め合った二人はこの日を迎えたのだ。

 

 ターフを歩きゲートへと向かうブルボン。彼女の心にはしっかりと自信と、同時に大きな不安があった。彼女自身、自分は強くなったという自覚はある。だが、それ以上にギンシャリの実力が余りに未知数なのだ。

 

 三人目の無敗三冠を成し遂げたギンシャリ。当然その実力の高さはレースにおいていかんなく発揮されている。だが、ブルボンが恐ろしいと思っているのは彼女のレース運びそのものだ。デビュー前、春の天皇賞を目指すブルボンと一緒に練習していた頃から、彼女のレース運びは余りに完成されていた。身体能力、才能、そんな言葉だけでは片付けられない、まるで既に一度ドリームシリーズまで駆け抜けたような……そんな、経験に裏付けされた走り方を……。

 

「うふふ、ブルボンさん。今日は全力を尽くしましょうね」

 

 そんな不安を抱えるブルボンがゲートに入る前にギンシャリが話しかけてきた。そちらを向いたブルボンに、彼女はいつものように微笑みかける。

 

「はい。私は今日、全力で貴女を倒しに行きます……それが、貴女にできる一番の恩返しですから」

 

「ええ……楽しみにしていますよ」

 

 この言葉を最後に二人はゲートに入り、出走を待つ。その間に、ブルボンは今一度己の決意を固める。

 

(ギンさん……私は貴女に恩返しがしたい……でも、それ以上に貴女と全力で戦いたい。ああ……きっと、今日は私にとって最高のレースになるでしょう)

 

 

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