異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第101話 0:00 [新]異世界ラジオのつくりかた④

 聴き慣れた赤坂先輩やフィルミアさんのようなのんびりした声でもなく、リリナさんの凛とした声でもない。かといって、ルティとピピナやのようなかわいらしい声でもないし、有楽の変幻自在な声とも違う。

 

『連続〈らじおどらま〉、〈異世界ラジオのつくりかた〉第1回。ただいまの出演は――』

『エルティシア役、エルティシア・ライナ=ディ・レンディアール』

『ピピナやく、ピピナ・リーナ』

『赤坂瑠依子役、赤坂瑠依子』

『有楽神奈、女盗賊、通りすがりの女子高生役、有楽神奈』

『松浜佐助役、松浜佐助』

『中瀬海晴役……中瀬海晴』

 

 エンディング用のインスト曲が流れ始めてしばらくすると、落ち着いたナレーションに導かれてキャストの自己紹介へ。自分の名前を役柄として言ってから名乗るってのはさすがに違和感があるけど、その中でもひとりで声色の違う3役を演じた有楽はさすがと言う他にない。

 

『制作・脚本、赤坂瑠依子。演出・編集、中瀬海晴。制作協力、〈くいっくれすぽんす〉。そして〈なれーしょん〉はアタシ、アヴィエラ・ミルヴェーダがお送りしました』

 

 最後を締めくくるのは、この作品でナレーションを担当することになったアヴィエラさん。いつもの快活なトーンとは正反対な落ち着いた声は、この作品の締めくくりにとってもふさわしくて、

 

「うわっ、ホントにアタシの声が流れたよ……」

「実にお見事です、アヴィエラお姉さん」

 

 その本人はというと、口に手をかざしながら顔を真っ赤にして、さっき褒めていた中瀬から褒め返されていた。

 

「ありがとうございました、アヴィエラさん。締めくくりにとてもいいナレーションでした」

「いや、それは別にいいんだけどさぁ……やっぱり、こういうのって照れるね!」

 

 ていねいな赤坂先輩のお礼に、アヴィエラさんが顔を真っ赤にしたままあははーと照れ笑いを浮かべる。

 元々『異世界ラジオのつくりかた』に出演することになっていたアヴィエラさんの出番は、異世界編となるラスト2話だけ。どうにかしてアヴィエラさんにお手伝いしてもらおうと考えた先輩が思いついたのが、このナレーションだった。

 

「そのわりには、こういうのに手慣れてた感じですよね」

「イロウナにいたとき、よく学校の子供たちに読み聞かせとかしてたもんだからさ。でもさ、やっぱり〈なれーしょん〉とは全然違うって!」

「私が〈あいしーれこーだー〉を向けたときに、表情が引き締まったのがとても印象的でした」

「こういうのって緊張するじゃんか……でもまあ、こうしてみんなといっしょに〈らじおどらま〉へ出られたのはうれしいよ。ありがとな、ルイコ」

「いえ、わたしこそ」

 

 ちょっと拗ねてみせながら、アヴィエラさんも仕方ないなとばかりに笑ってお礼を言ってみせた。それに応える赤坂先輩もうれしそうなのは、やっぱり会心の出来だったからだろう。

 ラジオドラマも無事終わって、スピーカーからはエンディング用の軽快なインスト曲が流れている。あとはCMが流れて、次の番組へ……なんてことはなくて、

 

『というわけでお送りしてきました、わかばシティFMが舞台の番組づくりラジオドラマ〈異世界ラジオのつくりかた〉。後半のトークパートはあたし、クイックレスポンスの新人声優・有楽神奈と』

『某ラジオ局アナウンサーのボンクラ息子でアナウンサー志望・松浜佐助の週替わりアシスタントふたり。そして』

『我、エルティシア・ライナ=ディ・レンディアールと』

『ピピナ・リーナのめいんぱーそなりてぃーふたり、ごーけーよにんでおおくりするですよっ!』

 

 まだ30分のうち15分しか経過していない番組は、後半のトークパートへと移っていく。さすがに30分まるまる連続ラジオドラマっていうのはみんなの体力的にもキツいし、ラジオドラマを扱う番組でおなじみのフォーマットが採用されていた。

 

『あたしはこのわかばシティFMでクイックレスポンスのラジオに出てたり、同じ学校の松浜先輩と〈ボクらはラジオで好き放題!〉に出てるから聴いたことがある人もいるかもしれませんね。でも、エルティシアさん――えっと、こっちでもルティちゃんでいいよね?』

『うむ、もちろんだ』

『ありがとっ。ルティちゃんとピピナちゃんは、初めてのラジオドラマで初めてのラジオパーソナリティ! 外国の小さな町からやってきたふたりが、自分の町でもコミュニティFMを開局するために、リアルと物語でラジオ番組づくりを学んでいきます!』

『じゃあ、さっそくふたりのことを紹介していこうか。ルティとピピナはわかばシティFMのリスナーで、ラジオドラマに出演している赤坂瑠依子さんの〈若葉の街で会いましょう〉がきっかけになってこの番組のメインパーソナリティになりました』

『元々は海外に住んでいて、こっちに遊びに来たときにコミュニティFMのことを知ってただいま絶賛お勉強中なんです。時々、るいこせんぱいの番組のお手伝いとかしてるんだよね』

『ああ。ルイコ嬢の〈ばんぐみ〉の時には、ピピナとともに外で〈じんぐる〉の〈ろくおん〉を手伝ったりしている。〈りすなぁ〉諸氏の中には、もしかしたら我の姿を見たことがある方もおられるかもしぬな』

『ピピナも、ルティさまといっしょにおてつだいとおべんきょーをしてるですよ。このあいだも、さすけとかなとおなじじかんたいのこーこーせーさんたちのばんぐみをみておべんきょーしてました』

『ふたりとも身長が150センチと140センチもないから、みんなにずいぶん可愛がられてたよな』

『ら、〈らじお〉なのだから姿は見えぬであろう。我の堂々とした声から、その姿を想像してはくれまいか』

『堂々としてるよねー。そしてかわいい』

『なっ』

『かわいくてどーどーとしてるです』

『かわいくて堂々としてるし、凛々しいよな』

『さ、サスケは余計なものを付け加えるでないっ!』

 

 有楽とピピナと俺のかわいい攻撃に慌てたルティの声と、ちょっと顔を赤くしている隣のルティの姿が妙にシンクロしている。膝の上ではピピナが「かわいいですー」とか追い打ちをかけてるし、実際にかわいいんだから仕方ない。

 番組はこうして4人のクロストークで進んで、ルティとピピナを紹介しながらラジオドラマに出てきたラジオ用語の解説や雑談へと展開していく。ラジオドラマの時はみんなずいぶん緊張した雰囲気で聴いていたのが、トークパートになるとみんなでくつろぎながら聴いていた。

 そんなトークのコーナーも終わりを迎えて、中瀬が選曲したバラード調のインスト曲が流れてくる。いよいよ、番組のエンディングだ。

 

『〈いせかいらじおのつくりかた〉、そろそろ〈えんでぃんぐ〉のじかんです』

『この〈ばんぐみ〉では、〈らじおばんぐみ〉づくりについての質問や感想、そして〈らじお〉に関する〈りすなぁ〉諸氏からの思い出などを募集している。〈めぇるあどれす〉は、[email protected]。〈あいえすいーけーえーあい、あっとまーく、えふえむはちはちはち、どっとじぇいぴーえぬ〉だ』

『というわけで、第1回もそろそろ終わりなわけだけど、ふたりとも初めてのパーソナリティはどうだった?』

『どっちかとゆーと、さすけとかなのほうがめいんだったよーなきがします』

『初めてなんだから仕方ないよ。まだあと12回あるし、慣れていけばメインになれるって』

『そんな俺たちアシスタントは、週替わりで担当することになっています。来週の担当はこちらの有楽神奈と、ルティたちと同じ街から来た凛々しい女の子。今明かせるのはここまでですけど、ラジオドラマにも出てくるのでぜひぜひお楽しみに!』

『というわけで、この時間は(われ)ことエルティシア・ライナ=ディ・レンディアールと』

『ピピナ・リーナと』

『アシスタントの松浜佐助、そして』

『同じくアシスタントの有楽神奈。こちらの4人でお送りしましたっ』

『次回もわかばシティFMで、皆といっしょにラジオを学ぶのを待っておるぞ!』

『それではみなさん』

『『『『また、来週!』』』』

 

 俺たち4人の声が重なって、しばらくインスト曲だけが流れていく。そのインスト曲も、10秒ぐらいするとフェードアウトしていって――

 

『わかばシティFMのノンストップ音楽番組〈Midnight Playlist〉は、リスナーの皆様からのプレイリストをお待ちしております。月曜日から金曜日の深夜3時間と土曜と日曜の早朝2時間に加えて、7月からは日曜深夜の30分枠も新設し――』

「……終わったな」

「ああ、終わったな」

 

 続くCMが流れている最中に聞こえてきたルティのつぶやきに、俺もぽつりと応えた。

 長いようでいて、短かった30分。あっという間に過ぎていったこの時間はまるで夢みたいなものだったけど、

 

「ルティさまっ、ピピナもよくしゃべれましたか?」

「ああ、もちろんだ。我らによくついてきてくれた」

「それならよかったです!」

「来週も、またその次もよろしく頼むぞ」

 

 ルティもピピナも、ふたりして隣で笑いあっていて、

 

「来週は私の番ですね。カナ様、よろしくお願いいたします」

「こちらこそ。とはいっても、もう収録は終わっちゃったけどね」

「ですが、こうして聴くのは初めてになるのですから。また、ともに聴いて下さいますか?」

「もちろんっ!」

 

 向かいでは今週相方を務めてくれた有楽と、来週分で有楽の相方を務めるリリナさんも楽しそうに話していたり、

 

「来週の〈どらま〉には、わたしも登場するんですよね~……ちょっぴり緊張してきました~」

「気持ちはわかります。初めての出演って、どうしてもドキドキしちゃって」

「慣れてるルイコさんでもですか~?」

「ええ。やはり、初めてのことに挑戦するときには緊張してしまいます」

 

 フィルミアさんは右はす向かいのソファでいっしょに座っている赤坂先輩から経験談を話してもらっていたり、

 

「アヴィエラお姉さん、お疲れ様でした」

「ミハルこそ、音の作業も声の出演もお疲れ様。ずいぶん堂に入ったものじゃないか」

「いえ、アヴィエラお姉さんにはかないません。来るアヴィエラお姉さんの出演に向けて、よりっそう精進していかなくては」

「じゃあ、アタシも語りと演技を精進していかなくちゃな」

 

 すっかり仲良しコンビな中瀬とアヴィエラさんも、左はす向かいで意気込み合っていた。

 みんなの楽しそうな声が、今までの時間は現実のものだったって教えてくれて……

 

「サスケ」

「うん?」

「夢が、またひとつ形になった」

「ああ」

 

 頬が緩んで、笑いたくなって仕方がない。

 楽しくて、うれしくて、これから先に待っているものがぐっと広がっていって。

 ここにいるみんなとどんなラジオを作っていこうかっていう希望が、今にもあふれ出しそうで。

 

「あと12回、もっともっとがんばって作っていかねば」

「うん。それに、ヴィエルでのラジオ局作りだって待ってるんだよな」

「形にするべき夢がたくさん待っているところで、こうして実際に〈ばんぐみ〉が流れたのは実に励みになった。どういう反応が返ってくるかは期待もあり、不安もあるが……今は、素直に楽しんでおこう」

「そうだな」

 

 全部が全部、いい反応じゃないかもしれない。もちろんそういった声は参考にする必要があるし、受け入れなくちゃいけないと思う。それでも、今だけはこうしてひとつの番組が完成したことを喜んでいたかった。

 

「よしっ。それじゃあ、お祝いに乾杯でもするか。麦茶でだけど」

「もう深夜であるからな。ならば、我も手伝おう」

「ピピナもてつだうですよっ!」

 

 俺とルティが立ち上がろうとすると、ルティの膝から飛び降りたピピナも人間サイズになってしゅたっと床に降り立った。

 

「ありがとな、ピピナ。みんな、第1回オンエアのお祝いに乾杯しようと思うんだけど、麦茶でいいかな?」

「「「「「「はーいっ!」」」」」」

 

 俺の問いかけに、みんなが元気に応えてくれた。2リットルのポット2つ分作ってあるから、量も十分に――

 

「佐助、あたしたちの分もある?」

「母さん?」

 

 って、寝てるはずの母さんがなぜか入口にいるし。

 

「大丈夫なのか? まだ寝なくて」

「寝るわけがないでしょ。かわいい息子とその友達の新番組なのに、そうやすやすと寝てられるもんですか」

「母さん……ありがとう」

「いいのいいの。それより、あたしたちの分はあるのかしら」

「ああ、ある……って、『あたしたち?』」

 

 と、母さんの言葉に一瞬引っかかりを覚える。俺は一人っ子で、父さんも今はプロ野球中継の仕事で仙台にいる。泊まってるみんなはこのリビングに全員集まってるし、これ以上誰かがいるってことはないはずなんだけど――

 

「『お母さん』はね、母さんだけじゃないってことよ」

「は?」

 

 にやりと母さんが笑ったところで、その後ろからふたつの人影がリビングへと入ってきた。

 

「やっほー」

「か、母様!?」

「ど、どうしてここに~!?」

 

 ひとりは、肩まである銀髪に引き締まった顔立ちがルティとそっくりな女性。

 

「なんだか楽しいことをやってるじゃないのさ」

「か、かーさま!?」

「なっ、なぜこちらへいらっしゃったのですか!?」

 

 もうひとりは、長い水色の髪の先を大きな緑色のリボンで結んで、髪と背中の隙間から透明の羽をはためかせているちょっと背の小さい女の子。

 そのふたりをルティとピピナが『母様』って呼ぶってことは――

 

「も、もしかして、レンディアールの王妃様と」

「精霊様ですかっ!?」

「ありゃ、もう当てられちゃったか」

「そりゃそうでしょー。ヴィエルに住んでて、リリナもいるんじゃあねー」

 

 俺と有楽の問いかけに、あっけらかんと答えるふたりの『お母さん』。

 ヴィエルどころか、レンディアールを支えるふたりだっていうのに……どうしてこんなところにいて、母さんと笑い合ってるんだ……?

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