異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第103話 異世界からのおくりもの②

「わたしの娘たちを助けて、そして支えてくれて本当にありがとうございます。ルティとピピナちゃんがいなくなったときには心配したけど、帰ってきたルティからの楽しそうな手紙を読んで安心しました」

「ボクも。みんな、うちのポンコツ娘とカタブツ娘の面倒を見てくれてありがとう。ふたりとも、みんなに迷惑かけてなかった?」

「いえ、決してそんなことは」

 

 あるにはあったけど、今はあれもいい思い出だと思う。それを口にするのは、現在のふたりに失礼ってものだ。

 

「母上、今のピピナはぽんこつなどではありません。私の頼れる妹です」

「ねーさまもかたぶつじゃないですよ。とってもやさしくてたのしいねーさまです!」

「えっ」

「あの、リリナちゃんとピピナちゃんって、ケンカばかりしてたわよね?」

「この街でもヴィエルでも、様々なことがありまして……今はこの通りです。なあ、ピピナ」

「はいですっ!」

 

 とてとてと歩み寄ってきたピピナの肩を、抱くようにして引き寄せるリリナさん。そのふたりの姿は、どこからどう見ても仲良しな姉妹でしかない。

 

「はー……お母さん、びっくりだよ。相変わらず仲が悪いんだろうなって思ってたのに」

「長い間会わなければ、それだけ変わることもありましょう」

「それに、さすけとかなと、るいこおねーさんとみはるんと、アヴィエラおねーさんとまもるおじーさんと、それと、えっと、えっと……たくさんのひとが、いっぱい、いーっぱいたすけてくれたですよっ!」

「あれだけルティとミアのことしか見えてなかったキミたちが、そんなことを言うなんてねー。どんなことがあったか、後でゆっくり話してくれる?」

「はい、喜んで」

「かーさまにも、みんなのことをしってほしいですっ」

 

 興味深そうに尋ねてきたミイナさんに、リリナさんもピピナも揃って笑顔で応えた。きっと、素直で明るいふたりのやりとりを目の当たりにしたらびっくりするはずだ。

 

「あのふたりが仲睦まじくしてるなんて、わたしも初めて見たわ……」

「みんな、いろいろあったということですよ~」

「そういうミアも、雰囲気が変わったわね」

「そうでしょうか~?」

「ええ。前はただふわふわしていたのが、落ち着きが出てきたんじゃないかしら。それに、ルティ」

「は、はいっ」

「さっきの〈らじお〉、聴いたわよ。あんなにたくさんしゃべるルティなんて初めてで、とってもびっくりしちゃった。ルティからもミアからも手紙である程度のことは聞いてたけど、あんなに堂々と演じて話しているなんて」

「あっ……ありがとう、ございます」

 

 サジェーナ様からの感想に、顔を真っ赤にして頭を下げるルティ。前はもっとおとなしかったらしいし、何ヶ月かぶりに会って今みたいに堂々とした姿を見たのなら、サジェーナ様が驚くのもよくわかる。それに、お母さんから直接言われて照れるのも。

 

「みんなのおかげです。(わたくし)のわがままに、みんなが付き合ってくれたから」

「もう。ルティちゃんったら、全然わがままなんかじゃないよっ」

「神奈ちゃんの言うとおりです。わたしも松浜くんも神奈ちゃんも、ルティさんの目指すことに魅力を感じていっしょに歩いてきたんですから。ね、松浜くん」

「ええ。初めてルティと会ったのはラジオ局の前で、その時からラジオに対して興味津々でした。楽しそうにラジオに接するルティを見てたら、俺たちまで楽しくなってきちゃって」

「あの、王妃様。『ラジオ』がどういうものかっていうのはご存じですか?」

「もちろん。店のお手伝いをしていたときに、シローにお願いしてチホとミイナといっしょに聴かせてもらってたもの」

 

 ここでも、サジェーナ様の口からじいちゃんの名前が出てくる。ルティもサジェーナ様も、親子揃ってラジオに興味を持ってたんだ。

 

「じゃあ、ルティちゃんがヴィエルにもラジオ局を作ろうとしているのも」

「手紙で知ってたけど、ここまで本格的にやってるなんて思いもしなくて……ルティは、さっきみたいな〈ばんぐみ〉を作ろうとしているの?」

「は、はい。しかし、このような番組だけではありません。市内の皆にとって娯楽になるような〈ばんぐみ〉の他、音楽や街中の情報や、逆に街や警備隊からの告知などが伝えていければと」

「それって、本格的な〈らじおきょく〉じゃない!」

「ニホンの皆が協力してくれたおかげで、ここまで考えつくことができました。今回のお世話になった〈らじおきょく〉の方や、チホ嬢の旦那様であるフミカズ殿からも助力をいただいて」

 

 ついさっきまでおどおどしていたルティの声に、だんだん力がこもっていく。父さんの名前を出すと、コンポのかたわらにあった完成品の無電源ラジオへと手を伸ばして、

 

「フミカズ殿には、こちらの世界では必須とされる〈でんき〉を使わずとも〈らじお〉の音を受け取ることができるこの機械のことを教えていただき、その師である方からは作り方を教えていただいたのです」

 

 手にした無電源ラジオをそっとサジェーナ様に差し出し、受け取ったのを見たところで誇らしく、そしてうれしそうな笑顔を浮かべてみせた。

 サジェーナ様もその笑顔に気付いたのか、にっこりと笑うと無電源ラジオのダイヤルに手を添えた。

 

「そこまでしていただいたの。チホ、あなたの旦那様にも感謝しなくちゃね」

「文和さん、こういうのが好きだから。役に立てたのならなによりよ」

「さすがに〈らじお〉を〈ほうそう〉するためには少量の〈でんき〉が必要ではありますが、その方法もフミカズ殿やサスケのおかげで知ることができました。既に街中では試験的に運用を始めていますので、あとはこの〈むでんげんらじお〉を完成させ、街の皆へと広めるのみです」

「……やっぱり、血は争えないか」

「母様?」

 

 どこか懐かしそうに、そして少し戸惑ったような笑顔を浮かべたサジェーナ様に、ルティがちょこんと首をかしげてみせた。

 

「さっきも言ったように、わたしも昔ここで〈らじお〉を聴いたことがあるの。サスケくんのおじいさまであるシローおじさまと店番をしているときに〈じゃず〉や〈くらしっく〉の〈ばんぐみ〉をよく聴いてね。そのとき、ミイナといっしょに『これを持って帰りたい』ってお願いして」

「ジェナとミイナ、ふたり揃ってお父さんに迫っておねだりしてたわよねー」

「おねだりまではしてないってば。ボクはレンディアールでも聴きたいなって思っただけで」

「ミイナが勝手に〈こんぽ〉を持ち出そうとして、おじさまから説教されて」

「それは言わなくてもいいでしょっ!」

 

 とがった耳をぴんと立てたミイナさんが、母さんとサジェーナ様に食い下がる。若い頃の母さんたちとも、きっとこんな風にやりとりしていたんだろうな。

 

「結局おじさまからは『〈でんき〉がなければ無理だ』って諭されて、その時はあきらめたんだけど……娘も興味を持って、その上レンディアールへ持って帰ってくるなんて。ルティのほうが、わたしよりずっと上手(うわて)だったみたいね」

「い、いえ、そのようなことは。私はただ、自分が住む街でもこのようなものがあったら楽しいと思っただけで」

「それで十分よ。ルティがなにかに興味をもって、それを極めたいということが大事だもの。これからルティがどんな〈らじお〉を作っていくのか、とっても楽しみ」

「ボクも。あのよわよわなルティがここまで自信満々になれたんだから、それだけ面白いものを期待してるよ」

「か、母様もミイナ様も敷居を高くしないでくださいっ!」

「ただ素直に楽しみにしてるだけよ? ねっ、ミイナ」

「そうそう」

 

 お母さんふたりからの期待のまなざしを受けて、ルティの顔はすっかり真っ赤になっていた。このあたりは、まだまだ照れがあるらしい。

 

「ねえ、ジェナ、ミイナ。こっちにはいつ頃までいられるの?」

「うちの子たちの様子を見たら帰ろうって思ったけど、どうして?」

「明日もいられるなら、ルティちゃんたちの番組が放送されてる局に連れて行ってあげようかなーって」

「えっ」

「本当っ!?」

 

 おいおい、なんか母さんがまた企み始めたぞ。サジェーナ様は目を輝かせている一方で、当のルティは目を丸くしてるし。

 

「だって、うちから局まで歩いてたった3分だもの。ミイナも、このあいだピピナちゃんがしゃべってた場所を見られるわよ」

「それは魅力的な提案だね。ピピナがお仕事した場所かぁ……どんな場所なんだろう」

「か、かーさま!?」

 

 その上、ミイナさんはにんまりと笑ってピピナを見下ろしてるし。ああもうっ、ピピナが驚いてルティの後ろに隠れちゃったじゃないですか。

 

「泊まるならここのソファーベッドが使えるし、なんだったら飲み明かしたっていいかも。ねえ、ジェナとミイナはいける口?」

「当然!」

「大地からの恵みなら、どんなお酒でもいけるよ」

「あ、あのー……」

「えーっと……」

「よーしっ、飲みましょう! とっておきのお酒、今日は解禁しちゃうわよー!」

「再会のお酒ねっ!」

「ニホンのお酒かぁ。どんな味なんだろう」

 

 おそるおそるといった感じのルティとピピナの声は、大盛り上がりなお母さんズに届くことはなかった。

 まあ、仕方ないよな。四半世紀ぶりぐらいの再会となったら……

 

 *    *    *

 

 そんな昨日の騒ぎがもとで、今日の母親参観……もとい、母親による職場見学が決まったってわけだ。もっとも、ルティとピピナが揃ってこのスタジオでしゃべったのはこの間の生放送ぐらいで、あとは都内のスタジオだった。

 それでも、やっぱりふたりにとって思い出の地であることに違いはないわけで。

 

「んしょっと。ルティさま、こっちにすわるですよ」

「ああ。姉様もリリナも、向かいの席へ」

「はい~」

「ここが〈らじおきょく〉の席なのですね……外からとはまた違う、独特の雰囲気を感じます」

 

 わかばシティFMのスタジオの中へと入った頃にはいつもの調子を取り戻していて、向かいに座るフィルミアさんとリリナさんも興味深そうにきょろきょろとあたりを見回していた。そりゃそうだ。ふたりとも、ここのスタジオへ入ったのは今回が初めてなんだから。

 

「リリナは初めてここに座ったの?」

「はい。私の出番は来週ですし、普段〈ばんぐみ〉を作っているのはこちらとは違う場所なので」

「そういえば、ちょっと遠いところにあるんだっけ。でも、こうやって座ってる姿はとってもお似合いだよ。ピピナも、堂々としていていいね」

「ありがとうございます、母様」

「ここでみんなといっしょにしゃべると、とってもたのしくなるですよ」

 

 テーブルのかたわらに立つミイナさんの褒め言葉に、リリナさんもピピナも笑顔を浮かべる。

 俺たちが学校へ行っている間に親子揃っていろいろ話したみたいで、家へ帰ってきたときには3人揃って和やかな雰囲気で出迎えてくれた。

 

「ルティも耳当てをかけた姿が堂に入ってるわよ。ミアのほうは、まだちょっと慣れてない感じ?」

「来週用のお話をこの間保存したのですが、やはりドキドキしましたね~。リリナちゃんと試験的にやっている〈ほうそう〉とは、やっぱりまったく別物です~」

「私は、姉様の落ち着いたしゃべりも大好きですよ」

「来週かぁ……今度はラフィも連れてこようかしら。ルティとミアのおしゃべり、きっと聴きたがるでしょうし」

 

 なんとも不穏なことを考えているらしいレンディアールの王妃様。まさか、王様まで連れてくるつもりじゃないだろうな。

 

「ジェナさん。わたしが録音したものを持っていますから、今度そちらへ行ったときにお持ちしますよ」

「本当ですか? ありがとうございます」

「いえ。そのお気持ち、わたしもよくわかります」

 

 とか思っていたら、機材席に座る赤坂先輩がうまくフォローを入れてくれた。うちのキャパ的にもレンディアール国内の情勢的にも、これ以上王族が入り浸りってのは実にまずいだろうから、今の先輩からの申し出はほんとにありがたかった。

 ただでさえ、狭いスタジオからあふれてるぐらいに来てるんだもんなぁ……母さんが夕飯の準備と帰ってくる父さんの出迎えで家へ戻ってるとはいえ、それでもいっぱいいっぱいだ。

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