異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第105話 異世界からのおくりもの④

「まさか、ボクもピピナといっしょにお勉強することになるとはねぇ」

「いいじゃないの。久しぶりの親子のふれあいってことで」

「かーさまといっしょなんて、とってもひさしぶりです」

「ボクだって、こんなに素直なピピナを見るのは久しぶりだよ。まだこーんなに小さいとき以来かな」

「そ、そーでしたかねー?」

 

 親指と人さし指の合間を広げたミイナさんは、10センチにも満たないくらいの大きさを示しながらルティににこやかそうな笑顔を向けた。それに対して顔をそらしたあたり、そうだったって自覚があるんだろうな……

 

「まあ、あの時はあの時。親子揃っていっしょに学ぶっていうのも面白いのかもね」

「とーぜんです! さすけたちならわかりやすくおしえてくれるですし、ねーさまだってていねいにおしえてくれるですからっ!」

「そうだね。ふふっ、リリナの先生っぷりを見るのも楽しみだな」

「私も、母様に楽しんで知っていただけるよう努力いたします」

「うんっ、楽しみにしてる」

 

 なんだかんだ言いながらも、こっちの精霊さん&妖精さん親子のほうもいっしょに学んで教えていくってことでまとまったらしい。よしっ、夏休みに入る前にしっかりカリキュラムを組んでおこう。

 

「なあ、サスケ。それって、アタシもいっしょに学んでいい……のか?」

「もちろんですよ。遠慮しないでください」

「でも、さ。その……」

「どうしたの?」

「っ!?」

 

 サジェーナ様が微笑みを向けた瞬間、アヴィエラさんの背筋がぴんと伸びてすぐさまとんでもないスピードでひざまずいてみせた。なるほど、イロウナから来たアヴィエラさんにとってはサジェーナ様とミイナさんは友好国の王妃様と精霊様なんだから、そりゃあ遠慮するわな。

 

「アヴィエラさん、いちいち拝謁の姿勢をとらなくても」

「し、しかし、ですね」

「こちらでは、わたしはただのお母さんなんですから。ほらっ、アヴィエラさんと同じ、普通、普通っ」

「確かにこっちではそうかもしれませんけど、向こうじゃ王妃様じゃないですかっ」

 

 目を白黒させるアヴィエラさんへ、サジェーナ様は全力で普通アピールをしているけど……さすがに、それは無理があると思いますよ。ええ。

 

「よいではないですか。アヴィエラ嬢も、(わたくし)たちとともに学びましょう」

「そーですよっ。おねーさんも、いつかはイロウナへつたえるんですよね?」

「将来的にはそのつもりだよ。でも、さ」

「だったら、ピピナたちといっしょにおべんきょーしましょー!」

「ううっ……」

 

 おおっ、ピピナの純粋なお願いがアヴィエラさんにクリティカルヒットしてる。

 ピピナの瞳ってきれいだから、見つめられるとぐっと惹き込まれるんだよなぁ……たまに駄菓子とかおねだりされると、ついつい買ってあげたくなるんだよ。

 

「なら、アタシも教えてもらえるかな……サジェーナ様とミイナ様がよければ」

「わたしは当然いいですよ」

「ボクも。どうせだったら、マリルをびっくりさせちゃえばいいんだ」

「そ、そんな、精霊様におそれおおいことを!」

「えー、あの子もきっとびっくりすると思うんだけどなー」

 

 慌てたアヴィエラさんの答えに、ミイナさんはつまらなそうに口をとがらせた。話しっぷりからするとイロウナの精霊様なんだろうけど、けしかけちゃダメですって。

 

「で、中瀬はどうする?」

「私は、ラジオよりも音のことを極めます。みぃさんたちがラジオのことを学んだら、次に音のことを教えられるように」

「そっか。なら、よろしくな。中瀬先生」

「同級生に先生とか言われたくないのですがっ」

 

 ちょっと冗談めかして言ったら、中瀬はショックを受けたように俺から距離を取った。ホント、こいつはいつもこういう反応だな!

 

「それじゃあ、これでぜーんぶ決まりってことで。ジェナ、そろそろいいんじゃないかな」

「そうね。あの、ニホンの皆さん、アヴィエラさん」

 

 ミイナさんが見上げてうながすと、サジェーナ様が小さくうなずいて俺らのほうへと視線を移した。

 

「教えていただくお礼……というわけではないけど、こちらを」

 

 そう言いながらカーディガンのポケットから取り出したのは、500円玉ぐらいの大きさで作られた5つの銀色の飾り。まるで、学校指定の校章みたいな……って、なんだか見覚えがあるような?

 

「王妃様、これは?」

「レンディアール王家と友誼を結んだ人へ渡すものよ。我が国へ〈らじお〉を伝えてもらっているんだから、渡さないと失礼にあたるって思って」

「あの、もしかしてこれってルティがいつも着ている礼服についてる……」

「サスケくん、正解! よくルティのことを見てるわね」

「い、いえ、決してそんなわけじゃ!」

 

 気品のある笑顔から一転して、ふふんと意味ありげに笑ってみせるサジェーナ様。それにしても、この笑い方ってホントにうちの母さんの仲間って感じがするな!

 

「まあ、今はそういうことにしておきましょうか。でも、ルティやわたしたちがつけているのは金製で、こっちは銀製。金製のものは〈皇章(こうしょう)〉って言って、王家の者っていう証し。そしてこの銀製のものは〈友章(ゆうしょう)〉って言って、王家の者と友誼を結んだ者っていう証しなの」

「そういう意味があるんですか」

 

 ひとつひとつ、サジェーナ様が手ずから俺と有楽、先輩と中瀬へと友章を渡していく。そして、最後にアヴィエラさんのもとへ。

 

「アヴィエラさんも、ルティたちを見守ってくださってありがとうございます」

「い、いえ、そもそもアタシは首を突っ込んだだけで……」

「それでも、ですよ。これからも、みんなのことをよろしくお願いします」

「……はいっ」

 

 にこやかに笑ったサジェーナ様は、アヴィエラさんの右手をとるとそっと友章を置いて包み込むようににぎらせた。最初は戸惑っていたアヴィエラさんも、しばらく言いよどんでから受け入れたのか、小さな声で返事をしてから愛おしそうにその手を抱き寄せた。

 

「これがあれば、レンディアールのどの街にも入れるし、中央都市の城にも入れるの。わたしとミイナが帰ってからなにかあっても、これがあれば心配無用よ」

「通行証も兼ねてるんですね」

「そういうこと。もちろん、カナさんもルイコさんもミハルさんも大歓迎だからねっ!」

 

 有楽の答えが気に入ったのか、サジェーナ様はうれしそうに片目をつむってみせた。そんなに大事なものを俺たちに渡してくれたってことは……責任重大だな。

 

「それじゃあ、次はボクの番かな」

 

 タイミングを見計らっていたのか、サジェーナ様の隣にいたミイナさんは一歩前へと歩み出ると大窓やドアのほうをキョロキョロと見やった。大窓はカーテンが引かれているし、ドアも閉まっているけど……って、どうして目をつむってるんだ?

 ミイナさんはそのまま深く深呼吸をすると、なにごとかをつぶやきながら両手を俺たちのほうへとかざしてみせた。続いて見開いた目は紅く輝いていて、俺たちの視線を釘付けにしていく。

 日本語でも精霊大陸の公用語でもない、まったく耳にしたことのない言葉。でも、それはまるで歌うようで――

 

「みんな、もういいよ」

 

 俺たちの目の前に、ガラスのような透明な板が浮かんでいたことすら気付けないくらいとても心地よかった。

 

「この板は……?」

 

 手に取ってみると手のひらよりも一回り小さいサイズで、長方形や正方形というよりもひし形のように形取られている。それに……これ、全然重さを感じないぞ?

 

「ボクが持っている力を、こうして宝石みたいに形作ってみたんだ。ピピナとリリナのおかげで、こっちへ来られる道筋もできたから――」

 

 そこまで言って、ミイナさんはいたずらっぽく笑ってみせると、

 

「ニホンとレンディアールと行き来できる宝石をって思ってね」

「えっ!?」

「そ、それって、リリナちゃんやピピナちゃんの力を使わなくてもってことですか?」

「もちろん。ふたりに聞いてみたらずっとそうしているみたいだけど、サスケたちが行きたいときに行けないんじゃ不便でしょ」

「なるほど」

「でも、いつでも使えるってわけじゃないよ。往復で使ったら、太陽の光を1週間分は浴びせないと使えないんだ」

「使用制限があるんですね」

「みんなが持ち運びできるような大きさだと、どうしても限界がね」

「いえ、とっても助かります」

「ありがとう、ミイナさん!」

 

 申しわけなさそうなミイナさんへ、俺と有楽とでつとめて明るくお礼を言う。いつもピピナとリリナさんに頼ってばかりだったから、こういうアイテムがあると本当に助かるし、お礼こそ言っても謝られることなんてひとつもない。

 

「ささやかだけど、これがボクとジェナからのみんなへのお礼。娘たちを助けてくれてありがとうって気持ちと、これからも娘たちをよろしくってところ」

「それと、〈らじお〉のことについてもでしょ。ルティたちだけじゃなくて、わたしとミイナもすっかりニホンの人たちのお世話になってるわね」

「そこはなんといいますか……俺と母さんの、親子二代にわたる縁ってことで」

「あらあら、サスケくんにきれいにまとめられちゃった」

 

 どう言葉を返せばいいのか困ってひねり出した言葉に、サジェーナ様は一瞬面食らったような表情を見せてからくつくつと笑い出した。でも実際、母さんとサジェーナ様とミイナさん、俺とルティとピピナって形で親子二代にわたって交流してるんだから、縁深いことには間違いないだろう。

 

「よーしっ。ルティたちとレンディアールへ〈らじお〉を広めるお手伝い、わたしもがんばるわよっ!」

「ボクとジェナの娘たちががんばって作ろうとしてるんだもんね。いっしょにがんばるよ!」

「ありがとうございます。母様、ミイナ様!」

「かーさまとジェナさまもいれば、もっともーっとひろがっていくですねっ!」

 

 親子揃っての元気いっぱいなやりとりを見ているだけで、こっちまで元気が湧いてくる。それはまわりのみんなも同じみたいで、揃ってあたたかい笑顔を4人へ向けていた。

 ただひとり、デジカメを連写している中瀬だけを除いて。

 

 こうして、俺たちのラジオ作りにレンディアールの王妃様と精霊さんが加わった。

 これからよりいっそうにぎやかになっていきそうだし、開局したときにはどうなっているのかなんて予想すらつかない。それでも、やっぱり楽しいことには変わりないだろうし、そうでありたいって俺は思う。

 

 ただひとつだけ、文句があるとすると。

 

 

「さーてっ、今日も呑むわよー!」

「チホ、今日はレンディアール製の紅茶酒とか持って来てみたんだけど、どうかな」

「なにそれ、すっごく美味しそうじゃないの! ヴィラちゃんヴィラちゃん、新作のお酒だってー」

「わ、わかりましたから! もう逃げませんからっ、みなさんといっしょに呑みますからぁっ!」

 

 

 ことあるごとに、店を閉めた後のカウンターが居酒屋モードになるのだけは勘弁してくれないかなー……

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