異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第105.5話 異世界"商"女のおてつだい③

「そのあたりは、やっぱり先代であって娘だから心配っていうのもあるのかもよ。うちの文和さんも、時々サスケに稽古をつけるとか言ってアナウンスの練習とかさせてるもの」

「あのフミカズさんがですか」

「あの文和さんがよ。温厚そうに見えて、その実熱血漢なんだから。あの人は」

 

 はー、〈じっきょう〉してる時だけじゃないんだ、あの熱さって。

 

「でも、チホさんが言うことも今ならわかります。ちょっと前のアタシって、すっごく意固地になってたから……みんなと出会って、会館のみんなともいろいろあって、ようやく再始動って感じで。今は、母さんの教えをもとにしてアタシなりにいろいろ工夫していこうかなって思ってます」

「あっちでいろいろあったのね。ウチの佐助が迷惑かけたりしなかった?」

「いえ、全然! むしろ、アタシのほうが迷惑をかけちゃったぐらいで……」

「本当に? あの子って猪突猛進型だから、時々見てて不安になるのよ」

 

 サスケの話題になったとたん、さっきまで友達のように親しげだったチホさんの表情が心配そうなものへと変わった。

 

「……やっぱり、違う世界へ行くのって心配ですか?」

「ああ、それは全然。リリナちゃんとピピナちゃんがいるから安心なのはわかってるし」

 

 おお、きっぱり言い切った。

 

「どっちかというと、なにかやらかしてないかなーって」

「そっちの意味での心配と」

「あの子って誰かさんに似たのか、いろんな物事に首を突っ込みたがるから。その誰かさんも、昔ラジオ番組の企画でゲストさんと野球の話になったときに熱くなっちゃって『今年もし優勝できなかったら、有頂天になってたってことで頭頂部だけ髪の毛を残してあとは丸刈りにします!』とか言い出して」

「と、頭頂部以外丸刈り!?」

「しかも、その時までは1位だったのが、あれよあれよと連敗してねー……引き返せないところまで行っちゃったってわけ」

「……やっちゃったんですか」

「やったのよ」

 

 あ、あの穏やかに見えるフミカズさんが、頭頂部以外丸刈りとか想像もつかないんですけど……

 

「しかも、罰ゲーム放送の日は整髪剤でピンッと真上へ向けて固めて、根元をリボンで縛って」

「ぶふっ!?」

「あの時ほど白い目で見たことはなかったわー」

「そ、それは……災難ですね」

「色々な意味でね」

 

 さっきとは違った意味で遠い目をしているあたり、いろんなことがあったんだろうなぁ。

 

「だから、佐助もそんな風に暴走するんじゃないかなーって心配になったりするの。放送部に入るって言い出したときも、近所のラジオ局でパーソナリティを始めるって言ったときも。本人には言ってないけど、これでも結構ハラハラドキドキなのよ」

「だから、ここにも〈らじお〉が置いてあるんですか」

「うーん、別にそういうつもりで置いたんじゃないんだけど……まあ、結果的にはそうなってるかな」

 

 アタシの問いに一旦は首を傾げたチホさんが、最後は納得したように笑いながら真後ろの棚にある〈こんぽ〉をそっとなでた。

 いつもはいろんな音楽を流すために使っている〈こんぽ〉が、土曜の昼過ぎになると〈らじおばんぐみ〉を流すために使われる。今も、かわいらしい女の子ふたり組が楽しそうに話している真っ最中だ。

 

「あの子がラジオでバカやってるんじゃないかって、どうしてもね。文和さんも、時間が空いてるときはネットを使って聴いてて、最近だとお手伝いしてくれてるリリナちゃんやフィルミアちゃんも聴いてくれて……うーん、リスナーが増えてるんだから喜ぶべきなのかしら」

「喜んでいいんじゃないですかね。サスケとカナの〈ばんぐみ〉、とっても面白いですし」

「面白いことは面白いのよねぇ」

 

 納得しているような、それでいて困っているような感じで腰に手を当てるチホさん。どうも、〈ぱーそなりてぃ〉の親御さんとしては心配のほうが上回っているらしい。

 まあ、自分の子供が話していることを不特定多数に聴かれているんじゃ、心配するのも仕方ないか。

 

「でも、明日の放送は安心して聴けそうかな」

「どうしてです?」

「だって、みんながいるんだもの。サスケだけじゃなくて、神奈ちゃんも瑠依子ちゃんも海晴ちゃんもいて、ルティちゃんもミアちゃんも、ピピナちゃんとリリナちゃんもいるでしょ。それに、ヴィラちゃんだって」

「アタシはちょっと〈なれーしょん〉しただけですよ」

「それでもよ。いっしょに作り上げたんだから、みんなで安心して聴けるの」

「みんなって、アタシたちとフミカズさんのことです?」

「うん? ああ、そうそう」

 

 一瞬意外そうな目をして、すぐさま納得したように返事をするチホさん。さっきから、なんかちょくちょく引っかかりがあるのは気のせいか?

 

「不思議よねー……違う世界から来たみんなと日本のみんなが、いっしょにラジオの番組を作るなんて」

「アタシも。最初に聴いたときは夢のような機械だって思ってたのが、こんなにガッツリ関わるなんて考えてもいませんでした」

「今までほとんど交わることのなかった、文化も風習もまったく違う世界だもの。そう思って当然よ」

「でも、こうして目前に迫ってきたらだんだんドキドキしてきちゃいました。初めてイロウナから出て、ヴィエルへ向かった日のことを思い出しちゃって」

「冒険に出たような気分ってところかしら」

「ああ、それ! まさにそれです!」

 

 チホさんの例えがあまりにも的確すぎて、アタシはついつい両手を叩いてからチホさんを指さしそうになった。いけないいけない、さすがに宿主さんを指さすのは失礼にも程があるっての。

 

「みんなでいっしょに、まだ見ぬラジオっていう見知らぬ大地へ旅していく……さながら、そんな感じ?」

「見知らぬってわけじゃないですよ。サスケとカナ、それにルイコとミハルが導いてくれて、アタシたちに教えてくれてるんですから。それに、こうしてチホさんやフミカズさんも手助けしてくれて。こんなに心強い冒険、アタシは初めてです」

 

 行き場のなくなっていた両手を、お腹の辺りへとあてる。右手を隠すようにして、左手を重ねたアタシはまっすぐにチホさんのほうへ向くと、

 

「チホさん。いろいろ迷惑をかけるかもしれませんけど、これからもよろしくお願いします」

 

 ゆっくりと、そして深々とおじぎした。

 アタシたちを受け入れてくれたこと、そして見守ってくれていることへの感謝を込めて。

 

「あたしこそ、息子たちのことをよろしくお願いします」

 

 一瞬面食らったような顔を見せたチホさんも、ゆっくりと微笑むとアタシと同じようにゆっくりとおじぎをした。

 サスケはもちろんのこと、この家に集まったみんながチホさんにとって大切な人たち。そのみんなの中で、アタシはリリナちゃんやピピナちゃんに次いで最年長なんだから、今度はちゃんとみんなを守っていかなくちゃ。

 サスケたちが、アタシのことを助けてくれたように。

 

「はいっ、任せてください!」

 

 しっかりと、めいっぱいの笑顔で応えてみせた。

 きっと、チホさんはいろんな想いを込めてアタシへ頭を下げたんだろうから。

 

「さしあたって、今日の夕ごはんはアタシが」

「ありがとう、ヴィラちゃん。なにか美味しそうなイロウナの料理とかあったら、あたしに教えてね」

「じゃあ、アタシにも美味しそうな〈ワショク〉を教えてください。次に母さんが来たら、絶対驚かせてやりたいです」

「そうねー、いろいろあるんだけど……改めてそう言われると、なんだか迷っちゃうわね。月曜のお休み、ふたりで商店街に行きましょうか」

「いいですねっ」

 

 ふたりで笑い合いながら、これからの予定を立てていく。

 話せばその分だけ返ってくるのは、先代――うちの母さんも、チホさんもいっしょ。だから、話せば話すほど楽しくなっていくのがとても心地いい。

 これが、お母さんの貫禄ってやつなのかな。

 アタシじゃきっとかなわないだろうけど、みんなのお姉さんとして引っ張っていけるように、少しずつ、少しずつ見習っていきたい。

 

「あっ」

 

 扉に飾られた小さな鐘が鳴るのと同時に、表情が引き締まったりとか。

 

「いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませっ!」

 

 すぐに表情を緩めて、店に入ってきたお客様を優しい表情で迎えたりとか。

 まだまだ、アタシには学ばなくちゃいけないことがいっぱいあるみたいだ。




というわけで、今回で第4章「異世界ラジオのまなびかた、ふたたび」はおしまい。これまでで105話+番外編11話の計116話をお届けして参りました。次回からはまた舞台を移して、レンディアールでのラジオ局作りを進めていくお話となります。

これまで改訂版として毎日更新してきましたが、執筆のほうに時間をとるため火曜・土曜各19時の週2回更新へと変更していきます。少しペースは落としますが、また変わらずお楽しみいただければ幸いです。

また、感想やレビュー、評価などもお待ちしておりますので、よろしくお願いいたします!
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