異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第110話 異世界ラジオ、練習中!②

「よろしくね、ピピナちゃん」

「こっちこそよろしくです。ユウラおねーさんっ」

 

 そのはす向かいに座ったユウラさんとピピナは、お互いあいさつしながら笑顔で席についた。ふたりとも顔なじみらしいし、ちょうどいい組み合わせだろう。

 

「有楽、いつもみたいに暴走してないだろうな」

「してませんってば。ちゃんとフィルミアさんとリリナちゃんの発声練習を見てました」

「本当か?」

「本当ですよ、サスケ殿。私とフィルミア様の詰まりやすい発音などを、どう口を開けば滑らかに言えるかなどを教えて下さいました」

「とってもわかりやすく教えてくれましたよね~」

「おおぅ……そっか、からかって悪かったな」

「わかればいーんです」

 

 有楽がえっへんとばかりに胸を張ったことで、黒地のシャツに赤く染め抜かれたロゴがたゆんと揺れる。うん、あくまでも揺れたのはロゴだ。ロゴ。

 

「ここで、その声の『練習』が関わってくるんですね」

「練習しておくと、ラジオから聴こえてくる声が鮮明になってわかりやすいんです。やっておいて損はありません」

 

 つぶらな瞳をちょっと見開いて、感心したようにたずねてくるユウラさんへ軽い口調で答える。

 もちろん、俺たちの世界のラジオだと日常レベルで練習が必須だ。でも、こっちでやるにはいきなり敷居を高くするより先に親しんでもらう必要がある。そこで赤坂先輩や有楽と話し合って、まずは軽い気持ちで練習してもらえるようにライトなところから始めることにした。

 

「んーと……ユウラちゃん、『赤巻紙、青巻紙、黄巻紙』って一気に言ってみて」

「えっと、あかまきがみあおまきがみきみゃきぎゃみっ……ううっ、かんだ……」

「お、抑えろっ……鎮まれ、あたしのハートっ……!」

 

 かんだ舌を出して照れているユウラさんを目の当たりにして、有楽が窓の方を向きながらなにやらブツブツと言い始めた。自分から振っておいてここでハァハァモード発動とか、いったい何してるんだか。

 

「あの、これが練習になるんですか?」

「結構なるんですよ。こういう風に舌を多く使う言葉を声に出すことで、舌の回りをよくするんです」

「確かに、べろがたくさん回った感じはしますけど」

「じゃあ、今度はさっきの言葉を噛まなそうな速さで言ってみてください」

「わかりましたっ。『あかまきがみあおまきがみきまきがみ』……言えたっ!」

「おー、いい感じですいい感じです。早く言うよりも、今みたいはっきりしっかり言ったほうがしっかり舌がまわるってわけです」

「なるほどー。ちゃんと言えると、とっても気持ちいいですね!」

「ですですっ。ほかにも、『となりのきゃくはよくかきくーきゃくだ』とか、『かえるぴょこぴょこみぴょこぴょこ、あわせてぴょこぴょこむぴょこぴょこ』とか、たくさんれんしゅーのことばがあるですよ」

「えっと、かえるぴょこぴょきょみゅぴょきょぴょきょ……ううっ、難しいよぅ」

「……! ……ッ!!」

「か、カナ、大丈夫か?」

「きっと、いつものことでしょう」

「そのままにしておいたほうがいいでしょうね~」

 

 ユウラさんとピピナの早口言葉が有楽にはかなりのツボらしく、レンガ製の壁に向かって拳をゴン、ゴンと叩きつけていた。リリナさんとフィルミアさんからも暖かい目で見られてるあたり、すっかり慣れられてるんだなー……

 

「他にはどんな練習があるんですか?」

「あとは、『腹式呼吸』ですかね。ふだん呼吸するときって肺を使って呼吸するんですけど、お腹を使って呼吸するように意識することで張りのある声を出すことができるんです」

「それってお店の呼び込みとかにも使えそうですよね。わたしにも教えてください!」

「じゃあ、まずはお腹に両手をあててみてください」

「こうですか?」

 

 俺を見上げながら、ユウラさんが白いエプロンドレスの上からお腹に両手をあてる。その格好で『次は?』と言わんばかりな期待に満ちた目で見られると、その、ちょっとばかり照れるというか。

 

「そ、そうです。それで、お腹に息を入れるように意識してしばらく深呼吸してみましょう」

「わかりましたっ。すー……はー……」

「~~~~~~~~っ!!!!」

 

 ユウラさんが目を閉じてかわいらしく深呼吸を始めたところで、有楽の動揺がピークに達したらしく両腕を突き上げるようにしてガッツポーズをとりだした。もしかして俺、有楽にエサを与えるようなことをしてるのか?

 

「……なんとなくですが、カナ様のお気持ちがわかってきたような気がします」

「こういうのを、庇護欲をそそるというのでしょうね~」

「えっ」

「ね、姉様?」

 

 とか思ってたら、なぜかリリナさんとフィルミアさんまで顔を赤くしてうっとりしてるんですけど!? ピピナもルティも、それを目の当たりにしてあっけにとられてるし!

 ま、まあ、今はともかくはす向かいのユウラさんに集中しよう。エプロンドレスの上からもわかるほっそりしたお腹が、深呼吸でふくらんだりへこんだりして十分にお腹へと力が伝わっているのが見て取れるし、そろそろいい頃合いのはずだ。

 

「じゃあ、ユウラさん。あとはお腹を意識しながら普通に呼吸をして、息をしっかり吸えたと思ったところでお腹から声を出すように好きなことを言ってみてください」

 

 俺の指示に、言葉を発することなく小さくうなずいて応えるユウラさん。そのまま、呼吸を乱すことなく呼吸を続けて――

 

「レナトさん、だーーーーーーいすきっ!」

「おわっ!?」

 

 今だといった感じで目を開くと、満面な笑顔を浮かべながら元気いっぱいにそう言い放った。でも、これって『好きなこと』は『好きなこと』だけど、どっちかっていうと『好きな人のこと』を言ってますよね!?

 

「わー……ピピナ、こくはくってはじめてきーたです……」

「わ、私もだ……」

「とっても情熱的でした~……」

「こ、これ、レナトさんに聴かせてあげたい……」

「……すげえなぁ」

 

 あまりにもどストレートな告白に、俺だけじゃなくてピピナもリリナさんもフィルミアさんも、そしてさっきまで悶えていた有楽も顔を真っ赤にしてユウラさんのことを見ていた。

 

「うむ、佳き想いの言葉であった」

 

 その中でひとり、これまたどストレートにルティが感想を言ってるんだけど、素か! 全く照れることなく素か!

 

「好きなことで真っ先に思い浮かんだのがレナトさんだったから、思いっきり言っちゃいました。こんな感じでいいんですか?」

「あ、えっと、その……はい」

 

 うれしそうにたずねてくるユウラさんの言葉には、一点の照れも恥じらいもなかった。

 もしかしたらレンディアールってそういう文化なのかって一瞬思ったりもしたんだけど、ピピナもリリナさんもフィルミアさんも顔を真っ赤にしているあたり、きっとユウラさんとレナトがアツアツなだけなんだろうなー……

 

「よかったぁ。それにしても、自分で言っててびっくりしちゃいましたよ。思いっきり息を吸わなくても、こんなに力強い声が出せちゃうなんて」

「実際にお腹まで息が届くわけじゃないですけど、息を吸うときの力はお腹まで伝わるから、そのぶん声にも力がこもるんです。慣れていくと、普段から声に力が入っていったりして」

「なら、お店の呼び込みとか、入店したお客さんに厨房からあいさつするときとかにも使えるかもしれません。これって、フィルミア様とエルティシア様も練習してるんですよね?」

「はい~。わたしも〈らじお〉でしゃべるようになってからこの練習を始めましたけど~、歌うときの声がさらに響くようになりました~」

「我も、姉様やピピナとリリナとともに練習している。カナとサスケの教えは楽しいし、とても参考になるぞ」

「あははは……あたしは、先生やせんぱいたちに教えてもらったことをそのまま伝えてるだけだし」

「俺も父さんや先輩からの教えが身についてるからなぁ。それが伝えられるのは、俺としても楽しいよ」

「サスケさんもカナちゃんも、そういうお仕事をしてるんでしたっけ。あの、もしよかったらふたりの〈らじお〉を見せてもらえませんか?」

「俺たちのラジオですか」

 

 言われてみれば、こっちで試験放送を始めてから俺と有楽がラジオでしゃべったことはまだ一度もない。赤坂先輩がトークや番組の組み立てを教えているから、そのぶん俺らは声とかアナウンスのトレーニングに時間を割いていたし、いつも通り毎週土曜日には地元で生放送をやってることもあってそこまで気が回らなかった。

 でも、改めて言われると確かにやっても面白いかもしれない。みんなもいるんだし、まだお昼までは十分すぎるぐらい時間があるんだから、

 

「有楽、行けるか?」

「はいっ。いつでもオッケーです!」

 

 相方にたずねてみると、すぐさま響くように返事が返ってきた。

 

「じゃあ、ラジオの練習もやってみましょう。もしよかったら、ユウラさんも参加してみませんか?」

「えっ。あ、あたしもですか?」

「もちろんっ! ユウラちゃんは今日のゲスト――えっと、お客様ってことでね」

「昨日のエルティシア様とアヴィエラさんみたいにですか! だったら、わたしも出てみたいです!」

「じゃあ決まりですね。とりあえず30分枠でやるとして……えっと、ルティとピピナはどうする?」

「我も加わりたいところではあるが、まずはユウラ嬢に〈らじお〉づくりがどういうものかを体験してもらうほうがよかろう」

「ですねー。さすけとかなとは、またあとでルティさまといっしょにやるですよ」

「そっか。じゃあ、フィルミアさんとリリナさんもあとで練習します?」

「そうですね~。ルイコさんとは練習しましたが、サスケさんとカナさんとの〈らじお〉も楽しそうですから、ぜひとも~」

「私も〈らじお〉でおふたりとじっくり話してみたいと思っておりましたので、喜んで」

 

 あっけらかんとユウラさんに出番をゆずったルティとピピナとは対照的に、フィルミアさんとリリナさんが練習の申し出を受けてくれた。よし、実際の放送風景は午後に見てもらうことにして、午前中はラジオの実技練習で決まりだな。

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