異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第118.5話 異世界と日本のおねえちゃんたち②

「カナさんは、声のお仕事を大事にされているんですね~」

「はい。あたしにとって生きがい……って言ったら大げさかもしれませんけど、そのくらい大切なことなんです。フィルミアさんも、歌ったり奏でたりすることを大事にしていますよね」

「わたしも、いろんな音や声を耳にしたり創ったりすることが大好きなので~。そのためには、傷ついた声や息づかいで歌や音を乱すわけにはいきません~」

「じゃあ、あたしと同じですね」

「はい~。このショウガ湯の作り方は、これからもたくさん活用させていただきますよ~」

「ぜびせひ。今日は先に寝ちゃいましたけど、ルティちゃんたちにも作ってあげてください」

「もちろんですよ~」

 

 ほんわりと笑うフィルミアさんがちょこんと小首をかしげるのといっしょに、短くはねた銀髪がしゃらんと揺れる。陸光星が淡く生み出した光沢もとてもきれいで、同じ銀髪なジェナ様やルティちゃんと同じ血筋なんだなって実感できる。

 でも、ジェナ様やルティちゃんが可愛らしいのに対して、フィルミアさんはどっちかっていうと美しいというか、なんというか……のんびりとしながらも落ち着いた性格は『お姉さん』っぽく思えた。

 あたしには妹が3人いても、お姉ちゃんはいない。だから、いちばん上でお姉ちゃんなあたしがいつもかわいらしくついてくる妹たちを見守っている。

 るいこせんぱいも年上だからお姉さんなことはお姉さんだけど、どっちかというと『せんぱい』とか『ししょー』のほうがしっくりくる。だから、こうして『お姉さん』なフィルミアさんと話しているのはとても新鮮で。

 

「あの、フィルミアさん」

「なんでしょうか~?」

「えっと……ラジオドラマで自分役を演じてみて、どうでした?」

 

 自然と湧いてきた疑問が、あたしの口からするりと出ていった。

 

「どうでした、ですか~?」

「はい。大変だったとか、その……もうちょっと、こうしてほしかったとか」

「う~ん……」

 

 疑問の答えを絞りだそうとしているかのように、フィルミアさんの視線が宙をさまよう。言ってから一瞬『しまった』って思ったりもしたけど、聞いちゃった以上は答えを待つしかない。

 

「大変なことは、やっぱり大変です~。演じるというのは初めての経験でしたから~」

「そ、そうですよね。やっぱり」

「でも、それといっしょに楽しくもありますね~」

 

 そう言いながら、フィルミアさんがぽんっと手を合わせた。

 

「楽しい、ですか」

「はい~」

 

 あたしの問いかけに小さくうなずくと、短くはねた銀色の髪がまたしゃらんと揺れる。

 

「みんなでいっしょに物語を演じるのはまるで合奏みたいで、息が合って噛み合うととってもわくわくするんですよ~。だから、大変なのと同じくらいにとっても楽しくて~」

「よ、よかったぁ……」

 

 のんびりとした中に込められた弾むような声に、つい口にしたことで緊張しかけていた心が落ち着いていく。というか、背中から力が抜けていく……

 

「ど、どうしました~?」

「いえ、つい変なことを聞いちゃったのに答えてもらえたのと、楽しく感じてもらえてよかったのがごっちゃになっちゃって……」

「心配はご無用ですよ~。演じることは苦手でもカナさんがつきっきりで教えてくださいますし、みんなといっしょなら怖くありません~」

「その、あたしの教え方って大丈夫です? よく熱くなったりしちゃいますけど」

「あのくらい熱いほうが、わたしもやり甲斐があります~。ルティもリリナちゃんもピピナちゃんも、そんなカナさんが笑顔で合格って言ってくれるようにって毎回自分で練習しているぐらいですし~」

「そ、そっかぁ……はぁ~」

 

 心配していたことも聞いてみたら心配するほどじゃなかったみたいで、安心したあたしはそのままテーブルへと突っ伏した。そっかぁ、合格するようにか~……

 怒鳴ったり詰め寄ったりはしなかったけど、マンツーマンを何度も何度も繰り返して演じてもらったりしたから……よかったぁ。

 

「カナさんは、それが心配だったんですか~」

「すいません。あたしって突っ走るタイプだから、やっちゃったあとに大丈夫だったのかなって思うこともあるんですけど、なかなか聞くこともできなくて……」

「そう思うことは、よくありますよ~。わたしも音楽学校でよく意見を求められたりしますけど、本当にこう言ってよかったのかとか、もっと別の助言をしたほうがよかったんじゃないかとか思ったりして~」

「フィルミアさんも?」

「はい~。王女ということもあってよくみなさんに聞かれますし、カナさんと同じお姉さんなのでルティとステラにもよく助言を求められたりします~」

「お姉さんって、やっぱり大変ですよね」

「大変ですね~。でも、それ以上に妹たちの成長を見守ることができて楽しいといいますか~」

「わかります。あたしも妹たちの成長を見守るのが楽しみですから」

「ふふふっ。やっぱり、わたしたちはお姉さんなんですね~」

「ええ。あたしたちお姉さんの特権です」

 

 いっしょに笑い合いながら、あたしは突っ伏していたテーブルから身体を起こした。

 お姫様といち学生で立場こそ違っても、お姉さんなのはフィルミアさんといっしょ。こうしてそのことを話すのは新鮮で、それでいてとても楽しくて。

 あたしよりもひとつ年上だから、最初はあたしにとってもお姉ちゃんみたいって思ったりもしたけど、それよりも『お姉ちゃん仲間』っていったほうがしっくりくるのかもしれない。

 

「でしたら、明日はわたしがルティにショウガ湯を作ってみましょうか~」

「ぜひ、そうしてあげてください」

「おや、意外ですね~。てっきり『あたしが作ります』って言うのかと思いました~」

「こういうのはお姉ちゃんが作ってあげるのがいちばんなんです。あたしが作るのは、フィルミアさんのあとで十分ですって」

「なるほど~」

 

 あたしをからかおうとしたのか、フィルミアさんは一瞬意外そうな表情を見せてからくすりと笑った。ルティちゃんが大切なお友達な以前に、お姉ちゃんとしても楽しみを知ってるあたしとしては邪魔するなんて野暮なことはしたくない。

 ルティちゃんがフィルミアさんに向ける笑顔は、きっとフィルミアさんだけの特別なものだと思うしね。

 

「というか、もしかしてあたしってずっとそういう目で見られてます?」

「はい~。カナさんはいつもルティやピピナちゃんたちをかわいがっていますし、リリナちゃんや妹さんたちにも目がないようですからきっとそうかと~」

「あ、あはは……その、これからは自重します」

「いえいえ~。わたしとしても見ていてほほえましいので、そのあたりを自重はなさらなくても大丈夫ですよ~」

「その時はよくても、後々頭を抱えたりするんですっ!」

 

 ああもうっ。これまでのあたしのせいなんだろうけど、やっぱりからかわれてるし! やっぱり、お姉ちゃんのせんぱいなフィルミアさんにとっては余裕なのかなぁ。

 

「あの、フィルミア様、カナ様」

「あれっ、リリナちゃん」

「どうしました~?」

 

 入口のほうからかけられた声に振り向くと、ドアを開けたリリナちゃんが台所へと入ってくるところだった。

 

「いえ。もう11時を過ぎているので塔内の明かりを落としていたのですが……なにやらよき香りがしたので、なにごとかと」

「そういうことでしたか~」

 

 寝る準備をしていたのか、リリナちゃんは薄緑色のキャミソールを着て魔石製のメガネも外していた。三つ編みをといてウェーブがかった青いロングヘアはいつも以上に無防備で……うん、かわいい。松浜せんぱいの家でよく見る姿ではあるけれども、陸光星の淡い照明の中で見るとまた違った雰囲気でかわいい。

 

「ねえ、カナさん。お姉さん仲間として、リリナちゃんにも教えてあげましょうか~」

「あっ、それいいですね!」

「な、なにをでしょうか?」

 

 フィルミアさんの提案に即答で同意すると、なぜだかリリナちゃんはうろたえるようにして身構えた。あたしがこれまでにやったことでそうなっちゃっているんだろうけど、今日のあたしはこれまでとはちょっぴり違うんだよね。

 

「あのね、リリナちゃん。妖精さんってはちみつとか大好物なんだよね?」

「は、はあ。はちみつに限らず、樹液や花蜜の類は私たちに欠かせないものではありますが」

「そのはちみつを使った、おいしくてのどにいい飲み物があるの。さっきフィルミアさんにも教えてあげたんだけど、リリナちゃんもどうかな」

「飲み物ですか」

「こちらでは香りづけ用のショウガを使った、とってもあったまる飲み物なんですよ~」

 

 先輩お姉さんのフィルミアさんも、はす向かいの席から助け船を出してくれる。今日ばっかりは、いつものハァハァ癖をぜったい抑えないと。

 

「はちみつとレモンを合わせたのはルイコ嬢が作ったりしていますが、ショウガを合わせるというのは珍しいですね」

「でしょ? もしよかったらまずは飲んでみて、おいしかったらピピナちゃんにも作ってみるといいんじゃないかな」

「ピピナにも……それは、とてもよき提案です」

 

 ピピナちゃんの名前を出したとたんに、警戒を解いたようにリリナちゃんの表情がゆるんだ。リリナちゃんも妹大好きお姉さんだから、ルティちゃんに作ってあげるのはやっぱりうれしいんじゃないかな。

 

「じゃあ決まりっ。さっそく作るから、リリナちゃんはそこで座って待ってて」

「わかりました」

 

 わたしのはす向かい、そしてフィルミアさんの向かいの席に座ったリリナちゃんへひとつ笑ってから、あたしは勢いよく席を立った。

 

「わたしも、おさらいを兼ねていっしょにお手伝いしますね~」

 

 そんなあたしを追うようにして、フィルミアさんも席を立つ。

 お姉ちゃんなあたしから、先輩お姉ちゃんのフィルミアさんを経てもっと先輩お姉ちゃんなフィルミアさんへ。フィルミアさんが美味しいって言ってくれてうれしかったみたいに、リリナさんにもおいしいって言ってもらえたらきっとうれしいはず。

 その妹さんなルティちゃんとヒピナちゃんも美味しいって言ってくれるように、あたしもがんばらなくっちゃ。

 

「フィルミアさん、よろしくお願いしますっ」

「わたしこそ、よろしくお願いします~」

 

 いつもの萌えパワーを全部お姉ちゃんパワーへと変えて、あたしはフィルミアさんといっしょにかまどのほうへと向かった。

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