異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第124話 「松浜佐助とエルティシア・ライナ=ディ・レンディアールの『ふたりと、お話ししませんか?』」②

「それでは、第1回のお客様をそろそろお呼びしましょうか。実はもう俺の向かいでルティの隣に座っている、ヴィエル出身でレンディアールの王妃様。サジェーナ・フェリア=ディ・レンディアール様です!」

 

 すっかりお待ちかねといった感じで目を輝かせていたサジェーナ様へと話を振って、勢いのあるあいさつを待ち受け……ようとしたら、なぜかすうっと背筋を伸ばす姿が見えて、

 

「どうも皆様、お久しぶりです。レンディアールの王妃であり、故郷のヴィエルへ帰ってまいりました、サジェーナ・フェリア=ディ・レンディアールです」

「えっ」

 

 な、なぜか気品のあるたたずまいで静かにあいさつし始めたんですけど!?

 

「か、母様? どうなされたのですか? そんなにかしこまったあいさつをなされて……」

「先日の出演でエルティシアからお説教をいただいたので、ふさわしい振る舞いをしようかと」

 

 そう言いながら、微笑みを崩してにまーっと笑ってみせるサジェーナ様。まさか、俺とルティのアドリブを真似したのか!

 

「えっと、番組が始まる1分前まではいつも通りだったんですけど……サジェーナ様、いつも通りでいいんですよ?」

「ですが、エルティシアからの許しがなければ」

「だ、大丈夫です! 母様はいつもの母様でいてください!」

「あら、そう? それじゃあ改めて。ルティのお母さんで、レンディアールの王妃、そしてヴィエルの街へ帰ってきました! サジェーナ・フェリア=ディ・レンディアールでーす!」

 

 ルティの懇願に近いお許しが出たとたん、サジェーナ様はバンザイみたいに両手を挙げながら堂々とあいさつしてみせた。

 こうして目の当たりにすると、サジェーナ様が王妃様でルティとフィルミアさんのお母さんっていうのが信じられないぐらい若々しいし、

 

「なんでだろうな、こっちのほうが落ち着くのは」

「我もだ……かしこまった母様など、収穫祭などの儀式ぐらいしか見たことがないからだろうか」

 

 娘さんなルティがそう言うぐらいに、はしゃいでる姿のほうがとても自然に見えた。

 

「子供たちの前じゃ、いつもこんな感じよ。たぶん、ヴィエルの人たちもこっちのほうがおなじみじゃないかしら」

「どうしてですか? 中央都市での収穫祭では、母様は王妃として荘厳な振る舞いをなさっているではないですか」

「こっちの収穫祭だと、わたしはただの町娘だもの」

「えっ」

「えっ」

 

 町『娘』、ですと……?

 

「だって、各都市の収穫祭の主催はあくまでもそこの市長や町長、そして村長でしょ? わたしはここ生まれの元・町娘だから、いっぱい楽しまないと!」

「なるほど。母様にとってはこの振る舞いが常だということですか」

「町娘……娘かぁ……」

 

 納得したルティに対して、俺はサジェーナ様の自称『町娘』が引っかかって思わず声を漏らした。確かにとっても若々しいけど、それでも母さんさんとは近い年齢なわけで、もしも母さんがそう自称したらと思うと――

 

「何か言った? サスケくん」

「い、いえ、なんでもっ!」

「そう? 今年はわたしもヴィエルの収穫祭に出られるから、またたくさんお店をまわっていっぱい楽しむわよー!」

 

 慌てて否定する俺に、サジェーナ様は小首をかしげてからすぐにさっきの話題へと戻って大いにはしゃぎだした。よっぽど、ヴィエルで迎える収穫祭が楽しみなんだろう。

 

「母様とヴィエルの収穫祭をまわるのは幼少の頃以来なので、とても楽しみです」

「わたしもよ。ミアとミイナと、リリナちゃんとピピナちゃんといっしょにどんどん楽しんじゃいましょう。もちろん、ニホンの子たちもいっしょにね」

「ラジオの正式な開局も収穫祭の頃になりそうなんで、その時はよろしくお願いします」

「それでは、久しぶりの里帰りで心をおどらせている母様の経歴を紹介するとしよう。サスケ、頼んだぞ」

「うん、任されました」

 

 ひとつうなずいてから、構成台本のいちばん後ろのページをめくる。ここからはサジェーナ様から聞き出した、ルティがまだ知らない経歴メモの出番だ。

 

「サジェーナ様はここヴィエル出身で、レンディアール王家への輿入れ前は『サジェーナ・フェリア・クラムディ』という名前でした。40年前にヴィエルの北にある果樹園の娘として生まれたサジェーナ様は、農学校に通いながらご両親のお仕事を手伝っていたそうです。毎日毎日収獲とかお手入れを手伝っては、おこづかいといっしょに渡されるリンゴやミカンを食べるのが楽しみだったとか」

「確かに、母様の果樹園にはリンゴとミカンの木がありますね。もしや、あの木がそうなのでしょうか?」

「そうよ。お母さん――ルティのおばあちゃんがよく連れて行ってくれてね。あの木の下で、よくお話を聞かせてもらったり、膝枕でお昼寝をさせてもらってたの」

「なるほど……」

「今度、ふたりでいっしょに行きましょうか。でも、そうしたらミアが妬いちゃうかしら?」

 

 くすりと笑うサジェーナ様のはるか後ろ、ガラスを隔てたロビーへと目を向けるとフィルミアさんがぶんぶんと首を横に振って何か言っていた。えーっと、あの口の形は……

 

「えー、このスタジオ――演奏所の隣にはガラスを隔てて見学室があるんですけど、そこにいるフィルミアさんは首をぶんぶん振りながら『妬きません!』って言ってるみたいですね」

「あらあら」

 

 どうやら俺の推測は当たってたみたいで、今度はこくこくと首を縦に振るフィルミアさん。先輩続いて特製の『異世界ラジオのつくりかた』の台本で顔を隠しだしたあたり、結構恥ずかしかったらしい。

 

「私は、姉様と母様といっしょに行ってみたいです。もちろん、ミイナ様とピピナとリリナとも」

「ええ、ぜひそうしましょう。……って、ごめんなさい。サスケくんを置いてきぼりにしちゃったみたいね」

「いえいえ。きっとヴィエルの人たちも、サジェーナ様とルティの親子だんらんを聴けてうれしいんじゃないかと」

「だったらいいんだけど。それじゃあ、次の話題に行きましょうか」

「わかりました」

 

 おお、脱線しかけたところを復帰させるとは。サジェーナ様もこの間ラジオをやりたがってたし、パーソナリティとして聴いてみるのも面白そうだ。

 

「その後、11歳になって農学校の研究所へと入所。なんでも、理由は『もっともっと美味しい果物が食べたかったから』だそうで」

「そうそう。確かにヴィエルは果物がたくさんあっておいしいんだけど、もっともっと美味しいのがあってもいいじゃない? 特にうちの果樹園だとミハランとアラップ――ミカンとリンゴがとっても美味しいから、それを掛け合わせたらもっともっと美味しい果物ができるんじゃないかなって」

「その研究の結果、母様がヴィエルで名産となりつつあるミラップを作り出したというわけですね」

「最初はなかなかうまく行かなかったけど、街の人たちや研究所の先輩にもアドバイスをもらってようやくね。最初はジャリジャリする上に水っぽくて全然おいしくなかったのが、だんだん今のミラップの味わいに近くなっていって本当にうれしかったわ」

「よくフィルミアさんがミラップのパイを作ってくれるんで、俺も美味しく食べさせてもらってます。最初はみかん味のりんごって感じで不思議だったのが、だんだん癖になっちゃって」

「でしょ? リンゴのシャクシャクした食感にミカンのあのみずみずしい味わいが加わったって一度想像したら、もう止まらなくなっちゃって。理想の味にたどりついたときには、研究所のみんなとそれはもう大騒ぎよ」

 

 あの味わいって、サジェーナ様の思いつきで生まれたのか。俺たちも今じゃこっちに来たら必ず一回はミラップを使ったお菓子を食べるぐらいハマッてるし、こうして声を弾ませるサジェーナ様の気持ちもよくわかる。

 

「そのミラップが完成したのが、サジェーナ様15歳のとき。で、研究所の別の班にいたラフィアス王子――現在はレンディアール王を務められていて、サジェーナ様の旦那様なラフィアス王とその新しい果物づくりで張り合っていたと」

「ちょうどミアとルティみたいに志学期でこっちにいて、わたしと同じように新種の果物を作るために入所してたの。あのときのラフィはずいぶん高飛車で『絶対負けない!』って何度思ったか」

「でも、それから1年後の16歳のときには結婚に至ったわけですよね? それって、いったい何があったんです?」

「顔を合わせればすぐに口げんかしてたのが、ちゃんと話してみたらとっても楽しい人でね。研究所でもいっしょに組むようになって、ラフィの志学期が終わる前にいきなり『レンディアール全土を、ふたりでもっと実り豊かにしよう』って言われちゃって」

「ラフィアス様からのプロポーズ……えっと、告白がその言葉ってわけですか」

「そういうことになるのかしら。わたしも『望むところよ』って応じて、レンディアール王家に輿入れが決まったの」

 

 当時のことを思い出してるのか、うふふと笑いながら頬に手をあてるサジェーナ様。プロポーズのときのサジェーナ様の様子が思い浮かぶあたり、俺もこの人との接し方にずいぶん慣れてきたのかもしれない。

 

「なるほど。それからはラフィアス様との間に2人の王子様と5人の王女様をもうけて、今も農作業に携わりながら仲睦まじく中央都市で暮らしていると」

「仲睦まじくだなんて、そんな。ふだんからふたりでいっしょに領内を回って、街のにぎわいや作物の出来を視察しているだけよ?」

「ですが母様。ほぼ毎日、父様と手を繋いで城へと戻っていらっしゃってましたよね?」

「あっ、あれは……そう! ラフィが何気なく繋いでくるから、仕方なくよ!」

「そのわりには、母様もうれしそうで満更ではなかったような……」

「っ!? そ、それは、その……」

 

 腕を組んで大真面目に首をかしげるルティに対して、サジェーナ様の言葉がだんだんか細くなっていく。もしかしたら、娘さんなルティから聞かれているのに戸惑っているのか……じゃあ、ここいらが頃合いか。

 

「では、ちょうどこの話題に合いそうなお手紙が届いているので、ここで一通紹介してみましょう」

 

 そう言いながら、机の下に据え付けられている棚から一枚の紙を取り出す。

 昨日『おたより箱』を置かせてもらえることになったお店へ箱を持っていったら、話が広まっていたのか、その場で手紙を書いて投函する人が相次いでいた。

 手分けして運んでいったルティとピピナとリリナさんも手紙を抱えて帰ってきたあたり、サジェーナ様がそれだけ人気なんだろう。その中から大陸公用語がわかる3人に選んでもらって、リリナさんに日本語へ翻訳してもらったのがこの手紙だ。

 

「ヴィエル市音楽学校の生徒さんで、現在3年生のシャリルさんからのお手紙です。『サジェーナ様へ。最近音楽学校でも〈らじお〉が聴けるようになって、今回おたよりを受け付けていると聞いて質問のおたよりを出してみました』」

「あらあら、わざわざありがとう」

「『もう7、8年ぐらい前になるでしょうか。私が幼年学校に通っていた頃に、ヴィエル出身のサジェーナ様がどうしてラフィアス様の旦那様になったのかを描いた絵本が流行ったことがありました』」

「あったわねぇ、そういう絵本も」

「『その絵本は、新しい果物を作ろうとしてなかなかうまく行かなかったサジェーナ様のところにお忍びのラフィアス様がやってきて、いっしょに果物作りをして恋に落ちたという素敵な物語でした』」

「うんうん」

「『しかし、私の両親はその物語を見て〈違う違う〉と笑っていたのです』」

「えっ」

 

 あ、満足そうだったサジェーナ様が固まった。

 

「『幼い頃、サジェーナ様とラフィアス様がみかんとぶどうのどっちが美味いかで口論になってからミラップとクレディアを作るようになって、先にクレディアを完成させて自慢しに来たラフィアス様の口へとミラップを叩き込んで、アゴを外したラフィアス様の看病をすることになったことがなれそめだったとか。私にとっては信じられない話なのですが、せっかくだから本当のことを教えてはもらえないでしょうか』」

 

 読み終わってもう一回手紙から視線を上げると、呆然とした表情で固まったままのサジェーナ様の姿があった。

 リメイラさんから聞いたことがあったし、レナトやユウラさんにラガルスさんたちも知っていたから一応ネタにしてみたけど……これ、マズかったかな。

 

「えーっと……このあたり、真相ってどうなんでしょうか」

 

 とりあえず、おそるおそる聞いてみて――

 

「ゴソーゾーニ、オマカセシマス」

 

 とてつもない棒読みで返されたよ!?

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