異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第125話 「松浜佐助とエルティシア・ライナ=ディ・レンディアールの『ふたりと、お話ししませんか?』」③

「母様、やはりそれが真実だったのですね……」

「し、真実ってどういうこと!? ルティ、誰からそのことを聞いたの!?」

「青果店のリメイラ嬢からです。姉様もピピナもリリナも、そしてここにいる皆も存じておりますし、ラガルス殿やレナト殿にユウラ嬢も存じておりましたよ」

「り、リメイラったらどうしてあのことを……」

 

 ルティからのトドメに、大きく肩を落とすサジェーナ様。きっと娘さんたちには知られたくなかったんだろうけど、

 

「はー……まあ、こうなったら仕方ないわね。そう、わたしがラフィアスをケガさせて、そのケガを看病しにこの時計塔へ通っていたのが決定打よ」

 

 ひとつ大きくため息をついてから、半ばあきらめたようにそう言い切ってみせた。

 

「それだけ激しいケンカをしたというのに、好き合うことができたのですか?」

「むしろ、小さい頃のケンカが発端ね。それまでラフィのまわりには『はい、はい』って、ただ認める人たちしかいなかったみたいだから、わたしみたいに突っかかってくる子は珍しかったみたい。だから、わたしを驚かせたくてずっとそんな態度だったって、交際してから打ち明けられたわ」

「まるで子供ではないですか……」

「わたしが15歳でラフィが18歳の頃の話だから、実質子供みたいなものよ。もっと言えば、初めてケンカしたのはわたしが9歳でラフィが12歳のときだし」

「でも、そこまでやっておいてよくラフィアス様と仲良くなれましたね」

「それも、ミラップとクレディアのおかげって言ってもいいかも」

 

 ちょっと困ったように、それでいて恥ずかしそうに笑いながら、サジェーナ様が思い出そうとするかのように視線を宙へさまよわせる。

 

「ラフィをケガさせちゃったのは、流石にわたしの責任でしょ。それでもやっぱり癪で『流動物しか食べられない今のうちに、ミラップの美味しさをお見舞いしてやろう』って思って」

「そっちの意味でのお見舞いですか!」

「ミラップを食べもしないのに『自分のほうが先にできた』って馬鹿にされて、すっごくムカムカしてたからね。ここの3階にあったラフィの部屋でおかゆとかを食べさせてあげて、食後の果物としてミラップのすりおろしを出してあげて……きっと、ミカンかリンゴだって思っていたんでしょう。ひとくちすすったらびっくりしたようにわたしを見て、あわてて筆談用の黒板を手にして『これはなんだ』って書いてみせたの」

「それは、してやったりでしょう」

「もちろん! わたしも、いい機会だからこの間の仕返しにってミラップのことを自慢げに説明しちゃった。そしたらすりおろしたミラップを全部食べきって『おいしい』『こんなにおいしいのに、食べないで馬鹿にしてごめん』なんて書いてきたのよ」

「いきなり、ラフィアス様がしおらしくなっちゃったと」

「そうそう。最初は何の罠かって身構えていたけど、申しわけなさそうにわたしを見上げて『僕が作ったクレディアを食べて、どんなことでも言ってほしい』って書くんだもの。仕方なく厨房からクレディアを持って来て、ラフィの目の前で食べながら文句のひとつでも言ってやろうって口にしたら……とっても美味しくて、びっくりしちゃった」

 

 その時のことを思い出したらしいサジェーナ様が、肩をすくめながらくすりと笑う。

 

「素直に『美味しい』って言ったら目を見開いて、ほっとしたように小さな声で『よかった』って言うのよ。それを聞いたら『見返してやる!』なんて気持ちはすっかりしぼんじゃった」

「では、母様の仕返しはそこで終わったということですか」

「ええ。それからは普通にラフィを看病してたし、ラフィの筆談にわたしが応える形でたくさんおしゃべりをして……さっき話したわたしに突っかかる理由も、そのときに教えてくれたわ。あとはサスケくんに話したとおり、普通に接するようになってから1年後にラフィアスから告白されて、わたしも望むところだって思って結婚したってわけ」

「それじゃあ、果物でいがみ合ってたふたりの仲は、ふたりが新しく作った果物が取り持ってくれたんですね」

「あら、いいこと言うじゃない。その通り、ミラップとクレディアがわたしとラフィの絆を結んでくれたって言っても過言じゃないわ。ルティとミアは、きっと真相を知ってがっかりしたかもしれないけど――」

「そんなことはありません」

 

 申しわけなさそうに言うサジェーナ様をさえぎって、ルティが首をぶんぶんと振ってみせた。

 

「確かに面白おかしき仲かとは思いますが、ようやくおふたりの仲の良さの秘密を知ることができました。ケンカするほど仲が良いというのは、きっと父様と母様のことを言うのでしょう」

「あ、あら……?」

「まことの話を聞いたとしても、がっかりなどはいたしません。むしろ、おふたりの思い出話が聞けて楽しかったです!」

「ええ……」

 

 ルティの純粋でストレートな感想を受けてか、サジェーナ様の顔がどんどん真っ赤になっていく。

 きっと、本当のなれそめを知ったら失望されるって思っていたんだろう。ところがフタを開けてみたら、目を輝かせて肯定的な感想を言われたものだから相当びっくりしたんだと思う。

 ふと窓ガラス越しのロビーを見れば、真ん中あたりに座っているフィルミアさんは微笑ましそうにこっちのほうを見ていた。

 

「ロビーにいるフィルミアさんも、あたたかい目でこっちを見てますね」

「サスケくん、〈らじお〉ってこういう話もありなのかしら……?」

「ありとなしでいえば、とってもありです」

 

 顔を真っ赤にしたまま、口元を両手で覆ってあたふたしているサジェーナ様へきっぱりと言い切ってみせる。

 人気のあるラジオだと、フリートークのコーナーあてに時々真面目な人生相談とか恋愛相談みたいなメールが舞い込んできたりする。それが俺とルティの番組では1回目から来たようなものであって、それを除けば別にそう珍しいことじゃない……と、思う。たぶん。

 

「サスケ。ちょうどいい手紙が来ているので、次は我が読んでもよいだろうか」

「ああ、もちろん」

 

 すぐさまうなずいてみせると、声を弾ませたルティは待ちきれないとばかりに机の棚から一通の手紙を取り出して広げてみせた。

 

「おほんっ。えー、このおたよりは、西部居住区に住むボドゥール殿からのものです。『サジェーナ様……いや、ジェナくんと言うべきか。お久しぶり、君とラフィアス王の指導をしていた、元農学校教師のボドゥールだ』」

「ボドゥール先生!? お久しぶりです!」

 

 差出人の名前を聞いたとたんに、まだ顔を赤くしていたサジェーナ様が興奮気味に食いついてくる。

 

「知り合いの方なんですか?」

「輿入れするまで学んでいた農学校で、果樹園づくりのことを教えていただいた先生なの。ねえねえルティ、続き続きっ」

「わかりました。『街を歩いていたら、警備隊の詰め所にある〈らじお〉なる機械から君の声が聴こえてきてびっくりした。大人びた声ではあるが、その笑い声から君のものだとすぐにわかった。ただただ、息災でなにより』」

「先生……ありがとうございます」

「『そこでふたつほど質問。ラフィアス王とは相変わらず相思相愛だろうか。そして、久しぶりのこの街を君はどう見ているだろうか。君の声での答えを待ち望む』……とのことです」

 

 遅すぎもせず、早すぎもせず、しっかりとした発音と流れるような口調で手紙を読み上げたルティ。少し得意げな表情を見ると、自分でも満足いく読み上げができたみたいだ。

 

「サスケくん……〈らじお〉を使って、おたよりの返事って言っていいのかしら」

「どうぞどうぞ。そういう趣旨の番組ですし、この間みたいに羽目を外したものとは全然違いますから」

「そう」

 

 俺の返事を聞いて、サジェーナ様がほっとしたように息をもらす。きっと、この間ルティに怒られたことを気にしているんだろうけど、おたよりの質問に答えてもらうんだから全く問題ない。

 

「なら……今も、わたしはラフィのことが大好きです。中央都市にいる時も、先生からの教えを毎日守っていますよ」

「教え、ですか」

「さっきも言ったように、わたしとラフィはいつもケンカしてばっかりだったから、よく先生に叱られていたの。『もっとお互いを敬いなさい』とか『作物作りに勝ち負けなどない』とか『口げんかばかりでは、聞いてる木々も成長するのが嫌になるぞ』とか。そんなわたしたちが結婚するって報告しに行ったときには、もう目を白黒させちゃって」

「いがみ合っていたふたりがいきなり結婚するとか言い出したら、そりゃあ驚くでしょう」

「先生も心配してたでしょうし、今ならその気持ちがよくわかるわ。『これからずっといっしょにいるつもりならば、できる限りふたりで同じものを見て過ごしなさい。そうすれば、ふたりで話すことも多くなっていくだろう』って、わたしが中央都市へ向かう日に教えてくれて……だから、ふたりでいられる時はいつもいっしょに出かけるようにしてるのよ」

「母様と父様が連れ立って出かけることが多かったのは、そのお言葉がきっかけでしたか」

「朝の支度と公務が終わったら、ラフィったら必ず誘いに来るんだもの。子供たちには恥ずかしいから公務だ、公務だって言って出かけていたのに……まさか、ルティに気付かれちゃうなんてね」

(わたくし)だけではありませんよ?」

「えっ」

 

 ルティからの告白に、またサジェーナ様の動きが止まる。

 

「母様と父様が出かけたあとは、いつもおふたりの仲むつまじさの話題で持ちきりでした。兄様方も姉様方も、妖精の皆も家中の皆もよく話していたものです」

「そ、それ、本当? でも、みんな、わたしたちにそんな素振りはかけらも……」

「ディオ兄様が『馬に蹴られて死んでしまうから、父様と母様の邪魔はしないよう』と、私たち弟妹へと諭していたからでしょう」

「ディオ……もう、あの子ったら……」

 

 あーあー。サジェーナ様ったら、もっと顔を真っ赤にしちゃったよ。

 ディオさんって、確かルティにとって一番上のお兄さんなディオニスさんのことだっけ。きっと、ふたりの仲むつまじさを見てそう察したんだろうな。

 

「母様、続きです。先ほどのおたよりの質問には、まだ続きがありますよ」

「そ、そうだったわね……こほんっ。『久しぶりに見たこの街を、わたしがどう見たか』だったかしら」

「その通りです」

「久しぶりとはいっても毎年里帰りしてるし……そのたびに、変わっているところと変わらないところがはっきりしているって感じね」

「そんなにはっきりしているものなのですか?」

「ええ。たとえば、南の住居区域や北の市場通りなんかは世代が代わっても家とお店はほとんど変わらないから、通るたびに懐かしいって思えるの。それに対して、西の職人通りと東の音楽通りと飲食店街は顔ぶれがころころ変わっているからいつも新鮮な感じで歩いちゃうわね」

「母様が仰るとおり、飲食店街は屋台を含めてよく顔ぶれが変わりますね。しかし、西の職人街はそれほどでもないのでは?」

「職人さんの顔ぶれはね。でも、店頭に並べている品物とかお弟子さんとかは顔ぶれがよく変わるでしょ? それがまた面白いの」

「なるほど!」

「そういう見方がありましたか」

 

 人さし指をピンと立てて言い切ったサジェーナ様に、ルティも俺も思わず感心する。さすが、ほとんど毎日街の視察をしているだけあるな。

 

「そのあたりを意識しながら街を歩いてみると、いつも新鮮な感じで見られるわよ。ルティとサスケくんも、それとこの〈らじお〉を聴いている人たちも、よかったら試してみてね」

「とても参考になります。サスケ、今度ともに散歩するときにはそのあたりに注目してみよう」

「そうだな。サジェーナ様、面白いアドバイス――えっと、助言をありがとうございます」

「いいのいいの。そんなわけで、ボドゥール先生。サジェーナは今もラフィといっしょに青春まっただ中ですよー!」

 

 得意な散歩の話題ですっかり自分のペースを取り戻したのか、大喜びのサジェーナ様がICレコーダーのマイクに向かって元気に言い放った。

 

「やっぱり、昔の先生からのおたよりはうれしいですか」

「もちろんっ。もうずいぶん会っていないけど、わたしたちの先生には変わりないもの」

「今も昔も元気いっぱいなサジェーナ様と先生からお話を聞けたところですし、続いて街の人たちから届いたおたよりを読んでいきましょうか」

「ええ、どんどん行きましょう!」

「次はサスケの番だな。よろしく頼むぞ」

「おうよっ」

 

 ルティから話を振られて、俺はまた机の下の棚からもう一通の手紙を取り出す。このペースで行けば、いい雰囲気のまま番組が進められそうだ。

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