異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第128話 みんなで作る、ラジオのかたち②

「結局、ゆっくり聴けるのはここぐらいか」

「ここならば、街を見渡しながら聴けるであろう」

 

 石畳にわら製の敷物を広げた俺へそう言いながら、すぐそばで無電源ラジオのダイヤルをいじり始めるルティ。その途端、イヤホン+メガホン製のスピーカーからはギターのような音色の楽器が奏でる音楽が結構大きめな音量で流れ始めた。

 

「ん……さすがにここは〈でんぱ〉が強すぎるか」

「なにせ、送信機から直線で5メートルあるかないかだからな」

 

 戸惑うルティへ笑いながら、この場所のど真ん中にある石造りの台座へと視線を移す。そのど真ん中には、俺がルティにあげた『ミニFM送信キット』がはめ込まれていた。

 

「まあ、皆で聴くには良い音量と思おう」

「だな。このくらいのボリュームなら、ちょっと離れたところへ置いておけばいいんじゃないか?」

「うむ、そうしておく」

 

 俺の言葉にこくりとうなずくと、ルティは少し離れた石造りの階段のほうへと無電源ラジオを持っていく。

 音量調整用のボリュームがない無電源ラジオだと、電波の強さがそのまま音量に直結するから、送信元の電波が強ければ強いほど大きな音が流れてくることになる。まあ、音も割れてないし十分にクリアだから、そんなに心配することもないか。

 

 ゆっくりと聴きながら街の様子が見たいっていう希望が叶えられる場所としてルティが選んだのは、ヴィエルの中心部。そして、ルティたち王族の住まいで俺たちの寄宿先でもある時計塔の鐘楼だった。

 鐘楼とはいってもそれなりの広さがある上に、置かれているものは中央に置かれた石造りの台座と、そこにすえつけられたミニFM送信キットぐらい。ハンドベルのような形の7つの鐘は頭上の木製の梁からつり下げられているし、大きな屋根も陽射しから守ってくれる。

 その上街の風景をぐるりと見渡せて、カラッとしたそよ風を受けながらみんなでラジオを聴くことができるんだから、のんびりするには実にもってこいの環境だった。

 

「しかし、街中で〈らじお〉を聴きづらいことだけは残念であった。よもや、あそこまで人だかりができるとは……」

「ピピナも、あんなにこえをかけられるとはおもいませんでした。らじおだとこえだけなのに、どーしてピピナがピピナってわかるんですかねー……」

「この街に居着いている妖精が我らだけだからだろう。エルティシア様も、大変御苦労様でした」

 

 執事服姿のリリナさんが、敷物に座るルティとピピナへと木製のコップに入った飲み物を手渡していく。オレンジ色がかった透明なジュースは、柑橘系の香りからしてミラップの果汁をこして作られたジュースらしい。

 

「サスケ殿とカナ様も、ぜひどうぞ」

「ありがとうございます」

「ありがと。リリナちゃんも、お買い物ついでに南通りを見てきたんだよね? あっちはどうだった?」

「あちらもなかなかの盛況ぶりでした。多くの方がサジェーナ様目当てなようでしたが、私の姿を見て声をかけて下さる方々もいらっしゃったので、見てきた甲斐がありました」

「そっかそっか。それならなによりだね」

「リリナも、すっかり風格が出てきたな」

「これも、フィルミア様やルイコ様が私を導いて下さるおかげです」

 

 くすりと笑って、有楽とルティへ微笑みかけるリリナさん。余裕そうな面持ちはすっかり自信に満ちていて、言葉からは初めて会った頃以上の気持ちの強さが伝わってきた。

 

「ねーさま、まえはこういうのってとってもにがてでしたよね。いまはだいじょーぶですか?」

「大丈夫というよりも、慣れだな。フィルミア様とともに〈らじお〉を手伝うようになってから、人が聴いているのだということを意識するようにもなった」

「ピピナも、いつかはそーゆーのになれるんですかねー……」

 

 お疲れ状態な妖精さんモードのピピナは、長い耳と背中の羽をへにょんとさせたままぐい呑み大の木製コップに入ったミラップジュースをちびちびとなめていた。

 

「まあ、私は私。ピピナはピピナだ。慣れはしなくても、こうして私に言って気を晴らすといい」

「ねーさま……ありがとーですよー」

 

 少し堅い言い方ではあるけれども、柔らかい声と微笑みで伝わったのか、ピピナが人間モードのリリナさんの手へとほおずりしていく。リリナさんもそれに応えるかのように、よしよしといった感じでピピナのほおをなでていた。

 

「しかし、各所とも盛況でよかったです。やはり、作った以上は聴いていただきたいものですからね」

「うむ。我も想像以上の人が聴いてくれて驚いたし、とてもうれしかった。もちろん、母様の影響というのも忘れてはいけないだろうが」

「サジェーナ様のことを加味したとしても、それだけ人の『声』には惹きつけられるものがあるのでしょう。エルティシア様がワカバの街でルイコ様の声に惹かれたように、この街でもルイコ様やエルティシア様の声に惹かれる人はきっといると思われます」

「リリナの声に惹かれたという女子(おなご)ふたり組ならば、つい先ほど出会ってきたぞ」

「えっ」

 

 さっきリメイラさんのお店で出会った女の子のことをルティが口にしたとたん、リリナさんがびしっと固まった。

 

「ピピナと我と、そしてリリナの声に惹かれたらしい。ふたりとも『(うるわ)しい声』だと表現していたな」

「麗しいだなんて……そんな……」

 

 そして、ジュースを配り終わって空いた木製のトレイで口を隠しながらふるふると首を横に振る。直接言われるのは慣れてきても、こうして人づてに自分の評価を聞くのには弱いみたいだ。

 

「とはいえ、まだまだ始まったばかりなことには変わりない。〈らじお〉に興味を持ってくれた人々を繋ぎ止められるよう、我々も日々精進せねば」

「はいっ。精進しつつも自然体を忘れずに、ですね」

「うむっ」

 

 気を引き締めるようなルティの言葉をきっかけにして、ふたりがうなずき合う。

 あまり浮かれることなくこうして締められるのはルティのいいところだし、先生兼お姉さんなリリナさんがこうして締めてくれるのなら安心できる。

 

 フィルミアさんはヴィエルにいる間はほとんど毎日試験放送を担当しているし、リリナさんもパートナーとしてフィルミアさんを支えたり、日本でわかばシティFMや大手民放FM局を聴いて勉強したことを活かしてサポートまでしてくれている。

 技術面をサポートしてくれているのがリリナさんなら、メンタル面を支えてくれているのは妹のピピナ。この間みたいにお茶をいれてくれたりクッキーを作ってくれたり、ルティといっしょに日本住まいが長いこともあってか、気付いたことがあれば言ってくれたりして頼もしい存在だ。

 そして、興味を持ち始めた頃よりも遥かにパワフルになったルティも今じゃ頼れる相棒のひとり。技術面のつたなさはあったとしても俺で十分にカバーできるし、トーク中に時々顔を見せる純粋さは俺や有楽じゃ真似できないほどの武器だと思う。

 みんなのモチベーションの高さは俺たちにも影響していて、ユウラさんが加わったりアヴィエラさんも新しい魔石作りに邁進したり、王妃様まで巻き込んで『大規模な試験番組』まで作り始めているあたり、ソフトの面では開局まであまり心配することはないだろう。

 そう、ソフトの面においては。

 

「なあ、ルティ」

「うん? どうした、サスケ」

「やっぱり、ラジオを聴いてくれる人がいるっていいもんだよな」

「ああ、とても佳きものだ。我が〈わかばしてぃえふえむ〉で耳にしたときのような想いを味わってくれていると考えただけで、胸の奥から熱くなる」

 

 一点の曇りもない、ルティの楽しそうな笑顔。

 それを見て俺もうれしくなって、同時にちょっとだけ心が痛む。

 この笑顔に、俺は水をささなくちゃいけないから。

 

「そうだな。でも――」

「みんなー! お昼ごはん持って来たわよー!」

「うぉっ!?」

 

 そう切り出しかけたところで、背後の階段から陽気な声が響いてきた。

 

「か、母さん?」

「お腹ぺこぺこで帰ってきたんでしょ? おにぎり、たくさんにぎってきたからいっぱい食べなさい!」

「わたしは『オミソシル』を作ってきたの。ニホンのとはちょっと違うかもしれないけど、いっしょに食べながら〈らじお〉を聴きましょう」

「オムスビもオミソシルもうまうまだよー。食べるなら今のうちがオススメだよー」

 

 振り向いてみれば、白のブラウスに黒のスカート、そして若草色に白地で染め抜かれた『喫茶 はまかぜ』のエプロンといったうちの店の正装を身にまとった母さんとサジェーナ様、そして既にもぐもぐとおにぎりを食べているミイナさんが階段を上がってこっちへとやってきた。

 

「母様、ありがとうございます!」

「チホ様、サジェーナ様、私もお手伝いいたします」

「ありがとう、リリナちゃん。助かるわ」

「かーさまってば、またさきにたべてるんですねー……」

「仕方ないでしょ。うまいんだもん」

 

 思い思いに敷物から立ったりおしゃべりしている中で、俺はすっかり出鼻をくじかれた格好なわけで。

 

「せんぱい、おでこをおさえてどうしたんです?」

「いや……なんというか、こうタイミングが合わないってのはな……」

「さっきもそんな顔してましたけど、なにか心配ごとでも?」

「わかるか」

「まあ、相方ですし」

 

 ふふーんと自慢げに言いながらも、隣に座りっぱなしで俺を見る有楽の目は何故だか優しかった。

 

「有楽に心配されるとは……不覚……」

「もう二度と心配しませんからねっ!?」

「冗談だ、冗談」

 

 それは、初めてルティが日本へ来た日に赤坂先輩の家へ泊まって、寝こけたルティを眺めていたときみたいな表情。それが気恥ずかしくなって……なんて、誰が言えるかっ。

 

「そうそう、そっちの顔のほうがいいです。あんまり怖い顔してると、ルティちゃんも怖がっちゃいますよ」

「ご忠告ありがとさん。まあ、できるだけソフトに行ってみるわ」

「あいあいさー」

 

 昼ご飯の用意を始めたルティたちに聴こえないよう、音量を抑えて言うと有楽も軽くそれだけ言って『了解』って感じのハンドサインをしてみせた。

 俺と有楽も立ち上がっておにぎりや味噌汁の配膳を手伝ったけど、これだけの人数がいればすぐに準備完了。

 母さんとサジェーナ様以外が座ったみんなの目の前には、笹のような葉っぱに乗っかった3個から8個のおにぎりと木の椀に入った豆腐とネギの味噌汁。レンディアールでも定番なおにぎりはともかく、味噌汁はこっちへ来る前に飲んで以来だから久しぶりだ……って、あれ?

 

「母さん、フィルミアさんと赤坂先輩と……あと、中瀬は?」

「みんな、1時からの放送の準備が終わったら来るって。ほら、ちょうど来たみたいよ?」

「ごめんなさい、ちょっと編集に手間取っちゃって!」

「不覚……不覚でした……!」

「遅くなりました~!」

 

 母さんが軽く振り向くと、石造りの階段のほうからからばたばたと音がして赤坂先輩、中瀬、フィルミアさんの順で鐘楼へと上がってきた。

 

「お疲れ様です、先輩、フィルミアさん。中瀬もご苦労さん」

「申しわけありません~。ルティとサスケさんの〈ばんぐみ〉の編集に没頭していたらこんな時間に~」

「まさか、ここまでBGM選びに手間取るとは思いませんでした……でも、それだけの出来になったと私は自負できます」

 

 すっかりへとへとなフィルミアさんと中瀬ではあるけど、ふたりともやりきったのか並んで笑みを浮かべていた。

 

「ふたりとも、ああでもないこうでもないって曲選びをがんばってたの。放送開始の1時間前にわたしが声をかけなかったら、もっと曲選びをしていたんじゃないかしら」

「そいつはまた……」

 

 少し困ったように笑う先輩だけど、もしも気付かず放っていたらいつまでも選曲していたってことか……マイペースなフィルミアさんと中瀬ならありえそうだから、なかなか恐ろしい。

 

「ささっ、みんなも座って座って。すぐにお昼ごはんを用意してあげるから」

「オムスビもオミソシルもたくさんあるから、遠慮なくおかわりしてね。みんなでごはんを食べながら、のんびり〈らじお〉を聴きましょう」

「チホさんもお母様も、ありがとうございます~」

「王妃様の手作りお味噌汁……なんというご褒美でしょう」

「それなら、わたしはおばさまと王妃様のごはんを用意しますね」

「ありがとう、助かるわ」

 

 母さんとサジェーナ様、そして赤坂先輩の手でおにぎりと味噌汁がみんなに行き渡っていく。ユウラさんはお仕事だし、アヴィエラさんは日本へ渡る前にやってくるそうだから今のところはこれで勢揃いか。

 

「みんないいかしら? ……『日々の実りに感謝を。そして、これからの実りへ祈りを』」

「日々の実りに感謝を。そして、これからの実りへ祈りを」

 

 自然と切り出したサジェーナ様は、みんなが小さくうなずいたことを確認してからレンディアールでの食事前の祈りを捧げ始めた。続いて祈りを捧げた俺たちも、こっちに来てかなり経っていることもあってずいぶん慣れたもんだ。 

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