異世界ラジオのつくりかた ~千客万来放送局~【改稿版】   作:南澤まひろ

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第140話 異世界ラジオのつなぎかた③

「で、どうなんだ。お前さんたちのラジオ局作りのほうは」

「少しずつではありますが、ここ最近は試験放送などを行っております」

 

 早速話を切り出してきた馬場さんへ、局長のルティが早速答えていく。

 

「つい先日は、我とサスケと母様で〈ろくおんばんぐみ〉作りを行い、街中の店頭や警備隊の詰め所などに向けて〈ほうそう〉いたしました」

「そいつはまたずいぶんと進んだもんだ。その受信機っていうのは、やっぱりあれを使ってるのか」

「もちろんっ。マモルさんに教えてもらって作った〈むでんげんらじお〉を使ってるよ」

「あの、この間放送中に街中で撮ってきた写真があるんで見てみますか?」

「なんだ、わざわざ撮ってきたのか」

「馬場さんにも是非見てもらいたいって思って。ほら、こんな感じで」

「どれどれ……」

 

 俺はポケットからスマートフォンを取り出すと、ギャラリーアプリを開いて横倒しにしてから『4日後』の日付が入っているフォルダを再生して馬場さんのほうへと向けた。

 

「ほほう、これはこれは」

 

 馬場さんも心得たもので、差し出したスマートフォンの画面を指でスライドさせていく。その度に『ほう』とか『こんなところにも……』って感心したように言うもんだから、見せているこっちとしてもとても楽しい。

 

「……何度見ても、やはり不思議な気分になるな」

「そうですか?」

「そりゃあそうだ。こんな異国にワシが設計した無電源ラジオがあるなんざ、不思議だらけに決まっとる。……まあ、アヴィエラの嬢ちゃんやエルティシアの嬢ちゃんが映っとるということは現実なんだろうがな」

「現実も現実。アタシがこっちにもここにもいるのが、でっかい証拠さね」

「ふふふっ。魔法使いの嬢ちゃんから言われる以上の説得力なんてないわな」

 

 親指を立てながら自分を指さすアヴィエラさんへ、隣の馬場さんもくちびるの端をつり上げて笑い返す。

 

 こうしてよどみなく話していることからもわかるとおり、馬場さんはルティやピピナやアヴィエラさんといったレンディアールから来たみんなの事情を知っている。

 ……というか、そもそもルティたちのほうから明かしたんだけどさ。

 

『それにしても、2000台も発注とはなぁ……お前さんたち、いったい何をしようとしとるんだ』

 

 すべては、馬場さんからのこのひとことがきっかけだった。

 場所は同じ、このダイニング。俺とルティとフィルミアさん、リリナさんと中瀬とアヴィエラさんとで無電源ラジオの組み立て中、ひとりひとりアドバイスをしてまわってくれていたときにぽつりとその言葉をこぼした。

 今思えば当たり前だ。学校でも企業でもないいち個人、いち家族が買うにしてはとてつもなく多すぎる台数だから、その使い道が気になるだろうし、聞きたくもなる。

 だけど、その時の俺たちは誰も答えることができなかった。

 俺と中瀬は、自分から言っても信じてもらえないんじゃないかと思って。

 ルティとフィルミアさんも似たようなもので、言ったところで信じてもらえるのかと思って。

 リリナさんは、明かしたその先で自分の正体を怖がられるんじゃないかと思って。

 そんな中でただひとり、アヴィエラさんだけはとっさのことで答えに詰まって。

 なんとか俺が『趣味と実験で』ってひねり出せはしたけど、それはあくまでも表面的なもの。『面白い連中だ』と笑った馬場さんにカラ笑いしか返すことができなくて……その夜に、俺とルティがアヴィエラさんに呼ばれてこう相談されたんだ。

 

『アタシたちのこと、マモルさんに明かしちゃダメかな』

 

 どこか切実そうなその問いかけは、イグレールさんの事件があった頃を思い出させるような思い詰めたモノだった。

 

『イグレールじいさんとああなったのは、ちゃんと話さなかったのが原因だからさ。マモルさんとそんなことにはなりたくないし……もしできるなら、ちゃんとアタシたちがニホンとは違う世界で〈らじお〉を作ってるって知ってほしいんだ』

 

 言いにくそうに、それでいてどうしても伝えたいといった感じでゆっくりと話すアヴィエラさんに、俺とルティができることといったらたったひとつ。『みんなを呼んで、いっしょに話し合う』っていう提案だった。

 みんな馬場さんと対面してそれぞれの考えもあるんだろうし『馬場さんにはもう全部話しました。はい、おしまい』なんて事後承諾をしても、本当にそうなのかと不安がられるだけ。だから『こればっかりは、俺とルティとの一存で決めることはできない』って言ったら、アヴィエラさんは『それでもいい』と受け入れてくれた。

『異世界ラジオのつくりかた』の放送日にみんながうちへ泊まっている最中、リビングとダイニングに集まったみんなの前で話したときも、アヴィエラさんは切実にみんなに抱いていた想いを話した。

 なにもないところから、みんなで〈らじお〉を作っているということ。

 馬場さんが教えてくれたおかげで、〈らじお〉の受信機を作ることができていること。

 その受信機が異世界のいろんなところに置かれ始めて、〈らじお〉の試験放送も始まっていること。

 伝えたいっていうアヴィエラさんの熱意の甲斐もあって、はじめは不安がっていたフィルミアさんやリリナさんも、自分たちのことを明かすことに同意してくれた。ピピナも馬場さんのことを慕っていたから、自分が妖精さんだって明かせることがとてもうれしそうだった。

 そうと決まればあとは早いもんで、その次の日曜に馬場さんが来た時にはルティたちが異世界から来たこと、ピピナとリリナさんが妖精さんであること、そしてラジオなんて言葉のかけらもない世界でラジオ作りをしていることを明かした。

 

『なんだ、お前さんたちはコスプレが趣味だったのか』

 

 とか言われたときにはさすがにみんなで脱力したけど、その中でもいち早く気を取り直したアヴィエラさんが何もないところから魔術で色とりどりの花束を作り出したことでようやく驚いてもらうことができた。

 そこからはあっという間で、ピピナとリリナさんが揃って妖精さんモードになって空を飛んでみせたり、俺と有楽と中瀬がヴィエルの街でスマートフォンを使って撮った写真を見せるとやっと少しは信じてくれて。

 

「しかし、本当に古い映画でも視ているかのようだな。実にようできとる」

「だから〈えいが〉じゃなくて現実なの」

 

 それでもこうして馬場さんがフィクション扱いするたびに、アヴィエラさんは仕方ないといった感じで苦笑しながら訂正を加えていく。

 その時馬場さんが見せるニヤリとした笑顔からして、きっと馬場さんもアヴィエラさんとのこういうやりとりを楽しんでいるんだろう。

 

「まったくもー。ほらっ、アタシも〈むーびー〉っていうのを撮ってきたからマモルさんに見せてあげるよ」

「ほほう、動画を撮ってきたというのか」

「写真とかじゃらちが明かないってわかったからね。サスケ、〈てれび〉でこの〈むーびー〉を見ることってできるんだよね」

「ええ、できますよ。ちょっと待ってくださいね」

 

 アヴィエラさんにたずねられた俺は、テーブルの片隅に置かれたテレビのリモコンを手に取ると壁際へ置かれた40型の液晶テレビの電源を入れた。

 そのままHDMIモードにすれば、データ受信用の待機画面が出てきてあとはスマートフォンからデータを送信するだけだ。

 

「魔法使いがスマートフォンを持っておるのか」

「こっちでいつもみんないっしょとは限らないでしょ。チホさんが提案してくれて、エルティシア様が資金提供してくれたんだ。設定とか説明は全部サスケがやってくれて」

「まるで一種の講習会でしたね」

「ふーん……わたしも今度、サスケくんにお願いしてみようかしら」

「別にかまいませんよ。それじゃあアヴィエラさん、ちょっとスマートフォンを借りますね」

「ん、よろしく」

 

 差し出されたスマートフォンは俺と同じ機種の色違いで、画面とメーカーロゴ以外は全部ブラックっていう存在感のあるものだった。

 そのおかげでソフトの扱い方も同じだから、ムービーもすぐ呼び出せる……と思ったら、ムービー再生ソフトを起動したとたんにサムネイル画像がずらずらと並び始めた。アヴィエラさん、ずいぶんムービーを撮ってるんだな。

 その中のひとつをタップすると、スマートフォンでムービーが再生され始める。あとは右上にある『送信』を示すアイコンをタップすれば――

 

「おっ、映った映った」

「ほう……確かに動いておるな」

 

 大画面のテレビに、レンガの建物と石畳が特徴なヴィエルの街並みが映し出された。

 車道なんてないから道路のど真ん中でも人が行き交っているし、上の方を見てみても電線はない。男の人たちの服装は胸元がひもで開け閉め出来るようシャツとズボンを身につけていたり、女の人たちもワンピースタイプのドレスみたいな服を着ていたりと、日本とはまるで雰囲気が違う。

 

「ここがヴィエルの市場通り。エルティシア様たちが住んでる市役所の真ん前にある通りだよ」

「アヴィエラ嬢が来られた国・イロウナとの国境にあるため、こうして人が多く行き交っているのです」

「へえ、最近の〈デンワ〉にはこういう機能もあるのね」

「ジェナ、このあいだからずっとそんなこと言ってる」

「ふむ。電気や電話とか、そういった類のものはないということか」

「そうですね。南の方にあるフィンダリゼって国なら電気があるらしいんですけど、まだ実験段階だそうです」

「そんな中でラジオを始めようってのか……こりゃあ、確かに面白い」

 

 俺の説明に、さっきからくちびるの端をゆがめて笑っていた馬場さんが言葉どおり面白そうにつぶやいた。

 

「人は多く住んでおりますので『言葉で物事を伝える』ことはとても有効だと思い、サスケに願って〈らじお〉を広めることを決断いたしました」

「そろそろ、その〈らじお〉が置いてある店の様子が映る思うよ」

 

 その言葉通り、アヴィエラさんが撮影したムービーは道路の真ん中から少し外れて右側の店へと近づいていった。たしか、こっちの道は……

 

『やあ、いらっしゃい。アヴィエラちゃん』

『こんにちは、リメイラさん。今日も来ちゃいました』

『またミラップのシロップ水と砂糖漬けかい?』

『えへへっ、そんなところです』

 

 やっぱり。リメイラさんとレクトさんのお店か。確かにここにも無電源ラジオを置かせてもらってるもんな。

 

「ほほう、これが異世界の言葉とやらか」

「あっ。そういえば、馬場さんにもわかるようにしたほうが……」

「かまわんよ。こういうときは、現地の言葉でどうラジオが使われてるかのほうが重要だ」

「なるほど。それもそうですね」

 

 馬場さんがそう言うなら、ここで言葉をわかるようにお願いしても無粋か。今は、訳したりして馬場さんに伝えることに徹しよう。

 

「アヴィエラさんがレンディアール特産の果物が大好きで、よくこの八百屋さんへ来るんです。で、この店にもお客さんがよく来るから無電源ラジオを置いてもらっていて」

「前に小坊主から聞いてはおったが、人が集まるところを基準にして置くというのはいいな。ちゃんと、分散して置いているんだろうな?」

「もちろん……と言いたいところですけど、南の方にある住民区画は交番みたいなところの1カ所しか置いてなかったんで、ついこの間からその支所へと置いてもらうようにしました」

「ふむ、まあよかろう。どういうものかを聴いてもらうためには、人は少なすぎても多すぎてもいかんものだ」

 

 仕方ないといった馬場さんからの物言いには、納得せざるを得ない。このあいだ南門近くの警備隊詰め所で見た時はとんでもない混雑でラジオの音が聴こえにくくなっていたし、ラジオからの音を人々の声がかき消したりしたら本末転倒だ。

 

「それにしても、アヴィエラの嬢ちゃんはよく喰うな」

「あ、あはははは……魔力の補充には、甘いものがいちばんなんだよ」

「本当かぁ?」

「ほ、本当だってば! あっ、ほらほらっ! そろそろ〈らじお〉の様子が映るよ!」

 

 あからさまに話題を逸らそうとしながら、アヴィエラさんがテレビを指さす。すると、店の奥まったところにある飲食スペースへと歩いていったことでそのテーブルの上にある無電源ラジオが映し出された。

 

「確かに。ここはさっき写真でも見せてもらったところだな」

「そうそう、その場所。もしかしたら物足りないんじゃないかって思って撮ってきたんだ。朝早くに行ったから音が聴こえなくなってるけど、まあ見ててよ」

『ねえ、リメイラさん。〈らじお〉の音を出してもいいかな』

『もちろんいいよ』

『ありがとっ!』

 

 アヴィエラさんとリメイラさんのやりとりが聞こえたかと思うと、画面の下のほうから浅黒い手が伸びて無電源ラジオのダイヤルをつかんだ。それをゆっくりと、少しずつ右側にまわすと――

 

「おお……」

「ほらねっ」

 

 無電源ラジオの本体横に置かれたイヤホン+メガホン製のスピーカーから、ピアノの軽快な音が流れ始める。

 ささやかで穏やかなノイズが混じったクリアな音色が、スピーカーからほんの少し割れたように響いている。FMラジオ独特の音は、ちゃんとこの異世界のお店にも届いていて、

 

「ふむ……ワシが手がけた無電源ラジオが、こうして違う世界でも聴けるようになっていたとはなぁ」

「だから言ったでしょ。みんなで作って、いろんなところで聴けるようにしたって」

「すまんかった。こうして見せられたら、もうぐうの音も出んわ」

「いいのいいの。アタシはこうしてマモルさんに見てもらいたかっただけだし、言うことはないよ」

「相変わらず生意気なことを抜かしおる」

「えへへっ。それがアタシだもん」

 

 腕を組んで呆れたように笑う馬場さんへ、アヴィエラさんはにまっとした満面の笑みで返す。初めて出会ったときから比べるとずいぶん砕けた口調にはなっているけど、慕っているのはずっと変わらないみたいだ。

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